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「クソ…何だよ…36%って…」
シーラ・レヴィットは泣いていた。だがそれも無理のないことだった。彼女はこれから成功率の限りなく低い関門を突破しなければならないのだから。
シーラもまたそのうちの一人だった。生まれ故郷のグランメキシコで、家を失い、父親を失った。そしてメキシコからアメリカへ不法越境をする際、母親も失った。自身は、国連航空宇宙局・通称「U-NASA」のアメリカ支局の人間に救助されたが、何もかも失ったことで死んだも同然のつもりだった。だから、成功率36%の手術を受けることになったときも平気だった。だが…
(みんなのせいで…また…死ぬのが怖くなっちゃったじゃんかよ…)
二度と会えないと思っていた幼馴染たちとの再会や、新たな友人たちとの出会いが、シーラの死への恐怖心を再び呼び覚ましてしまっていた。
「ありゃ?先客がいたか」
そんなとき現れたのはU-NASA火星探索チーム・
「いいよな………ここ誰にも見られねぇから。泣きたいときはここに来て、泣いて泣いて…そこらの鉄柵や水管に当たり散らしてよ」
シーラは、自分を連れ戻しに来たと思っていた小吉の言葉に驚いた。確かに辺りを見回すと、そこらの壁や柵、パイプなどに損傷が見られた。
「そうでもしなきゃやってられんねーわな」
艦長の漏らした本音。そんな小吉の言葉にシーラは意外さを感じた。
「なんか意外ですね艦長って…。幹部の人達って、全員任務の鬼みたいな人なんだと思ってました。」
何気なくシーラの呟いた言葉。しかしそれに対して返ってきた答えも、シーラの予想とは違ったものだった。
「んー?ああ…まぁ俺は元々は、お前らと同じだったからな」
意外だった。シーラはてっきり、幹部はみな仕事に生きるエリートコースを歩んできた者達だと思っていたからだ。
と、そこで不意に何かの音が聞こえた。どうやら、誰かの話し声のようだった。
直後、小吉もその声に気付く。そして声の主に気付いたのか、まるで悪戯を思いついた子供のような表情になる。
「丁度よかった。ついでにもう一人、任務の鬼の素顔を見せてやろう」
「え?」
小吉は戸惑うシーラに「そーっとな」と言いながら、声の方へ近づいていく。シーラもつられて声のする方へ進み、角から覗き込む。
そこには、先程出会った幹部の男がいた。
「ああ…やっぱり複雑だよ…若い補充兵と知り合うのはな」
男は疲れた様子で話す。電話の相手は何も言わない。しかしそれは、相手が男の話に興味が無いのでは無く、急かしたりせず男の好きなペースで話すことが出来るようにとの配慮だった。
それを分かっている男は、相手の配慮に感謝しつつ、言葉を続ける。
「たまにスゲェ明るい奴とかもいてさ、そういう奴はつい可愛くなっちまう。けど危険な任務だから…そうなると辛いこともあるんだ…」
男の言葉に電話相手はようやく口を開く。
『確かにな…私もクラリッサや隊の仲間たち、それにかつての仲間たちを…もしも失うと考えたら…辛いな』
電話の相手は女性だった。彼女は、男を励ますように言葉を続ける。
『だが…お前がついているならきっと大丈夫だ。お前は
女性の言葉に男の表情が少し和らぐ。
「ああ…分かってる。お前も気を付けろよ…近頃は特に…」
『ああ』
「あまり、夜は出歩くな」
『ふっ。私を誰だと思っている。
「…そうだな」
『私としては、お前の方が心配だ…必ず帰ってきてくれ、嫁よ』
「ああ、そう出来るように努力する。ところで、その『嫁』は違うと小町艦長も言ってただろう…」
『む?そうだったか。もう慣れてしまったから、今更直すのは無理かもしれんな』
「…やれやれ。それじゃあ、そろそろ仕事に戻る」
そう言って、男は電話を切ろうとする。だが…
『嫁よ。もう少し愛のある切り方をしてもいいのではないか?』
女性の、男の妻の言葉に、気恥ずかしさを感じながらもきちんと答える。男はそういう性格だった。
「Ich liebe dich(愛してるよ)」
男はその後、女性と二言三言だけ言葉を交わして電話を切った。
そして…
「イッヒ リーベ ディッヒ!!」
「か、艦長…?…最悪だ……」
男は、小吉に一部始終を見られていたことを知って頭を抱えるのだった。
「艦長、あの…アドルフさんの奥さんってどんな人なんですか?」
先程の一件から数分後。シーラと小吉はエヴァと合流し、ミッシェルや燈たちの待つ部屋へと向かっていた。
その道中、シーラは先の出来事からどうしても気になっていたことを質問する。
「アドルフの奥さん?んー…そうだな」
そう言って小吉は周囲を見回す。そして、他に誰もいないことを確認してから話を始めた。
「シーラ、エヴァ。お前らISって知ってるか?」
「IS…ってあの、女性しか動かせないっていう?」
「確か、唯一動かせる日本人の男性が有名になっていましたね」
小吉の問いに二人が答える。
「正解。でもエヴァが言ったことは、実は少し違う。」
「「え?」」
「実はアドルフも動かせるんだ。なんでかよ」
「「ええ!?」」
小吉の言葉に、二人は驚愕する。
「っても、M.O.手術やテラフォーミングに関することの情報漏れを防ぐため、ドイツ軍やU-NASAが色々手を回したらしい。だから俺も、本人から聞くまで知らなかった」
「そんなことが…」
エヴァもシーラも、あまりの驚きに放心状態になる。が、我に返ったシーラは小吉に尋ねる。
「でも、それがアドルフさんの奥さんと何の関係が?」
そんなシーラに、小吉は悪戯っぽく笑いながら答えたのだった。
「同級生なんだよ。IS学園のな」
「IS…か」
先程の電話の男、アドルフ・ラインハルトは呟いた。
今回、彼が他のクルーと共に火星で行う任務は、『
(ISを使えば一発だろうに…こんな改造手術までして、『
『テラフォーマー』とは、火星のテラフォーミングで放たれたゴキブリが、ゴキブリの能力を残したまま、何らかの理由で巨大化し、高い知性をも手に入れて誕生した、火星の生物のことである。
そして『インフィニット・ストラトス』、通称IS。宇宙空間での活動を想定して作られた飛行パワードスーツ。だが、既存の兵器を圧倒的に超えた性能と、製作者の意図による量産台数の制限によって、各国政府はIS及び適合性の高いパイロットを喉から手が出るほどに欲していた。
そのため、「バグズ1号の兵器のようにテラフォーマーに奪われないため」という名目でISは今回の任務での使用が認められていなかった。
(だが、本音はどこもISを宇宙に出したくないだけだ…。一台飛ばしただけで国家の軍事力は桁違いに低下するからな)
アドルフの予想は当たっていた。その他にも、各国の様々な思惑が絡み合って、今回の任務でのIS使用禁止が決まったのは明らかだった。
(まったく、仲のいいことだな)
アドルフは心の中で皮肉っぽく呟く。そして、本当に様々な国の奴らが仲良く過ごしていた場所のことを思い出した。
(ISに…『嫁』…か)
最初の感電は、確か8つの時
親父とお袋は『バグズ手術』に失敗して死んだ。その次にオレが標的にされた。当時、実験段階だった『M.O.手術』のモルモットとして。
既に、人に買われた人生。将来就く
監視の目をかいくぐって…どうやって死のうか…それだけが目標だった。
―――