魔弓のイェーガー 作:大根魔法使い
大陸のある夜の森の中。
軽装の装備に身を包み、フードを深く被った女性が焚き火を見つめながら地面に座り込んでいた。
近くにはショートソードと弓が置かれており、一見すると普通の狩人に見えた。
フードから少しだけ突き出てている角さえ見えなければ。
焚き火の光と暖かさを感じる中、そこへやって来る者がいた。
「久しぶりねイェーガー。元気にしていたかしら?」
「……ソリテール。私の狩場に何の用かしら?」
イェーガーと呼ばれた女性は珍しいとばかりに言いつつ焚き火の薪を足し、ソリテールは焚き火の近くに座った。
「近くを通ったからお話しようかなって」
「そう……本当に物好きだね。私みたいな半端者なんかと交流を持つなんて」
イェーガーはそう言ってナイフを手にしてリンゴの皮を剥いでいく。
皮が剥がしていくナイフの刃は鋭く、何かが滲んだ様な跡が残っている。
「貴方だけよ?果物や人間をそうやって剥いだり、解体したりする魔族は」
「私はそう生きる事を学んだ。それを変えるつもりは無いわ」
「ふーん……魔族と人間の混血の貴方は本当に不思議ね。普通の魔族とは違うし、人間とも違う。とても興味があるわ」
イェーガーはソリテールの言葉に意を返さず黙々とリンゴの皮を剥ぎ終えると一口味わう。
「ねぇねぇ、イェーガー。貴方はどちらとして生きてるのかしら?人を食べてる事があるし魔族かしら?それとも人間の様に罪悪感を持ってるから人間かしら?」
「私は……どっちですらないよ……魔族でもない……人間ですらない……中途半端な出来損ないだよ……私は……何者にもなれない……」
イェーガーはそう自虐的に言うとソリテールは微笑みの表情を崩さずにイェーガーを見つめた後、立ち上がった。
「そろそろお暇するわね。まだまだ試したい事が沢山あるから」
「ソリテール。あまり、度の過ぎる事をし続けると後でとんでもないしっぺ返しを貰う事になるよ。程々にね」
「えぇ、そうするわ」
ソリテールはそう言って夜の闇に消えてしまうと残されたイェーガーは暫くの間、焚き火を見つめていたがを消化の魔法を使って焚き火を消し去った。
「狩りの時間だね……」
イェーガーはそう言って武器を手に夜の森を歩き出す。
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暗い森の中、道に迷い、漂う男がいた。
男は隣村へ用事を終え、帰る道中だったが夜になってしまい、そして運悪く持参していたランタンはどう言う訳か灯る事すらなかった。
暗闇の中を歩くしかなくなった男は進むも案の定、道を見失ってしまったのだ。
「クソ……暗いな……」
下手に進むよりも野宿でもして夜を過ごしたい所ではあったが男の脳裏にこの森の噂話が響いていた。
曰く、夜の森に入り込めば必ず一人は行方不明が出る。
曰く、夜の森には怪物がいる。
曰く、夜の闇の中で狩猟をする片角の女がいる。
曰く、食人鬼が潜み、夜な夜な人喰らうと言う。
曰く、夜の深い闇にも関わらず正確に急所を狙う弓の名手。
そう言った噂が絶えず、噂が出るのは必ず何かしら本当だと言う考えが男にはあり、こんな所で野宿などしたらそれこそ危険だと判断して是が非でも帰ろうとしたのだ。
男は荒い息を吐きながらさ迷う中、その様子を見つめるイェーガー。
イェーガーは静かに右手で弓を構え、左手を掴む様な仕草をすると矢が現れた。
「女神様……此度のお恵みに感謝します……私に標的を得る加護をもたらさん事を……」
女神への祈りの様にそう呟くと弓をつがえ、狙いを定めた。
「そして哀れなる獣に慈悲ある死を……」
最後の祈りの様な呟きにイェーガーは矢を飛ばすと森の中で射ぬいたとは思えない様に木々の隙間を通り抜け、そして男の首に矢が当たると首が飛んだ。
「へ……?」
首が飛んでしまった男は一瞬、何が起きたのか分からないまま首は地面に落ち、身体はそのまま倒れると血溜まりだけを作りピクリと動かなくなった。
その様子を確認したイェーガーは男の死体に近寄ると祈る様な仕草をした後で男の死体の身体だけを持って森の奥へと姿を消した。