もしもキュアプリズムがプリズムシャインを会得できなかったら?   作:ayano27

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本作品は私が以前執筆していた『ヒーローの意味』の対となるコンセプトで書かせていただいております。
こちらの作品もこの度ハーメルン様の方へマルチ投稿させていただきましたので、続きが上がるまでの暇つぶしにでもしていただければ幸いです。
https://syosetu.org/novel/341841/


第五話『空はあんなにも青く、遠く……』

 深い闇。どこか西洋の雰囲気を感じさせる暗黒の城。その輪郭を目にしたこの場の全員がスカイランド城を彷彿としていた。その入り口に降り立つ四人のプリキュア。彼女たちはその雰囲気を前に固唾を呑んでいた。

 しかし、立ち尽くしていても状況は進展しない。すぐにそれぞれが状況の確認に奔走する。

 目の前には入り口がある。おそらくそこから進めばその奥にはダークプリズムがいると直感的には察するところだが、このおあつらえ向きな状況を見て、それが罠であると感じた一行はまずは周囲の状況確認からと行動を開始する。

 バタフライは城の外周を周り他の侵入口が無いかを探索。ウィングは上空を飛んで、上からの侵入口もしくはこの空間からの出口がないかを探索。マジェスティは城の外、この空間の端がどうなっているのか、どこか出口はないのかを探索。そしてスカイは最初いた入り口の先の状況を軽く偵察。

 その後、四人は城の入り口にて再度合流した。

 

「外周回ってみたけど、他に入り口はないみたい。二手に分かれて奇襲ってわけにはいかなそうだね」

 

「この空間に出口がないか見て回ったけど、不思議な靄が隙間なく壁になってて、どこも通り抜けられなかった。ここ、完全に閉じた空間みたい」

 

「こちらも同じです。空からも確認しましたが、窓や扉はありましたがどれも閉じていて、開けることも壊すこともできませんでした。どうやら見た目だけのダミーみたいで、内部の構造的に上層には何もないのかもしれません」

 

「そうですね。少し入り口の奥を見てきましたが、上へ進む階段は一切ありませんでした。その代わり、地下に進む階段が一つ。上は飾りのようです。きっとダークプリズムは地下にいるのでしょう」

 

 バタフライ、マジェスティ、ウィング、スカイ。各々が得た情報と知見を述べる。

 分かったことは次の通り。大きな城に見えるが、そのほとんどはダミーであり、上層には何もなく、入り口から進んですぐにあるのは地下への階段が一つという状況。この空間は城を中心とした不思議な靄に囲まれており、通常手段では出ることも入ることも叶わないこと。

 

「結局のところ侵入口は一つ。どんな罠があるかも分からないってことか。あーもう、作戦の立てようがないなぁこれじゃ」

 

 やだやだと手を振りながら入口へと歩を進めるバタフライ。みんながそれに続いていく中、一人だけ歩みを止める者がいた。

 

「そんなことよりも、出口が無いことの方がマズく無いですか? 前回はカイゼリンのおかげでアンダーグ帝国からスカイランドへと帰れましたが……。やはりバッタモンダーも連れてくるべきだったんじゃ……」

 

 ツバサの言葉に耳を貸し、足を止める一同。

 

「ナイトのくせに弱気なこと言わない。命からがら逃げてきたバッタモンダーの首根っこ捕まえて着いてこいだなんて、そんなの言えるわけないでしょ」

 

「そうかもしれませんが……。バッタモンダー本人じゃなくても、ヨヨさんやアンダーグ帝国の力を借りればよかったのでは?」

 

 エルがぴしゃりと返す中、未だ納得できずいるツバサ。

 

「場所さえ特定できればワープゲートを開く方法だって……」

 

「それは私も考えてはいました。でも、今のましろさんには時間がない。おそらくましろさんの身体はまだ完全に乗っ取られてはいない。この隙に先んじて攻勢を仕掛けるというのなら、一分一秒だって惜しい」

 

 そんなツバサの言葉を遮るようにソラは言葉を重ねた。

 

