もしもキュアプリズムがプリズムシャインを会得できなかったら?   作:ayano27

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時系列はちょうど49話


第一話『別れ』

 ついに正体を現したダークヘッド。破壊の化身を自称するその存在は、カイゼリンを攫い、罠を仕掛けてはプリキュアたちを待ち構えていた。

 アンダーグ帝国の最奥の間に立つダークヘッド。そしてその傍で地に臥すカイゼリン。

 カイゼリンはダークヘッドが映し出す、今まさに自分を助けるため、ダークヘッドを打倒するためにアンダーグ帝国へやってきたプリキュアたちの戦いに魅入られていた。

 

「強いな、ヒーローというものは」

 

 それは、今までの価値観に基づく強さとは違う、もっと違う尺度の強さの話。きっとそれそこが、本当の強さなのだと、今になって痛感していた。

 

「カイザーではなく、お前をアンダーグエナジーの容れ物にしたのは何故だと思う?」

 

 不意にダークヘッドがカイゼリンに問うた。何故か。カイゼリンは答えられない。構わず続けるダークヘッド。

 

「お前がヒーローだったからだ。お前の中にはヒーローとしての光があった。その光の分、お前はカイザーよりも容れ物として大きい。だからお前を選んだ」

 

 光が強ければ強いほど、影が大きくなり、闇が広がっていく。それは隣り合わせの力。それこそが、ダークヘッドの企みであり、望みであった。その生贄がカイゼリンという少女。

 

「だが、もっと大きな容れ物がもうじきここにやってくる」

 

 優れた者が現れれば、劣ったものはもう必要はない。ダークヘッドの興味はとっくにカイゼリンから別の者へ移っていた。

 

「何……?」

 

 カイゼリンは状況を飲み込めないまま、ただ聞き返すことしかできなかった。

 

「力を求め、破壊のために使う者。キュアスカイは良い容れ物になる」

 

 最強のヒーロー。それは同時に最強の破壊の化身の素質を持つのだと、ダークヘッドは言う。今の自分はそのための撒き餌に過ぎないのだと、カイゼリンはその事実に歯噛みする。全てがこの男の掌の上。これ以上ない屈辱。

 

「そして、やつがそれに呼応すれば……ククク……」

 

 最強の容れ物を待ち侘びるように映像を眺めるダークヘッド。だというのに、その目線はキュアスカイではなく、別の者へと向けられているのであった。

 

 

 

-----side ましろ

 

 

 カイゼリンを助けるため、ダークヘッドを打倒するため、全てに決着をつけるため、私たちはアンダーグ帝国へと乗り込んだ。だというのにウィング、バタフライ、マジェスティの3人はここにはいない。露払いとなり、殿となり、敵を抑え、私たちのために道を切り開いてくれた。希望を託してくれた。その事実に胸が熱くなる。必ずカイゼリンを、と拳に力が入る。

 

 スカイと私の二人だけで昇降機で地下へと降りていく。どこまでも深い、深淵へと続くような感覚に襲われながらも、私は震えそうになる身体を無理やり押さえていた。

 

「二人になっちゃったね」

 

 私の不安な気持ちが声となって溢れてしまう。

 

「私、最初は一人ぼっちでしたから……隣にいてくれて嬉しい」

 

 そういって微笑むスカイ。その言葉にはっとなる。そうだ、二人になってしまって不安だ。ではない。私の隣にはスカイがいる。その事実で、私の心は暖かくなった。スカイとなら、どこへだって行ける、戦える。きっと、スカイもそう思ってくれている。

 自然と私の顔にも笑みが現れて、私たちは手を繋いだ。お互いの体温を、存在を確かめ合うように、力強く。

 

「きっとこれが最後の戦いになります」

 

 この先に待ち受けているだろうダークヘッドとの戦い。負けるわけにはいかない最後の戦い。その覚悟を確認するように、スカイは言葉を走らせる。

 

「安心してください。私は何があってもましろさんを守ります」

 

