“転校生”・・・と言えば、みんなはどんな転校生がクラスに来るのを想像するだろうか。ドラマとかに出てる女優だとかカウント●ウンTVとかに出てくるアイドル並みに可愛くて美人な高嶺の花子さん系女子。あるいは、俺たち男子が嫉妬すら起こせないレベルで超高校級にカッコいいイケメン男子・・・なんてあまりに出木杉君な展開は、リアルでなんてまず起こりはしない。だいたい転校生っていかにも俺たち生徒のことを“楽しみだろぉ?”と煽ってるワードにまんまと踊らされるせいで変に期待するから、こんな変な妄想が生まれるって話。まあ、俺もちょっとは期待しちゃうけどさ・・・だって“転校生が来る”なんて言われたら、嫌でもどんな奴が来るか楽しみになっちまうもんだろ?俺たち中学生の思考回路なんて所詮そんなもんだろ?これ以上言うと“コンプライアンスの悪魔”からデストロイ・・・じゃなくて誰かから怒られそうだから、もうやめておくけど。
「大森理人です。よろしくお願いします」
というわけでそんな俺のいる2年C組にやってきた転校生は、夢の中で俺を1年後にナイフで刺し殺す大森理人くんという、まあまあイケメンな転校生でした・・・・・・いや、どうリアクションすりゃいいの?これ??
「じゃあせっかく大森くんがC組に来たことなので、席替えの前に軽くみんなで自己紹介を_」
柴崎に促されて空いてる席へと歩いていく大森を、何とかポーカーフェイスを貫きながら横目で追う。うん、どっからどう見てもこいつは間違いなく夢の中で俺を殺した“あいつ”だ。そっくりさんとかってレベルじゃなくて、マジで同一人物だって確信できるレベルで“あいつ”だわ。マジで。えっじゃあこれって予知夢?やっぱ予知夢なのかこれ!?
「(・・・いや、冷静になれ俺。まずはこれが予知夢だとしたら、大森から殺されることを回避する方法を考えるんだ)」
そうだ。もしこれが本当に予知夢だとしてもまだ1年、正確には11か月と何がしは時間があるから、いくらでも回避しようと思えばできるはずだ。思い出せ。夢の中にいた俺は、どうして大森に殺されたのか・・・・・・そうだ、スマホを忘れて教室に戻って殺されたんだ。だったらスマホを忘れなければいいだけのことじゃねぇか・・・って、たったそれだけのことで俺は殺されるのか?
「(スマホを忘れただけで、俺は殺された・・・・・・スマホを忘れただけなのに・・・)」
「井口くん・・・おーい井口、起きてんのか寝てんのかどっちだ?」
「?・・・ハイ?」
と、俺の中で予知夢疑惑が浮上しつつあるあの夢のことを結構本気で考えていたところに柴崎の声が入ってくる。なんかよくわかんないけど俺の知らないところで勝手に何かしらが進んでいるっぽい、って感じの流れなのは周りのC組連中の視線でわかった。
「井口、自己紹介」
「自己紹介?なんで?」
「話聞いてなかったのか?」
「・・・あぁ、オッケー。そういうことっすねセンセー」
「分かってるならさっさと立って自己紹介しろよー井口」
“あーこれは、転校生が来たからとりあえず自己紹介しておくか的な流れだな”という山勘で適当にそれっぽく返事して立ってみたら、なんか知らんけど当たってた。
「井口元希です。部活はバド部やってます。1学期もよろしくおなしゃす」
「よっ!」
とりあえず合ってるかどうか知らんけどクッソ適当にそれっぽい自己紹介をして、合いの手を入れた谷口と仲良くスベって何ともリアクションのし難い空気とまばらな拍手の中で席に座る。なんかこれ、もうちょいふざけ倒したほうが良かったんじゃね?っていう“やらずに後悔”的な気持ちが込み上げて、一瞬で消えて冷静になる。
「(・・・あぁ、やっぱりあれはただの夢だ)」