「そうそう。みんな分かってるんだって少年。後からあーだのこーだの言っても始まらないよ?」

 

 すっかりといつもの調子に戻ったあげはは、年長者の余裕をたっぷり見せるように、ツバサへと近づき肩に手を置いた。

 

「うんうん。情けないこと言わないで、ナイトならどーんと構えてて」

 

 まるでそれに対抗するかのようにエルが逆方向の肩に手を置き、言葉を重ねた。

 

「あげはさん……プリンセス……」

 

「大丈夫です。みんなで行けば、何も恐れることはありません」

 

 そう言ってソラが締める。少なくともソラには迷いは微塵も無かった。全力でましろを助ける。その想いだけが今の彼女を突き動かしていた。

 当然他の者の想いも同じ。仲間の危機を救う。だからこそ、猪突猛進ではない多角的な知見をぶつけ合い、少しでも可能性を広げていくのが彼女たちの在り方だった。

 しかし、ここまでくればもう進むしかない。時間もない。手段も一つ。あとはもう、全力で事にあたるだけだと。全員の思いが重なった。

 城のエントランス奥の下りの階段へと全員が進んでいく。深い闇の中、お互いがお互いをいつでもカバーできるように、最大限警戒を続けながらも全速力で駆け降りていった。

 しばらく降りていくと、出口が見えてきた。そこを抜けた先で、一同は一旦止まった。

 3階層くらいの広い空間。そこは見た目はスカイランドの玉座の間を彷彿とさせるような見た目をしていたが、とにかく広く、そして王座は奥に一つだけしかない。

 まさかと目を凝らす。予想通りと全員が思ったが、そこに座っているのはダークプリズム。まさしくこの空間、この城を司る女王のような佇まいで玉座に座っている。

 

「ましろさん!!」

 

 ソラが声を張り上げる。喜び、そして若干の興奮と嘆きを含んだその言葉は、残念なことにましろに届くことはなく。

 

「遅かったな。プリキュア」

 

 帰ってくるその言葉は虹ヶ丘ましろのものでは無かった。

 

「ダークヘッド……!」

 

「ふっ、タイミングのいいことだ。私が表層に出られるこのタイミングで来てくれるとは、バッタモンダーを逃すのは賭けだと思ったが、存外悪くない仕事をする」

 

 念話ではなく肉声で話している。それはましろの身体が前よりもダークヘッドに深く掌握されていることを示していた。その事実にプリキュア全員が歯噛みする。

 

「あんたが謀ったっていうの? あんたの目を盗んでましろんが助けてくれたって聞いてたけどね」

 

 バタフライが飄々とした態度で言葉を返す。

 

「それは間違っていない。私はこの身体を完全に掌握したわけではないからな。私が眠っている間は、キュアプリズムの行動を阻止することも感知することもできない。ただ、予想はしていた。私が眠っている間に、必ず自身を犠牲にバッタモンダーを逃がすと。ならばその後の奴の行動も予想することは難しいことではない」

 

「その予想というのが、僕たちを呼び寄せることだと?」

 

 ツバサが噛み付くように言葉を挟む。

 

「奴にできることと言えばそれしかあり得ないだろう。一度この場に訪れさえすれば、アンダーグエナジーを扱える者であればゲートは開ける。キュアプリズムを見捨てるのであれば良し、見捨てずお前たちを呼びつけるのであればなお良し」

 

「何がなお良しなのか分からないんだけど? 完全に掌握してないって言ったよね。声は出せてもそこから動けないんでしょ? そんなので何かできるっていうの。貴方、今際の際だって分かってる?」

 

 マジェスティが見下すように言い放つ。

 

「ふっ、それはこちらのセリフ。ここはもうアンダーグエナジーの海。お前たちにとっての毒の海なのだ。確かに私はこの身体を指一本動かすことはできないが、このアンダーグエナジーを操れる。分かるか? お前たちもこのアンダーグエナジーにて変容させ従えてやろう。最強の器の元でな」

 

