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一機の鳥が、雲を突き抜けて空を裂く。
鋭い顔と流線的な体を持った機械の鳥は、まさしく人類の手によって造られた鋼鉄の猛禽類。人が空を翔ぶ力、遥かなる空をその目に写せるという、技術と努力の結晶だ。
だが同時に、敵を殺す為に造られた兵器でもあった。
戦闘機。文字通り、戦闘する航空機。載せる兵装によっては艦船はおろか国すら破壊する事が出来る代物こそが、コレなのだ。
知らずして知り、最初に強く感じるのは憧れだ。その造形と強さに恍惚とし、格好良いと思う者は決して少なくはないだろう。
だが、実際にその戦闘を目の当たりにして。機関砲とミサイルという二つの武器によって命が散る瞬間を、或いは都市が追い詰められる瞬間を目の当たりにしたのなら。
そこに残るのは憧れでも格好良さでもなく、鮮烈なる恐怖こそが深く刻み込まれる事だろう。
今、この戦闘機に乗って空を駆け抜けるパイロットは、現在進行系で―――その恐怖を
《こちらシュヴェルト1。カッツェ、さっきまでの勢いはどうした? ケツを取られてるぞ、さっさと動け》
《出来たら苦労してないんだけど!? こっちがケツを捉えてもすぐ取り返すのはそっちじゃん!》
《当たり前だろ、ドッグファイトなんだから。ケツを取った奴が勝つとは言うが、取られたら意地でも取り返すまでだ。というか、IS乗ってるんだからそれくらい楽勝だろ》
IS。そう呼ばれる機械が造られて、もう何年もの時が過ぎた。
IS―――Infinite Stratos。翻訳するなら、『無限の成層圏』。人類最高の天才、或いは天災科学者とも称される女性「
彼女の夢が詰まったそれは、しかし彼女自身が引き起こした事件の所為で彼女の思惑とは裏腹に兵器として利用される事となり、遂には世界の抑止力がISへと移り変わった。
さらに困った事に、原因は不明だがISは女性にしか運用する事が出来ず、それのお陰で女尊男卑が大幅に進行してしまったのである。
今、シュヴェルト1というコードネームを持つ戦闘機乗りに追い掛けられている少女もまた、そのISに搭乗しているのだが……。
現代の軍事兵器よりも圧倒的な性能を誇っている筈のISは、しかしどういう訳か性能では完全に劣っている筈の戦闘機に攻められていた。
《楽勝じゃないからこうして逃げてるのッ! 何なの!? ケツを取ったと思ったら最初から分かってたみたいに変態機動繰り返して!》
《動きが単調なんだよ。喋る暇も与えてやってるんだ、ほらもっと速く逃げろ。でなきゃ盾が減る一方だぞ》
引き金を引く様に赤色のボタンを押せば、戦闘機の側面に備えられた機関砲から、慈悲なき鉄火が連続で発射される。
猟犬から逃げ惑う様に、上下左右へとひたすら必死に飛び回る少女。
だが、どれだけ上に下に逃げようが、フェイントを掛けようが、それら全てを分かっていたかの様に、ロールとピッチ操作を用いて彼女の軌道へと弾を送り続ける。
被弾、被弾、被弾。放たれる弾丸の全てが彼女のISに被弾し、彼女自身を護る為の盾が剥がれていく。
ISにはシールドバリアーと呼ばれる、操縦者を守る為の不可視のシールドが張り巡らせているが、それは決して無敵ではない。
攻撃を受ける度にシールドエネルギーは減少し、これが切れてしまえば遂には機体はその機能を完全に停止するのだ。
《このままじゃエネルギーが…! なら、せめて相討ちに持っていく!》
逃げる事は不可能。そう判断した少女は、遂に逃げる事を止めて戦闘機の方へと向き直った。
右目に握るビーム兵器であるライフルを構え、真正面から飛翔してくる戦闘機の顔面を捉える。
引き金を引けば、確実に男は死ぬだろう―――だが、そうなる事に恐れはない。罪悪感もない。
何故なら、実際にビームが出る訳ではないからだ。こうして構えて、正確にロックすればブザーがなるだけ。そうするだけで、彼女は勝てる。
が、しかし。
《甘い》
男は冷酷に、ただ一言それだを吐き捨てる。
操縦レバーを強く引き、ハイG機動へと移して機体を360度回転させ、ロックを外す。掻い摘んで言えば、素早い機動でバレルロールを行って、ライフルの標準から自身を外したのだ。
そして、男は撃鉄を起こす様にボタンを押し、少女へと容赦なくミサイルを解き放ったのだった。
《シュヴェルト1、敵機撃墜》
《カッツェ、スプラッシュ……もおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッッッッ!!!!!!!!!! なんでIS乗りのあたしがただの戦闘機乗りに勝てないの!?》
《そりゃお前が弱いからだろ》
《弱くないもん! あたしエリートなんだけど!?》
《お前がエリートか。軍も随分と小さくなったもんだ》
《違うもん! おじさんが変態なだけだもん!》
《その言い方止めろよ、誤解を招く》
エネルギーが切れ、機能が完全に停止したISと
共に、少女は地上へと急速に落下していきながら恨み言を吐き捨てる。
敗けて尚も自信を失わない辺り、どれだけ墜ちても自信持ってんのスゲーな、と男は思いながら機体を右方向へと旋回し、帰路を渡る。
《こちらシュヴェルト1。AWACSツァーンラート、聴こえるか?》
《こちらツァーンラート、ちゃんと聴こえているぞ。カッツェ、またゼラフに墜とされたな? これで20回目だ》
高性能レーダーを搭載した大型航空機―――早期警戒管制機AWACS。名をツァーンラートと言う。
通信の正常動作を確認し、ツァーンラートは小馬鹿にする様に基地の近くの海上へと落下したカッツェへと話し掛けた。
《うるさい! さっさと救援求む!》
《了解。救援要請を送っておく、帰ったら特製の焼き菓子が待ってるぞ》
《ほんと!? あたし、ツァーンラートのお菓子大好き!》
《そういう所がガキなんだよ。
《あたしまだ子供だもーん。そういうおじさんだって食べてる癖に》
《美味いからな。食べ物に罪はない。シュヴェルト1、これより帰投する。ツァーンラート、明日は休暇だろ? 今日は飲もう、飯は頼む》
《相変わらずの食い意地だな。了解、カッツェの撃墜回数20回達成の記念だ、豪勢に作ってやる》
《あたしも! あたしも食べたーい!》
《そういう言うと思ったぜ、どうだ?》
《ふっ、勿論だ。腹いっぱい食べていけ》
その日の夜、ツァーンラートの家には25歳の軍人と17歳の軍人が寝泊まりする事となるのだった。
シュヴェルト1(エースパイロット)
ドイツ空軍第666航空部隊、対IS戦闘飛行隊シュヴェルト隊の隊長機。雲を裂く日本刀のエンブレムが特徴。
若くしてパイロットとして活躍し、とある紛争にて戦闘機一機でISを三機を撃墜するという偉業を成し遂げた男。
カッツェ(メスガキの様なエリート)
ドイツ空軍第4期IS特殊部隊所属のエリート。14という年齢でISの操作で才能を見出し、軍からスカウトされた経歴を持つ。シュヴェルト1とは年上の幼馴染の間柄であり、ISに乗れない彼を煽ったら
ツァーンラート(AWACS)
シュヴェルト隊のAWACS。シュヴェルト1が隊に就いた時からの友人であり戦友。カッツェが懐いている数少ない人物の一人。料理が上手い。