もしもキュアプリズムがプリズムシャインを会得できなかったら?   作:ayano27

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第四話『幸せのバトン』

-----side ソラ

 

 ましろさんの捜索が始まって3日が経つ。

 スカイランドに限らず四方八方へ手を尽くし捜索を続けた。青の護衛隊からツバサくんの鳥友達まで、手の借りれる範囲は全て動員し捜索にあたった。もちろん、私たちプリキュアメンバーは誰よりも各地を飛び回った。あげはさんとツバサくんはソラシド市を、エルちゃんと私でスカイランドを担当し、少しでも手がかりをと忙しなく動いていた。

 アンダーグエナジーが湧くようなことがあれば紛れもない手がかりになる。そう信じて気を揉むことなく、走り回るが成果はゼロ。どちらの世界もまさに平和そのもの。そうあることを願っていたはずなのにと自己矛盾に苦しみながらも、それでも諦めることはしなかった。紫のアネモネを腰のリボンに括り、その想いと一緒に私は走った。

 一番怪しいアンダーグ帝国ももちろん隅々まで走り回ったが、なんの痕跡も得られなかった。カイゼリン、ミノトン、カバトンに何か思い当たることはないかと尋ねるも分からないの一点張り。それもそうだろう、スキアヘッドの陰に潜むダークヘッドという本性は彼らも想像すらしていなかったものだったという。それがどこか行く宛があるのかなど、想像に及ばないのも当然か。

 定時連絡を兼ねて確認してみたが、ソラシド市の方も特に成果はないと聞いた。

 思わず気を落とし、スカイランド城下町から離れた街道をとぼとぼと歩きながら独り言ちる。

 

「ましろさん……」

 

 まるで雲を掴むような感覚。どこに向かえばいいのかも定まらない。諦めてはいないのだが、だとしても、その歩みがどうしても覚束なくなるのは仕方なかった。

 

「……ん?」

 

 そうして歩くこの道をしばらく行った先で、何か空間に穴が開いた。目を凝らしてみると、何やら人が出てきて、その場に倒れた。そして、開いた空間が閉じる。あれはいったい……。

 自然と身体が地を蹴り駆け出していた。普通ではない。超常的な現象。まさか、と心臓が脈を打つ感覚をはっきりと感じる。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 先ほど見えたもの。そばに駆け寄って確認したそれを私は視界に納め、そして驚愕することになる。

 

「あなたは……バッタモンダー!?」

 

 倒れていたのはかつてダークヘッドが無理やりにアンダーグエナジーで凶暴化させ操ろうとしたバッタモンダー。

 アンダーグエナジーで操られていた時の筋骨隆々なその体つきは見る影もなく、元通りの姿で倒れている。いや、前よりも痩せこけているかもしれない。とても無事には見えない状態だが、何があったというのか。

 

「うっ、うぅ……ソラ・ハレワタールか……?」

 

 ぐぐもった声色でバッタモンダーが私に呼びかける。

 

「貴方はスキアヘッド……いえ、ダークヘッドに連れ去られて操られていたはず。何故?」

 

 何故ここに? 何故今になって? 何故ボロボロなのか?

 疑問は尽きない。でも、どういう経緯があろうとも、間違いのない事実が一つ。

 ダークヘッドの支配下にいたはずの彼が、今ここにいるということは……。

 

「俺はダークヘッドの元から……いや、ダークプリズムの元から逃げてきた」

 

 沸々と浮かび上がる絶望と希望。そう、両方だ。胸騒ぎと予兆。その両方に私は激しく襲われる。

 ましろさんへの手がかりが得られた嬉しさ。会いに行ける。ましろさんにもう一度。そう思うと、嬉しさで心が震えた。

 しかし、状況は決して良いものではないと伺える。バッタモンダーがこうして目の前にいる。ダークヘッドの元から逃げてきたということは、ましろさんがダークヘッドを完全に抑え切ることができていないということ。魂の綱引きをしているような、主従関係が拮抗している状態なのか。それともあの時の私のように、完全にダークヘッドの支配下に堕ちてしまったのか。

 いや、完全に堕ちてしまったというのならすぐにでもこの近辺にも影響が出る。スカイランドにしろ、ソラシド市にしろ、今はランボーグどころかアンダーグエナジーの痕跡すら発生してはいない。なら、最悪の状態はまだ……。でも、それも時間の問題だろうか。いや……。

