【コミカライズ決定!】ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~【書籍化】 作:サニキ リオ
クレアが一日の業務を終えて侍女の宿舎へ戻ると、先に業務を終えたシャルロットが既に部屋でくつろいでい。彼女は寝間着姿で、横になりながら小説を読んでいた。
「シャル、ありがとうございました」
クレアがメイドとしの名前で礼を述べると、シャルロットは目を小説から離さないまま、すっとぼけたように返事をする。
「何のことかしら?」
「私が投獄されたとき、ずっと動いてくれたのでしょう?」
クレアの声は少し震えていた。
シャルロットがいなければ、自分の潔白が証明される前に、罪を着せられたまま命を落としていたかもしれない。
無念と無力感に苛まれていた時間が思い出され、今さらながらクレアは安堵に胸を震わせていた。
「そんな大袈裟なことじゃないわ」
シャルロットは淡々とした調子で返したが、その口元には微かに笑みが浮かんでいる。
彼女は軽い口調ながらも、クレアの言いたいことはきちんと理解している様子だった。
「クレアの日頃の行いが良かったのよ。日々の積み重ねってのはバカにできないの」
「ですが、あなたのやってくれたおかげ私は助かりました」
クレアは心から感謝の念を込めて言った。それに対して、シャルロットは眉間にシワを寄せて唇を尖らせる。
「そういうのむず痒いっての。それによく言うでしょ、施しは巡りゆくってね」
「そんなことわざありましたか?」
「今、アタシが作った」
クレアが思わず吹き出すと、シャルロットもつられて笑い出した。
「てか、クレアはお人好し過ぎ。自分の命がかかってるんだからそこまで忠義に生きなくてもいいでしょ」
「ですが、シャルも私を守ってくれたではありませんか」
「違うわ。私は自分が面倒な状況に巻き込まれたくなかっただけ」
シャルロットは目を閉じてクスリと笑う。その様子を見て、クレアは何も言えなくなった。ただ、互いの事情が一層交錯し、絆が一層深まったような気がした。
「結局、アタシだって一本の牙に過ぎないのも。自分に降りかかる火の粉は払わないとね」
シャルロットは天を仰ぎながら、しみじみとした口調で言った。
「組織全体を巻き込むなんて随分と大仰に火の粉を払いましたね」
「胸と扇は大きいに越したことないってよく言うでしょ?」
「言いませんよ。どんなことわざですか……」
クレアは呆れてため息をついた。シャルロットは頭の回転が速く、想像力も豊かな才女であるが、たまにこうして訳のわからないことを言い出す。
でも、そんなところも嫌いじゃなかった。その破天荒さや奇想天外さが、彼女の魅力なのだ。
「まったく、そんな調子できちんと潜入できているのですか?」
「澄まし顔で淡々とこなしてるよ。うちの主は獣人嫌いだから楽しくはないけどね」
そう言ってシャルロットは片目をつぶってみせる。どうやら潜入捜査はうまくやっているようだ。
彼女がそんな態度を取るので、クレアもそれ以上は追及しなかった。
「……いつまで、アタシらはこんなことすればいいんだろうね」
ふと、唐突にシャルロットが真顔になって呟く。それに釣られるようにクレアも顔を曇らせる。
「きっと終わりはないでしょうね。それでも、今を楽しむくらいの贅沢は味わってもいいのではないですか」
「それもそっか。もっと気楽にいかないとね」
シャルロットは両腕を伸ばして背伸びをすると、再び読書を再開した。