日夜問わず人助けとモンスター退治に奔走し、伝説級の装備や魔法をコレクション感覚で集め、何処からともなく現れて世界を救うプレイヤーキャラの姿は一体どう見えているのだろうという妄想。
あの男は何かがおかしい、俺がそう思い始めてだいぶ経つ、だけど周りの人間が同じ発想に至った気配は無かった。
今日も集会場の広場に奴は来る、俺は奴と奴の周りに集まるだろう連中から離れた場所に立ち様子を伺う。
「おぉ!期待の新星がご帰還だ!」
「今日はどんな英雄譚を聞かせてくれるんだ?」
「おーい、此方だ、新しい商品を見てくれよ!」
来た、集会場の入口から現れる。集会場にいる住民や商人、中には幾人かの同業者も混じって奴に話し掛けていく、その全てが奴に好感を抱いていた。
やぁ皆、今戻ったよ
奴が片手を上げて口を開く、おかしい所なんて何処も無い。ありきたりな返答、ありきたりな仕草、何の異変も無い、今は。
本当にそうか?俺はその男に疑問を覚え始めていた。
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ここ、マクシミア地方は周囲を険しい山脈で囲まれた、大陸の中でも孤立したかのような場所。
海側から船で上陸するのが一般的な経路だ。住民達の人口は並み程度、多くもなく少なくも無い。
その代わり自然の環境には恵まれている、領主の城があるここ、大都市アレカが他の街や集落をまとめ上げ国としての形を取っている。
そしてこの地方の特徴として大陸でも一二を争う程に怪物退治が盛んな場所だ。
危険な怪物を倒し街や人を守る、そして取れた毛皮や爪牙はありとあらゆる用途で使用され高く売れる。
この世界では戦いの心得がある腕自慢達はそうやって金を稼いだり名誉を手にしたりする、それはもうずっと昔から当たり前だった。
だから怪物の多くいる場所にはより多くの強者達、そしてその戦いの利益にあやかろうとする商売人がよく集まる。
ここマクシミアが正にそう、アレカの街の住民は現地の人達だけでは無い。
他に大陸中からやってきた俺達、冒険者と呼ばれる戦徒達と報酬の一部と引き換えにそれらを支援する商人達でひしめいている。
(簡潔に纏めると…怪物の被害に悩まされる住民達、代わりに金を出して解決しようとする領主)
(雇われて戦う俺達、支援という名の介入で利益を得る商人、という構図だ)
そしてこのアレカの街名物の集会場ではその一連の流れが行われる。掲示板に張り出される依頼と言う名の怪物退治、領主と冒険者の間には商人らが仲介する。
(そうした方が円滑に進む、冒険者の殆どは戦いしか知らなかったり報酬のアレコレに無沈着だからだ)
そんなこの街に置いて尊ばれる存在と言うのは当然、より勇猛な強者。並の者では手に終えない強大な怪物を倒し、凄まじい脅威を消し去り、ついでに大きな利益を街に与える。
住民からも、領主からも、商人からも、比類無き強者は敬意を払われる、英雄として扱われる。
(そう…奴の様な)
そこまで考えてもう一度俺は奴に視線を移す、ここ最近、俺だけじゃなくアレカ中の、そしてマクシミア中の注目と期待を集める一人の冒険者。
「火山のドラゴンを一人で倒したの!?」
「おい、俺んとこの武器はどうだった?この前、買ってくれたよな、良かったらまた頼むよ!」
「ホント、アンタがこの街に来てくれて良かった」
奴が広場を歩く度に周りの連中から話し掛けていく、奴が冒険者用の施設を訪ねれば必ずそこの店主や関係者が感謝や友好の言葉を口にする。
まぁ人気者になるのも当然、この街の連中で奴に恩を受けていない者の方が少ないのだから。
ありがとう、皆がそう言ってくれて嬉しいよ
やっぱり返事はありきたりでおかしな所は無い、だが俺はどうしてもこの疑問を拭うことが出来ない。
