「失礼します」
軽いノックの後、部屋の主から入室を促された私は、その一言と共に学長室へと足を踏み入れた。
「来たかい。随分と遅かったようだね」
高級そうな椅子に座り、私に声を掛けてきたのは藤堂カヲル。この学園の学園長にして、試験召喚システムの生みの親でもある人物だ。
「まぁ、途中で色々ありまして。それよりも、干渉は教員にしか付与されていないはずでは?」
試験召喚獣と呼ばれるその
「ん?物理干渉の事かい?あぁ。教員とごく一部の生徒にしか付与されていないよ」
「ごく一部、彼がそうということですか」
先程出会った、私を助けてくれた男の子の事を思い出す。明日からはクラスメイトになると思うと、少しワクワクする気持ちがあった。
「おや?その言い草。あいつに会ったのかい」
「えぇ。面白い人ですね。同じクラスで良かったですよ」
「……悪かったとは思っとるよ。けれどお前さんは三百一人目。本来ありえないイレギュラーなんだ。編入を許しただけで精一杯ってもんさね」
「あー、まぁ最初は文句の一つでも言ってやろうかな、って思ってましたけど、あの人たちと一緒なら、まぁ良いかなーって。それに、"父もまたお世話になる事ですし"」
父の仕事。それは学園長、藤堂さんと同じ科学者で、私が小さい頃は藤堂さんの元で試験召喚システムの開発に携わっていた。詳しい事は一応機密事項となっている為聞いてはいないが、今回またこの地に帰ってきたのも、父が再び試験召喚システムの研究に関わる事になったからだった。そして、私も試験召喚システムとは遠からず縁がある。
「……すまないね。春夏冬一家に、十年前の続きをさせることになっちまって」
「いえ。父が十分なお給料を貰えたお陰で、私もここまで来れましたので。今回のお仕事も、期待していいんですよね?」
「あぁ。わざわざ呼び戻したんだ。納得が金で買えるんなら、安いもんさね 」
私達一家は藤堂さんとの付き合いもかれこれ長くなる。藤堂さんにとっては、信頼出来る人材の確保を。父にとっては、かつて仕えた尊敬する先達者との再開。どちらにとっても悪い話ではない。もちろん、私にとってもだ。
「あ、そうでした。聞きたいことがあるんですが」
「ん、何だい?」
「私の友達、あーちゃんは、この学園に居ますか?」
私が文月学園に来た目的。大切な友達との再開を果たすには、藤堂さんに訊ねるのが一番早かった。藤堂さんは、紛れも無い天才だ。一度面と向かってきちんと話したことのある相手なら、何年経っても顔と名前を覚えているし、口は悪いが高圧的になる様な人間でもない。きっと自身の学園に通う生徒の事なら、頭に入っている事だろう。
「あーちゃん?」
「覚えていませんか?いつも私の事を気にかけてくれてた、ほら、研究室にも何度か来てた子が居たじゃないですか」
藤堂さんの訝しむような表情を見て、不安が掻き立てられる。もしかしたらこの学園には居ないのかもしれない。けれどそうなると、この先の人生において再会は絶望的な物となる。せめて"彼女"の進学先だけでも把握していないか、と焦りながらも問うた私に対して帰ってきた答えは、とても意外なものだった。
「うん?あいつとはさっき会ったと言ってなかったかい?」
「……はい?」
「おや、なんだい。知らなかったのかい。お前さんの言う友達、"あーちゃん"、それは───」
それから先、藤堂さんが何を言っていたのかは、よく覚えていない。それはとても衝撃的で、とても鮮烈な言葉だったのだろう。