 ダークヘッドはそう言ってほくそ笑む。

 すると、アンダーグエナジーが塊となって宙を舞い、プリキュアに襲いかかる。四人はそれを見て身構えた。

 しかし、アンダーグエナジーがプリキュアたちにぶつかることはなく、寸前で止まった。

 まるでロープで引っ張られたようにビンと静止したそれは、瞬く間に吸い込まれるように後方へと引き戻されていった。

 その光景を見て、その場の全員が驚いていた。

 瞬く間にアンダーグエナジーの半数がダークプリズムに吸収されて消えてしまったのだから。

 

「何だと……!!」

 

 一際驚きの声を上げたのは他でもないダークヘッドだった。自分の意思ではない。であれば誰の意思であるのか、考えるまでもなく答えは一つ。

 

「ましろさん……!!」

 

 今まで言葉を殺してただ前を見据えていたスカイの表情が輝いた。

 絶体絶命のピンチを救ってくれた最愛の人の存在を感じ、胸が熱くなる。

 

「流石ましろん。って言いたいけどマズいよね、あれ」

 

 喜び半分、焦り半分の表情でバタフライが声を出す。

 

「結局のところ、僕らへ襲ってくるアンダーグエナジーを肩代わりしてくれてるだけですからね。いつまでも持つとは思えません」

 

「なら、短期決戦じゃない?」

 

 冷静に状況判断するウィングに対して、ならばとマジェスティが続く。

 

「くっ……、これほどのアンダーグエナジーを吸収してまだ堕ちないというのか」

 

 ダークヘッドが独り言ちる。想像以上の器の大きさを前にして、その力の大きさに喜び、掌握する手強さに焦っていた。

 

「ましろさんは貴方なんかに負けはしません!!」

 

 スカイが吠える。しかし、ダークヘッドは意に返さない態度で次の手を打つ。

 

「であれば……!!」

 

 その場に漂っていたアンダーグエナジーが一箇所に集まり、やがて一つの形を作る。それは巨大な一匹の蛇。アンダーグエナジーの海とダークヘッドの思念の一部が混じった怪物。ダイジャーグと呼称されるものが形成された。

 ただのアンダーグエナジーであればダークプリズムに吸収されてしまう。であればランボーグのように物質化すれば良い。直接触れられれば同じようにアンダーグエナジーを吸収されてしまう恐れはあるが、今はダークヘッドとダークプリズムはお互いがお互いの自由を封じ合っているような状態。それも叶うことはないだろう。

 

「いけ、我が分身体よ。プリキュアを始末するのだ」

 

 ここに決戦の幕が上がった。

 怒涛の戦いが展開される。

 バタフライによる防衛と支援、ウイングによる撹乱で隙を作る。そこにマジェスティによるトリッキーな攻撃、スカイによる火力特化の一撃が加わり、たまらず体勢を崩すダイジャーグ。

 本来であれば、マジェスティッククルニクルンで止めと行きたいところだが、あれは五人で撃つ技のため、この場では使えない。アップドラフトシャイニングも同様。

 

「タイタニックレインボー!!」

 

「アターック!!!!」

 

 これしか無いとウイングとバタフライが前に出て、技を放つ。

 虹色のプニバードがダイジャーグにのし掛かる。

 しかし、容易く耐えられてしまい。二人は弾き飛ばされてしまった。

 

「ウィング! バタフライ!」

 

 スカイが声を上げる。

 

「スカイ! 前を見て! 畳み掛けるよ!」

 

 すかさずマジェスティが飛び出す。

 タイタニックレインボーは効かなかったが、全くノーダメージというわけではないはず。この機を逃してはいけない。そう思い、マジェスティは特攻を仕掛けた。

 

「ひろがるマジックアワーズエンド!!」

 

 手から迸る光の刃でダイジャーグに切りかかる。

 一歩遅れる形でスカイも地を蹴りダイジャーグに迫った。

 

「ヒーローガールスカイパンチ!!!」

 