「奴は……」
「……ッ」
奴を眺める途中、不意に目が合った。
それなりの距離があった筈が、偶然か、見られている事に気が付いた奴が自分から向けたのか。
此方を認識した奴は歩み寄って話しかけて来る。
やぁ、ご機嫌はどう?晴れてて良い日だね
「…まぁ悪くはないな、気分も、天気も」
ありきたりな文句、取り繕った此方の答えにも奴は少しの微笑みと軽い会釈を残して去って行った。
俺はその後ろ姿を暫く眺め、だがその視線に気付き、振り返る奴の姿を幻視して慌てて目を逸らした。
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奴は他の冒険者と同じ、いつの間にかマクシミアにやって来た。過去の経歴は知らない、冒険者の中でそれを気にする奴は居ない。
むしろ訳ありの者も多く、自分から相手に過去の話を聞こうとするのは無礼だという風潮すらある。
そこは良い、実際、奴も他の冒険者と変わらなかった。掲示板の仕事を受け、報酬で武器や戦いの必需品を買い、また金の為に怪物退治。
だが奴がその他大勢の冒険者とは違うと解るのに、そう長く時間は掛からなかった。
(奴は己が極めて優秀な戦士である事を証明した、掲示板の“売れ残り”達を次々と片付けることで)
古くから冒険者達と争い、屈強になったマクシミア中の怪物達の中でも特に強大で、誰も彼もが迂闊に手が出せなかった大物怪物の依頼を片っ端から解決した。
鎧を着たトロルのウォーリア、首が三つある混成の獣、猛毒を持つ巨大怪蟲、洞窟に住む魔術を収めた亜人、山を縄張りにする獣人の群れ。
どれも並の冒険者や兵士の一団ではまるで相手にもならない上級の怪物を短期間で倒していった。
(街の連中は大いに盛り上がった、本物の英雄が現れたとな、実際初めの頃は俺もそう思っていた)
(俺達の様な並の存在とは違う、特別な物を持って生まれた選ばれし人間、それも間違いじゃないんだろう)
(だが果たしてそれだけか…奴を見ていて感じたのはもっと別の…異質な何かの様な気がする)
加えて奴はその強さから尊敬される事はあれど、恐れられ、疎まれる事は無かった、それにも理由がある。
(奴は掲示板の依頼だけじゃない、街の人達の個人的な願いや悩みすらも片端から引き受けて解決する)
領主が街を守るとは言え流石に個々人の問題にまで金を払いはしない。しかし一住民には冒険者にやる気を出させたり命を賭けさせたりする程の金は出せない。
そんな中で奴の存在は正しく救いだっただろう、薬草の採取やお使い紛いの雑事から、全く持って割に合わない危険を伴う問題まで、別け隔てなく解決する。
(正しく理想の英雄、誰からも好かれている)
それは大いに結構だった、奴が度を越した善人で無償の施しを与えているにせよ、打算的に今の評価を手に入れたにせよ、俺が気にしているのはそこではない。
奴が皆を救う英雄である事に変わりはないからだ。
(俺は…そう、俺は奴に憧れを抱いていた)
(一人の冒険者として、人間として、奴の様に強く正しく生きれたらと、少しでも近づけないかと)
(奴の様子を観察したり、此方から話し掛けたりする様になったのもその頃からだ、何か見習える事があるだろうと思ったんだ)
そして、気付いた。
奴が何故、あれ程短い期間で幾つもの大手柄を上げ、街の人達の願い事まで叶える暇があったのか。
気が付いたその瞬間、背筋に寒気が走った。
(奴は一時も休んでいなかった)
眠っている所を見たことが無い、何かを飲み食いしている所を見たことが無い、宿も飯屋にも行かず。
依頼を終わらせ、必要な物を補充し、また別の依頼を受けて、それを終わらせ、必要な物を…。
何度も、何回も、何日も。
