渡世フタバは仲正イチカを落としたい   作:笹の船

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TS転生物をやってみたいと思ったのでチャレンジしてみたの巻。
頑張って書いていきたい


プロローグ
これがボクの日常


 街を歩いている時だった。

 不意にすぐ近くでスマホの着信音が鳴り出した。

 流行りの曲でも何でもない、買った時のままのようなシンプルな着信音だ。

 

「はい。こちら仲正っす。あ、ハスミ先輩。どうしたんすか?」

 

 そんな着信音を鳴らしたスマホを手に電話を始めたのは、ボクの幼馴染の仲正(なかまさ)イチカだ。

 腰より下に届くくらいの艶やかな黒髪が風に吹かれ、人好きのする声色と表情で話す美少女。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ割かし理想的なプロポーション。

 細く開かれている瞼から覗く、青みがかったグレーの瞳がとても綺麗な女の子。

 そして頭の上には銃のドットサイトのような形をした紅い輪っかが浮いている。

 さらにさらに、腰のあたりからはその綺麗な髪の毛よりももっと黒い一対の翼が生えている。

 それが仲正イチカという女の子だ。まるで絵本から飛び出してきた天使みたいな子。ボクの自慢の幼馴染。そしてボクの一番の恩人。

 そんな電話をするだけでも随分と様になってしまう自慢の幼馴染は、小さくため息を吐いて電話を切った。

 ああ、チクショウ。なんでそんな動作一つで様になるんだか。

 

「フタバちゃん、その……残念なお知らせがあって」

 

 申し訳なさそうに眉をハの字にして顔の前で両手を合わせるイチカちゃんの姿にボクは大丈夫だよとはにかむ。電話の内容は全部聞こえてたし。

 

「近くでまた生徒がトラブル起こしたの?」

「うん。5人くらいの生徒が、飲食店に立てこもってるから手を貸してほしいって。ハスミ先輩やツルギ先輩は別件で対応できないし、マシロやコハルより私達の方が近いから……」

「相変わらず正義実現委員会は人気だよねぇ。そんなにボク達と会いたいなら部室に来ればいくらでもサインしてあげるのにさ」

「そんなことされたら仕事倍増でフタバちゃんとデートも出来なくなっちゃうじゃん」

「アハハ。それも一理ある」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、ボク達は懐からそれぞれの愛銃を取り出す。

 そう、銃だ。モデルガンなんかじゃない、実弾の入った本物の銃だ。

 ここはキヴォトス。ボクの知っていた地球とは全く違う常識であふれた不思議な世界。

 数年前、そんな世界にボクは生まれた。

 ボクの名前は渡世(わたらせ)フタバ。いわゆる、転生者と呼ばれる存在だ。

 それも、ただの転生者じゃない。日本で男として生きた記憶を持ったまま、女の子として生まれ変わったTS転生者という奴だ。

 TS転生のことは男だったころから知っていた。そんなことが起きたら面白そうだな、なんて随分とのんきなことを考えていた記憶が今もうっすら残ってる。

 まあ、実際はそんな楽しいことばっかりじゃあなかったんだけどね。

 

「それじゃ、さっさと片付けちゃおうか。せっかくイチカちゃんが予約してくれたお店、行かないなんてもったいないしね」

 

 ショルダーホルスターからハンドガンを抜いて、腰のポーチに入っていたマガジンを差し込みながらボクは電話から漏れ聞こえていた現場に向かって駆け出した。

 一拍遅れてイチカちゃんがボクに追いつける速度で走り出す。

 銃を持つのが当たり前で、実弾で撃たれても”痛い!”で済むトンチキな世界。

 そんな世界に女の子として転生したボクは今日もイチカちゃんと一緒に銃を握る。

 さあて、あれこれ考えるのは止めにしてひとまずは目の前の仕事を片付けますか!

 

 

 

「おら! さっさと限定メニューの材料を持ってこいったら!! 人質がどうなってもいいのかよォ!」

 

 ボクとイチカちゃんがいる数十メートル先。

 トリニティ自治区の中では比較的評判のいい場所として噂になっているお店の入り口で、着崩したセーラー服にバッテン印の入ったマスクをしたいかにもな不良生徒が猫の店員さんに銃を突き付けて要求を喚き散らしているのが聞こえた。

 既に周囲はボク達以外の正義実現委員会の生徒で固められていて、投降も呼びかけられてはいるみたいだけど……あの様子じゃ火に油だったみたいだなあ。

 あー、そう言えばあの店。すっごい美味しいって噂の限定メニューが最近始まったって正実内でも噂になってたっけ。

 正義実現委員会。ボクとイチカちゃんが所属している委員会だ。大層な名前をしているけど、要は学区内の風紀が乱されないようにあれこれする風紀委員のようなものだ。

 まあつまり、そんな委員会に所属してるからトラブルシュータ―としてボク達が呼ばれたわけである。

 

