魔弓のイェーガー 作:大根魔法使い
フラムとの戦い以降、イェーガーは討伐しに来た者、討伐隊として集団で攻めに来た者達との戦いに身を投じる事となった。
人間の中では高名な魔法使いだったのか、フラムの一件で襲撃頻度が非常に少ないイェーガーは名が知れた存在となってしまい、魔弓のイェーガーとも呼ばれてしまう始末だった。
幸いにもフードを深く被っている為に素顔までは知られていないのは不幸中の幸いだった。
森の中を縄張りとし、夜に襲い掛かる露骨な魔族。
そう定義され、大陸に名が知れつつあると言われている。
「此処にはいられない……」
死体の山の中心に立ちながらイェーガーはそう呟くと返り血をそのままに歩き出した。
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暫くして、イェーガーは森の奥でポツンと佇む一つの廃教会の中に入った。
廃教会は長い月日が流れたかの様にボロボロで所々に焼け跡があった。
「……神父様」
イェーガーは悲しげにそう呟くと聖壇まで来るとそっと触る。
「私は今日よりこの地を離れます……慎ましく、静かに生きていたのですが残念ながら肉達は私を捨て置くつもりはない様です……とても寂しいです……ですが何時の日か女神様の導きがあればまたこの地に戻ってきます……きっと……」
イェーガーは優しく微笑み、旅立ちを決意した所で人の気配を外から感じ取った。
イェーガーは弓を片手に外に出ればそこにはダンディーな髭を生やした男がいた。
「君が魔弓のイェーガーか?」
「……そうだと言ったら?また私を殺す為に送られてきた人間?」
またかとばかりにイェーガーは溜め息をつきつつも油断無く弓を持ち、睨み付ける。
「それもあるが別に今すぐに争いたい訳ではない。話をしないか?」
「何故?私は人間から見れば魔族。沢山殺したし、食べたりした。なのに対話を望むの?」
変わった男だとイェーガーは思った。
イェーガーが例えハーフの魔族だとしても人を殺し、喰らう存在だと認識されれば問答無用で殺しに来る者が後を絶たなかった。
イェーガーが未熟な時代であった時は殺しに来た者達から必死に身を潜め、やり過ごす日々から思えば異例過ぎる事だった。
「君は普通ではない。混血の魔族だね?」
「だとしたらなに?混血だから人を食べないって思ってるの?」
「いや……君の話を聞いてきたつもりだ。容赦なく人を殺し、食べている……そう聞いてた。実際に人の死体の山も見た。全て射抜かれていた。正確に急所を……だが、イェーガー。君は魔族であり、人ではないか?」
男のその言葉にイェーガーは答えない。
「君の悪名の他に聞かされた話がある。この森には人々を助ける弓使いがいるとか」
「へぇ……そんなのがいたんだ……」
イェーガーは初めて聞いたとばかりに言うと男は言う。
「何でも昼に森に入った子供が魔物に襲われ、危うく命を落とす寸前で一本の矢が魔物を貫いたそうだ。その子供は命からがら逃げて無事に帰る事が出来たと言う。そしてまたある昼の森では道に迷った商人に道を教えた狩人がいたとか」
「知らないね……私、長い事、この森にいるけどそんな人、見なかったよ?」
「そうだな……この二つの話の何れにもこの森には狩人はいないと近くの村に住む者達が言っていたからな」
イェーガーは無表情ではあるが、弓を握り締める力を強める。
「君がそうなんだろ?森に住み、太陽の光がある時に人々を助ける狩人は?」
「違うわ。私はよくも悪くも魔族。そろそろ無駄口を叩いてないで戦おう。時間の無駄だもの」
「ふむ……やむ終えないか……その前に一つ、賭けをしないか?」
「賭け?」
「勝った者が望む物を手に入れる。命でも何でもだ。どうだ?」
「別に構わないけど私が勝ったら分かってるよね?」
「その時はいざぎよく喰われるとしよう」
男はそう言って腰から二振りの剣を抜き、構えるとイェーガーもそれに答える様に弓を構え、矢を生み出す。
「ねぇ……貴方の私に対する願いは何なの?命を奪うのは分かるけどわざわざ賭けにする必要がある?」
「それは私が勝ってから分かる事さ」
「……まぁ、良いや。どうせ貴方も私の糧になるしね」
イェーガーはそう言った瞬間、素早く矢をつがえ弓を引き、神速の如き、一撃を放った。
普通ならばこの時点で負けている……しかし、この男は普通ではなく、それを読んでいたかの様に剣で認識しきれない程のスピードで飛んできた矢を弾き落とした。
「ッ!?」
「防がれるのは初めてか?これでも読み合いは得意でね……そう簡単にはやられないさ」
「……成る程。久しぶりに手強い獣と当たったね……貴方、何者?」
イェーガーのその問いに男は微笑むと。
「人々からは南の勇者と呼ばれている」
そう名乗った。
その後、南の勇者と魔弓の戦いは三日三晩行われたと言う。
南の勇者の読みの高さと戦いの腕は常人離れしたイェーガーを狙撃と不意打ちを躱し続け、追い詰めたと言う。
そして……戦いが終わってからの出来事は記述には残されてはいない。
只、一説によると一人で活動していた南の勇者の側にフードを深く被った弓使いがいたと言う話が残されており、地域によっては南の勇者を称えながら南の勇者と共に戦ったとされる弓使いの像が作られ、今もなお語られていると言う。