「ねぇりら、
「なんかよくわかんないけどさっき元希が谷口くんたちと“大森くん歓迎スペシャル”とか言って昼休みにドキュメン●ル?ってやつやるとか言ってたからきっとそれ」
「何それ小学生かよウケるんだけど」
「ほんとにね~、まぁ大森くんも何だかんだ元希たちと楽しそうにしてるから何よりだけど」
「前から思ってんだけどりらって井口に優しいよね?」
「一応普通に友達だからねあいつは。バカで言動もアレだけど」
「てかアレ、もうドキュメン●ルってよりガ●使じゃね?」
「ごめん希空、わたしどっちも名前だけ知ってるパターンからよくわかんない」
「マジで?じゃあ明日部活休みだしウチ来て鑑賞会やる?絶対りらもハマるから」
「それ賛成」
「五●より~普通に~ナ●ミンが好っきぃぃぃっ!!夏●より~普通にそう、ナ●ミンが好っきぃぃぃっ!!ハァァイ!!・・・ってお前ら笑えや!!」
「ドキュメン●ルは笑ったら負けだっつんだよ井口」
「知っとるわ!」
「てかこれ人のネタまんまパクってるやん」
「別にいいんだよパクリだろうが笑わせればこっちの勝ちだからな!ほら、大森も遠慮なんかせず笑って笑って」
「いや、これって笑ったら負けってゲームなんじゃ?」
新学期が始まって2日目。とりあえず1年後の終業式に俺のところに襲い掛かってくる説の
「つーか井口、どうせだったらもっとこう盛り上がれるやつにしねえか?やっぱドキュメン●ルは芸人がやるから面白くてズブ
「たまに根も葉もない正論言ってくるよな
のだけど、俺のチョイスがアレだったせいで大森のテンションは今一つって感じだ。やっぱクラスにいる“ちょっとおもろい奴”程度の中坊が、安易に深夜テンションで思いついたノリでプロのバラエティーに手を出したのがそもそもの間違いだったのか?うん、そうだな、きっと。
「じゃあ逆に谷口とかは何かあんのか?」
「俺か?・・・じゃあ無難に“ギリ放送できる細かすぎて伝わらないモノマネ”とか」
「無難って言ってる割に随分と攻めたな」
「では先行は“わたくし”谷口で行かせていただきやす」
「い~やまさかの自己申告で始めるスタイル」
「“違法賭博で捕まった通訳”」
「一発目から余裕でアウトやないかい!」
「お前ら、さっきからナチュラルに大森くんのことほったらかしてね?」
そうしてこの俺がツッコミに周るレベルでボケ倒すC組の“最終兵器野球バカ”こと谷口にアイデアを振ったら、余裕でK点超えのアウトなネタをぶっこんできて谷口の親友でもある取り巻きの
「どうする?ってか大森は逆に何がいい?」
「おれが決めちゃって大丈夫なの?これ?」
「全然いいぜ!ってか、大森がしたいことならなんでもいいぜ!」
「えっとじゃあ・・・・・・特にいいのが思いつかなかったから“指スマ”とか」
「うおマジで絶妙なの来た!じゃあ早速やるぜお前ら!指ス」
キーンコーンカーンコーン_
「ってなんだよもう昼休終わりかよ!?」
「しかも今日の5限って理科じゃね?」
「はぁ?うわメンドマジで」
と、よりによってC組の中でもクセが凄い“いつもの面子”でいつもみたく屯ったばかりに、“ドキュメン●ル大作戦”はグダグダなまま玉砕した。
「大森。何つーか、フツーにごめん」
「ううんそんな謝んなくていいって井口くん。ドキュメン●ルごっこ、普通に面白かったし」
「そうか。そっか。それは良かった、マジで」
でも、これで“イケメン転校生”の大森は“普通に良い奴”ってのがほぼ確定で分かったから・・・・・・まぁ、いっか。
「はぁ~・・・蒼志ぃ、やっぱ大森と上手くやっていける気がしねぇよ俺」
「昨日のバッティングセンターでの心意気はどこ行ったよ?」
なんて切り替えられるはずもなく、6限終わりの清掃時間に一緒にトイレ掃除をする蒼志へと俺は愚痴る。
「だいたいよぉ、1年後に俺を殺すかもしれねぇ奴とどうやってコミュニケーション取れって話だよマジで。つか何でよりによってC組に来るんだよあいつ」
「そんなの俺に聞かれてもどうにもならないよ。てか、こういう話はあんまり学校の中でしないほうがいいと思うぜ?」
「えっお前酷くね?一応こっちは命懸けだっつーのに?余命1年切ってる説の親友が目の前にいんのに見殺しですか?」
「そういうことじゃねぇよ。万が一俺らがこういう話をしていたところを大森くんが偶然通りがかってみろよ?最悪それで盗み聞きなんてされたらいよいよ終わりだって話」
「ったく、それを先に言えっつんだよノッポが・・・・・・うわなんか“ブリカス”こびり付いてるし最悪だ死ねマジ」