 拳を前に矢のように飛んでいく。

 二人の攻撃が重なり、ダイジャーグは弾け飛ぶように胴体が千切れ、頭側は地に臥し、尻尾側はアンダーグエナジーの塊に戻っていった。

 

「ダメージが通った……!?」

 

「でも、浄化しきれない……!」

 

 歯噛みするスカイとマジェスティ。

 アンダーグエナジーの塊へと戻ったそれがダークプリズムに吸収される。

 

「ましろさん!」

 

「ましろ! 無茶しちゃダメ!!」

 

 スカイとマジェスティが声を上げる。当然返事もなく。声が届いているかも分からない。

 上体のみとなったダイジャーグが顔を上げて、口を開き、アンダーグエナジーを口内へと溜め込み、赤黒い輝きを孕んだ巨大なビームを放った。

 それは一直線にスカイとマジェスティへと迫っていく。

 

「くっ」

 

 万事休すかと身構えるスカイ。しかし、すかさず動くものがいた。

 バタフライが蝶のシールドを張り、ビームを防ぐ。その傍、膝をつき苦しそうに呼吸を荒げるウィングの姿があった。吹っ飛ばされたはずのウィングとバタフライ。しかし、スカイとマジェスティの窮地を察して、ウィングがバタフライを抱えて高速飛行で戻ってきたのだ。そして、防御が間に合った。

 しかし、蝶のシールドにヒビが入る。

 息を荒げてバタフライが耐える。

 

「マジェスティックベール!」

 

 重ねるようにマジェスティがシールドを張った。プリンセスエルレインから受け継いだその防御技にはアンダーグエナジーに特攻性がある。

 二つのシールドが重なり、徐々にビームを押し返していく。

 すかさずスカイとウィングもシールドの内側に手を当て、押し合いに助力した。

 優勢かと思った矢先、ダイジャーグの放つビームの勢いが増し、プリキュアたちが徐々に後方へと押し除けられていく。

 四人は息を荒げ踏ん張る。

 すると、突如ビームが止んだ。

 何事かと目の前を見ると、ダイジャーグの切断された胴体から漏れ出るアンダーグエナジーが、まるでロープのようにダークプリズムへと繋がり、引っ張られていた。それでダイジャーグが体勢を崩し、ビームが止んだのだった。

 

「まだ、これほどの抵抗を……!!」

 

 ダークヘッドが焦る。

 

「ましろさん……!」

 

 好機が舞い降りたと全員の思いが重なる。

 

「皆さん、私に合わせて!!」

 

 スカイが地を蹴り前へ跳ぶ。

 

「おーけー!」

 

「いきます!」

 

「やろう!」

 

 バタフライ、ウィング、マジェスティがそれに続く。

 

「ヒーローガール!!」

 

 スカイが吠える。

 

「「「「せかい!!」」」」

 

 これは、プリキュア全員が想いを一つにして放つ技。本来五人で撃つはずだった合体技。

 

「「「「パンチ!!!」」」」

 

 しかし、一人欠けたとしても関係はない。なぜなら、その想いは変わらず共にあるから。

 彼女らの突き出した拳の前に、巨大な光の拳が顕現化し、ダイジャーグへと突き刺さる。

 力で押し返そうと踏ん張るダイジャーグだったが、心を一つにしたプリキュアの想いという力の前にやがて押し負け、その巨体は崩れてアンダーグエナジーへと戻り霧散した。

 やったんだと希望の光を垣間見たスカイたち。

 しかし、やはり四人で無理に技を出した弊害なのか。完全に浄化しきれていない。現にアンダーグエナジーは消えずにその場にとどまっていた。

 

「まただ、まだ終わらんよ……!」

 

 霧散したアンダーグエナジーを再構築して、新たなダイジャーグを作り出すように仕向けるダークヘッド。

 しかし、その霧散したアンダーグエナジーが新たな敵になる前にと、すかさずダークプリズムが吸収しつくした。

 

「くっ、間に合わないだと……」

 

