R18ソシャゲの世界に転生したのだが、無条件の忠誠心を示す『英傑美少女』たちが恐ろしい件   作:たたたった

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悪役令嬢

 王城の庭園で催される娘の生誕祭には、500人を超える英傑美少女たちが参加者として集まっていた。

 鎧やローブといった戦闘服は脱いで、華やかなドレスを身に纏った美女と美少女たち。装いは変わろうとも、一騎当千の猛者である英傑の気配は変わらず、会話に華を咲かせて王の長子たる娘の誕生を祝っている。テーブルに並ぶ豪勢な料理に舌鼓を打ち、美酒に酔いしれる彼女たちの視線は常に国王である俺に注がれ、まるで獲物を狙う猛獣のような爛々と瞳を輝いている。

 

 なぜなら、この世界では子作りはめでたい時にするのが習わし。

 つまり、500人を超える英傑美少女たちにとっては最大の子作りセックスチャンスなのだ。狙う座は第二王妃、その手に抽選券を固く握りしめ、パーティーの終わりに行われる抽選会を心待ちにしていた。

 

 こわっ……子供の誕生の祝いの場なのに……誰も彼もが俺とセックスすることしか考えてねぇ……ッ!

 

 見ようによっては酒池肉林であり、まさに男のロマンとも言える光景だろう。

 この視界に映る全ての英傑と言える美女や美少女が俺を求めている。うん、確かにシチュエーションだけなら、まさに頭の悪いエロソシャゲの世界観の体現であるが、流石にちょっと待ってほしかった。だって、娘の誕生を祝う場である。確かにパーティーの最後にはお楽しみとしての子作り抽選会は開かれるが、今は神聖な命の誕生を祝っているのだから、TPOというものを弁えて欲しい。

 

「旦那様、シトリンの準備が整いました」

「んっ、そうか。ならば、パーティーの主役として出てきてもらおうか」

 

 グラスをスプーンで叩いて、参加者たちの会話を中断させ沈黙を促す。

 このパーティーは王女のお披露目会でもあるのだから、ボテ腹となった朱いドレスを纏うセスラと並び、我が子の大舞台をハラハラとした気持ちで見守る。生後、1日で500人を超える英傑たちの前に立つのだ。父親として、子供がそんなプレッシャーの中で主役として立つことに緊張を覚えないものはいないだろう。

 隣に立つセラスはそんな緊張とは無縁であり、子供の舞台での成功を確信しているようだった。

 

 固唾を吞んで見守る壇上に、とうとうパーティーの主役であるシトリンが現れる。

 腰まで届く長い黒髪には艶のある紫が浮かび、黒いドレスを纏った十代半ばの身体は軽やかな足取りで、500人を超える視線すらも歯牙にも掛けないとでもいうように、嗜虐的な金色の瞳を輝かせて、口元は残忍な笑みを浮かべている。頭部から伸びる二本の太く黒い角、堂々とまるで絶対者のような立ち振る舞いで壇上に立つ娘の姿は、まさに――――

 

 あ、悪役令嬢にしかみえない……ッ!

 

――――身も蓋もないことを言うと、シトリンはもう物語で出てくる悪役令嬢にしかみえなかった。邪悪、残忍、狡猾、大悪魔であるのだから当然だと思うが、見た目が完全にヒロインを虐め殺すような残虐な雰囲気を醸し出している。壇上から英傑美少女たちを舐めるように見回したあと、ドレスの裾を持ち上げて恭しく礼をしたあとに挨拶を始める。

 

「こんにちは、皆様。本日は、私をこの素晴らしいパーティーの主役としてご招待いただき、本当にありがとうございます。このようなお披露目の機会を頂き、とても光栄です。このパーティーの主催である、お父様に心からの感謝を申し上げます。私のためにパーティーを企画し、皆様のような素敵な()()()――――」

 

 んっ?

 

「どうしましたか、旦那様?」

「いや、ただの聞き間違いだろう。気にすることはない」

 

 英傑美少女たちを玩具って呼ばなかった?いや、シトリンも初めてのパーティーで緊張してるからな……うん。よし、気にしないことにしよう。

 

「――――それでは、皆様、どうぞ楽しんでください。ありがとうございました」

 

 大地が揺れんばかりの拍手喝采の中で、娘の晴れ舞台は無事に成功を収めた。

 壇上から下がる時も慌てることはなく、優雅な所作でその場から去り、俺たちの下へと口元の笑みはそのままに近づいてくる。心からパーティーを愉しんでいるのか、英傑美少女たちと挨拶を交わしながら、とびっきりの体験を心から喜ぶように瞳を輝かせて口を開く。

 

「これほどの臣下たちがお父様の下に集まるなんて、素晴らしいですわ!どれも可愛く、美しく、そして強い……まさに英傑。そんな彼女たちを纏めるなんて、国王としてのカリスマは私も見習わせてください!」