「ブリカスって何?」
「ウ●コのカス」
「そんなことだろうと思ったけど聞かなきゃ良かった」
「これだからトイレ掃除だけはやりたくねぇんだよクソが」
「トイレだけに」
何せ相手は、“あいつ”とドッペルゲンガーレベルで似ている大森だ。もちろん転校してきた大森はめっちゃ良い奴で、今のところ夢で見た“あいつ”とは姿と形以外はまるっきり別人だ。てか、マジで別人であってほしい。シンプルに死にたくねえから。
「てか大森くんと仲良くなりたいんならその口の悪さ直せよな元希」
「あ?別に仲良くなりたいってわけじゃねぇよ。俺はただ、
「その割には随分と積極的だな」
「仕方ねぇだろ大森が“あいつ”になることを阻止するには先ずはC組に馴染んでもらわねぇとだからな」
「まぁそれも重要だけど」
「てかお前ってそもそもどれぐらい信じてんの俺の夢の
「“馬鹿だなこいつ”ってぐらい」
「薄々そーだろうなとは思ってたわ俺らがドキュメン●ルやってんのを遠巻きで本読みながら見てた時点で」
「あーいうのは趣味じゃないからな」
「はっ、所詮は他人事のお前はお気楽なこった」
「だって関係ないじゃん」
「いやそうだけど少しは俺の心配してくれよ親友だったら」
「“親友”って言葉は一番信用してないんで」
「かぁぁっ!捻くれてやがんなぁこのクソノッポは!」
「こんなとこでデカい声出すなうるせえ」
出来ることならもう一生やりたくない学校のトイレ掃除をしながら蒼志としょーもない言い合いをして、ストレスを吹き飛ばす。断じてこれは八つ当たりとかではない。
「・・・やっぱ相当焦ってんな、元希」
もちろん俺が昨日からずっと焦っていることは、小1からの付き合いの蒼志にはとっくにバレバレのようだ。
「無理ねぇだろ。昨日の今日だぜ?“あんな
当たり前だ。夢ん中で殺されて、その殺したやつと全く同じ顔と声のやつが同じクラスにやって来るっていう狂気・・・んなもん、無●様ですら秒で細胞分裂して一目散に逃げるレベルでヤベェっつう話だ。
「ちゃんと寝れたか昨日は?」
「あ?あぁ。どんな夢見たかは1ミリも思い出せねぇけど、なんかフツーにぐっすり寝れたわ」
ちなみに言っておくが、こんな状況に置かれても何だかんだで夜は普通に寝れるみたいで、1週間は引きずってロクに寝れねぇだろうなと思っていても、普通に寝落ちて普通にアラームで起きた。つっても、俺の身に起きている問題は何一つ解決なんてしてねぇし状況も変わってなさそうだし、ってか、まだ整理もついてねぇけど。
「そうか。よかったな」
「なんだよ急に?」
「いや、聞いてみただけ」
「ほんとお前っていきなり優しくなったりすっからなに考えてるかたまにわかんねぇよな」
そして自分でもわけがわからずわけがわかんねぇゲームで大森とクラスの壁を無くそうって考えて、なんかグダってわけわかんねぇまま昼休みが終わって結局どんな感じで関係を作っていけばいいかさっぱりわかんなくなってお手上げな俺に、蒼志はどこか優しい感じの雰囲気を出して心配をしてきた。
「けど、こうやって話せる
本当に蒼志ってやつは、急に優しくなるからなに考えてるかマジでわかんねぇけど、こうやって俺の身に起きてることをありのままに話せるやつがいるっていうのは、やっぱり良いものだ。知らんけど。
「思うんだけどさ・・・もっと普通な感じでいいんじゃない?」
「普通?んだよまたアドバイスか」
「嫌ならやめるけど?」
「嘘ですお願いします木谷様」
「現金なやつだなマジで」
純度100%で本音な感謝を言うと、蒼志のやつは昨日に続いてアドバイスを俺によこした。
「これから元希が大森くんと仲良くするにしてもしないにしても、あんなふうにクラスに溶け込むことを押し付けるより、もっと普通に大森くんと接していったほうがいいって俺は思う。俺たちがまだ大森くんがどんな人かを知らないように、大森くんも俺たちC組のことは知らない。だからまずは様子見って感じで適当に距離を取りながら、少しずつ時間を掛けて仲良くしていく・・・っていう感じに、俺だったらするかな?」
「お前・・・友達少ねぇくせに結構考えてんだなそーいうとこ」
「一人好きで面倒なことが嫌いだからだよ」
「うわ開き直ったよこいつ」
「俺だって周りの連中とはトラブルとかそういうのは起こしたくないし、喧嘩なんか論外だしな」
