【コミカライズ決定!】ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~【書籍化】 作:サニキ リオ
叛逆の牙への報告を終えた帰り道。暗闇の中、湿った空気が肌を撫でていく。
クレアがとぼとぼと地下用水路を歩いていると、優れた聴覚が人の存在を感知した。小さな足音が遠くから響いてくる。
吸血蝙蝠の獣人である彼女は、蝙蝠と同様の特徴を持っている。生まれついての能力だが、時として呪いのようにも感じる。
蝙蝠は自身の口や鼻から超音波を発し、その音が物体に反射して返ってくるエコーを耳で捉えることができる。
その聴覚は非常に発達しており、高周波の音を聞き分けることができるのだ。人間には聞こえない音まで、まるで色を見分けるように認識できる。
暗闇に人の子一人紛れ込んでいても見つけることは容易いことだった。特に今回の相手は、その足取りからして見慣れた人物だ。
エコーロケーションの結果、地下用水路にいた人物を特定したクレアは外套をかぶった少女へ話しかける。声には軽い諦めが混じっていた。
「また脱走ですか。ルミナ様」
「うぅ、どうしていつもクレアには見つかってしまうのでしょう……」
クレアに見つかった少女――皇女ルミナはガックリと肩を落とす。
「メイドは城の中であれば暗闇でも自在に歩き回れますからね」
もちろん、ベテランのメイドにもそんな真似は不可能だ。
これは獣人であることを隠すための方便だった。当然、ルミナに真実を知られるわけにはいかない。
「この場所は危険です。もし水路に落ちてもすぐに助けが来られないのですから」
「わかっています……」
安易に危険な場所に近づかないよう、クレアはルミナに注意をする。声は優しかったが、その中に潜む冷たさにルミナは気付かなかった。
これはルミナを案じているのではなく、ただ叛逆の牙のアジトを見つけられると不都合があるからという理由からだった。
「まったく、お転婆な皇女様ですね」
クレアはつい昔の自分とルミナを重ねてしまった。懐かしい記憶が、苦い感情と共に蘇る。
幼い頃、クレアも反人間思想に嫌気が差して、逃げだそうとしたとこがあったのだ。結果は言うまでもない。暴力と恐怖で教え込まれた教訓は、今でも体に刻まれている。
そこでふと、クレアはあることを思いついた。
「ルミナ様。普段はどのようなことを学んでいるのですか?」
「古代文字を含めた文字の読み書き、算術……あとは歴史などですね」
クレアの質問にルミナは素直に答える。疑うことを知らない純真な瞳。
幼くとも彼女は皇女だ。だからこそ、価値のある駒になる。
「なるほど。では、歴史についてですが……もし、事実が間違っているとしたらどうでしょう?」
「間違い、ですか?」
蝋燭の篝火に照らされたルミナの瞳が輝いたように見え、クレアはほくそ笑む。好奇心旺盛な子供は、何でも吸収してしまう。それが蜜か毒かもわらかずに。
「ゾディアス帝国の成り立ち。それは人間にとって都合が良いものに変わっています。よろしければ、隠された真実をお教えしましょうか?」
「ぜひ!」
うまくいった。
これでこの国の皇族に反人間思想を植え付けることができる。復讐の第一歩が、ここから始まる。
かつて自分が子供の頃にされたことをする。今度は自分が教える側だ、と。
暴力ではなく、甘言による堕落によってクレアはそれを成そうとしていた。
暗闇の中で、彼女の唇が僅かに歪んだ。