ゲヘナ自治区、先ほど銃撃戦が発生した。
といっても、キヴォトスで「銃撃戦が起きた」くらいは、「友たちが転んだ」よりもニュースにならない話題。
しかし、先ほどの戦闘はいろんな意味で普通の戦闘と違った。
まずは、片方は銃を持ってないという、このキヴォトスではかなり珍しい生徒。しかも結果的に見たら銃がもってない方が「勝った」といえる。
「あのガキ、突然噛むとかないっすわ......って、怪我は大丈夫っすか?」
右手に包帯を巻いて生徒は渋い顔で手を動かして確認し、ちょっとだけ痛いけど特に支障は問題ないと判断してから、もう一人怪我を受けた生徒に目を向けた。
「これで止血はできたはずだけど......どうよ?」
「痛い......痛いよ! ぐすん」
もう一人の生徒が、泣きじゃくる仲間の肩を必死に圧迫している。
負傷した生徒は、上半身の制服なく下着姿になったが、本人を含めて、誰もそれを気にするところではないくらい、右肩に包帯を厳重に巻いてる。それでも血がにじみ出てる、それ程の怪我を受けたのが伺える。
この三人こそここを縄張りとしたスケバン集団。先ほど丸腰の謎の生徒と遭遇し、その生徒を気絶させようとしたら反撃を受けた。
それだけならスケバンをやってるうちに何度も遭遇するが、そこからは何もかもおかしい。
まず、その生徒は直近距離で接近したスケバンを飛び掛かって銃を奪おうとした......キヴォトスでの銃撃戦で相手の銃を奪う行為はそこまで頻繫ではなかった。
キヴォトスの戦闘は基本的にどっちも銃火器を所持してるため、格闘できる距離にいるとしても自分の愛銃で攻撃した方が効率的。
それと、ほぼ体の一部である銃を強奪することはある意味服を奪うのと似てる行為。各校の風紀委員や生徒会が犯罪者達を拘束する時は、一時的に武装取り上げをするが、それでもすぐ近くに置かれるのが一般的。つまり理でも情でも銃を奪う行為はこのキヴォトスではほぼ起きない行為。*1
とはいえほぼ見ないだけで、絶対発生しないことでもない。問題は、そのあと。
「いやー姉貴が包帯を持ってたの助かったっすね。私は応急処置の授業ぜんぶサボったから巻き方すら知らないっす」
「念の為用意したけど、私も初めて使ったんだ......くそ、
正体不明の生徒が拳銃を奪ったあと、すぐさまに発砲した。そこまでもいい、問題は、その銃弾はなぜか簡単にスケバンの肩を貫いた。
「分からないよ! ......あ、ちょっと痛みがなくなってきたかも」
「本当? ならよかったっすね」
「よくはねぇよ! 多分知覚がおかしくなってきた......こりゃ流石に
キヴォトスでの銃撃戦は基本的に相手が気絶する行為。まったく怪我しない訳ではないが、基本的にその前に気絶する。それと、気絶後も流れ弾や爆発に巻き込まれることもよくあるが、それでも大きな怪我になることはほぼない。
つまり、一撃で肩が貫通されることはありえない、というよりはあってはならないことだった。
これが肩ではなくもう少し内側に当たったらどうなるのか、想像するだけで恐ろしい。
「げ、私はいいっす、これくらいならまあ寝たら治るので。あそこの部長はなんか、気絶してる人を雑に投げ捨てるらしいっすよ」
「え、じゃあ私も嫌──」
「おめえは大人しく行け! 後遺症が出たらどうすんの!」
「うぅ、はい......流石にこのまま歩くのは恥ずかしいだけど」ちょっと落ち着いたのか、肩に包帯のスケバンが自分の見た目が気になってきた。先ほど応急処置のために服は破り捨てたため、それを着せるのはもう不可能となった。
「それを気にする場合......いや気にすべきか。ほらこれも着な」応急処置も終わったし、このまま歩くのは恥をかかる以外にもこのスケバン集団の名誉に関わる。そう判断したリーダースケバンは秘蔵のコートを彼女の上から羽織った。
「おお、姉貴がかっこつけるためにこっそり買ってたコートっすね。普通なら漢字を書くじゃないの? なぜドラゴンっすか?」
「は? なんでわか...ではなく、かっこつけようとかしてねぇし!」精一杯否定してるが、もはや肯定と同じ反応。
「これはまた珍しい死体、失礼。珍しい検体でした」
「今死体って言ってなかった??」
「言い直しでも検体っすか??」
「銃創ですか?
