「チョレイ!シャア俺の勝ちじゃあ!」
始業式とホームルームと最後に全校集会をやって午前中で学校が終わって部活もオフの俺は、一旦家に帰って昼を食った後に蒼志と一緒にリチャースの近くにあるバッティングセンターに行って、バッティングではなく卓球をしていた。もちろん、バッティングは卓球の“前座”でちゃんと1セットやった。
「“ツキ小”のとき部活でやってただけあってほんと卓球は強いよなお前は」
「だろ?」
「バドでは一度も俺に勝てたことないのに」
「やかましわ、言っとくけど俺は次の大会んときまでにこんなふうに覚醒する予定だからよ」
「こんなふうにって卓球で覚醒してどうすんだよ・・・」
やっぱり色々とあった日には、こうやって気の合うやつとスポーツとかゲームで発散するに限る。
「・・・そういや元希はどう思う?」
「ん?何だよ蒼志?」
「転校生の大森くん」
「さあ?知らんがな話とらんし」
「なんでいきなり方言?」
そう。今日は何かと“色々”とあった。つーか、まだ一日が半分も終わってねぇのに色々とありすぎる説。このご時世にコンプラの限界を攻めまくってる水●ウでもさすがにこんな手の込んだドッキリはまず見ねぇだろこれ。だって人の夢にまで介入してくるドッキリとか聞いたことねぇしできるわけもねぇからな・・・って、まーた夢のこと考えてるし俺。もう考えるのはやめるって神に誓ったろ、俺。
「てなわけで今から“大森のワード使ったら罰金ゲーム”スタートすっからよろろす」
「どんなゲームだよそれ」
「はいスタート」
「だから何で大森くん」
「ハイ蒼志罰き~ん!」
「いやいやさすがにこれは意味がわからん」
「屁理屈言わないでくれますかねぇ木谷くぅん?言っとっけどゲームはとっくに始まってんだよ。この世界、どんなことがあっても臨機応変に合わせて行かねぇと転校生の大森とも上手くやってけねぇぜ?」
「シンプルにうぜぇ・・・あと、なんかそれっぽい感じのこと言ってるけど普通にお前も名前言ってるからね?」
「・・・・・・あ」
「気づくのおそっ」
蒼志の一言で、せっかく忘れかけていた夢のことをまた思い出してしまった。ってかごめん、ついさっきまで“忘れちまおう、こんなアホくさい夢”と心に誓っていた俺。やっぱ忘れられるわけがねぇよ。あんなヤバすぎる夢。しかもこれ、あのヤバすぎる夢に出てきた“あいつ”と声も顔もそっくりな転校生まで来やがったから・・・もうどう足掻いても記憶から消すのは無理だよこれ。どーすんのこれ?
「・・・やっぱ元希、今日ずっと変だぞ」
「またそれかよ。もっと他にねぇのか」
「まだ2回ぐらいしか言ってないんだけど」
やっぱり、ってか案の定な感じで蒼志は俺の様子がおかしいことにずっと気づいている。いや、あんな夢なんて見たら誰だって1日中おかしくなるってこれ。逆に平常心でいられるほうがスゲェよ。そんなやついんのかオイ?