 歯噛みするダークヘッドを見て、一同は勝利を確信した。

 これでこの場のアンダーグエナジーは露ほども残らず消え去った。もう新たな脅威はない。これでダークヘッドの扱える武器はもう無い。バッタモンダーという最後の私兵を失った今、新たなアンダーグエナジーを生み出す手立てもない。無傷ではないがプリキュアは全員が健在で、相対するダークヘッドは文字通り手も足も出ない状況。あとは、何らかの手段を持ってダークヘッドを浄化するだけ。完全に王手がかかっていた。

 そのはずだった。

 

「フフ……」

 

 ダークプリズムの目が赤く光る。

 美しい翡翠の輝きが完全に消え、緋色に染まり濁る。

 

「フフフハハハハハ!!」

 

 ダークヘッドの笑いが響き渡る。

 まるで今までその身を縛っていた鎖が一本残らず砕け散ったかのように、優々とその身を立ち上がらせる。

 そして、左肩の黒い片翼を羽ばたかせ、宙に舞った。

 

「堕ちた! ようやく堕ちた!! 分の悪い賭けだったが、ギリギリ届いた……!! 最強の器を手に入れたぞォ!!!」

 

 ダークヘッドの言葉が空間内に轟く。

 希望の光が一転して、絶望の闇に。

 

「そんな……ましろさん……」

 

 スカイの心も絶望へと叩き落とされていた。

 恐れていたことが起きた。ついにましろの身体が、心が地の底へと完全に沈んでしまったのだった。

 

 

-----side ましろ

 

 気づけばここにいた。

 どこまでも続く真っ白な大地。果てには地平線。

 対する上空には、青に染まった美しい空が広がっていた。

 雲ひとつない晴天の空。その美しさは、この何の色にも染まってない真っ白な大地とは対照的で、思わず私は手を伸ばしていた。当然届くわけもなく、伸ばした手を引っ込める。

 辺りを見回す。

 何もないと思っていた大地に一本の塔が聳え立っているのが目に映る。天まで届くような高さ。いや、高いなんてものではない。頂上が見えず、それは本当に天まで繋がっているかのようなエンドレスタワーに見えた。あれを登れば空に届くのだろうか。などと考えたが、すぐに考えを改める。螺旋を巻くような階段が側面に断続的に生えているが、文字通り断続的なもので、途切れ途切れの階段。あれじゃあ登ることなど出来はしない。私はすぐに興味を失い、視界から外した。

 

 ここはどこだろう。

 私は何かと戦ってた。そのはずで。

 みんなを守るために頑張ってたはずなのに。今はこんなところにいる。

 何の色もない真っ白な大地。まるで私みたい。思わず嘲笑が溢れた。

 

「ねえ」

 

 声をかけられた。こんな何もない世界に、いったい誰がいるんだろう。

 声の方向を見ると、何やら黒い影が見えた。

 黒い靄のようなものが全身にかかっている、見るからに怪しい人。背丈は私と同じくらいに見えるが、声も変な感じで、性別も年齢も特定できない。

 

「貴方は……?」

 

 声をかけると、黒い人は答えてくれた。

 

「私? 私はそうだね……アンダーグエナジーが意思を宿したもの……かな?」

 

 何とも歯切れの悪い返答だった。何となく、悪い存在には感じなかったけど、アンダーグエナジーから生まれたというそれを良い存在というのは早計だろう。そもそも、本当のことを言ってるかも分からない。

 

「ここはどこ?」

 

 私は問う。

 

「ここは貴女の心の中の世界」

 

 黒い人はそう答えてくれた。

 心の中か、そう言われればらしいといえばらしく感じる。

 何もない真っ白な世界。それはまるで私で。

 その上空には、手を伸ばしても届かない憧れの空が視界いっぱいに広がっている。それはまるであの人で。

 

「誰かに呼ばれた気がする」

 

 私は言葉を溢す。そうだ、誰かに呼ばれた。そんな気がする。誰だろう。私の名前を呼ぶのは。この大地のように、真っ白で何もない私の名前を呼んでくれるのは。

 

