昨日の夜?いや、今朝か。いやいや見ていたのは寝ている途中とかだから間をとって未明か・・・めんどくせえからそこはもうどうでもいいか。てことで気を取り直して、俺は今日、13年と8か月生きてきた中で誰がどう文句を言ってこようとぶっちぎりで恐い、ってレベルじゃ片付かないヤベェ夢を見た・・・・・・どういう夢かって?そんなのこっちが聞きてぇわ!なんでわけわかんねぇ転校生的な謎のクラスメイトにナイフで腹と心臓をぶっ刺されて死ぬ夢を見なきゃいけねぇんだよ!?俺ってそんな悪いことしたかオイ!??・・・とまぁ、俺の見た夢を真面目に解説すると、1年後の3学期の終業式が終わった帰り道で幼馴染の蒼志と途中にあるY字路でさよならしたあたりでスマホを教室の机に忘れたことに気付いて慌てて帰ったら、なんかよくわかんねぇうちにわけのわからない名前も顔も知らないこのクラスの
「うぃーす蒼志」
「おう元希」
「てかなんで俺の席座ってんのお前?」
「いや、俺はちゃんと出席番号順で座ってるよ。黒板のとこ見てみ、ちゃんと席順書いてあるから」
「は?・・・あぁそっか、教室変わったから出席番号順になってんのか。わりぃわりぃ」
そして人生史上最大にヤベェ夢を見たせいで心ここにあらずみたいな気色悪い感覚が朝起きてからずっと残ったまま2年C組の教室に入った俺は、学年が上がったことで席順が一旦リセットされて出席番号順になっていることに気付かず、普通に1年C組で前まで座ってた席に座っている蒼志にナチュラルにツッコんで、蒼志からクソ真面目に論破される。
「大丈夫かよ元希?春休み明けでまだボケてんのか?」
「あぁそうかぁ?そうだなぁ。そーかもなぁ」
「どっかで聞いた台詞出てきたな」
それもこれも、全てはあのクソヤベェ夢のせいだ。あの夢が妙に頭から離れないせいで、なおさら今日から中2になったって感じが全くしない。まあ、ただでさえ俺の通うこの学校はクラス替えがないから“転校生”でも来ない限り面子はずっと同じで、強いて言うならほんのちょっとだけ教室の感じが変わるってぐらいで、変わり映えもクソもない。
「つーか聞いてくれよ蒼志」
「いきなりなんだよ元希?」
とりあえず
「いや。なんでもねぇ」
あの夢のことを蒼志に話してスッキリしようと思い出したらバイオがハザードしそうなくらいバイオレンスで恐ろしい光景が頭ん中に浮かんで、結局愚痴るのをやめる。なんでか知らないけど、朝起きてからずっと悪い意味であの夢が忘れられないでいる。夢ってこんなふうにずっと頭ん中に残るようなもんなのか?普通は朝起きてすぐ忘れてるのがベターなんじゃなくて?・・・あれぇ、もしやこれって夢じゃなくて霊的なやつ?だったらマジ中のマジで勘弁なんだけど??百歩譲ってクソ暑ぃ夏とかに憑りつかれるんならメンタル的な意味で涼しくなれるからまだしも・・・ってよくねぇわ!!
「あっそ」
「・・・なんかそっ気なくねお前?」
「なんでもないんじゃないのかよ?」
「なんでもありますん」
「どっちだよ」
「ベホマズン」
「勝手に回復すな」
ってな感じで俺が謎の転校生みたいなやつにぶっ殺される夢を見たなんて思いもしないC組で一番の背高ノッポの蒼志は、安定のローテンションでどっからどう見ても意味深な俺の“なんでもねぇ”を華麗にスルーときやがった。いや別にいいんだけどさ、ちょっとは気にならねぇのかなこのノッポは。ここまでどーでもいいって感じでスルーされるのって何気に傷つくもんなんだぜこれ?こう見えて俺って意外と繊細でピュアなんだぜマジで?説得力はちっともないだろうけど。
「そうだ元希。今日からこの学校に来る転校生の話って聞いてる?」
「転校生・・・」
「久しぶり、井口くん」
「クソッ・・・俺の脳みそが疼いてやがる」
「中二病か」
前触れもなくいきなり蒼志の口から“転校生”っていうワードが飛び出して、俺の脳みそが悪夢のトラウマのおかげかリアルガチで疼いた。ような気がした。
「だいたい転校生が来て脳みそが疼くって何?」
「さあ?逆にこっちが聞きたいわ」
「ていうかさっきからいつにもまして変だぞお前?」
「俺が“変”なのはいつもだろ?」
「そうだけど自分からそれ言うなよ」
転校生・・・確かに始業式の季節になると、転校生が俺たちのクラスにやってくる、的な展開は漫画とかアニメでも割とよく見るし、リアルでもそこそこド定番なイベントだから、別に全然不思議なことじゃない。
「で、その転校生とやらはどのクラスに入るというんだい
「2年C組。俺たちのクラスだよ」
「ぬぅわっ!・・・なんてことだまた俺の頭がっ」
「転校生にどんなトラウマがあるんだよお前は・・・」
けどさぁ、何でよりによってあんな夢を見た日に転校生が来ちゃうかなぁ・・・しかも俺のクラスとかこれ、いよいよ笑えなくなってきたっぽくねこれ・・・てか心霊通り越して呪いが蔓延し始めてんじゃないのこれ?いよいよ1000万体の呪霊が解き放たれた的なやつなんじゃないのこれ!?教えてくれよ!!五●先生っ!!