俺やりら以外とは馴れ合わない“一人好き”のくせに、意外とこういうところは冷静でちゃんと考えていて抜かりない。誰かと話したり一緒に何かをやるのが好きで、後先考えず気が合って笑い合えるような友達になれればきっかけだとかいきさつなんて割とどうでもいいのが基本な俺とは生き様とかがまるで真逆だから、こいつの言うことは何だかんだで別視点的な意味でめちゃくちゃ参考になったりもするから、言うのは恥ずいけどマジで感謝はしてる。
「まぁ元希が最悪余計なことを口走ってやらかしたら、そのときは俺がフォローの1つでも入れてやるよ」
「なんで俺がやらかす前提なんだよ?」
「“お前”だからだよ」
「ブリカス洗ったモップ顔面にぶん投げるぞクソノッポ」
「だから“そういうところ”だっつの」
まぁ、やっぱり言うのは恥いし言ってもこいつのことだから“お前どうした?”って感じの微妙なリアクションしかしてくれねぇだろうから、そう簡単には言わねぇつもりだけど。
「理人くん。1コだけ聞きたいことがあるんだけどいい?」
1限目の時間にクラスの係や班ごとの清掃場所をクラスのみんなと決めたおれは、場所決めで決まった昇降口の掃除を、箒の片付け場所を教えてもらった隣の席の夜阿瀬さんと一緒にやっていた。
「うん、いいけど」
もちろん転校して最初に割り当てられた場所も
「なんかどっかのネットニュースとかで長野県の学校は掃除中に一言も喋っちゃいけないってゆーのが書いてあったんだけど、マジなの?」
ただ、ここでどんな話を夜阿瀬さんとしたかとかは飛び降りたときのショックなのか元からなのかは分からないが、ほとんど思い出せない。
「あーあれね。別に強制されてたわけじゃないし喋ってる人は普通に喋ってたけど、“無言清掃”っていうのは小学生のときから教わってたよ」
「無言清掃?」
「無言で掃除に集中して自分たちが使ってる教室だとか学校を綺麗にすることを心掛けようって、いつどこで広まったかはわからないけどそういう掟みたいなのが時代を超えて広まってきた、って感じかな」
「へぇ~、おもしろいじゃん」
「まぁ言っても諸説だし、それを守ってる人は少なかったけどね?」
こうやって話してみると、あのときも掃除をしながら“無言清掃”の話で盛り上がった気がしなくもないけれど、やっぱり鮮明には思い出せなくなった。果たしてこれはタイムスリップしたショックからなのか、それともただ単におれ自身が忘れているだけなのか。まぁ、今更思い出したところで良い気分はそんなにはしないだろうけど。
「で、理人くんはどうだったの?」
「ぶっちゃけた話をすると・・・普通に友達と喋ってた」
「うわ不良じゃん」
「不良って言えるかなそれ?」
「嘘だよ。ここだったら真面目にやってれば喋ってても怒られないから」
井口くん曰く、“中学に上がってギャル化した”と言っていた美術部の夜阿瀬さん。だけどギャルだとかそんなの関係なく、最初から壁を作らずフレンドリーに他所から来た転校生を受け入れる裏表のない優しさだけは、やっぱり記憶の中にいる夜阿瀬さんと何一つ変わらない。
「てゆーか今日、元希たちからよくわかんないゲームみたいなのに付き合わされてたじゃん」
「あぁ、ドキュメン●ルね」
「ぶっちゃけしょうもなかったでしょアレ?」
「ううん、普通に面白くて何回も笑いそうになったよ」
「マジ?でも元希の“何とかが好き~”みたいなやつとか理人くんに聞くのも悪いけどどこが面白いか全然わかんなくない?」
「大丈夫、井口くんのやってたネタはおれも笑いどころがよくわかんなかった(呪●ネタなのは分かったけど・・・)」
「ぁははっ、何なの
「“本家”のネタはめちゃくちゃ面白いんだけどね」
“小4からの付き合いと書いて腐れ縁”だと井口くんが言っていた夜阿瀬さんは、そんな井口くんのことを馬鹿にしつつもどこか自慢げな感じに微笑みながら楽しそうに話す。
「まあでも、元希って何だかんだで普通に友達思いな奴だからさ。だから腐れ縁のわたし的にはあいつと仲良くなってくれると嬉しいかな。もちろん“生理的に無理”そうだったら仕方ないけどね」
「“生理的に無理”は言い過ぎかと・・・」
おれにとってはもう既に1年分の思い出自体は残っているから分かっているけど、本当に彼女は井口くんのことを幼馴染として大事に思っているのが棘のある言葉の節々から伝わってくる。
「けど、転校生のおれをあんなふうに気に掛けてくれたのは凄く嬉しかったし、一緒にいるとそれだけで楽しい気がするから井口くんには感謝してるよ」
「そっ、なら良かった」
「・・・なにやってるの・・・・・・理人くん・・・」
そんな夜阿瀬さんを見て、どうしておれは死のうとしたんだろうか?
