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雲入り乱れる事のない、清々しい青が澄み渡る空の下にはドイツ空軍の第666航空基地が雄々しく地に足を付けて、堂々と漲る自信を隠すことなく胸を張っている。
基地は閑静とは程遠い。寧ろ、どちらかと言えば騒々しいの部類に当てはまるだろう。
戦闘機に乗って空を駆け、その度に重力という憎たらしい錘を枷として繋げられる彼らは、それに耐える為に今日も体と心を鍛えている―――その筈だった。
何も変わらない、当たり前の日々はしかし突如として終わりを告げた。
「ハンガーにミサイル直撃! 右滑走路の被害も甚大です!」
「何処からだ! 何処から撃たれた! レーダーに反応はないのか!?」
「戦闘機に火が移るぞ! 消火急げ、早く!」
びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
鳴り響く警報。澄み渡る青空の下を、黒い煙と火が泳ぎ回っている。
誰がどう言うまでもなく、今の基地の状況はまさしく混乱そのものだ。突如の襲撃によって、戦闘機が収納されているハンガーの大半が爆撃されて使い物にならない。
戦闘機が飛び上がる為の滑走路も、半分が爆撃によって道を塞がれている。
限りなく最悪に近い状況だ。
「慌てるな!」
だが、基地司令官はそんな状況にも関わらず冷静さを欠いてはいなかった。
彼の一言が、慌しかった空間が一気に静まった。
的確かつ迅速に、司令官は指示を言い渡す。
「レーダーの反応は?」
「確認出来る限り、爆撃機4機と護衛機が5機。護衛機の内の二機はISだと思われます」
「なら
「了解です!」
「彼女達に先陣を切らせた後、整備員は消火活動に尽力する様に連絡しろ。シュヴェルト1を含め、シュヴェルト隊を発進させろ。彼女達だけでは手数が足りん」
「は。しかし、シュヴェルト1の謹慎処分はまだ解けていませんが、よろしいのですか?」
「構わん。今は謹慎だの言っている場合ではない。スクランブルだ、直ちに出撃させろ」
英雄は、懐かしき戦場へと飛び立つ。
ハンガーの外では黒煙が上がり、警報が鳴り続いている。これがある意味で初の戦場となるシュプリンガー隊は隊長であるカッツェを除いて大半が緊張し、僅かな恐怖を抱いていた。
しかし、僚機となるシュヴェルト1を含めたシュヴェルト隊の面々は誰一人として緊張も臆する事もなく、それが彼らが歴戦である事を彼女達に知らしめる。
「スクランブルなんて今どき珍しいな。戦争もしてないってのに」
「戦争が始まる合図かもしれないぞ。最近じゃISを使ったテロも報告されてる、しかも表沙汰に出来ないものもある」
「あったな、そんなの。確か
「もしかすれば、この襲撃も奴らのものかもしれない訳だ」
「面倒くさい事しやがって。だが、今回は俺達あまり出番なさそうだな。なぁ、カッツェ!」
シュヴェルト隊の3番機が、黙々とISの兵装の調子を確かめているカッツェへと声を掛ける。
緊張もせず、ただ静かに仕事をこなすその姿にはいつもの子供っぽさは欠片もなく、生意気な雰囲気も存在していない。
カッツェは振り向く事もせず、静かにこう返した。
「残念ながら楽させるつもりはありませんよ、アイファー」
「お、言うじゃねぇか。先輩に花を持たせてくれるのか?」
「
これくらい生意気な方が接しやすい、そんな理由でカッツェの生意気を許し続けている懐の深い男だ。
男女関係なく態度を崩さない気さくな性格から、皆に慕われるシュヴェルト隊のムードメーカーを務めているだけはある。
「えぇ、シュヴェルト隊がシュヴェルト1によるワンマンチームではないと証明する為に、ISと戦ってください」
「うえー、マジかよ。奇襲ならともかく、ドッグファイトでISに勝てる自信ねぇぞ」
