【コミカライズ決定!】ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~【書籍化】 作:サニキ リオ
オーツが服毒自殺を図り、その罪を遺書に全て記したことでクレアは釈放された。
現在、心身共に疲れ切っていた彼女は三日ほど休暇をもらっていた。
薄暗い牢獄から解放され、久しぶりに触れる柔らかな寝台の感触に、つい深い眠りについてしまったほどだ。
あれからクレアの無実は証明され、オーツ自身は潜入していた獣人だということが露見しなかった。
あまりにも状況が出来過ぎている。
「首の皮一枚で繋がりましたね」
自嘲気味に呟いたその言葉には、苦い現実が滲んでいた。
これが組織の判断ということだろう。
叛逆の牙にとって、最も足を引っ張る存在がオーツだった。その彼女は処分され、その死を都合の良いように歪められた。
自業自得と言ってしまえば、それまでだ。
クレアにしてみれば、組織の命令通りに動いていたら突然上司が失態を押しつけてきたようなもの。
普段からお前の替えはいくらでもいるなんて言ってきた人物が、それを体現してしまうとは皮肉なものである。
「叛逆の牙、ですか」
窓から差し込む陽光が、部屋の中を優しく照らしている。その温かさが、組織の冷酷さと対照的に感じられた。
いつも報告をするときに八つ当たりをしてきた嫌な上司だった。組織に消されたところで心が動くはずもない。
それでも、やはりどこか憐れに思ってしまうのは無理のないことだった。
「……いつか、私もこうなるのでしょうね」
そんな予感が拭えなかった。
溜息をつきながら林檎を手に取り、皮を剥く。慣れた手つきで剥かれた皮は、蛇行する赤い帯のように机の上で踊る。
「クレア、クレア……!」
突然、扉が勢いよく開かれ、はしゃいだ声が響き渡った。
「また来たのですか、ルミナ様」
駆け込んできた琥珀色の髪の少女――ルミナは、無邪気な笑顔を浮かべている。
その表情からは、本気でクレアの無実が証明されたことを喜んでいるようだった。
「ふっふっふ……このわたくしから逃げられると思わないことですね!」
「逃げてきたのはルミナ様でしょうに」
「だって、部屋に籠りっきりで勉強なんて面白くないです!」
呆れたようにクレアが溜息をつくと、ルミナは不満気な表情を浮かべながらクレアの隣に座り込んだ。
「お茶会でもしましょう! こちら出所祝いの新しい茶葉です!」
「どこからくすねてきたんですか……」
その無邪気な提案に、クレアは思わず微笑みを浮かべる。
そうだ。この子に洗脳など必要ない。
人間にも獣人にも、この子を歪める権利などないのだ。
「ルミナ様」
「なんですか?」
「ヒトは誰しも、善悪を持ち合わせているものです」
林檎の皮を剥き終え、皿に盛りつけながらクレアは続ける。
「獣人だって、人間だって同じこと。私たちは皆、過ちを犯すことも、正しい道を選ぶこともできる」
「どうしたのですか、急に」
不思議そうな顔をするルミナに、クレアは優しく微笑みかける。
「これからは、そういったことも含めて、しっかりとお教えしていきたいと思いまして」
林檎を八等分に切り分け、一切れをルミナに差し出す。
「ぜひ、お願いします!」
その提案に、ルミナは目を輝かせた。
幼い頃の教育の日々も、オーツとの確執も、もう過去のこと。
これからは、この子と共に新しい未来を築いていく。
叛逆の牙の使命でも、幼少期に受けた洗脳による強制でもない。
これはクレア自身が選んだ道だった。
「では、紅茶のお供に相応しい話をご用意いたしましょうか」
立ち上がったクレアは、窓から差し込む陽光に目を細める。
これから先、待っている未来はきっと今日よりも美しいものになるはずだ。
そう信じられる自分に、彼女は誇りを感じていた。