「・・・なんか大森くんのことずっと警戒してるけど、どうした?」
「なんかっつーか・・・あれよ」
「もしかしてお前が見たって言ってた夢と関係してる?」
「キッショ。なんでわかるんだよ?」
「“キッショ”は言わなくていいだろ」
てか、これはもう、蒼志にだけは下手に隠したりしないで言ったほうがいいか。
「・・・あぁ・・・信じられねぇことは百も承知だけどよ・・・・・・俺、夢ん中で大森に殺されたんだ」
「・・・いや、だからどんな夢だよ?」
「あーわかるよ。すげぇわかる。そりゃそうだよな。だって転校生の大森にぶっ殺されるとか何言ってんだって話だし、まず殺される夢とか意味分かんねぇよな。うし!じゃあもう1セットやるかオラッ!」
「まずは情緒をどうにかしろ」
いざ打ち明けてみたら、蒼志は漫画より漫画な目が点な感じのリアクションを返して来やがった。まあ、俺が逆に蒼志からそう言われても、全く同じ反応をするだろうけど。
「って悪ふざけはこのぐらいにして・・・さて、真面目な話をしよう・・・舞台は1年後の終業式の日。終業式が終わった帰り道で、俺とお前はいつものように一緒に下校しながら残りの1年間のこと、どの高校に志望するかとか・・・まー細かいところは忘れちまったけど、そんな話をしながら帰っていた」
「元希、語り口が無駄に芝居がかってるせいで話がまるで入ってこないんだけど」
「そして夢の中にいた俺は、お前と一緒に帰れる日々があと1年しかないことに心の中で少しだけ感傷的になりつつ、いつものようにお前と話しながら帰っていた」
「そのまま続けるのかよ・・・ていうかお前ってそんなふうに俺のこと思ってたのか」
「あぁすまない。最後の“くだり”は忘れてくれ」
「否定はしないんだな」
「では、話を戻そう」
「本当に否定しないんだな」
「そして俺とお前はいつものY字路でサヨナラをして、俺はこの後に谷口から遊びに誘われていることを気にしながら、徐に右のポケットに手を入れた・・・そして俺は、気付いてしまった・・・・・・ポケットに入れてあるはずの俺のスマホが入ってないではないかぁっ!・・・と」
「そんなの忘れたお前の勝手だろ」
「俺はただひたすらに走った。教室に忘れてしまったスマホを、この手で取り戻すために、無我夢中で走り続けた。全身に力を込めて、この身体を1秒でも早く前へと押し進めるように、来た道を全力疾走で戻った」
「ちょっとだけメ●スっぽく言ってるけどスマホ忘れて慌てて学校に戻ってるだけだろ」
「学校はもう目の前。そのとき・・・A組の藤原が、俺に話しかけた」
「今更だけどまさかこのノリで最後までやるつもりかこれ?」
「“井口どうした?”・・・と、藤原は俺に聞いてきた。相手にしている暇などない俺は・・・“スマホを教室に忘れた”と、すれ違いざまに答えた・・・藤原は、“馬鹿かよ”と笑った・・・俺は、“やかましいわ”と言い返した」
「無駄に溜めてるだけで言ってることが馬鹿浅ぇ」
「こだまでしょうか?いいえ、誰で」
「これ以上ボケ倒すんなら俺もう帰るわ」
「あー待って待って!こっから先はマジで真面目に話すから!」
「・・・ひとつ聞きたいんだけど、ここまでの流れって話す意味あった?」
「多分、ほぼない」
「じゃあ帰るわ」
「マジでごめんもうふざっ、ふざけねぇから!」
「大事なところで噛むな」
~ここから先は1話のおさらいになるため割愛~
「・・・ってワケよ」
誤魔化しの悪ふざけに耐え切れず結構マジで帰ろうとした蒼志をどうにか宥めて、俺は今朝の夢の内容を覚えている限り全て話した。もちろん、りらのことも含めて。
「・・・とりあえず、元希が洒落にならないくらい“ヤベェ夢”を見たっていうのは伝わったよ」
どこまで伝わったのかはわかんないけど、りらのことを話したおかげか蒼志は一応ちょっとだけ
「ぶっちゃけさぁ、割としんどいんだぜこれ・・・夢っつっても自分が殺されたとこを思い出すわけだしな・・・そりゃあ一回おふざけ挟まないとメンタルが持たないってこれマジで・・・ってかこれ、多分しばらくトラウマ的な感じで残るやつだわ」