ていうか、やっぱ予知夢こそ一番あり得ねぇだろ。そもそも大森の声とか顔が夢に出てきた“あいつ”と“たまたま”超絶怒涛にクリソツだったってだけで、単なるタチの悪夢でしたっていうのがどれよりも現実的って話よ。そうそう、やっぱりこれは単なる悪い夢。全ては“たまたま”で、“たまたま”が重なって“たまたま”予知夢的な感じになっちゃってるってだけのことだ。もう何にも気にする必要もない。ありがとう、C組のみんな。道連れになった谷口たちのまばらな拍手のおかげでやっとあの夢は“ただの夢”だって気付けたよ。お前らのおかげで朝起きてからずっと続いてた深夜テンションから解放されたよ。もうほんとにマジ感謝。C組最高。イェイ。
「大森理人です。実はここに来るまでに軽く道に迷ってしまったので、先ずは学校までの道のりをちゃんと覚えたいと思います。ということで、今日からよろしくお願いします」
自分の番になった大森が席から立ち上がって少しだけ緊張した様子でもう一度自己紹介をすると、俺とか他のみんなとは打って変わったやや大きめな拍手が教室で起こる。何せ転校生の大森は間違いなく今日の主人公だから歓迎されるのは当然って話で、俺も一応歓迎はしてるから空気を読んでそれっぽく拍手をしておく。
「(いや声も顔もめっちゃ似てんなオイ!)」
つっても似てんだよなぁ“あいつ”と大森くんは。ほんと
「(うん。大丈夫だ。これもまた“たまたま”だ。“たまたま”、“たまたま”が起きただけなんだ。全ては、“たまたま”だ・・・・・・アカン、ゲシュタルった)」
大森の声で再び深夜テンションになりかけた頭の中を“たまたま”で埋め尽くしたら、頭が“たまたま”でゲシュタルって危うく“レストインピース”しかけた。
「では、席替えを始めます」
そんなこんなで夢の中で俺を殺した“あいつ”と現実で俺の前に現れた大森という転校生を勝手に照らし合わせて“
「えーまた井口が隣かよつまんねー」
「しゃあねぇだろくじ引きなんだからよ。恨むなら柴崎を恨め」
くじを引き終わって、そこに書かれていた席に自分の机を移動させる。隣になったのは同じクラスでりらと仲が良い志水。案の定、3学期から連続で隣になった俺に冗談半分ガチ半分で嫌悪感を示す。ぶっちゃけこいつは何気に幼稚園のときから互いに同じ組の顔見知りで、小学校で一旦離れて中学でまた同じクラスになった腐れ縁だ。別にいまは仲悪いとかそういうわけでもなくなったけど、マジで犬猿だった幼稚園のときにめっちゃ喧嘩して仲良く先生から怒られまくった記憶しかないこいつのことは、あんまりいけ好かない。要はりらが良い意味での腐れ縁だとしたら、志水は悪い意味での腐れ縁。って感じだ。
「あ~あ、せっかくなら大森くんの隣が良かったのにな~」
「悪かったなこの俺で」
「ホントだわ“永遠の5歳”が」
「誰が●チャピンだ」
それから証拠とかはねぇけど、りらが中学に上がって“ギャル化”したのは間違いなく
「ってか、井口と木谷くんがめっちゃ仲良いのがずっと謎なんだけどうち」
「いや蒼志がすぐ後ろにいんのにそれ聞くな」
ただ幸か不幸か知らんがなだけど、俺の真後ろの席は“理解者”とかいて幼馴染、“幼馴染”と書いて心の友でもある蒼志になった。
「別にめっちゃってほどじゃないよ。たまたま小1からクラスがずっと同じってだけで」
「へぇ~・・・てことは幼馴染ってやつ?」
「まぁ、みたいな」
「うっわそれめっちゃエモいじゃん」
「俺と蒼志の扱いの差よ・・・」
クソみたいな会話を盗み聞いて間に入ってきた蒼志には、俺とは打って変わって普通に“女子”になって接してくる志水。まぁわかるよ。だって蒼志のやつはこのクラスで一番の高身長で頭も良くて地味に顔も良いしバドも“3年の先輩が引退したら間違いなくエース”って言われるくらい普通にできるし・・・ひとまずバド部の2年は俺と蒼志とA組の藤原とD組の
