Aqoursに敗れたスクールアイドルの話   作:航貴

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全4話です。


1話

『決勝進出は浦の星女学院、Aqours』

 

 勝者を告げるアナウンスが会場全体に響き渡る。それに続いて観客の歓声が上がった。私の隣では9人の勝者たちが抱き合い、喜びを共有している。サビに入る直前、センターの子がステージの端に移動した。何をするのかと思ったら、なんとその子が勢いよく後方に飛びバク転を決めたのだ。あんなの勝てるわけないじゃん。凄すぎるよ。センターの子を中心に勝者のAqoursは歓喜の声をあげていた。それを見て自然と目の奥から涙が溢れそうになる。私は思わず手で顔を覆ってしまった。それを見て仲間がそっと肩に手をおいてくれた。私の3年間の青春は、たった今終わった。

 

 

 

 ラブライブが終わったら受験勉強に専念する。それが親との約束だった。ラブライブは年2回、それも2回目は二学期に開催される。私の両親はそのことが心配だった。大学進学を強く望んでいた両親を説得するために、私は1年生の頃から忙しい練習の合間を縫って勉強してきた。その結果成績は上位を維持しており、このまま行けば都内の有名大にも合格できるだろうと担任から太鼓判をもらっていた。

 

 

 

「あんたが一番かっこよかったよ」

「本当に楽しいライブだったよ、お疲れ様」

 

 それぞれ母と父に言われた言葉だ。なんで? あんなに勉強しろ勉強しろって言ってたのに。最後にこんな優しい言葉をかけてくれるの? アイドルなんか興味なさそうなのに私のために新幹線乗って会場まで来て。これじゃお父さんとお母さんにも申し訳ないよ。

 

 それから私は取り憑かれたように勉強した。寝る前にμ'sの曲を聞いていた時間は英単語を覚える時間になった。朝起きてA-RISEの曲を聞いて散歩する時間は数学の問題集を解く時間になった。夢中で勉強した。自分の部屋で頭を抱えながら歌詞を書いてたように、今は英作文を必死に試行錯誤しながら書いていた。とにかくどんな隙間時間も無駄にしたくなくて勉強をした。もちろん受験のためでもあったけど一番はスクールアイドルを忘れたかったから。勉強すれば全部上手くいくと思った。

 

 

医者の父と教師の母の元に生まれた私は幼い頃から勉強していい成績を取ることが大事だと教わってきた。私もそれが当たり前だと思ってた。特に趣味もなく親が買ってきた伝記や小説を読むことが好きだった。伝記で得た知識は歴史や公民の授業で役に立つし小説で覚えた漢字や表現は国語の授業で役に立った。楽しみながら勉強もできて一石二鳥だった。しかし困ったこともあった。周囲の人間と話が合わないのだ。私がどれだけ幕末の偉人の素晴らしさを語っても、クラスメイトは興味を示してくれなかった。クラスメイトは流行りのタレントや漫画に夢中だった。あんなものを見て何になるのかと不思議だった。アイドルの名前をたくさん覚えたって役に立たない。漫画をたくさん持っていても先生は褒めてくれない。私はクラスメイトを見下すようになった。次第に一人で本を読むことが増えた。それでいいと思った。生産性のない会話をするより勉強して知識をつけた方が将来役に立つから。

 

 

 勉強ばかりしていた私が初めてμ'sを見たのは中学生の時だった。たまたまテレビでスクールアイドルの特集を見たのがきっかけだった。「今が最高」この言葉を初めて見た時、雷に打たれたような衝撃を受けた。今が最高ってどういうこと? 将来のことは? 高校生なのに勉強しないでいいの? ずっと将来のことを考えてた私にとってμ'sは異質に見えた。それでも楽しそうに明るく振る舞う彼女たちを見て興味が湧いた。私は買ってもらったばかりのスマホでμ'sの動画を身漁った。夢中になった。自分とあまり歳の変わらない女の子たちがキラキラ輝いて振る舞ってるのを見て、楽しいという気持ちに包まれた。気づいたら時計の針は12時を過ぎていた。その日は人生で初めて夜更かしをした日だった。

 

 今が最高。その言葉は言葉が頭の中から離れなかった。考えてみれば私はずっと将来のことばかり考えてた。本を読むのはテストのため。テストでいい点が取れれば、いい学校に行ける。いい学校に行けばいい仕事に就ける。いい仕事に就けば、高い給料が貰える。高い給料が貰えれば老後は安心できる。

 

 それで? お金をいっぱいもらってどうするの? そもそもいい仕事って何? 高い給料がもらえればいい仕事なの? いい学校って何? 偏差値が高い学校? μ'sにハマってから、そんなことを考えるようになった。今を楽しまないでどうするの? 将来も大事だけど、いつ人生を楽しめばいいの?