 あれこれと思考が頭を巡る。しかし、こんなことを考えていても始まらない。ましろさんが依然として自我を保ちダークヘッドを押さえつけていたとしても。抵抗虚しくダークヘッドに自我を奪われ支配されてしまってるとしても。私のやることは変わらない。ましろさんに会いに行く。それはずっと変わらない。

 

「お前を探していた。もう何度目か分からない転移で正直限界だったけど、当たりを引けたみたいだね……」

 

 酷く衰弱している目の前の男は、希望を見る目で私のことを見つめていた。

 分からない。あの卑怯な男が、あの下劣な男が、このような目をするなんて。このような目ができるなんて。

 私を探していたという事は、何かしらの要求があるということだろう。

 

「貴方には聞きたいことが山のようにあります。あの日ダークヘッドに支配された時からの経緯を教えてください。全てを聞いてから判断します。貴方からの要求を聞くのは、それからです」

 

 私は頑然とした態度で言い放つ。

 地に臥すバッタモンダーは、そりゃそうだとこぼしつつも、少し長くなると前置きをしつつ、これまでのことを話し始めた。

 

 

-----side out

 

 

 バッタモンダーがアンダーグエナジーの闇に沈められ、暴走し、スキアヘッド共々姿を消したその後の話。

 バッタモンダーはスキアヘッドが作り出すワープゲートの亜空間の中に囚われていた。それは、かつてアンダーグエナジーの注入で傀儡の兵士へと変貌したミノトンへ使った手とほぼ同じである。

 いつでも取り出せる便利な駒として。ただしばらくは、思い通りに動かない暴走する兵士を捕らえる檻として、その亜空間は機能していた。

 そして、その中で培養されているアンダーグエナジーにより、命令にのみ反応を示すロボット兵のような存在へと徐々に作り替えられていった。

 自分の意思をほとんどすり潰され、かつてのミノトン以上の支配力のもと、完全な傀儡へと変貌したバッタモンダーはある日、自分を支配する主人から初めての呼び出しの伝令を受け取った。

 導かれるように目の前に現れるワープゲートを潜り抜けたその先には、異様な光景が広がっていた。

 仄暗い闇の中。目を凝らすとそこは、西洋の城の謁見の間のような空間で、バッタモンダーの中に確かな既視感があった。それはスカイランドの城の謁見の間そのもの。いや、それよりもっと広いか。だが、あの場所とは違う。あの華やかなスカイランド城の面影が塗りつぶされるかのように、この空間は闇に包まれており、常闇というのが相応しい場所だった。

 その王座に座っていた人間を見て、バッタモンダーは内心驚愕する。完全にすり潰されていたはずの自分の心が、それでも微かに残っていたその心がそうさせたのだろうか。だが、なんて事はない。結局のところ、彼に自分で物を考える自由などありはしなかった。

 

「バッタモンダー、お前にやってもらうことがある」

 

 玉座に座っている人間。それは虹ヶ丘ましろであり、今はダークプリズムとなってしまっている。

 しかし、その人格は本人のそれではないようだった。声も、虹ヶ丘ましろのものではない。

 

「ダークヘッド様……」

「ああそうだ、お前にしては察しがいい」

 

 ダークプリズムの姿をしたそれは、今バッタモンダーのことを見つめているそれは、虹ヶ丘ましろではなくダークヘッドであることをバッタモンダーは本能で察していた。

 

「状況を説明する。私はここから動くことができないからな、お前に代わりに動いてもらう。」

 

 どうにも使い道に困っていたが、処分せずにおいて正解だったと独り言ちながら、ダークヘッドはバッタモンダーに自らの置かれた状況を説明した。

 虹ヶ丘ましろがダークヘッドごとアンダーグエナジーを吸収し尽くし、この常闇の間で眠りについていること。眠りといっても、状態としてはうたた寝のようなもので、完全に眠りにつくことが一日のうち数時間だけあり、その時間帯だけダークヘッドをが表に出てこれること。しかし、表に出てこれても身体は自由には動かせず、外に出るどころか立ち上がることすらままならない状態にあること。

 それらを聞かされるバッタモンダー。ダークヘッドがバッタモンダーに望むこと。それはつまり、新たなアンダーグエナジーの培養と増殖。それによる、虹ヶ丘ましろを完全に闇に落とすための"浴"の準備であると、ダークヘッドは説明する。

 

「器を支配するための間、私の代わりにお前に動いてもらうぞ。後のことを任せる。この身体を乗っ取るため。そして、この場所を新たな拠点ネオアンダーグ帝国とするために、尽力しろ。いいな?」