「友達が来てるよ。すぐそこまで」

 

 黒い人が教えてくれる。

 そうだ。友達のために戦ってた。それで友達もまた、私のために戦ってた。それはきっと明るい未来を掴むための戦い。そのはずだったのに。

 

「どうして……どうしてこんなことになっちゃったんだろ」

 

 思わず溢れた言葉。目の前の黒い人が知る由もないことだろう。

 それでも私は口にせずにはいられなかった。それはきっと、私自身への問い。

 

「どうしてだと思う?」

 

 そんな気配を感じ取ったのか否か、黒い人は質問をそのまま返してくる。

 

「私の覚悟が足りなかったから……みんなを守りたくて、幸せになって欲しくてこうしたのに。結局、アンダーグエナジーに飲まれちゃった」

 

 そう、分かってたことだ。そんな変えようもない事実から、私は目を背けたかったのだろう。

 

「迷ってたんだよね、ずっと。優しいって何なのか、人を幸せにするにはどうしたらいいのか」

 

 黒い人に指摘されて、私は思わず吃った。心の中を見られたのかと思うくらい。その指摘は的を得ていた。でも、その答えは私にも分からなくて。

 

「分からない……そうかもしれない」

 

 結局、誤魔化すしかなかった。

 

「ソラちゃんはすごいよね。何度倒れても、立ち上がって、みんなを導いて。そして、みんなをきっと救ってくれる」

 

 そうだ。その通り。ソラちゃんなら、もっと上手くやっただろう。ソラちゃんなら、きっと誰も泣かない未来を形作っただろう。

 

「うん……」

 

 それ以上の言葉が出ず、私は口籠る

 

「最初は憧れだったと思う。憧れからスタートして、少しずつ好きに変わっていったんだったね」

 

 私のソラちゃんへの想い。この人はどこまで知ってるんだろう。私の心の中にいるってことは、何でも知ってるのだろうか。

 

「……うん」

 

「なんというかベタな惚れ方だよね。何がきっかけだったんだろうね?」

 

 あははと笑いながらそう問うてくる黒い人。その答えを知ってるのか否か、読めない人だと感じたが、私の答えは決まっている。

 

「ソラちゃんは、私の……世界を変えてくれた人だから」

 

 そうだ。あの日、空から落ちてきたあの人は、私の価値観を……世界を変えてくれた。私に夢を与えてくれた。力を与えてくれた。そして、想いを与えてくれた。

 

「ふぅん……。で、どうするの?」

 

 その答えに興味があるのか無いのか。飄々とした態度で、黒い人がそう問うてくる。

 

「どうって……」

 

「助けに来てるよ? 百歩譲ってこの場を乗り切れたとして、命かながら生き延びることができたとして、結局その先待ってるものは別れだよ?」

 

 答えに詰まる私の反応が面白く無いのか、立て続けに問いを投げてくる。

 

「そんなこと、わかってる」

 

 別れ、その言葉に過敏に反応する私。

 

「好きなんだよね? ソラシド市に残って一緒にいてくれってお願いしてみるとか?」

 

 いいことを思いついたと言わんばかりに胸を張る黒い人。でも、私には全然魅力的な話には聞こえなかった。

 

「そんなの、ダメだよ」

 

「そうだよね。ソラちゃんはずっと夢に見てた青の護衛隊に入るんだもん、一緒にいられるわけがないよね。それがソラちゃんの夢なんだから」

 

 私の考えなんてお見通し、そう言わんばかりの態度で黒い人が言葉を重ねる。その態度を意地悪だと感じたことは、仕方のないことだと思いたかった。

 

「そうだよ」

 

 ソラちゃんは幼い頃からヒーローを目指していて、その為に青の護衛隊に入ることを夢見てたことは知っている。だから、私のわがままで彼女を引き留めるようなことはあってはならない。夢を叶えてほしい。それが私の願うべきこと。

 

「そしたら、こっちがスカイランドについて行くとか? 絵本作家は向こうでもなれるもんね」

 