正直、あの光景は思い出すだけでしんどい。たかが夢と言っても、あれは本当に強烈すぎた。R18指定の殺戮ゲーとは比べ物にならないほどの生々しい血の感触と、ぶっ壊れた“あいつ”の狂気。どっかの番組で事故だとか災害のトラウマに苦しんでいる人のニュースをやってたのをいつかの夕飯のときに見た記憶が薄っすらと残っていて、ちゃんとは見なかったけど、あのときの俺は絶対にあーいうふうにはならないと思っていた。
「シンプルに俺はどうすりゃいいんだろうな?つってもわかるわけねぇよな、お前に聞いても」
まさか、たかが夢ごときでこうなるとは思ってもみなかった。
「・・・元希は自分の見た夢はただの夢って思ってんの?それとも“予知夢”?」
「さぁ?思い出したくもねぇからわかんねぇ・・・けど、ただの夢じゃねぇって気はしてる。だってこんなに夢が強烈に頭ん中に残り続けたのが初めてだからな」
「じゃあいっそ、“予知夢”だと思ってこれからの1年間を生きてみれば?」
トラウマに襲われてどうしたらいいかわからなくなった俺に、蒼志はひとつの提案をした。それは、思い切って“予知夢”だと思って1年を過ごすということ。
「予知夢?いや馬鹿言うなよ大森があんなことするわけねぇって」
「それでも夢のことを忘れられないなら、いっそのこと予知夢だと割り切って殺されないように努力すればいい」
「努力って?」
「簡単だよ。元希が夢の中で殺される3学期の終業式の日まで、大森くんから恨みを買うようなことをしなければいいだけの話。まあ、仲良くするかしないかはそっちで任せるけど」
「・・・あ~、はいはい。これは余裕だわ」
随分と簡単に言ってくれるじゃねぇか感は半端ないけど、確かに蒼志の言ってることは筋が通っている。仮に俺が見た夢が本当に“予知夢”だとしたら、1年後の未来を回避するためにやるべきことはただ1つ、大森から恨まれないように学校生活を送ればいいだけのこと。
「ほんとか?」
「これでも俺、いじめとか嫌がらせとか超嫌いだから」
「まあ、お前のことだからよほどのことをしなければ殺されずに済むとは思うけど・・・やっぱちょっとだけ心配だわ俺」
「なんでだよ?」
「だってお前、口悪いじゃん」
「ぐっ・・・俺はっ、明日から3学期の終業式まで学校では喋ってはいけないとでもいうのかっ・・・!」
「何でそうなる」
「どお゛し゛て゛だよ゛お゛ぉぉぉ!!」
「もう俳優になれよお前」
余裕だと言って見せたものの、一度も恨まれずに終業式までいくのは簡単なことじゃないのは想像するに容易い。だって俺、口悪いもん。
「ていうか蒼志、さっきから俺の言うことめっちゃ信じてくれんじゃん」
「こうでもしないとお前が納得しないだろ」
「って思った時代が俺にはありました」
それにしても、こんなときに限って優しいんだよな蒼志のやつは。教室でこの話をしたときはマジで興味ねぇ感じでスルーしやがったのに、俺が夢の中身を覚えてる限り洗いざらい話しただけでこの変わりようときた・・・ったく、そーいう普通に優しいとこがあるから俺はお前のことを憎めねぇんだよ。マジで。
「まーでも、蒼志のおかげでだいぶ気はラクになったぜ。ってかこれ、どっちかって言うと腹が決まった的な感じか・・・知らんけど」
けど、あの夢が予知夢だって思えたら、なんかそれだけでスゲェ気分が楽になった。というより、気分がラクになったのは俺が見たあの夢のことを知っているやつが1人増えたっていう、安心感のおかげかもしれない。これぞまさに、持つべきものは友と言うものか。知らんけど。
「そうと決まれば頑張るよ、俺。つってもどう頑張ればいいかわかんねぇし、マジで予知夢って決まったわけでもねぇけど」
「逆に予知夢だって思いながら1年後まで生きて、大森くんが普通に良い人で特に何にも起きないまま終業式の日になって、元希の心配が杞憂に終われば最高だよな?」
「・・・当たり前だろ。それが一番だ」
とにかくひとつだけ確かなことを言うとするなら・・・・・・
「さて、気を取り直して2セット目行くか蒼志っ!」
「・・・へいへい」
「じゃあまた明日な、蒼志」
「おう。今日の夜は良い夢見れるといいな元希」
「うっせぇわ」