 

 そういってダークヘッドは眠りについた。すうすうと寝息が聞こえる。それは虹ヶ丘ましろが半覚醒状態にあることを意味していた。寝ているように見えるが、意識は半分起きている。それは再びダークヘッドを封じ込むために。

 

「……」

 

 物言わなくなった主人に対しかける言葉などない。しかし、傀儡であることに変わりはない自分がやるべきことは一つ。主人の命令を守ること。

 バッタモンダーは言い付けられた通り、アンダーグエナジーの培養と増殖の作業に取り掛かった。

 主人の命令通り、ネオアンダーグ帝国建設のため、そして彼女の意思を完全に沈めるため……。

 

 

-----

 

 

 二日ほど経っただろうか、辺り一帯はアンダーグエナジーの海へと化していた。それはきっと、光に生きる者であれば息をすることもできないような、そんな濃度のアンダーグエナジーが漂っており、一種の悪夢のような状態になっていた。

 ましろは悪い夢でも見ているようにうなされることが多くなった。それも当然、これもダークヘッドの思惑の内。少しずつ、増殖しているアンダーグエナジーに、ましろは心を蝕まれていっている。だというのに、まだ、まだ耐えると言うのか。それにはダークヘッドも、もうほとんど心を原型に留めていないはずのバッタモンダーでも思ったことだった。

 もう自分の意識なんてほとんど見せることはない。文字通り半死半生のような状態で、それでも微かな意思を繋いで自分を捨てず保つことができているのは、何による力なのか。朧気な意識の中、虹ヶ丘ましろを近くで観察していたバッタモンダー。今はダークヘッドは完全に寝ている。動くことも、物言うことすらできないそのか弱い存在に、何を期待したのか。自分でも分からない。

 そうやって虹ヶ丘ましろの傍に立っていたバッタモンダーだったが、ふと自分の手を見てみると、誰かに手を握られていることに気がついた。誰か、など考える必要があるだろうか。バッタモンダーの手を握っているのは、他の誰でもないダークプリズム、虹ヶ丘ましろだった。

 

「ごめんね」

 

 たった一言。ダークヘッドではない、柔和で優しさに満ちた声。ましろは呟いた。当然そんな言葉が今のバッタモンダーに届くわけなどない。無いはずだった。

 バッタモンダーの黒ずんだ心が白く清められていく。アンダーグエナジーにより膨れ上がった筋骨隆々な体躯が徐々に萎んでいく。それは、自身を蝕んでいたアンダーグエナジーが自身の体から抜け出ていくことによる影響だった。

 それはどこにいくのか。答えは一つ。

 握られたダークプリズムの手から、その身体へと吸収されていく。

 

「お前……お前……!」

 

 とうにすり潰されて消えてしまったと思っていた自分の意思。とうに塗りつぶされて失ってしまったと思っていた自分の心。それが蘇るように、バッタモンダーは言葉を取り戻していた。

 

「やっと、届いた……」

 

 満足そうに笑うましろの傍、信じられないものを見るようにバッタモンダーはその場で立ち尽くす。

 

「ダークヘッドは今は完全に抑え込んでる。私が起きてる内は出てこれない。今ならきっと大丈夫、だから、逃げて……」

 

 見るからに苦しそうに言葉を放つましろ。それもそうだろう。ダークヘッドがバッタモンダーを支配するために侵食させていたアンダーグエナジーは、濃度も量も相当なものだったはず。それを一度に全て吸収し切ったのだから、影響がないわけがない。

 

「ふざけんな、俺だけ逃げろだと? 落ち葉の絵本はどうするんだよ!」

 

 自分の手に添えられるように重ねられていたましろの手を両手で握り返すバッタモンダー。

 

「こんな結末で落ち葉は……俺は納得するわけないだろ!」

 

 バッタモンダーはましろの目をまっすぐ見つめ言い放つ。

 

「ああ、やっぱり紋田さん(バッタモンダー)紋田さん(バッタモンダー)だね。貴方を救えてよかった。貴方も、自分の輝きを信じることができたなら、きっと……」

 

