浅野業平   作:環状線EX

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八話 異能研修午前の部①

 

 2024年5月31日第六異能教育高等学校一年四組、異能研修当日。

 俺はいつも通りの時間に登校して、教室には向かわずに駐車場に向かった。

 すでに、多くの生徒がいる中、俺は自分のクラスのバスを遠目に探した。

 

「あれ、業平おはよう!」

「ん、仁か。おはよう」

 

 石原でも来てくれて、俺を連れて行ってくれることを期待していたが、真っ先に俺に声を掛けたのは南方仁だった。

 まあ、教室でだって、声をいつもかけてくるのは、クラスメイトではなくいつもこいつだ。

 そう言った意味では珍しくもないのかもしれない。

 そして、仁とセットで俺に近寄って来た雫蓮花も口を開く。

 

「浅野くんはたちは、今日どこに行くの?」

「四組は、道槻異能科大学の見学?に行くらしいけど。そっちは?」

「こっちも、あまり変わらないかな。道槻じゃないけど大学を見て、あとはその周辺で自由行動って感じ」

 

「なるほどな」と、俺は頷いた。

 確かに、学年ごとに内容に差異が出るようだが、クラスごとの差は一局集中しないようにしたことによる変化程度しかないのだろう。

 

「お!業平、あっちで集合かけてるから俺たちはもういくわ。それと、四組は多分あっちの方だぞ」

「じゃあね、浅野君」

「じゃあな。二人とも」

 

 俺は二人を見送って、仁が指を指した方に進んでみた。

 すると、見知った顔がちらほらいるのが分かった。

 結局、石原のやつはこなかったな。

 こういう時に使えない。

 

 そして、暫く駐車場の一角に集合した俺たちは、バスに乗り込んだ。

 バスの席順は自由。

 こういう時、大抵は中の良い奴と一緒になると楽しみも倍増だが、それでも俺のクラスで親しい奴と言えば石原だ。

 それなら、いっそ他のやつと隣になって仲良くなろう。

 なかなか思ってもできないことだが、もう俺も高校生だ。

 一歩を踏み出そう。

 少し弱気な選択だが、誰もいない席に座ることで、あぶれた奴がここに来るに違いない。

 

 よし!

 

「お!ここ座っていいか?」

「もちろ……チッ」

 

 笑顔で返そうとした俺の瞳に映るのは石原。

 思わず舌打ちが出てしまった。

 

「え、なに。そんな悪いことした?」

「自分の心に聞いてみろ」

 

 つくづくタイミングの悪い奴だ。

 困惑した様子の石原だが、それでも特に躊躇することもなく俺の隣に座った。

 

「そう言えば、ちゃんとした私服持ってたんだな」

 

 バスが動き出して少し、わずかに騒がしかった車内が、静まりだしたころ、不意に石原が口を開けた。

 トンネルに入って、反射したバスの窓には、携帯を触るクラスメイトの姿が映る。

 話をしているのは、あまり多くない人数のためか、出発した時と比べればはるかに静かだ。

 

「まあな。つーか、お前知ってるだろどうせ」

 

 こいつはこんななりして機関の人間だ。

 家はともかく、外出時の俺の行動くらいは知ってるだろう。

 まあ、本当に監視から逃げたければ、俺だって『魔眼』使えばいいだけだから、それに対して何かを言うつもりはないが。

 

「俺は何も知らないぜ。お前が、ショッピングモールで彼女とイチャつきながらデートしてたことはな」

「おま──」

「え!浅野くん、彼女いるの?」

 

 不意に前方から掛けられた声に、俺は顔を上げた。

 そこには、前列の椅子からのぞくようにしてこちらを見ているツインテールの小柄な女子がいた。

 その顔には見覚えがあった。

 原城ルル、うちのクラスの学級委員の片割れだ。

 

「彼女じゃ──」

「あれ、ルルと浅野って仲良かったっけ」

 

 またしても、言葉をかぶせられる。

 今度は、原城の隣から、チャラいイケメンが顔を出した。

 もちろんこいつも知っている。

 原城と一緒の学級委員である星衛龍波。

 

「ちょっと、テスト前に勉強を手伝って」

 

 原城がそう言った。

 確かに、怒涛の11日間のテスト勉強の中で、石原が彼女を連れてきて俺の勉強を見てもらった。

 

「そうなんだ。俺とはあんま話したことなかったよね。改めてよろしく」

「ああ、よろしく」

 

 確かに、何故か石原はクラスのやつらと打ち解けているが、俺の場合、ほぼ、石原くらいとしか話していない。

 星衛とだって……というか、まったく会話してないのではないだろうか。

 まあ、いいか。

 とりあえず、今話せているのだから。

 

「で、さっきの浅野の彼女って言うのは?」

「その話題続けるのかよ」

 

 てっきり、うやむやになったと思った話題が急旋回しながら戻ってきたことに驚愕して、つい、俺は声を漏らした。

 

「いいじゃん。石原は知ってるんだろ?」

「まあな。浅野が言わないなら俺が」

 

 そして、石原が痺れを切らして口走った。

 どうやら、周りの喧騒は戻ってきているようで、こいつら以外には聞こえないだろうが、気が気ではなかった。

 

「なるほどな。家に連れ込むほどの仲と…………付き合ってるな」

「だろ?」

「いやちげぇって」

 

 頷く星衛に、それに同調する石原、めんどくさいことになったと思いながら俺は否定した。

 そして、その中に入っていなかった、原城はと言うと、思案顔で口を開いた。

 