「じゃあフタバちゃん。私はとりあえず犯人たちと話してみるから」

「はいはい。ボクは周囲を探っておくね」

「うん、お願い。……あんまり無茶はしないでよ? 後処理で時間かかっちゃうんだから」

「しないよ。お店行けなくなっちゃうもん」

 

 とはいえ、いざとなったら多少の無茶もやむ無しだ。

 ボクだってせっかくのオフを邪魔されてちょっと機嫌が悪い。いつまでもあのバカ共がゴねる様ならさっさと無力化しちゃった方が話は早いだろうし。

 そんなことを考えながら、ボクはイチカちゃんと並んでお店の前まで歩いていく。

 視線、それも敵意の混じったものが5つ……いや、7つ。事前情報よりもちょっと多いそれがボク達に向けられたのが分かった。

 パッと見える位置にいるのは事前情報通り5人の生徒だけど、店の横の裏路地の方から1つ、隣の建物の屋上から1つずつ視線を感じる。

 

「イチカちゃん。これ、突発的犯行じゃないよ。店横の裏路地と隣の建物の屋上。そこにも仲間がいるみたい」

「……了解。じゃあ、その辺も考えてあの人達と話してみるね。ありがとうフタバちゃん」

 

 そう言ってイチカちゃんは目をちょっと開いて微笑む。

 ボクの姿が写り込みそうなくらいに澄んだ、ほんの少しだけ青みがかったグレーの瞳に間近から見つめられて思わずドキリと心臓が鳴る。

 

「う、うん。早く終わらせちゃおう」

「もちろん。待っててね」

 

 自信たっぷりにそう言い放ちながら、イチカちゃんはボクに向かってウィンクして立てこもり犯の方へと歩いて行った。

 危なかった。今でこそだいぶ慣れてきたとはいえ、ボクは元々男だったんだ。

 あんな顔の良い女の子から至近距離で見つめられて、その上ウィンクなんてされたらちょっと落ちちゃいそうだ。

 元、とはいえボクだって男の子なんだ。気になる子に落とされるより、落としたいと思うのは自然なことだと思う。

 イチカちゃんには何度も助けられたし、返せない位の恩がある。

 だからこそ、そんなイチカちゃんの方から”好き”って言って欲しい。言って貰えるようになりたい。それくらいカッコ良くなりたい。

 べ、別に自分から告白して断られるのが怖いからとかそういうのじゃない。断じて。

 

「って、誰に言い訳してるんだボクは……」

 

 ちょっとピンク色に染まりかけた思考から我に返って頭を軽く振る。

 心なしかほっぺが熱い気がするけれど、きっと気のせいだ。

 それよりも仕事だ。交渉とか話し合いはボクよりもイチカちゃんの方が得意だし、あの子はなんだかんだ聞き上手だから何とかいい感じに──。

 銃声が一発。辺りに響き渡った。

 その直後、人質を捕まえていた不良生徒が白目をむいて仰向けに倒れ込む。

 

「え……?」

 

 思わず間の抜けた声がボクの口から漏れた。

 誰が撃ったんだ? 攻撃指示とかは出てなかったはずだから、後ろに控えてる他の委員会の子達じゃないだろうし。

 いや、本当は誰がやったかなんて気づいてる。

 でも、ちょっと目の前の現実を受け入れるのに時間をくれてもいいと思うんだ。

 いつも糸目でいるはずのイチカちゃんが、思いっきり目を開いて教本通りの姿勢で発砲した姿なんて()()()()()ちっともなかったんだから。

 

「て、てめ──」

 

 味方を攻撃されて激情しそうになっている不良生徒の声を遮るようにイチカちゃんが笑みを深めながらしゃべりだす。

 

「今。フタバちゃんをなんて呼んだか、もう一回言って貰っていいっすか?」

 

 イチカちゃんの底冷えするような低い声を聞いて、僕は全てを察した。

 ああ、あの不良生徒。イチカちゃんの地雷を思いっきり踏み抜いちゃったんだなぁ……。

 もう助からないぞ♡なんて言葉が脳裏によぎって遠くを見つめるボクを他所に、不良生徒は苛立ちをあらわにして吐き捨てる。

 

「あ”あ”!? だからそこのチビだよ! なんで魔女箒がこんなところに──ギャッ!?」

 

 あっ、思わず撃っちゃった。これじゃあイチカちゃんのことをあれこれ言えないな……。

 でも人が気にしてることを言ってくるアイツが悪いと思うんだ。ボクだって好きでチビなわけじゃないやい!

