バカと運命と召喚獣   作:湯ノ川

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私立文月学園

 

 私立文月学園。多くの科学者達による弛まぬ努力と、たった一つの偶然(オカルト)から生まれた奇跡の産物を試験的、及び実験的に運用する為に設立された学園であり、他の学校には無い特殊なカリキュラムと、独自の教育方針を持つ事で世間からの注目を浴びる新設校である。

 

 所属するクラスが年に一度の振り分けテストで決められ、全三百人の生徒を、成績上位順の五十名ずつ、計六クラスに振り分ける。上位者には各席にノートパソコンとリクライニングシート、更には冷蔵庫と空調までもを備えた完璧な環境を、下位者には隙間風が吹きすさぶ教室に、畳とちゃぶ台のみを支給するといった劣悪な環境を用意する事で、上位者は下位者を蔑み、自らの地位を守ろうと勉学に励む。そうする事で最上位者は守る為、中位の人間は更に上に登らんとし、下位の人間は最下層にだけは落ちんと留まろうとする。

 

 そして、そんな恥辱にまみれた最下層に住まう人間は何を思うのか。年に一度の振り分け試験ですら頑張れなかった者達が、来年の振り分け試験の為に備える?否。断じて否である。持たざる者たちの答えは至ってシンプルだ。持ち合わせがないのであれば、持つ者から奪えばいい。その為のシステムが文月学園には構築されている。名を試験召喚システム。問題数無制限のテストを最大一時間以内で解き、その試験の点数を戦闘力に変えて、自らの分身となる"召喚獣"を呼び出し、使役する。持つ者と持たざる者。願う者と拒む者。そんな互いの願いと信念を掛けた戦争、それが試験召喚戦争と呼ばれるものであり、持たざる者達が自らを変える、唯一の手段である。

 

 四月も下旬。そんな科学とオカルトから生まれ、願いと想いを賭けて潰し合う学園(戦場)の前に、私は立っていた。

 

「……意外と普通の学校みたいだ」

 

 校門の前に立ち、校舎を見上げた私、『春夏冬 千秋(あきなし ちあき)』の口から自然とこぼれた第一声がそれだった。

 

 新学期が始まってすぐの事、急遽決まった父の仕事の都合から、幼い頃に住んでいたこの地へと帰って来る形で、ここ文月学園へと転校する事になった。

 

「この辺りの子はみんな文月に行くみたいだけど、あの子も、ここに居るのかな……」

 

 甦るのは、幼い頃の大切な思い出。社交性が無く、一人ぼっちだった私に声を掛けてくれた、大切な友達。あの子は友達も多かったし、多数の内の一人でしか無い私の事など覚えていないだろうけれど、あの時、声を掛けてくれてありがとう。その言葉を伝える為に、私はここに来た。

 

「とりあえず、職員室に行かなくちゃ。学長室にも顔を出せって言われてるし」

 

 そうは言いながらも、せっかくだからと散策を始めた私は、校庭の付近に差し掛かった辺りで、カキンという軽快な音を聞いた。その直後、「危ない!」という叫び声が聞こえ、その方向へと視線を送ると、飛来する球体とそのボールを追う男子生徒の姿があった。

 

 野球ボール?体育か何かで野球をやってるのかな。あれ?でもあの子、普通の制服着てる。

 

 考え事に耽る私を見て、何やら慌てた様子の男子生徒の表情が、より一層険しいものになった。

 

「間に合わない!召喚(サモン)ッ!」

 

 それは、試験召喚獣を呼び出す為の言葉。驚く私を他所に、彼の呼び出した召喚獣は人を遥かに上回る速度で私に迫り、跳躍と同時に反転、目前へと迫る野球ボールへと手にした木刀を振り下ろした。それは物理の法則に則り、打ち返されるか何処かへ弾き飛ばされるかと思われたが、勢いを完全に殺されたボールは、その召喚獣の真下へと落下した。

 

 システムの都合上、召喚獣には自身で物を考える機能等は搭載されていない。召喚獣を操るのは、あくまで召喚士の方なのだ。つまり今の卓越した技は、召喚した彼自身の技という事になる。

 

「すごい……」

 

 私の口から出た、素直な賞賛の言葉。それは駆け寄って来ていた男子生徒の耳にも届いたのか、不思議そうな顔をしていた。

 

「ビックリさせてごめん!怪我とかしてない?」

 

 自身で助けたにも関わらず、相手の心配から入るという事は、この人は少なからず良い人なのだろう。

 

「あ、はい!ありがとうございます。助かりました」

 

「そっか、それなら良かった。……もしかしてだけど、召喚獣を見るのは初めて?」

 

 この学園の特徴でもある召喚獣は、入学と同時に各生徒に与えられる。試召戦争を行えるのは二年生になってからだが、一年生の授業の中にも、召喚獣の操作を学ぶ機会は複数回用意されており、こんな時期に召喚獣を見た事が無いというのは、外部の人間だけなのだ。

 

「えーっと、はい。明日から転入する予定です」

 

「えっ、明日?そのネクタイピンの色、二年生だよね?君、振り分け試験は?」

 

「いえ。こっちに来たのも昨日の事でして」

 

 一年に一度の振り分け試験は厳格な物だ。余程の理由でも無ければ欠席は未試験、つまりゼロ点として記録され、自動的に最下層へと落とされる。この時期に引っ越してきた私も例外なく未試験扱いとなり、Fクラスへの配属が確定している。

 

「そっか。じゃあ、君もFクラスなんだ」

 

「……も?、って事は貴方も?」

 

 私がそう彼に問い掛けると同じタイミングで、金属バットを肩に担いだツンツンとした赤髪の男子生徒が歩いてきた。

 

「おーい、何やってんだ?……もしかして、その子に当たったのか?!」

 

 見た目こそ悪そうではあるものの、他人の心配から入る辺り、この人も良い人そうだ。

 

「いえ、この人に助けてもらいました。召喚獣で」

 

「召喚獣?お前、無許可で召喚して大丈夫なのか?」

 

「あはは、多分後で怒られるね。召喚したのはログでバレてるだろうし」

 

「そうか。まぁそれはいい」

 

 赤髪の少年は私の方を見ると、真剣な様子でこちらを見た。

 

「さっきのボール。打ったのは俺だ。すまなかった!」

 

「ごめんなさいっ!」

 

「ちょっ!頭を上げてください!私は何ともありませんから!」

 

 ガバッと勢い良く頭を下げた赤髪の男子生徒と、それに習う様に頭を下げる、召喚獣を操った茶髪の男子生徒。劣悪環境と呼ばれるFクラスへの配属は、正直なところ憂鬱な事ではあったものの、こんな彼らと同じ所なら、まぁ多少悪くはないかな。そんな気持ちを胸に私の新たな青春が、幕を開けようとしていた。

 

 

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