白い髪に小さな角、青いナース服の少女が包帯を丁寧にほどきながら傷口を観察していた。明らかな銃創ではあるが、彼女の医療知識、それと常識でその怪我は「銃」によるものとは到底思わない。
「無視? 無視したぞこいつ?」
「そういえば自己紹介してませんでした。私は氷室セナ、ゲヘナ学園救急医学部の部長です」
セナは包帯を全部外して、銃口を観察しながら自己紹介をした。
「え、ああ、よろしくっす」
「話題転換強引すぎないか??? まあいいけど、こいつの怪我は治るか?」
「これに関してですが、まずどうやって怪我したのか聞かせてもいいですか?」
「いや、おめぇは怪我を治すだけでいいから、理由を知らなくていいって」
専門知識を持ってる彼女ならそのまま治療することもできるが、目に見えない損傷、感染や合併症、それと患者の意識の確認のために理由を聞くのが責務でもある。とはいえ、その内容によって法的な機関に通報するため、ゲヘナの生徒がそれを答えたくないのはよくある。
もちろん、どうやったら理由を吐かせるのセナも良く熟知してる。
「怪我の原因を詳しく言ってくれないと、誤診で本物の死体になる可能性もあります。私はそれで構いませんですが」
「銃、銃に撃たれたから! なんか知らないガキにダチ......あ、そこのやつの事。そいつの銃を奪われて、撃たれたんだ......嘘に聞こえるかもしれないけどこれが本当だよ!」流石に自分の身の安全にかかわってるから、肩に怪我したスケバンは原因を全部説明をした。
「くそ、名を轟かせた私たちがあんなガキに負けることは話したくなかったけど」
「失礼ですが、お三方はあんまり有名ではないので気にしなくていいと思います」
「いや本当に失礼だけど!?」
「では凶器、ではなく、怪我の原因である拳銃は奪われたのですか?」
「いや、その後怪我したそいつの銃を奪った時落としたっす。この銃っす」右手の包帯を隠しながら、スケバンは自分の愛銃をセナに見せた。
「この銃は何か特別な来歴ありますか? 例えば、変な名前を名乗ったやつから渡されたとか」連続して銃を奪う行為自体は珍しいか、もっと気にすべきなのは怪我を作り出した拳銃。市販の銃では一撃でこれほどの怪我になるのはありえないから、すぐにある可能性を頭をよぎった。
「普通に小学入学の時買ってもらったものっすよ。今までも数えきれないほどの人に撃ったけど、もちろんこんなことにはならなかったっす」
「そうだそうだ、銃は原因じゃねぇのわかってんならさっさと治──」
「これは一旦、調査する必要があります。銃はこちらで預からせていただきます」
「また無視したぞこいつ??」
「いやいや、それじゃあ私はどうするっすか!? 銃がないまま外に歩けとでも言うっすか?」
自分の銃を調査と言われたスケバンは、その銃には特に後ろめたい事もないが多少の愛着を持ってる。それと銃を持ってないまま園に歩くのはまずありえない。
「どのみちご友人の銃も紛失したんで、購買部で調達をお願いします。その分の経費はこちらで負担しますので」
対して、セナは銃を調査する意志がかなり強くて、譲歩するつもりはないらしい。幸い、ゲヘナ学園の購買部も当たり前のように銃を売ってるので、すぐに買いに行ける。
「え? 本当? 見かけによらずおまえ優しいじゃん!」
「......まあそれなら。本当に銃が変ならこれ以降使う気にならないっすね」キヴォトスの不良やスケバンは暴力行為に対して抵触しないが、他人を怪我する行為なら多少の忌避感はある。一見矛盾してる考えだが、このキヴォトスではそういう人種がかなり多い。
「どういたしまして。では検体以外の方々は一旦退室をお願いします」
「って、ようやく治療する気になったのか? こいつは治りそう?」
「はい、この怪我は残念ながら完治できます。とても残念ですが」
「こいつ残念って言った、二回も言った!」
治療が終わり、安静にしないと悪化するという警告を残して退室した後、セナは確保した銃を観察し始めた。
見た目はごく普通の市販品。他のキヴォトス生徒と同じようにペイントやコーディングしたが、やっぱり不審な点は見られない。
とはいえ、こういう物には専門の人に任せるのが一番。
セナは携帯を取り出した。
数回の呼び出し音、そして。
「......ヒナ委員長。お疲れ様です、セナです」
「少し確認していただきたい案件があるのですが......はい、かなり重要です」
「──雷帝の遺産に関わっている可能性があります」
なるほど、全部雷帝ってやつが悪いか!!!(?)
今更ながら※付きは主人公以外視点になる予定