「じゃあ死ぬしかないですね。良かったですね、二階級特進で中佐になれますよ」
「じゃあ、墓にはツァーンラートの特製パイでも詰めといてくれよ。地獄に居る親父の顔面にぶん投げてやる」
「なら、アイファーには私のパイを投げてやりましょうか」
ニヤリと、悪い笑みを浮かべて振り返る。
ここだけの話し、彼女カッツェは料理こそ出来るが、スイーツだけは作れないという謎の欠点が存在しているのだ。
昔から彼女のスイーツ作りの酷さを知っているシュヴェルト1曰く、『ダンプフヌーデルを作るつもりが泥団子の出来上がり』らしい。
ちなみにダンプフヌーデルとは、ヘーフェクレーセとも呼ばれるバイエルン地方などの伝統的なデザートの事である。
そんな彼女が自ら手掛けるパイを投げてやろうと本人から言われたアイファーは、気不味そうに目を背けた。
「あー…悪いな、カッツェ。俺は生憎とロリータじゃなくてな、そういうのは隊長にやってくれ」
「誰も胸の話なんかしていませんが!? 貴方のデリカシーの無さは本当に有り得ませんね! あと、何故彼が出てくるんですか!? シュヴェルト1は関係ありません!」
「分かった、分かったから! 悪かったよ! だからIS展開してこっちに来るんじゃねぇ!? ほんっとにおっかねぇな、お前!」
「自業自得でしょう!?」
ぎゃーぎゃーわーわーと騒ぎ立てるハンガーでは、戦闘前だというのに重苦しい雰囲気は完全に霧散して消えていた。
またやってるぞ、と楽しげにする者。
落ち着いてください、と宥める者。
まるで、軽い争いが起きたクラスの中の様な、そんな居心地の良い空気が満ちていた。
これから、彼ら彼女らは―――死地へ赴くというにも関わらず。
だが、此処に居る全員は一人の漏れなく軍人である。
故に―――そうすべき時と改める時は即座に切り替える。
「全員、傾聴」
静かに、しかし芯の通った低く大きな声で短い言葉が澄んでいく。その瞬間、和やかな雰囲気ががらりと変わる。
全員が姿勢を正し、真っ直ぐとして声の主―――シュヴェルト1の方へと向き直る。
「諸君らはこれより戦場へ赴く。特にシュプリンガー隊、君達にとっては初陣になる。この初陣で活躍すれば、君達は軍からもメディアからも一身に注目を受ける事となるだろう。だが、戦場に名誉を考える暇など存在しない。我々が飛ぶのは醜く汚い、ただの殺し合いの場所だ」
IS部隊として初めての戦場。大きな戦果を残す事が出来れば、世界に注目される事になるのだろう。
だが、シュヴェルト1はそれを否定する。スコアを稼ぐ、エースになる、そんな目標を掲げている暇なんて戦場には存在しないのだと。
生きる事に必死で、殺す事に夢中になる。そんな場所こそが戦場であり、戦場とはそんな場所でしかない。
考えるべきはただ一つ―――生き残る事。死ねば、名誉や称賛が与えられても意味も価値もないのだと。
「名誉も称賛も全て置いていけ―――並みの言葉でしかないが、生き残る事こそが何よりの名誉であり称賛だ。どんな手を使ってでも、這いつくばっても、醜くなってでも此処に帰って来い。俺の驕りでホフブロイハウスに連れて行ってやる。
翔んで行くぞ、あの空まで」
諸君、分かっているとは思うが緊急事態だ。それもかなりの大事だ。
現在、我が基地は何者かの襲撃を受けている。爆撃によってハンガーをやられ、右側の滑走路もボロボロで、戦闘機の殆どが使い物にならなくなってしまった。
だが、シュヴェルト隊の戦闘機を収納しているハンガーはかろうじて生き残り、左側の滑走路もまだ無事だ。つまり、まだ反撃出来る力は残っているという事だ。
シュプリンガー隊が先陣を切り、航空優勢を確保。彼女達が敵機の気を引く間に、シュヴェルト隊を発進させる。
全員、気を引き締めて掛かれ。生き残れよ。