もしもキュアプリズムがプリズムシャインを会得できなかったら?   作:ayano27

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時系列はちょうど43話


本編
プロローグ『救われた落ち葉と救えない覚悟』


-----side ましろ

 

 

 楽しいだけじゃなく、苦しんでいる人を元気づけるような、そんな絵本を描きたいと思ってた。あの時、落ち葉を見て辛そうにしていた紋田さんのような人を救いたかった。きっとこれが私にできること、私にしかできないこと。そう考えていた。

 私の魅力って何だろう。それは誰にも負けない優しさだと誰かは言う。

 なら優しさってなんだろう。それはきっと、誰かの幸せを願うこと、誰かの笑顔を守ること。優しい人っていうのはきっと、そのために尽力できる人のこと。自分には何にもないって思ってた私にあると教えてもらったそれは、いつしか私の心の繋ぎになっていた。

 私には優しさがあって、私は私のままでよくて、もし私から優しさがなくなってしまったら? 私は私でなくなってしまうのだろうか。そんなことを考えてしまう。だから私は、他人の幸せを願うことをやめてはいけない。

 いつからだろう。そんなことを考えるようになったのは。きっとそれが私を、私の物語を歪ませていったに違いないと、私は後になって気づくことになる。

 

 

-----

 

 

 ミラージュペンを取り戻してくれたバッタモンダー。その時見せてくれた彼の顔を私は生涯忘れることができないかもしれない。アンダーグ帝国の元で歪められた価値観によって突き動かされた彼の最後の本音を、正気を失う直前に見せてくれたバッタモンダーの本当の心を、私は胸に刻みつける。彼が私に託したものを、ミラージュペンを、心のバトンを掲げて、私は覚悟を決め、それを口にした。

 

「必ず助ける!!」

 

 プリキュアに変身して戦いに身を投じる。倒すためじゃない、救うための戦い。

 私もみんなも、一生懸命に立ち向かった。

 

「ウガアアアアアアアア!!!!」

 

 一人一人と倒される。怪我を負い、地に臥す仲間たちの姿を見て私は歯噛みする。

 バッタモンダーを助けないといけないのに、このままではみんなが……。それは焦りと言ってもいい。それが私に声を張り上げさせた。

 

「バッタモンダー!!」

 

 反応はなかった。凶暴な唸り声を上げるだけで、呼びかけは無駄に終わる。

 

「お前も諦めが悪いようだ。弱いものが足掻き続ける様は目障りだな」

 

 代わりにスキアヘッドがそう答える。強いとか弱いとか。相も変わらず強弱概念を押し付けてくるその発言に私は苛立ちを隠せず、更に声を張りあげる。

 

「貴方の評価なんかどうでもいい! バッタモンダーを助けるって覚悟は決めたから。私は絶対に諦めない!!」

 

 この言葉がトリガーとなったのか、バッタモンダーの胸に緑色の光が灯る。私も、上体を起こし不安そうに見守ってくれているみんなも、敵であるスキアヘッドも、そして心を失い暴走しているバッタモンダー自身も、みんな驚いていた。言葉が届いた、心が通じたと素直に感じた。私の、私たちの頑張りは無駄じゃなかったのだと。

 暴走する身体とそれを抑えようとする心の輝き。相反するそれに身体が拒否反応を示すように、手で押さえ込もうとする。緑色の光が小さくなっていくのを感じた。

 

「お願い、消えないで!」

 

 心からの叫び。願いを向けた。しかし、それじゃあダメだとすぐに思い直す。想いだけで人は救えない。だから、私が……。

 私は両の手を前に出す。

 

「ううん、私が……」

 

 両手の前に光が集まる。

 

「照らし出してみせる!!」

 

 そのまま両手を天に掲げた。

 光はなおも集まり、大きく誇大化し、輝きを放つ。

 しかし、バッタモンダーを照らせる出力が出たかと思ったその直後、途端に集まった光が霧散し、輝きを失った。

 

「!?」

 

「フン……」

 

 驚く私に鼻を鳴らすスキアヘッド。

 未だ起き上がれない仲間たちも、驚きの表情を隠せず、万事休すかとガタのくる身体に鞭を打ち、次々に立ちあがろうとする。もう、倒すしかないと。

 バッタモンダーの心の輝きはなおも小さく萎んでいく。

 私は掲げた両の手が震えることも構わず、次の手を打った。

 

「まだだよ!!」

 

 地を蹴り、バッタモンダーに肉薄する。苦しむ彼のその胸に両手を重ねるようにして当てて。

 私は深呼吸し、本当の覚悟を決めた。

 

「今助ける!」

 

 私は彼の身体から、アンダーグエナジーを吸い出した。

 彼の胸から、私の指に、指から手首に、手首から腕に。ドス黒い暗黒の輝きを秘めたそれを、私は自分の身体に仕舞い込むように、彼の身体から抽出し、浄化を試みる。

 