 そう言いながらこちらに伸ばしていた手をするりと引っ込めるましろ。どうやら力が抜けてしまったらしく、また浅い眠りについてしまったようだった。

 おい!と声をかけるバッタモンダーだったが、反応がない。本当に限界の気を振り絞っての行動だったのだろう。バッタモンダーは力無く項垂れる。

 しばらくしていると、ましろがうわごとを繰り返し出した。

 ふと顔を上げ、その内容を聞いて、バッタモンダーは涙を流した。

 なんとかしたい。本気でそう思ったバッタモンダーだったが、自分に何ができるのか。それは彼自身が一番理解している。

 ましろを抱えてここから逃げ出すことも一瞬考えはした。しかし、ダークヘッドの意思を込められた邪悪なアンダーグエナジーに苛まれている彼女をここから出すと言うことは、それ即ちダークヘッドによる被害が増大する。アンダーグエナジーによる汚染と怪物化が広まると、いよいよ誰も事態を収集することが出来なくなる。

 他の者なんかどうなったっていい。でもそれは、ましろ自身が許すことはないであろうことはバッタモンダーにも分かる。こんな何の価値もない落ち葉のような男を救ってくれた彼女にする恩返しとしては、間違いなく最低な行為だろう。

 じゃあ自分がダークヘッドを浄化するか。いや冗談ではない。プリキュアでもない自分にそんなことできるわけがない。またダークヘッドが起きてきた時に、また心を塗りつぶされて再度兵士化されるだけだ。

 だとしたら、他に被害が出ないようにと、こんな闇の底に彼女を放置するしかないのか。でも聞いてしまった。彼女のうわごと、その内容を。本当の心を。

 ならばそうだろう。こうするしかない。バッタモンダーの中で、取れる手段はもうそれしか残ってはいなかった。

 

「(ああ、そうだよな。そのまんまだよな。お前の望みはそれなんだ。だとしてもお前はきっとこんな俺を怒るだろう。こんな俺を嫌うだろう。でもな、聞いちまったから。だから、少しだけ我慢して待っててくれよ)」

 

 バッタモンダーは涙を流しアンダーグエナジーによる瞬間移動で逃走を試みる。

 

「ありがとう。幸せのバトンは確かに受け取った」

 

 最後に別れの言葉を残して。

 アンダーグエナジーは基本的に取り扱いの危険なエネルギーであるが、自身の身体に取り込むような無茶ではなく、普通にエネルギーとして利用することは問題なく、精神的にも身体的にも元の状態に戻ったバッタモンダーにとって、初歩的な瞬間移動は容易かった。

 そうして転移を繰り返しながらバッタモンダーは思考を続ける。

 自分がすべきこと。それはもう、これしか残っていない。

 虹ヶ丘ましろを助けるためにソラ・ハレワタールを探し出す。

 これしか。

 

 

-----side ソラ

 

 

 立ち上がることすらできないでいたバッタモンダーは、地面に腰掛けたまま自身の置かれていた状況と、その経緯について説明をした。

 ましろさんは徐々にではあるがダークヘッドに飲まれつつある。それは彼女の意識の消滅を意味し、同時にダークヘッドの復活を意味していた。

 こちらが取れる手段は二つ。

 一つ目は、今この場よりそのネオアンダーグ帝国とやらに突入、攻略を試みること。これは先の決戦よりも危険な戦いになる。アンダーグエナジーの海、敵のフィールドへ侵入することのリスクは先の決戦で痛いほど身に染みている。無策で飛び込んだとしても、あの時の二の舞になることは目に見えている。正直、難しいと言わざるを得ない。

 二つ目は、ダークヘッドが復活したのちスカイランドへと侵攻してくるのを私たちの持てる全勢力で迎え撃つこと。プリズムの意識を沈め、最強のダークプリズムの力を得たダークヘッドがおそらく最初に行うであろうこと。それは私たちプリキュアの殲滅だとみて間違いない。万が一を考えて、自分に届き得る存在であるプリキュアを潰すことはダークヘッドにとって最優先事項だと考えて間違いはないだろう。特にマジェスティとして伝説の力を受け継いだプリンセスエルの存在は奴にとって看過できないもののはず。だがその場合、周りの被害が増えるだろう。なによりもそれだと、ダークヘッドを倒せてもましろさんが救えない可能性が高い。

 どちらも問題が多い。前者は勝算が薄く、後者は被害が多い。どうすれば良いのか。

 正しいはどちらなのか。

 

「あいつを……虹ヶ丘ましろを助けてくれ」

 

 ふとバッタモンダーが言葉を発する。

 それを聞いて理解する。バッタモンダーが私を探していた理由。

 

「貴方がなぜ……?」

 

 私たちは敵同士で、たくさん嫌なことをされた。ましろさんだってそうだ。ましろさんの大事な絵本を破ったのは、他でもないこの人で。

 だというのに。ましろさんは何度もこの人を救おうとする。

 

