ゴールデンウィークも終わり通常通りの授業が再開された。東京へと戻ってきた私はいつもより少し早めに家を出るとキャンパスへ向かった。あの子に、三河さんに謝らなきゃ。彼女を探さなければいけない。とは言え彼女の学部も取っている授業も何も知らない。どこに行けば会えるのかわからないけど、暇な時間は全て彼女を捜索するつもりだった。私は大事なスクールアイドルへの想いを踏み躙った。許されないかもしれない。いや許されないだろう。自己満足かもしれないけど一度会って頭を下げたい。長丁場になることも覚悟して校門をくぐった。
「スクールアイドル部やりませんかー!」
キャンパスに足を踏み入れた途端、覚えのある声が聞こえた。なんとそこには変わらずチラシを配ってスクールアイドル部の募集をしている三河さんがいた。あんなことしたのになんで。普通だったら心が折れて勧誘やめるのに。気付けば足が勝手に地面を蹴っていた。
「三河さん!」
「え、瑞穂さん!?」
「この前はごめんなさい!あんな酷いしちゃって。私三河さんの大事な気持ち傷つけた」
腰を深く曲げ地面を見ることしかできない。どんなことを言い返されてもいいと覚悟したけど、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「謝るのは私の方です。ごめんなさい! 瑞穂さんの気持ちも考えずに誘っちゃって」
思わず視線を上げる。三河さんはまるでドラマで見るサラリーマンのようにぴしっと腰を90度に曲げげている。
「ちょっと頭あげて、いいの。大丈夫だから」
「でも瑞穂さん嫌がってたのに、スクールアイドルもう嫌いだって」
「嫌いじゃないよ。今でも大好きだから」
そう言って彼女の肩をそっと抱く。驚いたのか彼女ははっと私の顔を覗く。
「大会で負けてそれをずっと引きずってたの。勝つことだけを考えて前に向かってた。だから負けたことが悔しくて自分のやってきたが全部無駄になった気がしてた。それでずっとスクールアイドルを嫌いなフリしてたの。ごめんね」
「無駄じゃないですよ」
三村さんは私を見つけて強く訴えた。
「瑞穂さんたちが頑張ってる姿を見て私は勇気をもらいました。受験生の頃、何度も心が折れかけました。私は元々勉強はあまり得意じゃなかったのでこの大学を目指すと言ったら親や先生からも止められました。でも瑞穂さんたちの歌を聞いて、背中を押された気がしたんです。あそこまで勝ちにこだわったスクールアイドルは瑞穂さんたちだけです」
「勝つことばっかり考えて前が見えなくなってた。それに結局勝てなかった」
頭の中を過去の記憶が駆け巡った。毎日無理をして突き進むことを正しいのだとそう信じてた。でもそれが間違いだったんだ。あなたが思うほど綺麗な思い出じゃないんだよ。そう伝えたかった。
「勝てなくても、誰よりも貪欲に勝ち進んだその姿が美しかったんです! 目的の場所にたどり着けなくても、その瑞穂さんの歩んできた道をかっこいいと思ったんです。だから、そんなこと言わないでください。瑞穂さんにとっては嫌な記憶かもしれません。それを勝手に持ち出してスクールアイドルに誘ったことは謝ります。でも私が憧れた気持ちは否定しないでください!」
初対面の時、控えめだと思った彼女はもうそこにはいなかった。自分の好きだという気持ちをまっすぐに表現する彼女の姿はまさに、スクールアイドルそのものだった。
そんな自分の好きを表現する彼女を見て私はかっこいいと思った。
そんな彼女を見ていたら自分の中に湧き上がる思いが溢れでてしまった。今更遅いかもしれない。許されないかもしれないけど、このまま別れることなんてできなかった。
「あんな酷いことしておいておこがましいかもしれないけど、私にできることあったら手伝わせてほしい」
「え、いいんですか」
「うん。私にできることなら」
「だったら私と一緒にー」
「やろう!」
「ちょっとーまだ何をやるかなんて言ってませんよ!」
苦笑いしながら突っ込まれた。言い切るのを待っていられないほど、今の気持ちは強くそして熱くなっていた。
「じゃあ何やるの?」
「もちろんスクールアイドルです!」
この日を持ってこの大学にスクールアイドルが誕生した。
放課後。まだ部室も何もかも与えられていない私たちは大学近くのカフェで今後の作戦会議を行なっていた。
「あの瑞穂さん」
「瑞穂でいいよ。」
「じゃあ、瑞穂ちゃんで」
「千代って呼んでいい?」
「う、うん」
そう言って千代は照れ臭そうにコーヒーを飲む。
「瑞穂ちゃんは作詞ができるとして、作曲とか振付はどうしようか。それに衣装もいるし」
「そのことなんだけど、当面の間は既存のスクールアイドルのコピーをするってのはどうかな」
「コピー?」
「要は真似するの。私も作詞以外はできないし2人だけでしょ。だから真似が一番楽かなって。秋葉に行けば衣装も売ってると思うし」
「でもそれでいいんですか? 私はスクールアイドルができればそれで嬉しいですけど」
「いいんだよ。大学生の大会はないし。それに曲を作れなくたって、大事なのは楽しむこと。それがスクールアイドルじゃないの?」
「そうですね。楽しむことが大事。そう思います」
「じゃあまずはどのアイドルを真似するか決めようか。それよりもどこでステージ披露するかだよね。どっか学祭でできたらいいんだけど」
「じゃあ学祭で決定ですね。もちろん最初はイズエクの曲披露しましょうよ」
「ちょっと勝手に決めないでよー。私はμ'sのそれ僕がいいんだけど」
「だっら色々やりましょうよ。いくつか曲披露する時間もあると思うので」
話し合いはしばらく続きそうだ。2人ともスクールアドルへの思いが強すぎて譲れない部分もあるためずいぶんめんどくさくなりそうだ。それでも楽しい時間だ。高校時代を思い出した。最近まで背けたくて思い出したくなかった記憶も千代のおかげで良い思い出に変わった。
過去は変えられない。だから未来に向かってがんばろう。よく聞く言葉だけど
もしかしたら過去は変えられるのかもしれない。捉え方次第ではどんな風にも変えられる。勝つために一生懸命走ってきた道は、最後までたどり着くことはできなかったけど、その道は確かに残ってて誰かにとっての輝きになった。
「私Aqoursの曲もやってみたいなあ。同じ東海地区のライバルだし」
「Aqoursですか、いいですね。なんの曲にするんです?」
「君の心は輝いてるかい? はどうかな」
Aqoursだって私と同じだったのかもしれない。学校は救えなかった。憧れのμ'sのようにはいかなかったけど、Aqoursの歩んできた道は消えない。そこにきっと何かが残ってるはずだから。
だから私の道も消えない。予定とは違う道に逸れることもあるだろうけど、大丈夫。どこに行くかはわからないけど道は後からついてくるんだから。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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