あり得なかった、そんな事は。移動の最中に済ませている?不可能だ、命懸けの戦い、その合間に休息を完了させるには移動の時間は細やか過ぎる。
確信したのは怪物共の繁殖期、街中の冒険者で押し寄せる怪物と日夜戦い合った時。
皆が精根尽き果て、傷つき倒れ、そんな時でも奴は治療薬を配ったり、回復の魔法を皆に掛けて回った。
やはり眠ってはいなかった、ハッキリとこの目で確認した。夜が明けるまでの間、奴は人気の無い場所を選んでひたすら治療薬の調合を続けていた。
(奴への憧れの中に、言いしれぬ畏怖が混じった)
奴の様には成れない、そんな事は初めから思っていた、だがその意味が少し変わっていった。
鬼神の様な強さ、デタラメな剣の腕と断片すらも理解出来ない高度な魔法、洗練された製薬や調合の知識と技術、誰をも虜にする人間的魅力。
非の打ち所が無い、だが真実に気が付いたその後は、その非の打ち所の無ささえも不気味に思えた。
奴が元からどれ程の力を持っていたかはよく知らない、だが少なくともまだ若いという分類の年齢だということは見れば解る。
最初に見た時は数打ちの安物の装備を身に着けていた、他の見習い冒険者と何ら変わらず、それが数ヶ月程前の事だ。
それが今や怪物達の一部だった素材や貴重な魔法の鉱石でその最高性能の装備は作られている。
果たしてあの年月でそんな高みに至れるものなのか?
この上ない侮辱とは思いながらも、どうしてもその言葉が頭に浮かんでくるのを止められなかった。
本当に人か?
今まではそういう凄い奴だとだけ思っていた、恐らく他の連中は今もそう思っている。
だが違うのではないか?奴は俺達とは何か、全く別の何かの概念と理の元でこの世界に存在しているのではないか?
余りにも馬鹿げた考えを、俺はここ最近、ずっと頭の中から掻き消せないでいる。
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数週間後
奴の快進撃は留まるところを知らなかった。
掲示板から売れ残りの大物怪物が居なくなる頃、とんでもない報告が、他ならぬ奴が発見した知らせがマクシミアを震わせた。
曰く、かつて世界を滅ぼしかけた怪物の親玉が封じられた場所がこのマクシミアであり、それが目覚めかけているとか。
それを裏付ける様に、マクシミアの各地で別次元に強力な怪物達が現れた。宮廷の魔道士達が言うにはその怪物の親玉に当てられて活性化しただとか。
俺も他の連中と一緒にその何体かと戦った、その結果は多大なる犠牲の末の辛勝。時に酒場で語り合い、時に助け合った連中が眼の前で呆気なく砕け散る。
そんな時でも奴は何も変わらなかった。
怪物と戦って倒す、人々の願いを聞き叶える。
マクシミア中を日夜飛び回った、そしてやはり、一度も休息を取っている所は見ていない。
そして最後には、復活した怪物の親玉の元まで行き、それを倒した。正真正銘、世界を救ってみせた。
マクシミア中が歓喜と喝采に湧いた、英雄を称える宴は三日三晩続き、その名は伝説に刻まれた。
街中が熱狂に包まれる中、俺は何処か冷静だった。
(奴ならそうだろうな)
ただそれだけの感想だった、不思議と怪物の親玉の話を聞いた時から、こうなると何処か解っていた。
もう誰も疑いも疑問にも思わない、選ばれし英雄、奴が特別なのは特別だから。
汎ゆる種類の武器をその道のどの達人よりも使いこなし、生涯をかけ習得する大魔術を一度の訓練で覚え、難解な調合や製法を書を読むだけで完全に理解する。
肌のたるみもシワも無い、あの若さで。
それもこれも、奴が選ばれし英雄だからだ、と。
俺のこの感情は少なくとも嫉妬ではない、恐怖でもないだろう、好奇心ともまた違う気がした。
最も近しい表現は、そう、やはり疑問だった。
(お前は一体何なんだ?)