「でも、その文華ちゃんだっけ。その子も好きでもない相手の家には入らないんじゃないの?」

「「そうだそうだ!」」

 

 援護射撃をする男二人を俺は睨む。

 

「でも、それを言うなら、自由に決められるバスの席で、隣同士で座ってるお前らはどうなんだよ?」

 

 こういうことを、聞いて良いのか分からないが、今はなりふり構ってられない。

 だが、そんな俺の発言を聞いて、二人は顔を見合わせて、数秒後耐えきれなくなったのか笑った。

 

「別に、男女で座ってたからって、付き合ってるってことはないよ。というか、それ以前に、緊急時に学級委員はすぐ指示を出せるように、前の方にまとめて座るってのは、事前にいってあったんだけど……」

 

 「ほら、異能高校の生徒ってのは結構そう言う対象になりやすいからね」と続けて、二人を代表してか、原城の方がそう言った。

 ただ、俺は全くそれを聞いた心当たりがなかった。

 

「ああ、そう言えば、浅野はそう言うの話してた時は勉強ばっかしてたな」

「何で知ってんの?」

「俺らが、今回のことに関しては仕切ってたからな。前から見えるんだよ。勉強しているお前と、させてる石原、それと、意見を出そうと手を上げる佐崎がな」

 

 まあ、確かに、教室では後ろの席は結構見えるというし、今回の企画などを前で司会をしながら進行していたこいつらには丸見えだったのだろう。

 とりあえず、注意してこなかったことに感謝しよう。

 

「おっと、そろそろだな。もう少し詳しく聞きたかったけど。…………おーい!お前ら起きろよ!あと少しで、目的地につくからな!」

 

 時計を確認した星衛は、向こうまで届くように声を張り上げた。

 しっかりしてるな、なんてぼーっと見た。

 チャラい印象を受ける星衛だが、性格面では学級委員そのものと言ってもいいほどに、適していた。

 

 そうこうしている内に、バスは駐車場に入り、停車した。

 皆は、学級委員である星衛と原城の指示に従ってバスを降りる。

 

「でけぇ」

 

 思わず俺はそう声を漏らした。

 それほどまでに、校舎はデカく、そして新しかった。

 それに、恐らく異能に関する施設も、周辺にあるので敷地内は相当に広いのだろう。

 

 そして、建物内に入ると、待っていたであろう、案内役の人が口を開いた。

 

「お待ちしてました。今回、皆さんの案内をさせて頂く道槻異能科大学異能学部異能学科二年の神園(かみぞの)と申します」

 

 神園と名乗った女性は、きれいな仕草で礼をした。

 そんな、光景をぼーと見ていた俺だが、わずかに騒がしくなっているのに気付いた。

 

「神園って、神園紫央(かみぞのしお)さんだよな」

「すげぇ。本物だ」

「後でサインとかもらえるのかな?」

「どーだろ、流石に無理じゃない?」

 

 耳を澄ませばそんな声が、そこかしこから聞こえた。

 

「え、なに?有名人?」

「浅野知らんの?神園紫央と言えば、強力な異能を持つことで有名だぞ」

 

 呆れたように言う石原だが、このクラスの様子を見ると恐らく本当に有名なのだろう。

 ただ、そんな様子を察してか、神園本人は特に鼻にかけるでもなく口を開いた。

 

「では、皆さんついてきてください」

 

 そして、事前に渡された資料を見ながら、俺たちはついていく。

 簡単に授業を風景をのぞいたり、校内の図書館をはじめとした施設を見ていく。

 確かに、外から見た通り、中は広く、新しい校舎はきれいだ。

 設備も最新鋭と言えるほどで、良い環境が整っていると言えるだろう。

 

 だが、何というか、普通だった。

 別に何かを期待して居たわけじゃないが、異能を扱う学校としては普通。

 俺たちが通う、第六異能教育高等学校だって、一応、世間的には有名な学校で、施設はそろっている。

 それを考えれば、別に、驚くべき何かがあるわけでもなかった。

 

 そんなことを考えて、用を足していると、俺の左横に見覚えのある顔がやって来た。

 

「なんとも退屈そうな顔をしてるな。浅野」

「別に退屈は、してねぇよ」

 

 俺はそう返す。

 別につまらなくもないし、興味深い説明もあった。

 そもそも、これは研修と名のつくものだと考えれば、楽しさを求める方がおかしくだろう。

 すると、今度は、右側に見覚えのある顔が来た。

 星衛だ。

 

「お、なに?退屈してんのか?浅野」

「いや、してねぇって。というか、お前ら俺を左右から囲むな。クソ広いトイレなんだから、一個二個くらい開けろ」

 

 混んでるとかなら、別に構わないが、クソほど広いこの学校のトイレで、密着して用を足したくはない。

 俺は、言い放ってから、チャックを上げた。

 俺が、手を洗いに歩き出すと、他の二人もついて来る。

 そして、俺が手を洗う横で、星衛が口を開いた。

 

「俺は、神園さんの声聞いてるだけで楽しいけどな」

「それな。俺だって、危うく録音しそうになったし」

「おい」

 

 ご丁寧に、携帯と、その他六台の録音機を出した石原に俺はツッコミを入れた。

 どこから出した、とは言わない。

 恐らく、こいつは他にもこういった類の機会を隠し持っている。

 

「でも、今から行く、異能に関する施設なら退屈もしないんじゃないか」

 

 星衛がそう言った。

 確かに、この学校の最大の特徴はそこだろう。

 まあ、どちらにしても退屈はしていないが。

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