 

 

 中三になった私は地元のスクールアイドル部のある高校を志望することにした。その学校は決して偏差値が高い学校でもなかった。4月の時点でA判定は余裕で取れた。誇らしげに模試の結果を両親に見せると、帰ってきた言葉は期待はずれの言葉だった。

 

「どうしてそんな高校にするの」

「お前ならもっと上を目指せる」

 

 上って何? 偏差値が高ければ、進学実績が良ければ上なの? 私はただ偏差値の高い高校に行って偏差値の高い大学に入ることなんて興味もなかった。私は折れなかった。この高校以外行きたくないと意地を張った。常に模試ではA判定を取り続けた。頑なに親の勧める高校は志望校の欄に書かなかった。生まれて初めて親に反抗した。

 

 三者面談の日。学校にやってきた母親に向かって担任はこう告げた。

 

「娘さんの成績なら、きっとどの高校に入っても大丈夫でしょう。娘さんは塾にも行かずに図書館で黙々と勉強しています。大丈夫です。私が保証します」

 

 担任の言葉を聞いて両親は私の希望を許してくれた。「必ず大学に進学する。成績は常に一桁を維持する」という制約付きで。

 

高校受験は問題なく終了した。念願の高校することができた。入学式の日、隣の席の子に話しかけられた。

 

「部活はもう決まったの?」

 

 答えはずっと前から決まっていた。

 

「スクールアイドル部!」

 

 

 

 1年生でスクールアイドル部に入部したのは40人いた。皆スクールアイドルのキラキラした世界に憧れて入ってきたのだ。誰もが夢と希望を持って入部した。しかし初日、3年生の先輩はわたしたちを見てこう言った。

 

「アイドルは楽しそうに見えるかもしれないけど、とても厳しい世界だから。ついて来れない人は辞めていいよ」

 

 さっきまで和やかだった雰囲気はその言葉で崩れた。確かに練習は厳しかった。毎日5kmは走った。今まで勉強ばかりしてきた私にとっては相当きつかった。それ以外にも振りを覚えるために夜まで残ったり声が枯れるまで歌った。本当にキツかったし毎日泣いた。それでも辞めるつもりはなかった。ここで辞めたらこの高校に入った意味がなくなるから。

 

 3日目で1人辞めた。それから堰を切ったように次々と退部する人が現れた。40人いた新入生は夏休みには10人に減ってた。その頃には1年生の顔つきが変わってた。先輩たちもよく耐えたねと褒めてくれた。パフォーマンス以外で先輩が笑ったのを初めて見た。

 

 

 夏から本格的に1年生も練習に参加した。学年関係なく意見を出し合う部だったので私も積極的に意見を出した。読書をしていたからか、作詞はある程度得意だった。小説で学んだ私の表現や言葉は思いの外先輩たちから受け、作詞に関わることが増えた。勉強のためにやっていた読書が思わぬところで役に立った。

 

 

 

 部活はきつかったけど本当に楽しくて続けることができた。仲間もできた。初めは部に参加できているだけで嬉しかった。しかし次第に勝ちたいという気持ちが湧いてきた。μ'sみたいに優勝して伝説になりたい。作詞にも熱が入った。1年生の時、私は選抜に選ばれなかった。悔しかった。それから毎日居残りで練習した。2年生になってやっと選ばれた。でも勝てなかった。泣いた。人生で初めての悔し泣きだった。

 

 3年生になった。今年のラブライブは夏と冬の年2回開催らしい。今年こそは勝とうと死ぬ気で練習した。夏の大会は地区予選を勝ち抜いた。しかし地区大会決勝で敗れた。もう後がなかった。それからがむしゃらに練習した。もちろん受験勉強も続けた。勉強中、教科書で作詞に使えそうな言葉を見つけてはノートにメモをした。振り付け、衣装、作曲にも進んで意見を出した。今まで遠慮して言えなかったことも言った。勝ちたかったから。私の作詞にも仲間達は屈託のない意見を言ってくた。皆、本気をぶつけ合った。

 

 

毎日暗くなるまで学校に残ってみんなで曲作りに励んだ。この曲なら勝てる、自信に溢れた一曲の完成だった。勝てるはずだと意気揚々と向かった東海地区大会決勝で私たちはAqoursに負けた。

 

 

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