【コミカライズ決定!】ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~【書籍化】 作:サニキ リオ
「それに、わからないのは何故あの場所で殺害したのかってところだ」
「殺害場所は……なんの変哲もない廊下でござるな」
「そうだ。仮にも諜報部の人間が選ぶ殺害場所としちゃお粗末もいいところだ」
殺害現場となった廊下は、護衛の騎士や巡回の兵士が定期的に見回りにくる場所だ。
誰かに目撃されても何の不思議もない場所である。
「もしやクレア氏に罪を着せるため?」
「そう考えるのが自然なんだが、どうにも不自然なんだよな」
「どういうことでござるか?」
ソルドの返答に、今度はロアナが首をひねる番だった。
「そもそも、クレアさんはただのメイドだぞ。オーツとの繋がりもない」
「単純にメイドが相手なら状況証拠だけで投獄されると思ったのでは?」
「だとしても、クレアさんがあの時間、あの場所に来ることを予想してなきゃおかしいだろ。知り合いでもないのにそんなこと予想できるわけないだろ」
「むぅ……確かに」
ソルドの反論に、ロアナは納得しきれていない様子で唸る。
事件の真相はわかったはずなのに、事件の全貌が見えてこない。
言いようのないもどかしさが二人の心を支配していた。
「クレアさんについての情報が必要だな」
「そうでござるな」
二人は頷き合うと、聞き込み調査を開始した。
城の騎士や下働きの者達に話を聞いて回った結果、クレアは周囲からも評判のいい人物だということがわかった。
そもそもレグルス大公があれだけ必死になって助けようとする人間だ。悪人のはずがない。
「通称〝皇女係〟か」
「脱走癖のあるお転婆皇女様をいつでも連れ戻してくる有能メイド。どうやらクレア氏があの場にいた理由も説明がつくでござるな」
クレアの評判は聞く限り、とても暗殺に手を染めるような人物ではなかった。
「どういうことだ?」
「あの場所は地下用水路の入り口が近くにあるでござる」
「そうか。ロアナは匂いでその辺わかるからな」
嗅覚が鋭いロアナは、そういった点にはかなり鋭い。
「昨晩も皇女様は脱走していたらしいし、クレア氏が事件現場に来ることを予想できた可能性は高いでござる」
「……そういう、ことか」
ソルドは納得したように頷くと情報を整理する。
「まず、オーツ・ボネンは黒豹の獣人でスパイだ。諜報司令官の秘書として情報を抜いていた彼女は、正体が露見したことでハズナー司令官を殺害した」
獣人であることが露見したオーツは焦ったはずだ。そうソルドは考えて推理を進める。
「死因は刺殺だった。犯行現場はおそらく執務室だろうな。殺害後は凶器を刺しっぱなしにして出血を抑えてクレアさんが通るはずの廊下で凶器を抜く」
ソルドは一つ一つ丁寧に説明していく。
「あとは血塗れの遺体にクレアさんが駆け寄って巡回の騎士に発見されてばいい」
「咄嗟に思いついた隠蔽工作というわけでござるな」
「クレアさんの性格なら倒れている人は放っておかないだろうからな」
それがオーツの狙いだったのだ。なんとも稚拙で行き当たりばったりな犯行である。
「あと不思議なのはなんでクレアさんがオーツを庇っているかってとこだな」
「確か、クレア氏は処刑を望んでいると……」
何故、クレアが碌に意義を申し立てずに処刑を望んでいるのか。
「自分から死を選ぼうとしている。それは犯人を知っているからこそだ」
「それか、帝国に期待していないから諦めているとか」
「否定はできないのが嫌なところだな」
現時点ではそれがもっとも可能性が高いように思えた。
ロアナは不意に立ち止まると、ギュッと拳を握る。
「なんか、やりきれない話でござる」
その小さな呟きは誰の耳に届くはずもなかった。
「……なるほど、そういうことでございますか」
物陰から様子を見ていた一人のメイドはニヤリと笑い、音もなくその場をあとにするのであった。