 またまたいいことを思いついた、なんて面持ちで口を開く黒い人。

 

「それは……」

 

 しかし、それに対しても私は口篭ってしまう。

 

「あははー、行けるわけないよね。ソラちゃんは凄いよね、全く触れたことない異世界異文化の中でもきちんと適応してさ。貴女にそれができる? 無理だよね。自分の世界ですら、自分に何ができるか迷うくらい危ういのに、全く知らない異世界異文化の中でさ、満足に自分の世話が見れる? 一人で歩けるの?」

 

「そんなこと……」

 

 反論できなかった。私にソラちゃんのような在り方ができるのか。そう考えると、不安な気持ちでいっぱいになる。結局のところ、私は自分のことばかり考えている自分勝手な人間なんだと、そう思ってしまう。

 

「きっと今以上にソラちゃんに依存するよ? ソラちゃんの助けがないと何もできない。ねえ、ある意味もっと酷い結果になるかもね。ソラちゃんはさ、みんなのヒーローなのに、独り占めしちゃってさ。ソラちゃんは良い子だから、きっと助けてくれるよね? でもいつか、夢のお荷物になってること、お互い後悔するんじゃない?」

 

「やめて……」

 

 黒い人が突きつけてくる現実に対して、私は耳を塞いだ。まるで抵抗するように震える声を溢す。

 

「ほら、分かってるんじゃん。夢を諦めさせる権利も、夢の足を引っ張る権利も、どちらもありはしないよ」

 

 何もかもその通り。何の反論の余地もない。だからこそ、その言葉は私の神経を逆撫でした。

 

「そんなことわかってる! 私だって、わかってる……。だから、私は消えるんだよ! 今日、ここで!!」

 

 自分でもびっくりするくらいの大きな声で、そう返す。癇癪を起こす私を前にしても、黒い人は怖けずに続けた。

 

「そんなの。やけになってるだけじゃん」

 

 つまらなそうにそう溢す。確かにそう見えるかもしれない。でも、そうじゃないんだ。そうじゃないんだよ……。

 

「そんなんじゃない。私がアンダーグエナジーを、ダークヘッドを抑え込むはずだったのに、それができなかった。なら、次に私にやれることは、悪に屈した私がやるべきことは、このままヒーローに討たれることなんだって……! 私が、ソラちゃんをヒーローにするの……! それが友達にできる最後のことなんだって……!」

 

 言葉が上手く出てこなかった。でも、私は間違ったことは言ってない。そう確信している。そう思いつつも本当はこの人が言うように、ただ意固地になってるだけかもしれない。でも、この気持ちを、この想いを引っ込めてしまったら、間違いかもしれないなんて考えてしまったら、今までの私は何だったんだって感じてしまうから、引くに引けなくて。

 

「それが貴女の考える優しさ?」

 

「そう……信じてる」

 

 真っ直ぐ相手を見据えて言い放つ。間違いなんかじゃない。この想いは決して、間違いなんかじゃないんだから。

 

「弱いね」

 

 何を今更。

 

「分かってる。だから、私には何もできなかったんだよ」

 

「そうじゃなくて。弱いのは、ここ」

 

 そう言って黒い人は私の胸を指差す。

 

「ここ……?」

 

 私は自分の胸に手を置き、呟いた。

 

「優しさの意味をよく考えて、でないと、そのままじゃ誰も幸せになんかしてあげられないよ」

 

 黒い人は最後にそう言い放つと、靄のように霧散し、やがてその姿を消した。

 真っ白な世界に再び一人残されて、私は呆然と立ち尽くす。

 私の何が弱いのだろう。

 優しさの意味っていったい?

 なぜ私には誰も幸せにできないのか。

 分からない……。何も分からない……。

 

 私はふと空を見上げた。

 ああ、空はあんなにも遠い……。

 私には手が届かない。届くわけがない。

 あの人に会いたいのに、あの人に触れたいのに……。

 そんな想いを抱きながら、私は項垂れるようにただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

To Be Continued…




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