「そのことだけどさ・・・実は俺、転校生に腹と心臓ぶっ刺されて殺されたんだよね」
「は?」
「夢の中で」
「・・・なんだ夢か」
というクソみたいな悪ふざけで脳みそを新鮮にしながら悪夢のトラウマを振り切って、蒼志に夢の中身を伝える。
「なんだ夢かって・・・一応夢の中だけど殺されてんですけど俺?」
「けど夢じゃん」
「おう。まあ、夢だけど」
そしたら蒼志のやつ、クソほど“どーでもいい”って感じで俺の恐怖体験を“夢じゃん”の一言で片づけやがった。つっても事実で正論だから別にこいつを責める気にはならねぇけど、嘘でもいいからもうちょい興味あり気なリアクションしろよこのクソノッポは。そんなんだから俺とりら以外で友達ができねぇんだよ。
「・・・なるほど。そういうことか」
「あ?なにが?」
「その転校生に殺される夢を見たせいでボーっとしてたんだな元希は」
「してたか?」
「だって普通に席間違えたじゃん」
「あれは、事故だろ」
「言い訳下手か」
って言うとさすがに可哀想だし、蒼志にとって友達って呼べる存在こそ俺とりらの2人ってだけで別にクラスでも部活でも孤立してるわけじゃないから、心の中で留めておく。
「ほんと分かりやすいな、元希は」
そのくせ、この
「ていうか夢ごときでうなされすぎだろお前」
「いやマジで恐いとかそんなレベルの夢じゃなかったってマジで!腹とかマジで死ぬレベルで痛かったし」
「とりあえず“マジ”なのは分かった」
けどそれとこれとは別で、とにかく今はこのノッポ野郎のポーカーフェイスを崩すために、俺の見た夢の恐ろしさを味わせてやりたい。絶対伝わる気はしねぇけど。
「だったらお前も見てみろよ?人からナイフで腹刺されて恨みつらみ言われて最後に心臓ドスッってやられる夢」
「どんだけ悪いことしたらそんな夢見るんだよ?」
「なんで俺が悪い前提なんだクソノッポコラァ」
「邪魔」
イイ感じにヒートアップしてきたところに、背後からやや冷めた横やりが聞こえた。振り返らずとも誰かは一瞬でわかった。
「おひさー元希ぃ」
「2年になってりらから言われた第一声が“邪魔”とか落ち込むわー」
「しょうがないじゃん。邪魔だから」
「フツーに後ろから入って真っ直ぐ行きゃいいだろが」
「蒼くんもおひさー」
「おひさー」
「華麗にスルーしてんじゃねぇぞお前ら」
蒼志の席でたむろしていた俺を邪魔呼ばわりしたこいつは、
「で、なんで元希は蒼くんの
「ボーっとしてたら自分の席間違えたって」
「余計なこと言ってんじゃねぇぞ蒼志てめぇ」
「もしかして3学期に座ってた席と間違えちゃったとか?」
「・・・おう。悪いか?」
「ぁははっ、全然ウケない」
「ウケないんかい」
「てかフツーに悪いことしてるから蒼くんに謝んな」
「いや座ってねぇしギリセーフじゃね?」
「蒼くんはどう思うこの人の言ってること?」
「とりあえず俺に謝っておくべきだと思う」
「お前らマジで都合が良いときに限って一致団結しやがって・・・」
だけどこいつは俺だったら何を言っても許されると勘違いしているところがあるのかないのか知らんけど、小4のときから良くも悪くも俺に対して容赦がない。おまけに中学に上がってからは“ヤンチャ”なグループとも仲良くなりだしたせいかなんか垢ぬけて、言動とかノリがなんかちょっとギャルっぽく(※俺の主観)なった。そのくせ絵だけは相変わらず好きなこともあって入ってる部活は美術部で、普通に中1にして全国レベルのコンクールで入選しちゃうくらい絵心と才能がエモってる。もちろん、中2になっても顔はずっと可愛い。
「おはよーりら昨日ぶりー」
「おはよー
普段から仲良く話してる
「(りらのやつ・・・中学に上がったら変わったな・・・)」
そういやりらとは、小学校のときは学校の中で休み時間とかに一緒に遊んで、学校が終わったら蒼志たちと一緒にゲームしたり“1人だけレべチ”な絵しりとりをして遊んだりするようなこともあるぐらいには、普通に友達って感じで一緒にいた。けど中学に上がってからは、なんつーか今まで以上に男子と女子でグループが分かれるみたいなやつかは知らないけど、何となく疎遠になった感がある。蒼志も含めて、相変わらずクラスは同じで話す回数が極端に減ったワケじゃないから寂しさはない。けど、互いに他校だった連中ともそれぞれ仲良くなっていったせいか、一緒にゲームとかしたりみたいなことはパタリとなくなった。まあ俺らはそれぞれ部活動とかでそもそも一緒にいれる時間も減ったから、しゃーないところもある。
