R18ソシャゲの世界に転生したのだが、無条件の忠誠心を示す『英傑美少女』たちが恐ろしい件 作:たたたった
「国賊め、私が殺してやるっ!主様!どうかこの者に極刑を与える命令をお与えください!」
「いや、待て!アタシが殺す!ご主人様に剣を向けるような奴は――――」
まるで処刑台に向かう主人公が民衆たちに罵声を浴びせられモノをぶつけられるワンシーン。
国王である俺に剣を向けた『剣聖の騎士クランべリア』に対する憎悪は想像以上だった。英傑美少女たちが極度のマゾヒストであるので忘れがちであるが、彼女たちは本来ならば英雄として伝説や神話に残るほどの傑物。
つまり、本気で怒りを滲ませ殺意をぶつけてくるという状況は、罰を受ける当人でなくとも傍に居るだけで震えが止まらないほどの圧力を感じてしまう。
怖い……みんな、本気で怒ってる……。
死ねと言われれば喜んで死ぬような忠誠心を持つ英傑美少女たちが、その絶対的な存在として君臨する国王である俺を害そうとした賊に対してどう接するかの答えは目の前に広がっている。
マゾヒストの姿を取り払った英雄としての本来の姿。
雑兵であれば万の軍勢すらなぎ倒す彼女たちの本物の殺意はこちらに視線が向けられれば睨むだけで心臓を止められそうだ。被虐に喜ぶような変態ではなく、戦場に立つ戦士として面持ちで抜刀しそうになるのを必死に堪えながら罵声をぶつけている。
首輪を嵌められ三歩後ろを歩くクランべリアは、殺意と憎悪をぶつけられる恐れではなく、騎士として主君に剣を向けた罪に本気で恥じ入るように俯いて震えている。
どうやらSMの延長線上ではなく、本気で国家反逆の罰と報いを受けるつもりだったようだ。
「お前たち!これは俺の所有物であるのだから、危害を加えることは絶対に許さん!生殺与奪はこの手にある!怒りに我を忘れて、この罰の邪魔立てするのであれば放逐の刑に処すから覚悟をしておけ!」
俺の言葉に波が一斉に引いていくように英傑美少女たちの狂気の熱は冷めていく。
マゾヒストである英傑美少女が最も恐れることは国王の無関心。どれだけ嬲られようと、例え殺されようと俺の関心を惹いているのならば喜んで受け入れる彼女たちにとって放逐は死刑よりも重い罰。まるで腫れ物に触るかのように、クランべリアにぶつける罵声も控えめになり自ずと距離も取り始める。
見捨てられる、という思いは忠誠心の極まった英傑美少女の頭に冷や水をぶっかけるには丁度いい言葉であった。
俺は鎖で繋がった首輪をグッと引き寄せ抱き合うように肩を寄せる。
「もう一度言うぞ!これは俺のモノだ!国王の所有物に傷を付けることは禁じる!」
「へ、陛下……こ、これは、あっ――――」
「黙れ!お前は俺の奴隷!所有物がご主人様の命令なく口を開くことは許さん!」
「はぅ……っ~~~~~~~~!」
ここで国王の所有物として公言しておかなければ、あとに禍根を残すことは目に見えている。
誰にでも見える形で鎖を引き、国王である俺の所有物である姿を他の英傑美少女たちに示していく。そうしなければ
マゾヒストとして目覚めてしまったクランべリアが頬を朱くするが、そんなことを気にしている状況ではない。
前例を出したら絶対にマズい……ッ!国王に不忠な者は私刑にして良いと暗黙の了解が通ったら国は乱れる!
英傑としてのプライドと忠誠心が高すぎる弊害は薄々と感じていた。
国王の私室の掃除を誰がするかでメイドが揉めていたし、料理は誰が作るのか、夜伽の相手は誰か、果ては傍仕えとして控える者の選出で殴り合いにまで発展していた。ここに不忠だとする者を殺しても良いという最悪の前例を出せば、忠誠心の高い英傑美少女たちの殺し合いは絶対に起きる。
今ですらギリギリライン。ここで確固たる線引き、英傑美少女は国王の所有物であると強く印象付け、互いに手を出すことは国王への不忠であると思わせなければならない。
闇の軍勢が現れる前に内紛で国が滅んだら元も子もない!ちくしょう!SMの次はメンタル管理かよ!
