名探偵大垣∞~雪国サウナの観測者~   作:ドラ麦茶

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2・バイトのお金でどの小屋泊まる?

 女性は鈴木と名乗った。県外からの旅行者で、山登りが趣味なのだと言う。

 そのため足腰は鍛えてあるのだろう。膝まで埋もれるような雪でも、力強い足取りで進んでいた。

 

「この地域は雪がスゴイとは聞いていたんですけど、ここまでだとは思いませんでしたよ」

 鈴木は千明たちを振り返って言った。

「お二人は、雑誌の懸賞で宿泊チケットを当てられたんでしたね?」

 

「ええ」

と、千明が答える。

「本当なら陽が暮れる前にペンションへ着く予定だったんですけど、あたしが、スキーがしたい、なんてワガママを言ったばかりに、到着が遅れて、リンをこんな目に遭わせてしまって……」

 

「気にするな。千明のせいじゃない」

 リンが言う。

「ただ運が悪かっただけだ」

 

「そうですね。天気のことは、誰にも判りませんから」

 鈴木も千明を慰める言葉をかけた。

 

 天気のことは誰にも判らない――確かにその通りだろう。

 しかし、鈴木はさっき雪がやむことが判っていたかのように振る舞った。

 よほど優秀なお天気アプリを使っているのだろう。

 

「あ、見えてきましたよ?」

 

 鈴木が指さした先に、いくつかの明かりが見えた。

 かなり広い敷地内に何件かの建物が立っているようである。

 その中の一番大きな明かりに向かって歩くと、三角屋根の大きなログハウスが見えてきた。

 千明とリンは最後の力を振り絞る気持ちで雪を踏み分け、ログハウスへ向かった。

 

「ログキャビン・オフピステ、と言います」

 ログハウスの前まで来ると、鈴木が説明してくれた。

「スキーや登山などの客向けに、山小屋を一棟貸ししている施設です。いろんなタイプの小屋があるんですよ」

 

 周囲を見回すと、かなり広い土地に大小さまざまな小屋が建っていた。

 どうやらさっき見えたいくつもの明かりは、それらの小屋だったらしい。

 

「ここで受付をしてます。じゃ、行きましょう」

 

 鈴木はログハウスの玄関前で足についた雪を掃うと、中へ入って行った。

 千明となでしこも同じく雪を掃って中に入る。

 カランカラン、と、レトロなドアベルが鳴り、室内の暖かい空気が千明たちを迎えてくれた。

 

 室内はよくあるタイプのロビーだ。

 フロントは正面、左手側には薪ストーブにテーブルとイス、テレビに本などが置かれたロビーがある。

 テーブルでは三人の男性客が話をしていた。

 

「……このクラスの宿だと、かなりお高いんじゃないか?」

 声をひそめ、千明はリンに耳打ちする。

 

「かもな。まあ、ともかくスタッフさんと話をしてみよう」

 

 リンと千明はフロントへ行き、受付スタッフに声をかけた。

 四・五十代と思われる男性で、胸についたネームプレートには『オーナー・小屋原(こやはら)』とあった。

 

 千明たちは当然予約を取っていないが、幸い部屋には空きがあり、宿泊自体は問題ないようだ。

 施設内には1等から3等までの小屋があり、1等はお風呂やエアコンなど完備で食事付きだが宿泊費はかなりお高く、等級が下がるごとに設備は乏しくなるがその分宿泊費もリーズナブルになっていく、という仕組みだった。

 ちなみに鈴木は事前に予約をしており、1等小屋を借りたそうである。

 

 千明は各小屋と宿泊費と財布の中身を比べる……までもなく、帰りの交通費も考えると一番安い3等小屋に泊まるのが精いっぱいだ。

 しかし、3等小屋に泊まるのにも大きな問題がある。

 3等小屋は、暖房や寝具などの設備が無いただの小屋、いわゆるバンガローである。

 今の季節、宿泊するならシュラフなどの防寒具を用意しなければならないのだ。

 千明は今回(一応)雪中キャンプに挑戦する予定だったのでシュラフとストーブを持参していたのだが、それらは気を利かしたなでしこがペンションへ運んでくれており、いま千明たちが持っている防寒具はブランケットだけだ。

 それだけではさっき緊急避難で使ったバスの待合所とあまり変わらないであろう。

 施設ではシュラフやストーブなど防寒具のレンタルもしているようだが、それらを全て借りると完全に予算オーバーになってしまう。

 

「しょうがないな」

とリン。

「あたしがお金を出すから、2等小屋に泊まろう」

 

「え? 大丈夫なのか?」

 

「まあな。バイトの給料が出たばかりだから、一泊くらいなら何とかなる」

 

「そうか! サンキュー、リン! 恩に着るぜ!」

 

 千明がリンの両手を握ってぶんぶん降ると。

 

「言っとくがきっちりワリカンだからな。今回は立て替えておくが、後でちゃんと払えよ」

 

 リンは容赦ない表情で言った。

 

「……はい」

 

 千明は肩を落として返事をする。

 料金を考えると次のバイト代の半分は飛んで行ってしまいそうだが、そもそもここに泊まることになったのは自分がスキーをしたいなどと言い出した結果だから仕方がない。

 2等小屋は石油ストーブとベッドおよび寝具があるので防寒はバッチリだ。

 簡易的なものだがシャワー・トイレ・キッチンもある。

 素泊まりだから食事は出ないが、ご飯は千明が持参したものを食べればいい。

 猛吹雪の中バスの待合所で身を寄せ合っていた状況に比べれば天国であろう。

 千明はリンと二人、ありがたく2等小屋を借りることにした。

 

 

 

 

 

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