「プリズム!」

「そんなことをしたら!」

「やめて、プリズム! ましろん!!」

「まだ他に方法があるはずよ!!」

 

 スカイ、ウィング、バタフライ、マジェスティ。みんなが心配してくれている。

 でも大丈夫、私なら大丈夫だから。そう返すつもりだった。そのはずだったのに……。

 

「ひっ!?」

 

 考えが甘かったと言えばその通りだろう。

 私は恐怖した。そのエネルギーの冷たさ。まるで邪悪な意思をもった思念体のようなそれが身体に入ってくるその感覚に、恐怖する心を抑えることができないでいた。

 この世と思えないナニカに身も心も凌辱されるようなその薄寒い感覚に、鳥肌がたつ、震えが止まらない、涙が滲む。

 思わず抽出する手が止まりそうになった。いや、それどころか手を離しそうになった。

 それを踏みとどまれたのは、なんの力なのか。だとしてもこれでは……。

 覚悟とはなんだったんだ。必ず助けるとはなんだったんだ。浄化の光が使えない自分にできることとはなんだ。ここで身を引いて、自分は自分でいられるのか。明日みんなと笑って生きていけるというのか。

 震える手をそのままに、私は勇気を振り絞ってアンダーグエナジーの抽出を再開する。

 

「うう、うううううぅ……!!!」

 

「ほう、これは……」

 

 スキアヘッドはそんな私を興味深そうに観察する。何かそんなに興味を引くのかは知らないが、あんなののことなんてどうでもいい。今は全力で、バッタモンダーを……!

 

「ウガアアアアァ……!!」

 

「ううううぁ……!!」

 

 アンダーグエナジーが私の肩まで侵食してきたその時。私の視界は暗転した。

 

 

-----

 

 

 誰もいない。さっきまで一緒に戦っていたスカイも、ウィングも、バタフライも、マジェスティも、スキアヘッドも。

 いや、前に誰かいる。このアンダーグエナジーの海の中、蹲って苦しんでいる一枚の落ち葉。バッタモンダーの姿が見えていた。

 足元は真っ黒で、それはアンダーグエナジーの海なのだと直感で理解できた。足首から下はその海に浸っており、そこからは先ほど感じたような悍ましい感覚が感じられる。

 誰に説明されるでもなく分かった。ここはきっと彼の心の中そのもので、ここに充満するアンダーグエナジーこそが、バッタモンダーを飲み込んだアンダーグエナジーそのものなのだと。これを全て取り除くことができたなら、きっとバッタモンダーを……。

 

 さあ、続きだ。私の覚悟の続きを。

 足首から登ってくるアンダーグエナジー。そのアンダーグエナジーの海を、全て吸い取って、どれだけ時間がかかってでも、きっと浄化しきってみせる。

 

「うっ……くっ……」

 

 膝を伝い、太ももまで登ってくるアンダーグエナジーの感覚に、私は立っていられなくなり、座をつく。その姿勢すら保てなくなり、今度は両手をついてしまう。

 

「負けないよ……! 帰ってきて、バッタモンダー」

 

 両手からも同時にアンダーグエナジー吸収を試みる。両手両足から迫り来る悪寒に怯える心を隠しきれず。それでもと震える身体を押さえるように、勇気を振り絞り続けた。

 気にする余裕もなかったが、呻き声が漏れていたのか否か。この時の私はきっと、相当みっともない姿だったのだろうと後になってから思う。だとしても、みてくれなんて気にしてはいられない。なぜなら、必ず助けると覚悟を決めたのだから。

 

「もういいんだ」

 

 ふと声がした。

 それは紛れもないバッタモンダーの声。ああ、意識があるんじゃないか。そう思いかけ、顔を上げようかと一瞬迷ったが、私は構わず俯いたまま手を進めた。

 

「何が……もういいの……まだまだかかりそうだよ……もうちょっと我慢して……」

 

 意地になってたのだろうか。私は手を止めないし、相手の話を聞きもしない、相手の顔も見ようとはしなかった。

 

「お前さ、頑張りすぎ。見てらんないって」

 

「誰のために……頑張ってると思ってるの……」

 

「ああ、悪かった。でもさ、お前の気持ち、十分伝わったから、もういいんだ」

 

 我慢できなかった。思わず顔を上げる。そこには、跪きながらも、こちらを見て笑っているバッタモンダーの姿があった。その顔は紛れもなく、あの時の、ミラージュペンを取り返してくれた時と同じ顔で……。

 

「どういう意味かなぁ……安心して……必ず助けるって……覚悟を決めたから……」

 

 顔を上げたことをすぐに後悔した。焦燥感に襲われる。涙が止まらない。ここで手を引いてしまえば、私は私でいられなくなる。そんな気がして。だというのに……。

 