その言葉を勿論、本人に投げ掛ける事はしない。
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更に数日後
また一つ、気が付いた事がある、奴の能力について。
奴は休息をしないだけじゃない、この街の何処だろうと、もしかしたらマクシミア中だろうと。
何か困り事や問題を抱えている人間の存在を何かしらの方法で感知することが出来る。
というよりそうとしか思えなかった。
奴の行動範囲はアレカだけではなく、マクシミアの他の街や集落に向かう事もままあった。
伝え聞く限りそこでも多くの人が奴に助けられた、ふと疑問に思った、聞く話はどれも困っていると奴が現れて助けてくれるお決まりの様な流れ。
(直接求められた訳でもない助けにどうして何時もすぐに駆け付けられる?)
中には急を要するものも多くあった、だが奴が間に合わなかったという話は効かない。偶然その場に居合わせただけではこの数は説明がつかない。
そんな能力があるならば説明出来る事が幾つもある。
そしてもし、もしそうならば…奴にはもう一つの能力があるのだろう。
それはマクシミア中の目的地に短時間、或いは一瞬で移動できる能力だ、これは何もおかしな話じゃない。
そういうマジックアイテムだってある、古代の魔法でもだ。恐らく奴は人の集まる街や集落、或いは何か特徴的な場所を起点としてそこに移動。
感知した問題を抱える人達を助け……。
(いや…こんなの馬鹿げている)
そこまで考えで心の中で自分を嘲笑する、ここ最近、その様な事ばかり考えている。
そんな筈は無い、貴重な魔法の品を無数に起こるだろう人助けの度に使っているのか?そもそも遠く離れた他人の事情を感知できる訳がないだろう。
奴について考える程に馬鹿げた発想に取り憑かれてくる様だった、奴は特別、ただそれ以外の答えが必要なのか?もうこんな無益な考えは捨てるべきだ。
「くだらない、別に俺はケチを付けたい訳じゃない…奴の事を…何であれ俺なんかが理解しきる必要は無い」
「…俺も仕事に…ん?…あぁ、しまった、そう言えば」
集会場の掲示板に向かおうとして思い出す、治療の為の道具類を切らしていた事を。それが無くては危険な怪物と戦うことなんて出来ず仕事に取り掛かれない。
仕方ない、他の連中ともうすぐ同じ依頼に向かう約束があったがどうやら遅れる事になる。
もしかしたら置いて行かれるかもしれない、そうでなくとも顰蹙を買い、評価を下げる事になるだろうが甘んじて受けるしか無いだろう。
調達は早く済ませよう、俺は集会場へ進もうとした。
久しぶり、もしかして困り事でもあるのかい?
集会場に続く道から現れた奴は、他の通行人の間を通り抜け、真っ直に此方に歩み寄り、そう言った。
俺は驚愕にたじろいで言葉に詰まる、奴の手には既に依頼の必需品、俺が今必要としている治療の道具類の幾つかが握られていた。
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また別の日
依頼が無い事を確認しても奴はアレカの外を彷徨いて廻っている、そこで怪物共の屍を山と築き、集めた素材で何やら武器と防具を作らせている。
偶然を装って見に行ったが、出来上がった武器達はもう俺ではどれ程に優秀で力の秘められた品なのか理解も出来ない。
ただ値打ちを付けるなら俺では一生掛けても払えぬ金額だろうと言う事は解る、あの多種多様な武器を全て扱うのだろうか、きっとそうなのだろう。
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やはり俺は間違っていなかった。
また数日が経ち、集会場で奴を見かけた、と、思う。
恐らく奴の筈だ、それと言うのも奴は変わっていた。
珍しくも無い色はそのままに、肩まで掛かる程に伸び、その艶を増した髪、より潤い鮮やかに見える肌、その声は高く、裏声の様な不自然さは無い。
骨格や筋肉も変化している、くびれのついた体に胸部には今まで無かった膨らみ。
奴の性別が変わっている、酷く遅れてそう気付いた。
(????)