 プリズムではなくましろと呼んでくれるのは仲間としてではなく友達としての言葉か。そう思うとむず痒く、心が暖かくなる。

 

「じゃあ私は何があってもソラちゃんを守るよ」

 

 それなら私たちはきっと大丈夫。何があっても、きっと。

 私たちは笑い合い。繋いだ手を緩めることなく、お互いを見つめ続けていた。

 

「ましろさん」

 

 スカイは真剣な面持ちで場を改めるように切り出す。

 どうしたの? と返す私に対し、スカイは続けた。

 

「この戦いが終わったら私、ましろさんに伝えたいことがあるんです」

 

 スカイの真剣な眼差しに少しだけ狼狽えてしまったが、目線を外すことはしない。真っ直ぐスカイを見つめ続ける。

 

「だから、きっと無事にみんなで帰りましょう」

 

 そう締めたスカイ。私はそうだねと返し、名残惜しそうにスカイの手を離した。

 昇降機が止まった。ついに最下層、ダークヘッドのいるアンダーグ帝国の最奥まで到着したのだ。

 さぁ、私たちの最後の戦いが始まる。

 

 

-----

 

 

 終始圧倒している。そんな感触はあった。例え罠だと分かっていても、私たちの力を合わせれば、負けるわけがない。そんな自信があった。

 その時までは。

 

「な、これは……!」

 

 スカイが膝をつく。私も頭を押さえながらその場で苦しんでいた。

 

「アンダーグエナジーから産まれた者にとって光が毒であるように、お前たちにとってこのアンダーグエナジーは毒。ここまで近づいて無事でいられるはずがない」

 

 そう述べては私たちを見下すダークヘッド。そうか、そういう意味でも、ここは私たちにとって最悪の罠場。だからか、終始圧倒していると思っていたのに、ダークヘッドに何の焦りも見えてこなかったのは。

 

「罠があるのは百も承知で……ここまで来ました……! この程度のことで……!」

 

 片膝をつき、息を上げながらも、心の折れないスカイを尻目に、私はダークヘッドへと立ち向かう。

 

「はあああああああ!!!!」

 

 両の手それぞれに溜めたプリズムショットのエネルギー弾を、手に留めたまま殴りつけるように拳を突き出す。

 

「これは、期待通りか……」

 

 ダークヘッドはどこ吹く風と言わんばかりに私の攻撃をいなし、ほくそ笑む。その仕草全てが気に入らない。私は声を張り上げた。

 

「何が……!!」

 

 もう片方の拳をエネルギー弾ごと叩き込む。しかし、それも簡単にいなされる。

 

「お前は一度アンダーグエナジーを取り込もうとした。身体が適応しつつあるのだ。だからキュアスカイよりも影響が少ない」

 

 思い出したくないことを一々。それもこれも貴方のせいだというのに。

 怒りのまま、今度は両の手を合わせて、大きなエネルギー弾を溜め、打ち出す。

 衝撃による煙の中から、無傷のダークヘッドが現れる。

 

「だからといって、完全に適応できたわけではない」

 

 そう言い不敵な笑みを浮かべながら、指を鳴らすダークヘッド。それに反応して、アンダーグエナジーの海から、アンダーグエナジーの塊が飛び出してくる。その塊は真っ直ぐに私の方へと飛んできて、私を包み込んだ。

 

「うあああああああ!!!!!」

 

「プリズム!!」

 

 真っ暗な闇に覆われて、それらは徐々に私の身体を侵食し出す。ああ、あの時と同じ感覚、悍ましさ、恐ろしさ、冷たさ、仄暗い感覚に身体と心を凌辱されるような、支配されるような感覚。こんなものに負けられないと言うのに、私の身体はピクリとも動かなかった。

 

 

 

-----side ソラ

 

 

 目の前でプリズムがアンダーグエナジーに飲み込まれた。悲鳴のような声でプリズムへ呼びかける。

 アンダーグエナジーの塊に包まれたプリズムだったが、まるでその身体に溶けていくように、アンダーグエナジーの塊が萎み、やがてプリズムの姿が露わになった。それは本当にプリズムの中へと溶け込んだのだろう。プリズムの純白のドレスが、若干と黒く燻んでいるように見える。本当にそれは無事なのか。そう考えると心が痛くなる。