1年後に相対するのは統率の取れた闇の軍勢。ならばこちらも一致団結して戦わなければならないのに、纏まりもせずに英傑が飛び出しても各個撃破されるのは目に見えている。
俺は命懸けのSMの他にも英傑美少女たちの絆も取り持たないといけないのだ。国王である俺が真のマゾヒストで彼女たちに奉仕する状況に本当に泣けてくる。
「ついてこい!クランべリア!お前を使って、国を纏めるぞ!」
「ぁっ……ぁっ!」
「あっ、返事は許可する!」
「了解しました!陛下!」
慣れないサディストも演じ続ければ本物になる。
支配的で嗜虐心に満ちた理想の国王、それをマゾヒストな英傑美少女が望むならなってやる。俺1人の犠牲で国が纏まるならどんな変態的な国王様にだってなって来るべき戦争に打ち勝ち、夢から醒めるのかこの世界が続くのか知らないが、真の平和が訪れた世界で純愛至上主義者となることを夢見て、クランべリアの首輪を掴みながら王城内を練り歩くのだった。
『お前たち!これは俺の所有物であるのだから、危害を加えることは絶対に許さん!生殺与奪はこの手にある!怒りに我を忘れて、この罰の邪魔立てするのであれば放逐の刑に処すから覚悟をしておけ!』
陛下……陛下陛下陛下!
クランべリアの心中は振り切れた忠誠心により心酔の極みにいた。
なぜなら、陛下が一介の騎士に過ぎぬ彼女のことを気遣い大切に思っていることを理解したから。
『もう一度言うぞ!これは俺のモノだ!国王の所有物に傷を付けることは禁じる!』
英傑美少女たちが抱いていて当然の殺意。それを受け止めることこそが罰だとクランべリアは思っていた。
首輪を嵌められ城内を引き摺り回される、その結果に忠臣たちによる刃傷沙汰により殺されても仕方ない。それこそが陛下に剣を向けた不忠の騎士に相応しい罰であると心の底から信じ、その瞬間を心待ちにしていたのに陛下はクランべリアの想像以上に偉大な存在であることを知る。
陛下がわざわざ所有物であると宣言した真意、それは大罪を犯した騎士の命を助けるものだと理解した時に彼女の中で箍が壊れた。
『黙れ!お前は俺の奴隷!所有物がご主人様の命令なく口を開くことは許さん!』
私のために……ッ!ただの騎士に過ぎない私のためだけにッ!この身を案じてこのような命令を発するなんて!
英傑美少女たちにとって陛下は絶対者。
数多の世界の英雄を従え、来るべき全ての趨勢を喫する聖戦のためにこの世に君臨した神に等しき存在。声を聞くだけで心が震え、その気配はどんな英霊よりも勝る覇気を持つ、本物の大英雄。
どれだけ傲慢な英傑だろうと召喚され王を見れば理解する。この御方こそが真に仕えるべき陛下であると。
『ついてこい!クランべリア!お前を使って、国を纏めるぞ!』
そんな存在がクランべリアを庇護し、そして頼りにされることの喜びは筆舌に尽くしがたい幸福だった。
愚王などではなく全ては計算の内に演じていたのだ。英傑たちを纏めるために演じていた偽りの姿、陛下は誰よりも国を考えて、奴隷の如き英傑美少女の身を案じているかと知った時、
極まった忠誠心の先にある狂気にも似た情念。
陛下のためなら喜んで死ぬことよりも大切なことがあるのに気付いた。
あぁ……私は陛下を愛してしまったんだ……。
クランべリアの忠誠心はそのまま陛下を愛することに転換された。
忠義を尽くして死ぬことよりも大切なことに気付き、この身の捧げる方法に対する考えを大きく変える。
表面上では変わりない忠義の騎士、その内情に渦巻く思いはいずれは騎士の刃ではなく別の形で国王の心に突き刺さることとなる。