【コミカライズ決定!】ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~【書籍化】   作:サニキ リオ

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第32話 十年後の帝国城

 クレアがレグルス大公の元で働くようになってから十年の月日が流れた。

 叛逆の牙の構成員達の一部も順調に出世をしたことで、以前にも増して帝国内部での潜入工作が容易となった。

 諜報部などスパイだらけで目も当てられない状態になっており、もはや人間の喉元には常に牙が寸前まで迫っている状態である。

 

 そんな有利な状態にあっても暴走が起きないのは、オーツが暴走して始末された例があるからだ。

 クレアを含めた幹部達は、構成員が常に慎重な行動を心掛けるように注意を払っているのである。

 

 他にも長い月日の中で変わったことはたくさんあった。

 ロアナの護衛を務めていた剣士の少年ソルドはあれから騎士となり、現在は近衛騎士まで成り上がった。

 その強さには磨きがかかり、現在では帝国最強の騎士とまで呼ばれるようになっている。

 普段のへらへらした態度はなりを潜め、周囲からは騎士の鑑とまで評されるようになった。

 すっかり騎士らしき成長したと思えば、中身はまるっきり変わっていない。

 暇を見つけては新作スイーツを作り、レグルス大公の執務室へと突撃してくる始末。レグルス大公は呆れ顔だったが、その表情はどこか楽しげにも見受けられた。

 

「はぁ……スイーツが食べたい」

 

 そして、クレアもソルドの新作スイーツを楽しみに待っていたりする。

 見たことも聞いたこともないスイーツ。それは過酷な人生を送ってきたクレアにとっては一時の安らぎを与えてくれるものだった。

 

「次はクッキー? いえ、ソルド様の性格からしてケーキの類でしょうか……」

 

 朝の洗濯を終え、帝国城内を歩くクレアの頭はスイーツのことでいっぱいだった。もはやここまで来ると甘味中毒である。

 

「うわわっ! 避けてくださいッス!」

 

 突如聞こえてきた声に、思考の海から浮上する。

 優れた聴覚がどこから誰に向かって告げられた声かを判断した。

 

「……っと」

 

 洗濯物を抱えて飛び退くと、そこには特殊な形状をした剣らしき刃物が飛んできた。

 

「メイドさん、申し訳ないッス! お怪我はなかったッスか?」

「ええ。大丈、夫……?」

 

 謝罪の声ににこやかに対応しようとしたクレアの表情が固まった。

 そこにいたのが鳥の獣人女性だったからだ。

 

「ど、どうしたッスか! やっぱり怪我を……」

 

 バタバタと翼をはためかせて慌てる女性の見た目は鶏の特徴が見受けらる。

 赤い鶏冠に黄色い嘴、そして真っ白な羽毛。

 鳥の獣人の中でも珍しい〝飛べない獣人〟。

 その存在こそ知っていたものの、まさか刀剣の類いを扱うとは思っていなかったのだ。

 

「大丈夫です。少々驚いてしまっただけですので」

「良かったッス……うぅ、驚かせてしまって申し訳ないッス」

 

 鶏冠をしゅんと垂れさせて鶏の獣人女性は落ち込んでいた。

 

「あの、鳥の獣人は刀剣の類いは扱わないと聞いたのですが」

 

 軍部からの情報にもなかったこと。

 それを目の前にして何も聞かないという選択肢はクレアにはなかった。

 クレアに尋ねられた鶏の獣人女性は自嘲するような笑みを浮かべて告げる。

 

「自分は飛べないッスからね。地上で戦うことも考慮してソルド先輩から剣術も習ってみたッス」

「……なるほど、ソルド様の後輩の方でしたか」

「先輩を知ってるッスか!?」

「ええ。彼が騎士団に入る前からの顔見知りです」

 

 ソルドの知り合いとなれば悪人ではないだろう。

 そう結論づけたあと、クレアは内心自嘲する。

 知り合い筆頭の自分が悪人なのに、何を言っているんだか。

 

「あっ、申し遅れたッス。アチキは獣人兵団護衛部隊隊長トリス・タンドリーッス」

「獣人官僚レグルス大公閣下が侍女、クレアと申します」

「クレアさんッスね。よろチキッス!」

「よ、よろチキッス?」

 

 トリスの独特な雰囲気に困惑しつつも、彼女の特徴を改めて観察する。

 明るく人懐っこい雰囲気とは対照的に、羽毛の下は鳥の獣人らしく筋肉の塊。重心もブレず隙だらけのようでまるで隙がない。

 一部隊の隊長を務めるだけの実力があることは確かだった。

 

「では、私は業務がありますので」

 

 ちょうど、護衛部隊には潜入したばかりの弟もいる。

 何かあれば彼に探らせればいい。

 

 そう結論づけたクレアはトリスに別れを告げたのであった。

 

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