 

「ふむ、自ら受け入れない限り変容はしないか。だというのにこの吸収速度、容量、そしてこうなりつつも心が壊れない耐久性。やはり、そうか、こちらだったか……」

 

 ダークヘッドはぶつぶつと独り言を垂れながら、手をかざし、アンダーグエナジーの塊ごとプリズムを引き寄せた。気を失ったプリズムはなす術もなく、ダークヘッドの傍に、中に浮き、固定される。ダークヘッドが手を下ろした瞬間に、プリズムは目下に広がるアンダーグエナジーの海に落ちていくであろうことは想像に難くなかった。

 それだけは、阻止しないといけない。

 

「やめなさい!!」

 

 片膝をついた状態で、動けずにいる私には、声を上げることしかできなかった。

 

「お前の力で、ヒーローの力で止めて見せろ」

 

 そう言って、ダークヘッドはプリズムの高度をガクンと下げる。まるで私への挑発、揺さぶりのように。

 

「あぁ! ぐっ、ぐぅぅぅぅ……!!!」

 

 アンダーグエナジーの不快感に抗うように、私は足に、身体に力を入れる。だというのに、力は出ず、出るのは情けない呻き声だけ。立ち上がるはずが、逆に地に手をついてしまう。

 

「力が足りないか? ならば求めろ」

 

 指を鳴らすダークヘッド。それに呼応するように、アンダーグエナジーの海からアンダーグエナジーが噴き出てくる。それらは一箇所に集まり、巨大なエネルギーの塊を形成した。

 

「お前ほどのヒーローなら、アンダーグエナジーを自分の力としてコントロールできるかもしれないぞ」

 

 それは甘美な誘惑。

 

「仲間を助けたくはないのか?」

 

 それは悪魔の囁き。

 

 唖然と眺めていると、そんな私を急かすようにプリズムの高度がまたガクンと下がっていった。

 助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ。なのに、立ち上がれない。

 目の前に見える力が、最後に縋る希望の光に見えてしまい、私は……。

 

「ダメだ! キュアスカイ!!」

 

 カイゼリンが叫ぶ。

 それは罠だと、そう伝えたいのだろう。

 分かっている。こんなに分かりやすい話はない。自分たちを貶めている相手が、自分たちに有利な条件を突きつけてくる。これを罠と呼ばずに何と呼ぶのか。分かっている。分かっているのに……。

 仄暗い闇の底へ、二度と戻ってこれないような闇の底へ、今にも落ちてしまいそうなプリズムの姿を見ると、もう止まれない。

 

「ましろさん……!」

 

 私の心に呼応するように、アンダーグエナジーの塊は色を変え、私の方へ飛んでくる。そう、私は、受け入れてしまった……。

 

「力を求めたか、それでいい」

 

 身体が黒く染まる。目からは青い炎が迸り、悪魔を思わせるような黒い片翼が、右肩から生えていた。これが変容するということなのか。

 力が溢れる。抑え切れないほどのパワーを感じる。今なら、何でもできる。そういう確信があった。

 

 もう用済みだと言わんばかりに、プリズムが落ちていく。私の反応は早かった。すぐさま地を蹴り、プリズムを受け止める。プリズムを奈落から救い出して、カイゼリンの近くにそっと寝かせた。

 

「容れ物に一歩近づいたな」

 

 満足そうにほくそ笑むダークヘッドへと向き直り、私は拳に力を入れた。

 

「こ、こんな力には負けません……。この力をコントロールして……強くなって……みんなを……助ける……!!」

 

 そこからは一方的だった。終始ダークヘッドを圧倒していった。

 だと言うのに、この力を振るうたびに私の中で何か大切なものが塗り潰されるような感覚に襲われて。

 それでもと、力を振い続けた先に。私はついに堕ちてしまった。

 