「・・・そうだ、理人くんって部活動とかはどこに入ろうって思ってるの?」
なんて心の内などつゆ知らずの夜阿瀬さんは、昇降口の床に溜まっていた埃を払い切って隅にある用具入れに箒を戻そうと足を進めたおれを立ち止まらせるように声をかけて問いかける。
「部活かぁ・・・」
こんな感じで夜阿瀬さんに聞かれて、1年前のおれは何て答えて、そしてどこの部活に入ったのか・・・“それだけ”は覚えている。
「美術部に入ろうかなって考えてる」
もちろんこの選択が、結果的に“
「一応、バドミントン部に入ろうかなって考えてる」
1年前の今日、自分がどの部活に入るかを夜阿瀬さんに打ち明けたことだけはハッキリと覚えていたおれは、1年前とは違う選択をした。その理由は・・・“井口くんと自分の死”を避けるため。
「バド部・・・それって元希と蒼くんと一緒じゃん!あ、蒼くんっていうのは木谷くんっていう元希の後ろの席に座ってる背高ノッポの人ね」
「へぇ~、あの人もバドミントン部なんだ(知ってるんだけどね・・・)」
「理人くんってバドミントンやったことあるの?」
「本格的にはやってないけど、体育の授業でやってみたら意外とできたから、これを機に始めてみようかなって思ってさ」
「言っとくけどバド部って結構ハードだよ?」
「うん。噂では聞いてる」
とは言っても、“そのこと”を伝える術はまだないのだけれど。
「今日からよろしくね、理人くん」
「ちなみにその中でも蒼くんは特に強くてさ、1年のときから“絶対にエースになる”って言われたみたいで、今じゃ“東谷中の桃●賢斗”って異名がついてるくらいらしいし。全部元希が言ってたことだけどね」
「すごいじゃん(そういえば木谷くんってバド部でエースやってたな・・・)」
「ま、ここのバド部はあくまで弱小だから過度な期待は禁物だけどね」
「でも運動部でエースになれるって時点ですごいと思うよ」
タイムスリップしてから一晩経って、おれのことを知らない井口くんや夜阿瀬さんたちと会ったことで、おれは1つだけ決めたことがある。それは記憶の中にある“おれが井口くんを刺し殺して自ら命を絶つ未来”を変えること。タイムスリップする前のおれがどうしてあんなことをしなければいけなかったのか、結局どんなに思い返そうとしても肝心なところで靄が掛かって全く思い出せなかった。
「でも意外かも。理人くんがバド部って」
「そうかな?」
「うん。なんかあんまり運動部に入ってそうな感じがないっていうか。めっちゃ偏見だけど」
「ははっ、偏見かい」
だけどもしもこのまま何もしなかった場合の1年後の
「また明日学校でな!じゃあな!」
きっとそれは、井口くんだって同じことだ・・・というのを確かめる意味合いも込めて、俺は今の井口くんと“友達”として距離を縮めるため、バドミントン部に入ることを決めた。
「まぁ、スポーツは好きだけど運動部に入るのは今回が初めてなんだけどね・・・」
前の学校で入っていた部活とは違う部活に入ることを夜阿瀬さんに打ち明けて、おれは持っていた箒を昇降口の隅にある用具入れに入れる。
「ねぇ、理人くん」
「?」
するとおれと同じく持っていた箒を用具入れに片そうと後ろにいた夜阿瀬さんが、箒を片手に“あること”を聞いてきた。
「実はわたし・・・理人くんのこと前から知ってるんだよね」
「・・・え?」
「やっぱり・・・あの絵って理人くんのやつだよね?」
「1月のアート甲子園で銅賞獲った『黄色』って作品だけどさ・・・・・・あれって」
キーンコーンカーンコーン_
「夜阿瀬さん、予鈴みたいなの鳴ってるけど大丈夫かな?」
「あー大丈夫・・・じゃないね早く戻ろう理人くん!」
ちょうどいいタイミングで鳴った清掃時間の終わりを告げる予鈴に助けられる形で、おれは夜阿瀬さんと一緒に急いで2年C組の教室へと戻った。
食事中にうっかり読んでしまった人がいたら、ごめんなさい。