『今はバッタモンダーのこと、あんまり怒る気にならないんだよ……』

 

 あの日のましろさんの表情が思い浮かぶ。

 

『みんな、お願いがあるの。ミラージュペンは必ず取り返さなきゃいけないけど。その前に私、バッタモンダーと話したい!』

 

 私たちに見せた決意の表情を。

 

「落ち葉のような何の価値もない俺のような男に、大切なことを教えてくれた。戦い、守り、助ける。そういうんじゃなくて、本当の意味で俺のことを救ってくれた初めての人間なんだ」

 

 曇りなき瞳で私を見つめる彼を見て、私の中の僅かな蟠りは氷のように溶けて消えていく。

 

「それに、聞いちまったから……あいつのうわごと。意識を失ってからずっと繰り返してた。本当の気持ちを」

 

 そっと目を閉じて、悲しそうに顔を伏せるに私は尋ねる。

 

「いったい何を……?」

 

 彼は歯を噛み締めるようにして、堰を切るように答えた。

 

「"ソラちゃんに会いたい" そう何度も何度も、うわごとを繰り返してたよ……」

 

 言葉を失う。自分の馬鹿さ加減を激しく呪う。知っていたのに、理解していたはずなのに。勝算だのと、被害がどうのと。

 私の取るべき手など、たった一つを除いて他になかったと言うのに。

 

「行きます」

 

 私も覚悟を決める時が来たのだろう。できるかできないかではない。伸ばされた手があるなら、ただ取りに行く。ここで立ち止まるようでは、ヒーローになんてなれない。明日を笑って過ごせるわけがない。

 

「正直、お前がどこまでやれるのかが分からない。でも、もう俺にはお前に頼ることしかできない」

 

 バッタモンダーは軋む身体に鞭打つようにして立ち上がる。

 

「もう俺はあのアンダーグエナジーの海の中には戻れない。だから俺にできることは、ただこの扉を開いてやることだけだ」

 

 そう言ってバッタモンダーは手を水平にかざす。すると、禍々しい光を放つワープゲートが彼の傍に開いた。

 

「仲間は呼ばなくていいのか?」

「この先は危険すぎます。私ならきっと大丈夫。一度闇に堕ちたこの身体なら、きっと抵抗できます」

 

 そう笑いかけたのち、私はワープゲートへと歩を進める。

 その進みを拒むように、私の背後に白いワープゲートが開き、中から人が出てくる。

 私は後ろを振り向き目を見開いた。

 

「最後の最後まで水臭いですね。僕たちはチームだって、何度言わせれば気が済むんですか?」

「同感。気持ちは同じ。一緒に迎えに行こうって言ったの、忘れてないよね?」

「わたし、今までいろんな絵本を読んでもらったけど、やっぱりハッピーエンドが好き。ね、私たちみんなでそうしよう?」

 

 そこにはウィングとバタフライとマジェスティがいた。

 三人の言葉を聞いて、私の瞳が大きく揺れる。

 

「……行きましょう」

 

 短い返答。でもそれで、三人は満足そうに笑った。

 そんな私たちの姿を見てなのか、バッタモンダーは嬉しいのか悔しいのか、複雑そうな表情で項垂れる。

 

「……俺が全部悪かった。俺があるべき未来を狂わせたんだと思う。俺のせいで、虹ヶ丘ましろは今、闇の中にいる。俺にはもうあいつに会うことも、あいつの絵本を読む資格もない。だけど、助かってほしい。あんな仄暗い闇の中にあいつを一人でいさせないでくれ」

 

 皆、彼の言葉を静かに聞いていた。

 

「あいつに正気に戻してもらった俺にできることは、あいつから貰った幸せのバトンを、お前らに託すこと。だから、お前らにはそれを、あいつの元に――」

「分かっています」

 

 短く、そう返す。

 最後に一つだけ、と前置きをしてバッタモンダーは話す。

 

「もう会うこともないだろうから伝えて欲しい。お前の絵本の完成を祈ってると」

 

 その言葉を聞いて、自然と笑みが溢れる。

 

「ありがとう。きっと、伝えます」

 

 私の言葉を皮切りに、私たちは覚悟を決めてゲートを潜った。

 私たちが揃えばきっと大丈夫。だからみんなで行こう。あと一人、最後のピースを拾いに。

 決意を胸に、私たちは歩みを進める。ましろさんが待つ、ネオアンダーグ帝国へ。

 

 

 

To Be Continued…

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