 

 

-----side ましろ

 

 

 いつの間にか気絶してしまっていたようだ。

 目が覚めると、まさに戦闘中だったスカイの姿が目に入った。

 その姿は、真っ黒で、片翼が生えてて、そして、その目からは正気が失われてしまっていた。キュアスカイがダークスカイへと変容してしまったのだ。

 

「最強の力に打ち勝てるはずなどないのだぁ!!」

 

 両手を広げ、高揚したように笑い、叫ぶダークヘッド。機は熟したと言わんばかりに、その身を大蛇のようなエネルギー体への変貌させると、ダークスカイの中へと溶け込んでいく。

 ダークスカイの胸に黒い炎が灯る。

 

『ふははははははははは!! 最高の容れ物を手に入れたぞ!!!』

 

 ダークスカイの中から、ダークヘッドが高らかに笑う。

 ダークスカイは私たちの方へと目を向ける。それは誰の意思によるものか。ダークスカイの目は、どこまでも広がる空のように澄んでいたあの綺麗なソラちゃんの瞳は、今は赤く、異様な輝きに染まってしまっていた。

 

『力が全て! それを世界に見せつけてやろう! アンダーグエナジーこそ、この私こそ最強だと!!』

 

「ソラちゃん!!」

 

 思わず叫んでいた。こんなことに、こんなことになるなんて……。

 

『フン……』

 

 もう全ては用済みだと言わんばかりに、その力を、拳を私に向けて振りかぶり、恐ろしいまでの勢いをその身に乗せて、まるで弾丸のように飛んでくるダークスカイ。

 

「や、やめろ!!」

 

 カイゼリンが叫ぶ。当然止まるはずもないダークスカイ。

 私は、攻撃の手も、防御の手も取らず、ただ立ち尽くしていた。ただ、眼前に迫るダークスカイを見据えていた。

 ダークスカイの拳が私の身体にめり込む。その勢いのまま、私は吹っ飛んでいく。転がった先、痛みに震えながらも立ち上がる私にせまり、何度もダークスカイは拳を叩き込んだ。蹲る私の腹を蹴り上げる。痛みに涙が流れ、嘔吐し、血を流した。

 どれだけ痛くても、辛くても、私は反撃せず、防御せず、回避せず、何度もダークスカイへと向き直った。なぜなら、これはきっと、私への罰だと思ったから。

 

〈何があってもソラちゃんを守る〉

 

 そう誓いを立てた。それがこのザマで。

 目の前の惨状が、ソラちゃんの姿が、バッタモンダーと被ってしまう。

 あの時守れなかった誓いを、通せなかった覚悟を、今こそ過去を清算する時が来たと、そう感じた。

 

 もう血反吐も出ない私の身体に、ダークスカイの拳が迫る。

 

『まだ倒れないかぁぁあ!!』

 

 振りかぶるその拳を前に、私は目を閉じ、全てを受け入れた。

 

「え……」

 

 だと言うのに、痛くない。なぜ? と目を開く。するとそこには、進むも戻るもせず、私の目の前で震えているダークスカイの拳があった。

 

「ぐ、うう、うぅゥゥゥゥ…………!!」

 

 呻き声を上げながら、進もうとする拳に抗うダークスカイ。それは間違いなくソラちゃんの意思だと、すぐに理解できた。

 

『ええい、まだ落ちていなかったかァァァ!!!』

 

 ああ、一緒に戦ってくれているんだ……。

 その事実が、嬉しくて、暖かくて、何よりも私の救いになった。

 ソラちゃんは、飲み込まれてなんかいない、塗りつぶされてなんかいない、消滅なんかしていない。なら、まだ、間に合う。

 私は一歩一歩、ボロボロの身体を引きずるように前に進む。二つの意思が拮抗し、震え悶えるその身体に、深い闇を放つその胸の炎に手を伸ばし、触れた。

 ダークスカイの身体が強張る。それはどっちの反応か。

 