「つーか志水、そんなに俺が嫌ならりらと席交換してもらえよ。そしたら隣は大森だぜ?」
「えっ?マジでいいの?」
「少しは躊躇えやクソ女」
と、不細工な劣等感に襲われる前に、話題を逸らしてちょうど俺がさっきまで座っていたあたりに視線を移す。
「でもいいや。りらに悪いし」
「いいんかい」
「あと、井口の指図だけは死んでも受けたくない」
「女じゃなかったらそろそろ殴ってるぞマジで」
「男でも普通にアウトだけどね」
「木谷くんナイス!」
「俺の周りには誰も味方がいねぇのか・・・」
視線の先には廊下側から2列目の前から2番目のところにりらが、そしてその隣の一番廊下側のところに大森が座っていて、隣の席になったりらが転校生の大森に親しげな感じで話していて、ちゃんとは見えないけど大森は自己紹介のときよりリラックスした感じで相槌を打っている。
「(大森が、りらの隣か・・・)」
夢の中にいた“
「(もう何も起きないよな・・・)」
いや、いやいやいや。あくまで全部夢の中の話だけどね?別にりらが心配だとか大森がりらになんかしでかすんじゃねぇか不安だとか、そんなんじゃないからねこれ!?だってもう何回も言ってるけど、あれはマジで“たまたま”そーいう夢を見ちゃって“たまたま”夢ん中に出てきた奴と声と顔が瓜二つな転校生が“たまたま”この学校の同じクラスに来ちゃったってだけだからこれ。てかまず夢で見た“あいつ”はあんな爽やかな表情なんかしてなかったし、C組にきた大森くんは“あいつ”と違って眼もちゃんと生きてるし・・・いや死んでたらそれはそれでヤバいけど。とにかく声も顔もドッペルゲンガーってな感じで似てるけど、雰囲気とかは全くの別人だから。ってかやっぱアレだな。やっぱ“あいつ”は大森じゃねぇや。大森とそっくりなだけの別人だ。まず、人に殺されるとかどんだけ恨まれることしたんだって話よ。俺が“口悪い・そこそこクズ・バカ”の三拍子揃ってる“ろくでなし”なのは百歩譲ってこの際認めてやるよ自覚あるから。けどよぉ、さすがに俺でも人からぶっ殺されるほど恨まれるような嫌がらせはしねぇよ、マジで。だって俺、これでも人を虐めるようなことをするのはマジで大嫌いだし、そういう奴とだけは絶対関わんねぇって決めてっから。だから絶対あーなるのは“ありえへん”って、自信もって言ったるわボケェ。
「(・・・本当に起きないよな?)」
だったらじゃあ、この感覚は一体なんだ?ただの夢だってわかっているはずなのに、ずっと頭の中で何かが引っかかり続けているかのような疑心暗鬼な感覚。あれは“ただの夢”だってずっと言い聞かせないと納得できない、無理やり自分を落ち着かせているようなこの感じ。残念ながらこの学校に上がると同時に理系科目を捨てたおバカな俺の脳みそじゃわかるわけねぇって感じだけど、俺の脳みそはちゃんと今朝に見た夢が予知夢でも何でもないただの夢だとずっと言ってるけど、俺の心がそれを否定してるチグハグな感覚・・・
「(やっぱ・・・あれってただの夢じゃ)」
「さっきから何りらをガン見してんの?」
「は?してねぇよ」
「どこをどう見てもずっとガン見してたようにしか見えなかったけどね?ってかなに?まさか井口ってりらの隣狙ってた?えっキモッ」
「狙ってねぇしどストレートにキモッとか言うな。あとそういうのマジで傷つくからやめろ」
「安心して井口にしかしないから」
「隙を生じぬ二段構え・・・」
「だからそーいうとこがキモいっつんだよクソ井口」
に浸っていたら、また俺はよりによってりらをガン見していた。“希望の空”と書いて
「(もうやめた。忘れちまおう、こんなアホくさい夢)」
そしてこんな“アホくさい”ことをずっと考えていてもキリがないと今度こそ悟り、俺は夢のことを考えるのをやめた。