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「この大馬鹿野郎ッ!」
普段は閑静とは程遠い喧騒たる空軍基地。司令室は、その中で唯一として閑静かつ慇懃とした雰囲気が漂う場所である。
だが、今この時となってはそれも完全に崩壊している。空軍基地の司令官を務める、普段は粛然厳かな雰囲気を身に纏う男性軍人の怒号が司令室に迸る。
何時もの粛然厳かたる雰囲気は何処へやら、憤りを包み隠さず顔と語気に表していた。
「演習で殲滅作戦同然の作戦を実行する馬鹿が何処に居る!? 貴様の行動力は0か100しか存在せんのかッ!」
「別にー? 俺は至極真面目に演習に挑んだだけですし。後はまぁ、上がISさえあれば他のは要らないみたいな馬鹿げた事を言った八つ当たりというか」
「後も何も、それが理由だろうが! いいか!? 彼女達はドイツ軍における重要な戦力だ! それを演習で、しかも入念に計画された作戦で八つ当たり目的で瀕死寸前に追い込むなど、軍法会議に掛けられても文句は言えんぞ!」
「重要な戦力ねぇ…はー、悲しい悲しい。あんな小型の宇宙船に戦艦の兵装を無理矢理くっつけたみたいな道具が軍の最高兵器とは。ヴェルトライゼ、アンタは何も思わないのか?」
ヴェルトライゼと呼ばれた男は、遠慮無しにソファに腰掛けるシュヴェルト1の言葉に、憤りを収めて苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
ヴェルトライゼというのは男の本名ではなく、TACネームである。まだ彼が隊長と呼ばれていた頃―――要するに、シュヴェルト1がシュヴェルト1ではなく、空軍に属するだけの一パイロットであった時の隊長が彼なのだ。
バルトルト・アーベントロート准将。この空軍基地の現司令官であり、かつてはエルフ隊の隊長として活躍し、シュヴェルト1にパイロットとしての様々な知識と技術を授けた師の様な人物である。
「…思う事がない訳じゃない。だが、私情を持ち込む訳にはいかんのだ。お前も良い歳だろう、大佐としての自覚を持て」
「自覚は既にある。だからこそ気に食わないんだよ、オヤジ。俺はさ、IS自体に文句はねぇんだよ。あれは良いもんだ、それこそ国際宇宙ステーションにでも実用アピールしてれば宇宙への進歩は数十年早まっただろうよ。ただ、ISが兵器として気に入られて扱われてる事が気に入らねぇんだよ」
うんざりする様に、大きなため息が吐き出される。
シュヴェルト1は兵器としてのISに良い感情を持たないが、宇宙船としてのISには好印象を抱いている。
それこそがIS本来の在り方であり、今の兵器としての在り方が決して間違っているとは言わないが、しかし造った本人からしてみれば堪ったものではないだろう。
シュヴェルト1にとって、兵器としてのISは欠陥品だ。男女無関係に搭乗する事が出来る艦船や戦闘機などとは違って女性だけしか乗れず、その所為で社会的な差別を生み出して軍にすら格差を作り出している。
軍としてのバランスすらも崩す代物を、果たして戦力として重要な兵器と断言して良いものだろうか? シュヴェルト1は、そう疑問を抱かずにはいられないのだ。
「たかが少し動かせるだけで、子供が戦場に駆り出される。巫山戯てんなよ、俺達が何の為に戦争屋やってると思ってんだ? そういうのとは無関係な奴らに戦争を味合わせない為に、くだらねぇ政治とか支配とか知らずに平和に生きてる奴らを巻き込まない為に、俺達は戦闘機に乗って艦船に乗って必死こいて戦って、死人を出しながらやってきたんだろうが」
「シュヴェルト…」
「カッツェもそうだ。何がISに乗れないなんて可哀想、ざーこだよ。可哀想なのはテメェの方だろうが。名誉でも何でもねぇ―――テメェの歳で戦場に駆り出されるなんざ、ただ可哀想なだけだっての」
カッツェとシュヴェルト1は幼馴染。幼い頃から互いの事を知っている間柄だ。だからこそ、シュヴェルト1が彼女に抱く感情は複雑なものだ。
あの舐め切った態度も、軍人としての振る舞いも。最初はともかく、軍人としての振る舞いは本来の彼女には必要のなかった事だ。本当ならば今頃は学校を終えて、家に帰るか友人と遊んでいる筈だったのだ。
それが、ISを上手く扱えるというだけの理由で軍にスカウトされて、今の様な有り様だ。学生としての面影はなく、あの舐め切った態度すら不安を隠す為のものだと感じてしまう。
「…お前の気持ちは分かる。だが、それでもお前はやり過ぎたんだ。隊の責任を負い、暫くの間お前は謹慎だ。謹慎解除が言い渡されるまで、自室で待機しろ。頭を冷やせ」
「既に冷え切ってるよ、ぞっとするくらいに。大人しく本でも読んでおく事にするさ、くそったれ」
悪態をつきながらも、シュヴェルト1は静かに退室した。
はぁ…と、重たいため息と共にバルトルトは椅子へと重たくなった腰を降ろし、頭を抱える。