「俺の自慢の臣下たちだからな。お前が大臣としての地位に就いたら付き人として何人か見繕おう」

「はい!これほどの英傑たちが私のモノ……ふふっ、楽しみですわね」

 

 年相応にはしゃぐ我が子にほっこりしながら、あれが欲しいですわ!とおねだりをする指の先を見る。

 指し示したのは1人の騎士。ドレスコードをしているが、『剣聖の騎士クランべリア』は帯剣をしたままにぼっち飯をしていた。国王に剣を向けた大罪人、その烙印を押されて他の英傑美少女たちとは距離のある彼女は、俺たちが視線を向けていることに気付いてすぐさまにこちらに駆けつけ跪く。

 

「陛下!なんでございましょうか!」

「いや、私ではなく娘がお前に用があるようだ」

「ご用件はなんでございましょう、王女殿下」

 

 傅くクランべリアに、瞳を輝かせて顔を近づけるシトリン。

 なんだか、とても邪悪な笑みを浮かべたままに耳元で小さく囁くと、何を言われたのかクランべリアの表情は真っ赤になる。クスクスと、獲物を前にした猫のような嗜虐心を覗かせながら、俺の方に振り返るとおねだりをするように抱き着いて上目遣いでこちらを見て。

 

「お父様……この騎士を私の侍女にして良いですか?とても可愛くて、芯の強い女性……壇上で見た時からずっと気になっていたのです」

「どこら辺が気になったのだ?」

「私ではなくお父様のことをずっと見ていたのです。その瞳はまるでこ――――」

「――――陛下!どうか、私を王女殿下の傍付きとして置いてください!」

 

 会話の途中でクランべリアが割って入ってきたのでちょっと驚いた。

 

「黙りなさい。私とお父様の会話に一介の騎士が口を挟むなんて――――その首を刎ねられたいの?」

 

 シトリンの温度を感じさせない冷徹な言葉にはもっと驚かされた。

 

 嗜虐心すら冷めた、凍えるような極寒の視線。無関心と残虐、その両方を備えた鋭い言葉は、英傑としての実力差があろうともクランべリアを身震いさせるには十分なものだった。視線を戻せば、いつもの甘える子供のような上目づかいで見てくるギャップに、身内とそれ以外に対する心の線引きのようなものを感じさせる。

 何故か、隣に立つセレナは大悪魔としての威厳を見せる娘の成長に喜びで震えているように口元を手で覆っていた。

 

 為政者としての威厳はあるけど、いや、でも……生まれて1日目の女の子が見せて良い態度なのか……?いや、大悪魔としてはそれくらいが当然?種族としての価値観が違い過ぎて、窘めればいいのか褒めればいいのか分からない……ッ!

 

「やめなさい、シトリン。その騎士は俺のモノだ。娘とはいえ、勝手に処断するのは許さないぞ」

「ごっ、ごめんなさい、お父様……でも、だって、私のお父様を……あんな目で見ていたら、ちょっとからかいたくなるんだもん!それに口を挟むなんて無礼だわ!私とお父様の会話の最中なのにっ!むぅっ……もう、この騎士なんて私、しらないっ!」

「こらっ、自分から呼び寄せておいてその態度はダメだぞ」

「うぅ~だって、だって……ッ!ッ~~~~~~~!!」

 

 可愛いなぁ……この年相応な態度。というか、何がそんなにクランべリアのことが気になったんだ?

 

 ぷいっと顔を背けて拗ねるシトリンの頭を撫でてやる。そうしたら、徐々に機嫌を取り戻したのか、狼狽えているクランべリアに視線を向けずに口を開く。

 

「あなたは寂しそうだから、私の傍に置いてあげるわ」

「それはどういうことでしょうか……王女殿下……?」

「察しが悪いわね……ッ!居場所がないなら与えてあげてるって言ってるのよ!ねぇ、お父様もいいよね?」

「構わないぞ。うん……思ったより、王女として人を見ているな」

 

 種族は大悪魔で、見た目は悪役令嬢であるが、中身は他者に対する情を持つ子供であることに目頭が熱くなる。

 利己のために他者を玩具にするような子に育ったらどうしようと、本気で不安であったのだが、クランべリアが孤立してることに気付いてすぐに手を差し伸べようとする心根の優しさに感動してしまう。そして感動する父親に今度はシトリンが狼狽える番となる。

 

「えっ……お父様の中では私の印象ってどんな存在だったの……?」

「残忍、冷酷、残虐の三拍子が揃った悪役令嬢だったぞ。だが、違った……シトリン、お前は確かに上に立つ器を持つ大悪魔だ」

「私はそこまで利己的ではないです、お父様!玩具はちゃんと大切して愛情を持って接しますわ!それに使えるモノだから大切にしているだけです!使えなかったら、すぐに捨て置きますからね!勘違いしないでよね、クランべリア!」

「はっ、はい!王女殿下!」

 

 どうやら悪役令嬢ではなく、娘はツンデレ令嬢であるようだった。

 

 

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