バカと運命と召喚獣   作:湯ノ川

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観察処分者

 

「おはよー」

 

 教室の扉を開けながら、適当に挨拶を飛ばす。朝の予鈴まではまだ時間がある為か、畳で寛ぐ生徒は半数にも満たなかったが、仲の良い友人の姿が教室内にあった為、近くのちゃぶ台に鞄を下ろした。

 

「おはよう明久。今日はいつもより早いではないか」

 

 そう言って可愛らしい笑顔を見せるのは"木下秀吉"。中学からの友人であり、入学時から同じFクラスの住人であるものの、演劇部のホープとも呼ばれる程の才能と実績を持つ秀吉は部類の演劇好きであり、"木下秀吉"の事は知らずとも"演劇部のホープ"の事を知る者達からは、『勉強が出来ない者(普通のバカ)』ではなく、『演劇を愛する者(演劇バカ)』と認知されており、その容姿も相まって、Fクラスという掃き溜めの中で一人輝く、鶴のような存在なのだ。

 

「昨日の無断召喚のペナルティで、奉仕活動をちょっとね」

 

「あまり詳しくは聞いておらなんだが、人助けの為に使ったんじゃろう?恩赦があって良い気もするんじゃが」

 

「人助けと言っても、その危険性を作ったのは僕らだからね。流石に文句も言えないよ」

 

「まっ、それもそうじゃの」

 

 そんな取り留めの無い会話をしていると、見慣れた赤髪が教室へと入ってきた。

 

「うーっす」

 

「おはよう」

 

「おはようじゃ」

 

 僕たちが挨拶を返すと、こちらに気付いたのか、"坂本雄二"は気怠げな様子で向かってきた。雄二とは文月に入学してすぐからの付き合いであり、同じ目的を持つ仲間でもある。詳しい話を聞いた事は無いが、幼少期には神童とまで呼ばれた秀才であったそうだ。

 

「どうした明久?今日はやけに早いな」

 

「ほら、昨日の件でね」

 

「そういえば昨日の子、確かFクラス(うち)に入るんだったな?」

 

「うん。昨日はそう言ってたけど」

 

「ふむ……」

 

 少し考える素振りを見せる雄二と、きょとんと首を傾げる秀吉(可愛い)。その横にはいつの間にかもう一人の友人の姿があった。

 

「あれムッツリーニ?来てたんだ」

 

「……今来たところ」

 

 土屋康太、通称"寡黙なる性識者(ムッツリーニ)"。その名からも分かる通り、普段は寡黙で感情を表に出さないタイプではあるが、こと下ネタや色気には人一倍反応を示し、直ぐに興奮しては鼻血を吹き出して倒れるという特殊な訓練を受けている。真面目に試験を受けない雄二や、勉強にほぼ全く力を入れない秀吉と違い、Fクラス相応の成績ではあるが、試験科目を保健体育のみに限定した場合、その刃はAクラスの二強にまで届きうる力を持つ。このクラスの試召戦争における切り札(ジョーカー)は、間違い無くこの男になるだろう。

 

「丁度いい。明久、ムッツリーニ。お前らには後で偵察に出て貰いたい」

 

「偵察?」

 

「調整中の試召システムが近々治るらしいからな。俺達には詳しい話は降りて来ないが、上の連中なら既に把握してるだろう。明久は顔も広い。色んなヤツから話を聞いてくれ。ムッツリーニは諜報。まぁいつも通りってやつだ」

 

 本来なら始業式の日から可能であった試召戦争だが、今年は何か調整が必要になったらしく、各クラス一度だけ、その日限りでの模擬戦争を最後に試召戦争は禁止となっていた。僕らFクラスが始業式の後、Aクラスに吹っかけたのがそれだ。そして約一ヶ月の期間を経て、その調整の終わりが近いているのだそうだ。

 

「つまり色んなクラスで話を聞いて、試召戦争可能になるのがどのタイミングなのか、可能なら各クラスの動向を探って来いって話だね。了解」

 

「右に同じ」

 

 僕は比較的仲がいい人達に適当に声を掛けるだけになるが、ムッツリーニは"何故か"普段から盗聴器やボイスレコーダーを持ち歩いており、ムッツリーニがその気になればこの学園での隠し事を守り続けるのは極めて難しい事になるだろう。

 

「話が早くて助かる。別に俺たちはすぐに事を起こす気は無い。気長にやってくれ」

 

 そうとだけ言うと、ちゃぶ台に乗せたカバンを枕代わりにし、やがて寝息を立て始めた。

 

「それじゃあ、僕もちょっと寝ようかな。朝から召喚獣の操作はちょっと疲れる……」

 

「うむ。ホームルームが始まる頃には起こす故、ゆっくりするといい」

 

 ニコリと天使の様な微笑みを見せる秀吉に礼を述べ、ちゃぶ台に突っ伏して目を閉じる。そうして暫くすると、僕の意識は微睡みの中へと落ちていった。

 

 

 

「こればっかりは、儂らには変わってやれんからの」

 

 隣の席で寝息を立てる親友を横目に、(秀吉)は小さく呟いた。

 

「……そうだな」

 

「ん?ムッツリーニよ。何処へ行く?」

 

「今の内に仕掛けをしておく」

 

「何か手伝うか?」

 

「……いや、気持ちだけ貰っておく」

 

「そうか。では頼んだぞい」

 

 一度コクリと小さく頷き、ムッツリーニは教室を後にした。

 

「……"観察処分者"、大層な名前を付けられたものじゃな。のう?明久よ……」

 

 その問い掛けに答える者は誰もおらず、言の葉はやがて空へと消えて行った。

 

 

 

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