【コミカライズ決定!】ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~【書籍化】 作:サニキ リオ
帝国城内に作られたアジトへ向かう途中、クレアは溜息をつく。
「はぁ……」
レグルス大公を旗印として獣人の王国を再興し、今度は人間を支配する。そのために潜入したはずだった。
しかし、肝心のレグルス大公にその気がまるでなかったのだ。
彼は不当な扱いを受ける獣人の現状を嘆き、動いてくれてはいる。
そこに憎悪はまるで存在していない。
二ヶ月ほど共に過ごしてクレアは気づいた。
帝国への忠誠心と同胞を思う心。その二つをレグルス大公は持ち合わせてしまっていたのだ。
「私は一体どうすれば……」
クレアは迷っていた。
潜入任務を与えられたときこそ、やっと自分の使命を全うできると信じて疑わなかった。
レグルス大公が復讐に燃え、獣人の王国アルギエの再興を目指していれば話は早かったというのに。
彼自身、特殊な立場ということもあって不当な扱いを受けてきた。
本来、レグルス家はアルギエ王家の血を人間で薄めていき、獣人への支配の象徴とするための存在なのだ。
しかし、レグルス大公という例外が生まれてきてしまった。
獣人にとっては伝説の存在である雄獅子の獣人。まさに獣人の王となるべくして生まれてきた者。
それも先祖返りを起こし、体内に流れる皇族の血をねじ伏せて完全な獣人として生まれたのだ。
これで獣人に希望を持つなというのも無理な話である。
獣人を牽制するために与えた立場に、獣人の希望となる存在が生まれてしまった。
そのせいで帝国の官僚達は彼を失脚させようと躍起になっていたのである。
そんな環境で何故人間に好意的になれるのか。それがクレアには理解できなかった。
「どうして獣王様は優しくあれるのでしょう……」
クレアは獣人であることを隠し、人間のメイドとして帝国城に潜入している。
レグルス大公からすれば、クレアに特別優しくする理由はないはずだ。むしろ、雑に扱ってもおかしくない。
だが、レグルス大公はクレアが新人であることも考慮して優しく接してくれたのだ。
思えば、クレアは大人から優しくされたことはこれが初めてのことだった。
できて当然。できなければ〝教育〟が待っている。
それが当たり前の環境だった。
相も変わらず、叛逆の牙はレグルス大公を迎え入れて人間に反旗を翻すときを伺っている。
「あの方が、そんなこと受け入れるわけがない」
レグルス大公にとって、獣人も人間も同じ帝国の臣民。
人間を支配するために、獣人の王になんてなってくれるはずもなかった。
報告の度に上司に八つ当たりをされているクレアは、今日も憂鬱な気分で地下用水路を歩く。
彼女の心はいまだ闇に囚われたままだった。