浅野業平   作:環状線EX

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十一話 異能研修午後の部②

 

「やっと、食い終わった」

「浅野、アイスでも食い行こうぜ」

 

 唐揚げを完食した俺と星衛は健闘を称えあい、口に走る激痛を癒すためにアイスを喰うことにした。

 ちなみに、石原は口の周りに赤い粉を付けて死んだ。

 可哀そうに。

 

「じゃあ、行くか」

「そうだな」

「いや、待てよ!!」

 

 それは、もう今は亡き石原の声だった。

 

「うわぁ!喋ったぁあ!?」

「浅野落ち着け。これはあれだ。さっき大学で見たポルターガイストと同じだ。どこかに本体が!」

 

 星衛の的確な判断で俺は正気に戻る。

 危うく、石原を文字通り死体蹴りしてしまうところだった。

 

「つーか、石原全部食べたのか?」

「ギリな」

 

 空になったカップを見せた石原は、店頭に置かれたごみ箱に頬りこんだ。

 それから、俺たちは、先ほど言ったように、アイスを求めて歩き出した。

 

 

 

 

「アイスが染みるぜ」

 

 負傷した舌を癒す石原はそう言った。

 まあ、確かに、俺ですらアイスが無かったらキツイので、こいつがそう言うのももっともだった。

 そんな、石原を横目に見ていた時、前方で悲鳴が上がった。

 

「ひったくり、いや、それに失敗して異能を使ったってところか」

 

 人々が行きかう中、ある一点だけ、人がいない場所があった。

 そこには、顔を隠した一人の男が、怒号を上げで異能で作ったであろう武器を振り回していた。

 その手には、女性物のバッグ。

 昨今、異能の発現の影響か、正直男女による異能を含めた時の力の差はない。

 だから、女性を狙って、こういうことは起こらない。

 

 ただ、それは、三十二歳を超えたものには全くと言っていいほど適用されない。

 1992年12月20日以降に生まれた人間であれば、見た目では分からない強力な力を持っている可能性はあるが、それでも、それ以前の人間であれば、国が秘匿していた一部を除いてそれは関係しない。

 で、あれば、そもそもの話、高齢の女性を狙った方が効率が良いのだ。

 こういった犯罪のしやすさは、異能を持つことが出来るようになっただけ、上がっているほどだった。

 

 そんなことを、俺は状況を見ながら考える。

 石原も同様に、すぐに動くようなことはしない。

 だが、星江流派。

 こいつは違った。

 

 彼は一瞬のうちに、武器を振り回す男に刃を向けた。

 2024年、現在、異能の使用について、一般論としては個性であると認められているせいか、制限は特にない。

 もちろん、犯罪を犯すようなことはダメだが、異能教育を徹底している影響か、意外と力の使用についてのルールは緩かったりする。

 例えば、今回のような場合。

 

 ひったくり犯の男は、異能を使って、刀のような武器を作成して振り回した。

 そして、一方星衛は、異能を使って刃を作成して、男に向けた。

 この際、銃砲刀剣類所持等取締法にだけ重きを置いた場合、前者は引っかかるが後者は、引っ掛からない。

 それは、必要なことだからだ。

 そう言うことになっている。

 というか、ただ、刀剣類のようなものを作成しても、違法にはならない。

 これは、絶対ではなく、異能によるから、星衛の場合だが。

 

 ただ、それを遠目に見て、俺と石原はそれぞれ、左と右に動いた。

 路地裏を通って、暗い道へと入っていく。

 

 いた。

 

「お兄さん。あっちで騒ぎを起こしている男の人の仲間、だよね?」

 

 暗がりにいた黒ずくめの男へと俺は話しかけた。

 

「あっちで騒ぎ?ああ、気付かなかったな。それより君、高校生くらいだよね。平日にこんなとこいて良いの?」

「学校の遠足で来たから問題ないよ。で、騒ぎを起こしている間に何をするつもりだったの?」

 

 恐らく、今帽子もかぶり、さらには夜白姿を使用して顔を隠したおかげか、俺の眼面は見えていない。

 まあ、隠すと言っても、深く影が顔にかかっているように見えるくらいで、モザイクでも掛けたかのように黒い靄が面の様に俺の顔に張り付いているわけではない。

 だが、それで、十分だったのだろう。

 その証拠に、恐らく相手は俺の服装と体格、声から、年齢を推定した素振りを見せた。

 はぐらかそうとする男に、俺はもう一度聞いた。

 

「しつこいな。さっさと引き返してくれれば、何もしなかったんだけどなァ!!」

 

 次の瞬間、男は俺の懐へ潜っていた。

 そして、握られたナイフは俺の胸へと吸い込まれるように迫った。

 だが。

 

「なに!?」

「びっくりすることでもないでしょ。今時の高校生は、大体異能持ってるんだからさ」

 

 勿論、異能ではない。

 俺の異能は『魔眼』であり、今、こいつの攻撃を止めているのは夜白姿だ。

 その証拠に、黒い靄が俺の身体を包んでいるが、まあ、知らなければ何の意味もない。

 知ってても、あまり意味もないが。

 

 だが、手早く済ませようと考えた俺は、男のナイフを黒い靄で掴んで、その場に固定した。

 ナイフを捨てるのが遅れた男は、次の瞬間黒い靄に捕まった。

 それだけで、眠らせるのには十分だった。

 

 

 

 

 

 

「星衛君すごい!」

「やるな!龍派!」

 

 そんな声に星衛は囲まれてバスへと戻った。

 事情聴取はあったようだが、バスを多少遅らせる程度で済んだようだ。

 バスの席についた星衛は、後ろの席に座る俺たちの方を向いた。

 

「あの時、勝手に動いて悪かったな。お前らは平気だったか?」

「ああ、大丈夫だ!」

「俺も、平気。むしろ助かった」

 

 チャラい見た目の、星衛ではあるが、今日一日で良い奴だと実感した。

 まあ、チャラかろうが何だろうが、イケメンなことには変わりないため、笑顔が眩しかった。

 バスに乗った俺たちは、たわいない話をしながら、学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

「おい、石原。今日のはなんだ?」

「俺はウィキペディアじゃねぇっての」

 

 学校から少し離れた場所で、俺の言葉に石原はそう返した。

 だが、それでも、やはりというか、知っていたようで、石原は口を開いた。

 

「ちょうど、近くで、他の犯罪を起こそうとしていたらしくてな。それで、他に注目を集めるために、やったんだとよ」

「まあ、そんなもんか。詳しい話は……どうせ教えてくれねぇんだろうな」

「他の事件なら話は別だけど、そもそも、今回のは未だ捜査中の上に、機関とも関係ないからな」

 

 石原すらも、詳しく知らない可能性もあるし、まあ、そんなもんか。

 

「それと、今回の件も」

「わかってる。別に、今回に関しちゃ、俺もその場にいて機関だって動けたからな。鼓牛商店街での異能犯罪者を対処したのは、しっかり、異能によって黒い靄を使う雨夜芳年(あまやよしとし)ってことになってるよ」

「助かる」

 

 石原の言葉に、俺は安堵する。

 石原、いや、機関であれば、俺が心配する必要などないが、それでも今回は特に隠すことなく移動や戦闘をしてしまったために少し気にかかっていた。

 顔は隠していたとはいえ、犯人の前に身を出して会話までしてるわけだしな。

 ただ、もう大丈夫だとわかれば、俺も満足なのでこの話は終わりになった。

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