 あの時は覚悟が足りなかった。何度も恐怖に怯えた。何度も悍ましさに身を震わせた。何度も心が折られそうになった。

 でも今度はもう逃げない、立ち止まらない、進み続けよう。

 ダークスカイを侵食しているアンダーグエナジーを全て、私が吸い出し、取り込んでみせる。

 

 私はあの時のように、アンダーグエナジーの吸収を試みた。

 そのドス黒いエネルギーを指から手首、手首から腕、腕から肩、肩から胸へと吸い出していく。そこからは全身へ徐々にアンダーグエナジーが私の身体を巡っていった。こんなにも悍ましく、恐ろしく薄寒く、気持ちの悪い感覚で、反吐が出そうなのに、この感覚に襲われていたであろうソラちゃんを解放できると考えると、その事実が心地よくて、達成感すら感じる。

 

『フフ、クククク……なんという吸収速度……なんという底なしの容量……やはりそう来るか……そうなるか……それでいい、それがいい……!! いつか、いつか、飲み込んでみせる。そして……最強のーー』

 

 何度目か分からない得意げな言葉を発するダークヘッド。しかし、その声の主はダークスカイの中から私の中へと移り、その意思は鳴りを潜める。それ以降声が聞こえてくることはなかった。きっとこれも何かの企みの内なのか。不安に思う気持ちがないというと嘘になる。でも、そんなことは今はどうだってよかった。私がどうなろうが、今目の前にいる人を救えれば、それで……。

 

 ダークスカイの黒からキュアスカイの青へ、すっかりと元通りになったのを見届けて、私はスカイの胸に当てていた手を離し、一歩後ろへ引いた。

 

「プリズム……どうして……」

 

 満足そうに笑う私とは対照的に、スカイはこの世の終わりのような顔で私を見つめていた。ああ、あまり見ないで欲しいな。こんな私の、こんな姿。

 ピンクのアクセントを添えた純白のドレスは、漆黒の色に染まり、目からはピンクの炎が迸り、左肩からは黒い片翼が生えていた。まるで先ほどのダークスカイの鏡合わせのような姿。

 名前をつけるならダークプリズムとなるのだろうか。

 

「私の、私のために……そんな……」

 

 その場にへたり込み、口元を押さえて涙を流すソラちゃんに、私はなおも微笑みかける。

 

「泣かないで、スカイ。私は誰の心も照らすことはできないけど――」

 

 きっと、みんなを守ってみせる。

 

 そんな言葉と想いを胸に、私はアンダーグエナジーの海の上までその翼で飛んでいく。

 目下に広がるアンダーグエナジーの海、それらの全てを、私はその身に吸収し尽くす。

 

「プリズム、やめてください! そんなことをしたら、貴女は……!!」

 

 必死に訴えかけてくるスカイを正面に見据え、私は落ち着いて答えた。

 

「大丈夫。ダークヘッドもアンダーグエナジーも、きっと全部抑え込んでみせるから、みんなの平和を脅かすモノは全て、私が封じ込めてみせるから……」

 

 自信があった。ダークヘッドに関しても、私の中にその存在を感じるものの、表面に出てくる気配はなかった。力に飲み込まれることなく、逆に飲み込むことができている。そういう意味でも、私はただの容れ物ではなく、本当の意味で"器"なのかもしれない。そんな力が私にあるのだとしたら、ダークヘッドの目論見が甘かったのだとしたら、私はみんなの希望なのだと、そう思える。

 

 私はカイゼリンの方に向けて手をかざす。すると、カイゼリンの胸に空いた穴から、傷の素となるアンダーグエナジーを抽出し、自分の中へと取り込んだ。

 カイゼリンの胸の傷が無くなり、代わりに私の胸にはぽっかりと穴が開く。一瞬だけだったが、痛みに顔を歪めてしまう。

 

「キュアプリズム……お前……」

 

 唖然とした表情でこちらを見つめてくるカイゼリン。

 