「まったく…本当に面倒なものを創ってくれたものだな、篠ノ之束」
不必要な憐れみと捨てきれない憎しみに挟まれて、一人の大人は天災に吐き捨てた。
司令室を退室したシュヴェルト1は、そのまま何処へ寄るでもなく真っ直ぐに自室へ戻り、ベッドに横たわって退屈を紛らわせていた。
気分は最悪だ。彼自身には罪悪感など欠片もなく、申し訳なさも皆無だ。だが、戦闘機乗りである彼にとって空を飛べない事は苦痛に等しかった。
「はー、面倒くせ。だがまぁ、軍法会議に掛けられなかっただけマシって感じかね」
やった事がやった事なだけに、謹慎の時間は確実に長いだろう。それはもう鬱陶しく思わずにはいられない程に。
傍からすれば、自業自得以外の何ものでもないのだ。軍法会議に掛けられていないのがせめてもの救いというものだろう。
だが、反省するつもりなど欠片も彼にはないのだが。
「見りゃすぐ分かる。ラウラ・ボーディヴィッヒ…アイツも子供だった。カッツェの2、3上って所だろうが、どっちにしろ戦争に参加する歳じゃねぇだろ」
子供が戦争に参加する。それは彼だけに限らず、殆どの軍人が思っている事の筈だ。
彼ら軍人は国を護る為に、そして平和の為に、苦痛を伴う厳しい訓練を行い、耐え続け、武器を取って戦場へと駆り出される。
誰かがやらなけらば、攻められる。
誰かが戦わねば、奪われる。
誰かが護らねば、壊される。
命を掛けなければならない世界。誰かを殺さねば、何かを壊さねば生きていけない場所。そんな場所は、子供が行く様な場所ではないのだ。
戦場に行かなければならない環境だったのか。それとも戦場に駆り出される場所に産まれたのか。どちらかは分からないし、もしかすれば自分の意思でそれを選んだのかもしれない。
だが、彼からすればそのどちらであろうとも、ISという道具が兵器となった所為で、その道を選ぶ子供が多くなったという見方は変わらない。
「大人になり切れなかった子供か。はっ、俺が言えた義理でもねぇな」
嘲笑い、虐げて―――ガチャッ! と、勢いよく扉が開かれた。
「ぷっはははははは!!!!!! お〜じ〜さ〜ん? 謹慎になったんでしょ? なっちゃったんでしょ?」
「はぁぁぁぁ………本っ当に、面倒くさ」
エリート系メスガキ、カッツェちゃんの登場である。
軍人らしく軍服ではなく、白いノースリーブのトップスの上に、シュヴェルト1の御下がりの黒いパーカー、ホットパンツを履いた完全に部屋着といった格好である。
けらけらと、包み隠さず馬鹿にする様に笑いながら彼女は襲来したのだ。
「お前さぁ、暇なの? 一応そんなんでもIS部隊の隊長だよな、雑務とかない訳?」
「そういうの面倒くさいからしてないもん。全部部下の皆に任せてるから、あたしは楽してるの」
「……お前、マジで隊長向いてねぇよな」
「はぁ? おじさんには言われたくない……え、なんで笑ってるの? 気持ち悪。もしかして変態? あ、それは元々か」
「うるせぇよ変態でもねぇよ。…そういや飯食ってねぇな、俺」
ふと思い出して、腹の虫が大きな声を上げる。
演習に赴く前から何も食べていなかった胃袋は、早く何か食べたくて仕方ないらしい。
「っと。よし、飯食うか」
「あれれー? おじさん、外出しちゃって良いのかな? 謹慎言い渡されてるんだよ?」
「俺が謹慎言い渡されて素直に従うと思うか?」
「ぜんっぜん! ね、内緒にしてあげるから奢ってよ」
「奢り程度にいちいち脅しつけてくんなよ。言わずとも奢ってやる気分だったっての。デザート付きでな」
「え、いいの!? 本当にどしたのおじさん、どういう風の吹き回し?」
「別に。クソガキがクソガキのままで安心したってだけだ」
「はぁ!? どういうことっ、ちょ、がさつに頭撫でんな! もっと丁寧にやってよ!」
ベッドから起き上がり、扉の前に立つカッツェのプラチナブロンドの短髪をわしゃわしゃと乱雑に撫でれば、苦情が言い渡される。嫌がる彼女の顔の奥には、どこかそれを懐かしむ様な感慨深さが隠れていた。
謹慎処分の命令に背いて、シュヴェルト1はカッツェを連れて基地の外にあるレストランと向かうのだった。
「そういやお前、久々に“にぃ”呼びしたよな。何時ぶりだ、あれ?」
「は、聞こえてたの!? うわっ、キモ!」
「なんで俺がキモい呼ばわりされなきゃならねぇんだよ」
シュヴェルト1(お兄ちゃん)
謹慎処分を言い渡され、数分経ってから堂々と破って幼馴染と一緒に基地の近くに出来た日本製の某ファミリーレストランへと食事を取りに行った大馬鹿野郎。反省も後悔もしていない。ISの事は兵器ではなく便利な宇宙船みたいに思っている。
主に食べるのはカルボナーラ、もしくはチキンドリア。
カッツェ(エリート系メスガキ)
IS部隊の隊長を務めるエリートだけど幼馴染の前では生意気になる14歳。肉体的な成長はあまりしてないが壁ではない。愛用しているパーカーは幼馴染が高校時代の頃の御下がり。
主に食べるのはチキンドリア、アイス付きフレンチトースト。