暫く、放心に近い状態だった筈だ。奴の装備が以前と同じ素材で出来た物である事、周囲の反応が奴に向けるそれな事、ヘルムのフェイスガードを外した素顔に変わる前の奴の面影があった事。
それらを認識して初めてその事実を理解した。
差異はあった、奴の装備のデザインと言うか形そのものが女性用とも言える形に作り変えられていた、露出している素肌の面積が極端に増えた気がする。
そんな事はどうでも良い、問題なのは周囲の連中の対応が変わらない事だ、不自然では到底済まされない変化を追求する者は何時まで経っても現れなかった。
奴はその姿で俺にも話し掛けてきたが、驚きを超えた困惑の為にその時の会話はよく覚えていない。
数日後、奴の性別は何事も無かった様に戻っていた。
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そして現在
奴が世界を救ってから数ヶ月が経つ。
ここ暫く奴の姿を見ていない、集会場にも近隣の集落にも顔を見せていないらしい。
聞いた話によるとマクシミアの古代の遺跡、隠された地下迷宮とやらに挑んでいるとか、何が目的か知らないが一度踏破した迷宮を何度も何度も繰り返し潜り続けているみたいだ。
装備の厳選…とか何とか言っていたらしい、まぁいずれその迷宮からも戻ってくるのだろう、また見たことも無い宝の様な素材や魔法の品を持って帰って来る。
そうだ、また一つ、奴の異常性に気が付いた。
奴は道具類や装備、汎ゆる物と言う物を何処からともなく取り出したり、仕舞い込む。
何故、もっと早く不思議に思わなかったのだろう、奴は何時も冒険帰りには貴重な素材を大量に持ち帰り、同じくらい貴重な道具や強力な装備に変える。
だが背負いのバッグや布袋や雑納に至るまで、奴が何かを収納する為の備えを使っているのもまた見たことが無い。
荷物持ちだって連れてない、店先で店主と取引をする際に、奴が売り出すつもりの怪物の素材は奴の手元にいつの間か出現していた。
そしてやはり、その事に追求する者は一人も居ない。
気付くのが遅れている辺り、俺も正常な認識を失いつつあるのかもしれない、それもまた奴に備わる不可思議な力なのだろうか。
「マクシミアの英雄がご帰還だ!」
「待ってたよ!早く話を聞かせてくれ!」
「足りない物は無いか?良ければ寄ってくれ」
そう考えていると集会場が突然沸き立つ、確認するまでも無い、奴が冒険から帰って来た。
やぁ、皆、久しぶり
ありきたりな返事、ありきたりな動作、集会場にいる人間の殆ど全てが奴の元に駆け寄って話し掛ける。
この街に奴を嫌ってる者なんて居ない、俺だってそうだ、奴にどれだけ理解の及ばぬ領域があろうとも、人々に害を及ぼす存在で無い事は確かだからだ。
「奴の事は奴だけが知ってる、それで良い」
奴に付いて長い時間考えたが、出した結論は考えるだけ意味は無いという事、俺も余計な事は考えずに自分の領分に取り掛かる、次の依頼の為の準備を済ませに集会場を後にした。
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集会場が沸き立っている、入口から現れた一人の男をその場にいる殆ど全員が歓声を上げて称えている。
男の周りには人の群れ、その全てが男に好感情を向けている、ありきたりな返答、ありきたりな仕草、男に何らおかしな所は無い、少なくとも今は。
集会場がそんな状態だから、普段なら街の冒険者達が受けようとする依頼を審査、受理する役目の私が、受付の席から離れた場所でその人集りを盗み見る様に眺めても咎める者は居ない。
私の視線はその男一人に向けられる、男はこのマクシミアで今や知らぬ者は居ない程の存在、英雄として名を馳せるその男、しかし私は湧くはずの無い好感以外の感情をその男に感じていた。
それは疑問、長い間、多くの冒険者を見てきた、この街に初めてやって来たその男の事もそうだ。
その上で、私にはどうしても拭えない考えが出来てしまっていた、その男を眺めながら、呟く様に、唱える様に小声で口にする。
「貴方は何かが変だわ…一体何だと言うの…?」
その消え入りそうな呟きが、まさか聞こえた訳はないだろう、だが人混みに囲まれたその男が、その瞬間にハッキリと遠間の私に顔を向け、視線を向けた。
そして笑った、含みの無い、ありきたりな笑顔、おかしな所なんて少しも無い。
本当に?私はこの男に疑問を感じ始めている。