 ボクまでもが警告なしで発砲したことで、犯人グループの不良達が完全に臨戦態勢に入る。

 まあもういいか。ここまできたらなるようになれ、だ。

 そう開き直りながら、足に力をこめて思い切り飛び上がる。それだけで、ボクの体はお店の二階のテラス席の床よりも高い場所にまで舞い上がった。

 狙うは屋上からずっとこっちを見てた犯人一味の一人。

 地上はイチカちゃんが何とかするだろうし、ボクはこっちをやろう。

 テラスに一度着地をしてから、再度ジャンプ。一度目のジャンプを見られた以上、向こうももう逃げる態勢は整えてるはず。

 ここからはスピード勝負だ。一人でも逃がせば最悪追跡命令が出かねない。

 そうなればデートはご破算だ。それだけは許せない。

 地上ではすでに銃声が飛び交い始めて……いや、響いてる銃声はイチカちゃんのだけだな。あーあ。アレ相当怒ってるぞ。

 まったく、ああなったイチカちゃんはあとで自己嫌悪モードに入ってなだめるの大変なんだぞ。誰がそれをやると思ってるんだ。

 そんなことを考えながらボクは建物の屋上に着地する。ちょうど、慌てて不良生徒の後ろ姿が地上に向かう階段へ消えていくところだった。

 

「逃がさないぞ」

 

 手の中にあるハンドガンをギュッと握りなおして地面を蹴る。

 日本で男として生きていた頃なんかとは比べ物にならない位のスピードで、ボクは不良生徒が逃げ込んだ建物に飛び込んでいく。

 その瞬間だった。

 足首辺りに何かが引っかかる感触と、ピンッという軽い音がすぐ傍で聞こえた。

 直後、凄まじい衝撃と熱風にボクの体はもみくちゃにされる。

 とっさに体を丸めて衝撃に備えようとしたけど、そんなことをする前にボクの体は建物の壁に叩きつけられた。

 

「がっ……!? かはっ……っ!!」

 

 痛い。ものすごく痛い。

 ああでも、それ以上に頭に来た。そこまでやるんなら容赦はいらないよね!

 体は動く。壁に思い切り叩きつけられた割に、ダメージは入ってない。

 もしかしたらこの先にもトラップが仕掛けられているかもしれないけど、知ったことか。

 こうなったら全部真正面から突っ切って、最短でとっ捕まえてやる。

 苛立ちに任せて奥歯を噛みしめてから、深呼吸。

 ささくれだった気持ちに今だけは蓋をして、集中をする。

 視線を感じる。下の階からだ。どうやら、あのバカはトラップが効いたか確認したかったみたいだ。そんなことしないで、さっさと逃げておけばいいのに。

 こうなった()()は結構乱暴になるんだぞ。逃げれるうちに逃げておいた方が身の為なんだけどな。

 まあ、そんなことをわざわざ教えてやる義理もない。精々必死こいて逃げればいいさ。

 

「逃がさないけどな」

 

 そう呟いて視線を下に落とす。

 階下にいた不良生徒と目が合って、まるで怯んだ様子の無い俺にビビったのがよく見えた。

 

「よーい……どんッ!」

 

 掛け声とともにオレは階段を駆け下りる。

 さっきよりも速く、もっと(はや)く!

 壁を蹴り、手すりを掴んで遠心力を使ってUターンして、トラップの爆風よりも早く階段を駆け下りる。

 地上階について、外へとつながる扉に向かって飛び蹴りをブチかます。

 蹴りの威力に耐えられなかった扉の蝶番が音を立ててはじけ飛んで、オレはスケボーに乗った時みたいな姿勢で扉と一緒に外へ飛び出す。

 意識を再度集中。逃げる足音はイチカ達がいる方面とは逆だ。けど、距離はせいぜいが30mってところだ。

 銃を構えて逃げた不良の頭を狙う。急所だけど、キヴォトスの生徒だったら精々気絶で済むから大丈夫だ。

 発砲。軽い破裂音と、一拍おいて薬莢が地面に落ちる小気味良い音がオレの耳に届くころには不良生徒は無様に顔面から倒れ込んだところだった。

 

「やれやれ……」

 

 また深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

 あんまり乱暴しすぎるとまたハスミ先輩から怒られちゃうからね。

 ふとイチカちゃんの方へ振り向けば、既にお店の中から白目をむいて縛り上げられた不良生徒が次々と運び出されているところだった。

 

「相変わらず手際良いなあイチカちゃん」

 

 それに引き換え()()ときたら。

 トラップに引っかかって危うく逃げられるところだったし、そもそも僕が制圧したのはたった一人だけ。

 こんなんじゃ、まだまだイチカちゃんにカッコいいなんて思って貰えそうにない。

 

「先は長いなあ……」

 

 そんな風に呟いてから、ボクは自分で撃ち倒した不良を回収するべく倒れた彼女の元へと駆け寄って行った。

 これがボクの日常だ。前世の価値観からは考えられないような、とんでもない世界が今のボクが生きる世界。

 これは、そんな異世界に転生したボクが精いっぱい生きていく。そんなありきたりでどこにでもある青春の物語(ブル―アーカイブ)だ。

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