「(けど・・・やっぱりらは可愛いな・・・)」
ただそれでも、りらは小4のときからずっと可愛い。何なら中2になって女子らしさが増したおかげか、心なしか可愛さが増してる・・・・・・って、さっきからフツーにキモいな、俺。
「せめてもの償いで夜阿瀬さんもきみのところに連れてくるから、おれのことは恨まないでね・・・井口くん」
「・・・そうか、“あの後”でりらは」
「りらちゃんがどうした?」
自分の席に着いて志水と仲良く話しているりらをガン見している自分に自分でドン引いた瞬間、あの夢で“あいつ”が言っていた言葉が浮かんできて無意識に独り言が漏れた。あの夢の中にいた “あいつ”は、俺を殺した後にりらも手にかけようとしていた。そんな“あいつ”を止めようと、最後の力を振り絞って動かない身体でどうにか立ち上がろうとしたところで心臓を刺されて、俺は目が覚めた。まず、“あいつ”って誰?って話だけど。
「いや、なんでもねぇ」
「ていうか、りらちゃんのこと思いっきりガン見してたろ?」
「してねぇつの」
なんて夢を話しても細かすぎて絶対に伝わらないに決まってるし、そんな気はなかったけどりらをガン見してたことを
「うぉぉい井口!元気してたか?」
「ハハッ、いつも通りよ」
「なぁ?転校生がオレらのクラスにくるって話ってマジなんかな?井口はなんか聞いてる?」
「いや、俺はついさっき知ったばっかだからわかんねぇわ(夢ん中で転校生に殺されてきたけど・・・)」
「男子か女子かって誰か聞いてたりするこれ?」
「噂だけど男子らしいぜ」
そして席に戻ったタイミングでクラスの中で蒼志の次によく話してる谷口たちと駄弁っていたら、あっという間に朝のチャイムが鳴って、担任の
「はいみんな席着いてー」
柴崎の鶴の一声で、俺たちは渋々と自分の席に座る。普段とほとんど変わらない教室の日常。そうだ。あれはただの夢だ。俺の身体には刺された痛みもかすり傷ひとつもないし、転校生が来ることもよくある話だ。今まで見た夢で一番恐ろしかったのとたまたまタイミングが重なったせいでややこしくなってるだけで、何にも気にすることなんてないんだ。そもそも夢の中で起きていた出来事は、1年後の終業式の日に起きたことだからだ。
「(・・・1年後・・・ん?)」
あれ?これってまさかの“予知夢”パターンだったりする?
「先ずはみんな、新学期おめでとう」
いや。それは考えすぎだな。うん、きっと。
「只今より、川越市立東谷中学校、令和6年度始業式を行います。一同、起立」
「おーい気持ちは分かるが静かにしろー」
なんて具合に頭の中を駆け巡る夢の記憶と格闘していたらあっという間に始業式が終わってしまった。いつもだったらクソ長く感じる校長の話も、今日だけは始業式と合わせてめちゃくちゃ早く終わってしまった・・・ように錯覚した。
「というわけでもう感づいてる人もいると思うけど、今日からこのクラスに転校生が入ることになりました」
そして2年C組に戻ってこのクラスに来る転校生の話で持ち切りになっていた俺たちへ、黒板の前に立つ柴崎は噂の転校生が来ることを伝え、教室の外に向けて合図を送る。まだあの夢が頭の中から消えないうちに、そのときがきた。
「長野県の
パッと見で俺より少しだけ背が高くてシュっとしていて、目に少しかかるくらいの長さの茶色がかった髪に、見るからに女子ウケが良さそうなイケメンって感じの顔つき。全く見覚えがないはずなのに、俺はその転校生にどこかで見たことあるようなデジャブを覚えた。
「大森理人です。よろしくお願いします」
「井口くん」
「(・・・“あいつ”だ)」
転校生の大森の口から夢の中で俺を殺した“あいつ”と全く同じ声がして、夢で見たあの光景が再び頭の中で鮮明に蘇る。全く同じ顔、全く同じ背丈、全く同じ声をした長野から来た
「じゃあこの後また席替えするけど、大森君は一旦あそこの空いてる席へ」
「はい」
俺が見たあの夢は、ただの夢じゃなかった。