「力が全てなのではないのだとすれば何を信じればいいのか。私にははっきりとした答えを出せないけど、それはこの先きっと分かる時が来ると思う。だから貴女にも生きて欲しい。ソラちゃんと……みんなと友達になって欲しい……。私も貴女と友達になりたかったけど、こうなっちゃったから……ごめんね」

 

 そうカイゼリンに投げかける。ほんとに、もっとたくさんお話がしたかったのに、自分に残された時間がないことがもどかしい。

 みんなを守れた。カイゼリンも救えた。あとは自分がこのまま退場するだけだ。

 

「ソラちゃん、ちょっと早いけど、これでお別れだよ」

 

 最後の戦いが済めば、いずれ訪れたであろう私たちの別れ。

 それがちょっと早くなるだけだ。夢を追うヒーローガールの新たな門出を祝う、その場所が、今この場になる。それだけのこと。だから、泣いちゃダメなわけで……。

 なのに、だというのに、この目から流れる液体は、止めどなく溢れてきた。やっぱり、我慢できないや……。ならせめて、笑顔だけでも……。

 流れる涙なんて気にしない。私は精いっぱいの笑顔を作る。大きく口を開けて二カっと笑った。

 

「ダメ、そんなのダメです。きっとなんとかなります。してみせます。私だけではダメだとしても、みんなの力を合わせればきっと……!!」

 

 スカイがこちらに手を差し伸べてくる。

 

「それこそダメだよ……。私の中のアンダーグエナジーには、ダークヘッドにはもう金輪際、誰も近づけちゃいけない。これがある限り平和は訪れない。だから――」

 

 これは私が誰の手も届かない場所で、封印し続けなくちゃいけない。

 

「私、ましろさんを守るって誓ったのに。この戦いが終わったら伝えることがあるって、そう言ったのに……!」

 

 未練がましくそう訴えるスカイ。やめて、そんな顔でそんな言葉をかけられると、私の決意が揺らいでしまう。

 そんな私の心の揺らぎに反応するように、アンダーグエナジーが私を苛む。私は手で胸を押さえながら悶えた。

 

「うぅ……!」

 

「ましろさん!!」

 

 分かっていたけど、やはり、制御できたわけじゃない。少しでも気を緩ませるとこれだ。こんなものを抱えながら、普通の生活なんて……まして仲間たちと一緒に暮らすなんて、無理に決まっている。

 だから、もう行こう。行かなきゃいけない。

 私はアンダーグエナジーによるワープゲートを背後に開く。原理は分からない、理屈も分からない。けどこれは、私が求める場所に連れてってくれるものだ。それはきっと、誰の手も届かない深淵。

 さぁ、最後の別れを告げよう。

 

「私ね、ソラちゃんに会えてからのこの1年間が本当に夢のようで、楽しくて、嬉しくて、暖かくて……」

 

 私はゆっくりと背後のワープゲートへと近づいていく。

 

「待って! 行かないで! ましろさん!!」

 

「私、虹ヶ丘ましろは幸せだったよ。だからソラちゃんもヒーローの夢を叶えて、私と同じくらい幸せになって欲しい」

 

 ワープゲートに身体が触れる、徐々にここじゃないどこかへと飛ばされていく。

 ああ、そういえばあのことを伝えないと……。

 

「私ね、こんなことになるんじゃないかなって思って、ソラちゃんへのお手紙を書いたんだ。私の机の中にしまってる。私の想いは全部そこに。また時間があるときにでも、読んでくれると嬉しいな」

 

 私の身体がワープゲートへと沈んでいく。

 

「バイバイ」

 

 最後まで私は笑顔のままで、別れを告げることができた。

 真っ暗闇、どこに繋がっているかも分からないワープホールの中。私は一人、流されていく。

 

「ねえバッタモンダー、私、今度はちゃんとできたかな……?」

 

 そんな問いは、虚しくも誰に届くこともなく、虚構へ消えていった。

 

 

 

To Be Continued…




Q,カイゼリン戦はプリズムシャイン無しでどうやって乗り切ったの?
A,気合で……(震え声)
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