「え……」

 

 ふと気づくと吸収しているはずのアンダーグエナジーが少しずつ私の身体から出ていっていることに気がつく。なんで、どうして、そう思って前を見ると、そこには掌をこちらに向けたバッタモンダーの姿があった。アンダーグエナジーが私の身体から染み出すように抜けていって、彼の掌に吸収されていた。

 

「ちょっと待って。なんでそんな……」

 

「強さが全て、それが俺の価値観だった。その価値観に俺はずっと苦しまされてきた。そんな価値観を変えてくれたのは、俺を救ってくれたのは、お前だ。虹ヶ丘ましろ」

 

「なに……いってるの……」

 

 救われた。誰が、誰に? まだ何もしてない、できてない、貴方を救うのはこれからだというのに。

 

「ありがとう」

 

 私の身体からアンダーグエナジーが無くなるとともに、私は空中に浮き始めた。徐々に高く浮き上がり、視界にはアンダーグエナジーの海に沈むバッタモンダーが鮮明に映った。

 

「待って! まだ救ってない! 助けてない! 何も、何もできてない! 私は、私の覚悟は……!!」

 

「いいや、お前は俺を救ってくれたんだ。何も価値がないと苦しんでた落ち葉はもういない。それは紛れもなくお前のおかげで……。だから、もういいんだよ」

 

 彼が遠く、小さくなっていく。私は懸命に手を伸ばした。

 

「こんなの、全然ハッピーエンドじゃない! 貴方が自分の価値を信じられたなら、そこから幸せにならないと、全然意味がない!!」

 

「幸せか、もう十分貰ったよ。あとはまぁ、他のやつのために取っといてやってくれ」

 

 届くわけもない手を伸ばすも、それは無駄で、私の意識はそこでまた暗転した。

 

 

 

-----

 

 

「ウガアアアアアアアア!!!!」

 

 暴走するバッタモンダーの胸元からはすっかり緑色の心の光は消えていた。それはきっと、彼の心の消滅を意味するのだとしたら。そう考えたところで、私の頬に一滴の涙が流れ落ちた。

 

「完全に意識が闇に沈みきったか。ではいけ、バッタモンダー。プリキュアを始末しろ」

 

 スキアヘッドの声がトリガーとなり、バッタモンダーが動き出す。

 思わず身構えたが、バッタモンダーの行動は予想とは違っていた。

 

「ぐっ、貴様……」

 

 踵を返すように向き直り、スキアヘッドの方へ突進攻撃を繰り出すバッタモンダーの動きに一同唖然。

 

「意識があれば反抗する、完全に意識が沈んだと思ったら、今度は獣のように見境なしとは、意識があろうとなかろうととんだ役立たずだな」

 

 スキアヘッドの言葉に苛立ちを覚えるも、今の私にはそれに言い返す気力が残っていなかった。

 バッタモンダーがスキアヘッドに組みつこうと両の手で掴みかかるもの、スキアヘッドはその手を逆に掴み、両者は拮抗状態に入る。

 

「このままでは使えんな。調整が必要か。それか、処分するか」

 

 処分。その言葉に血の気が引いた。

 やめて。そう言いたいのに、言葉が出ない。自分の弱さを呪ってしまう。守りたいと思ったものを守れない自分を呪ってしまう。

 

「フン。これでは出直すしかないな。全く忌々しい」

 

 そう言いながらバッタモンダーを抑え込むスキアヘッド。同時に目線だけで私の方を一瞥する。

 

「キュアプリズム、お前は最高の容れ物……いや、器になれるやも知れぬ。精々生き抜くがいい」

 

 そう言ってスキアヘッドはアンダーグエナジーによるワープゲートを出現させて、自らとバッタモンダーを飲み込ませるようにして姿を消した。

 残される私たち。その場でへたり込んでしまう私の目からは涙が流れ続けていた。

 必ず助けると覚悟を決めたのに、結局叶わなかった。それも、助けるはずのバッタモンダー自身に逆に助けられてしまった。アンダーグエナジーを肩代わりするつもりだったのに、私の中の恐怖を隠し切ることができなくて、私の醜態を晒してしまい、結果心配させてしまった。あまりにも見苦しく、みっともない姿に遠慮させてしまった。諦めさせてしまったのだ。それもこれも、私の覚悟が弱いから。

 

「何が覚悟を決めた、だよ……」

 

 力なく項垂れる私の傍に落ちていた落ち葉が、ひゅんと吹く風に飛ばされ、やがて見えなくなった。それがさっき見たバッタモンダーの姿と重なって見えて、しばらく私の頭から離れなくなった。

 

 この日を境に、運命の歯車は狂い始めたのだった……。

 

 

 

To Be Continued…

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