学校が終わった後に、たまに行くバッティングセンターでバッティングと卓球をやってストレス発散の引き換えに蒼志と仲良く1000円ほど散財して、その後に蒼志んちにお邪魔して小一時間ほどスプラって、イイ具合に空が夕方って感じになったところで蒼志んちを出て、自分の家に戻る。これが、始業式のおかげで午前中に学校が終わって部活もオフの日の俺たちの放課後ってやつだ。どうだ?最高だろ新一年生ども。ぶっちゃけ小4あたりからあんまやってることは変わり映えしねぇけど。
「(・・・さて、と・・・・・・明日からどーしよマジで)」
と、楽しいことだけを思い出して現実逃避しながら歩いていると、家がもうこの目で見れるぐらいのとこまで来ていることに気付いて、逃避していた現実に戻る。いや、現実逃避の意味よ。
「(・・・恨まれないように・・・って、どうすりゃいいんだ?)」
バイオよりもハザードでハザードよりもバイオな夢のトラウマで完全に参っていた俺に、蒼志は言った。“予知夢だと思ってこの1年を生きろ”、と。そのやり方は至ってシンプルで、ただ大森から恨まれないように夢の中で見た終業式の日までクラスメイトとして関係を築けばいい。まあ早い話が喧嘩を売るな、大森が嫌がるようなことをするなって話だ・・・つっても、そんなこと気を付けてたってふとした一言が相手の逆鱗に触れるなんてこともよくあることだ。なんか30年くらい生きてる人みたいなこと言ってるけど、これは一回だけ蒼志とマジ喧嘩したときの教訓だから中2の俺でもそれぐらいはわかる。
「(やっぱ、距離を置くのが無難ってとこか・・・)」
一番確実なのは、距離を置くこと。けどなぁ、それはそれでなんか違う気がするんだよなぁ俺は。距離置くってことは大森を避けてるってことになるから、逆に“あ、コイツ俺のこと避けてんな”って感じになって目ぇ付けられそうだし。ってか、俺的にもそういうのは気が乗らねぇし。そもそも大森が“あいつ”と同一人物なのは、あくまで蒼志の言ってた通り俺が見た夢が予知夢だった場合に限る話だし・・・かと言って仲良くなりすぎてもそれはそれで墓穴掘りそうだし・・・いや、そうなったらなったでひたすら大森を全肯定するイエスマン・・・になれるならこんなに悩みはしない。だいたい俺、人の言いなりみたいになるのは嫌いなんだよこう見えて・・・あれ、俺ってこんな性格だけど大丈夫なんかな?
Q.そんな
A.大丈夫だ。問題ない。
「んなわけねぇだろぉぉ!・・・・・・・ヤバッ、おもっくそ声出てた・・・」
脳内で天使と堕天使が明らかに死亡フラグでしかない問答をし始めたところに心の中でセルフツッコミをしたら、思いっきり近所迷惑レベルの独り言が出た。こういうときは、下手に振り向いたり周りをキョロキョロと見渡したりすると逆にダサく見えるので、敢えて何事もなかったかのように堂々とこの場から歩き去るに限る・・・
「(誰も見てない。そうだ、誰も見てなんかいない。大丈夫だ、問題ない)」
もちろんこうやって自分に言い聞かせないと正気を保てなくなるくらいには、尋常じゃないレベルで恥い。てかこれ、ワンチャン俺んちの中からも聞こえてんじゃねぇのこれ?オカンに聞こえてんじゃねぇの下手したらこれ??
「(・・・死にてぇ)」
ヤバい、想像してたら軽く死にたくなってきた。ってか、ぶっちゃけ恥晒した今ならいっそ殺・・・・・・なわけにはいかねぇわな。あと、“死にたい”なんて言葉は冗談でも軽々しく使うんじゃねぇぞ、少年少女。って、誰に言ってんだ俺は。
「夜阿瀬さんもきみのところに連れてくるから」
「(・・・ちょっと待てよ)」
誰に言うでもない独り言で死にたいくらいの羞恥に襲われているうちに一周回ってめっちゃ冷静になったところで、俺はあることを思い出した。
「(もし俺が助かったとしても・・・・・・りらはどうなるんだ?)」
「井口くんだよね?」
「!!?」
夢の中であの後“あいつ”に殺されるかもしれないりらのことを思い出した瞬間、背後から“あいつ”と瓜二つな声が聞こえて振り返る。
「・・・ドウシテココニイルンダイ?オオモリサーン」
「なんで片言?」
振り返ったら、
作者的には、次回までが実質第1話です。