スタンドをスべて持つ者は悪魔のいる高校へ 作:衝動書きする人
「堕天使?」
夕麻ちゃんから命を狙われて襲われた日の夜。グレモリー先輩に連れられて到着したのは、俺の通っている学校だった。どうしてここに?という疑問はあったけど、それ以上にさっきあったことへの混乱が収まっていなくて、グレモリー先輩に連れられるがままに歩いていく。向かっていったのは心霊現象が起こると言われている立ち入り禁止の旧校舎だった。
そこからも理解が追いつかないことのオンパレードだった。はぐれないでねと言われて旧校舎の中を歩いていき、奥の部屋にたどり着いて扉を開けると、中は何年も前に立ち入り禁止にされていた旧校舎の中とは思えないほどに奇麗な部屋だった。部屋の中にはグレモリー先輩と双璧を成すお姉さまの1人である姫島先輩と、1年生のマスコット的存在である小猫ちゃんと、にっくき木場がいた。
あれよあれよとソファに座らされ、姫島先輩から紅茶を淹れてもらってグレモリー先輩からさっき起きたことの説明をしてもらった。そして、その内容がまさかのファンタジー世界の話になるとは思ってもいなかった。
「そう。あなたに襲い掛かったあれはそう呼ばれている存在なの」
「えっと……?」
自信満々に、というか当たり前のことを言っていると言わんばかりに言い切るグレモリー先輩。姫島先輩たちもそれが当然だと言わんばかりに何の反応も出していない。それこそ、今この場にいる俺の反応が間違っていると錯覚してしまうほどだ。
「まぁ、いきなりのことで混乱するのも仕方ないわ。でも、実際にそういう存在はいるの」
それからグレモリー先輩は世界の裏で活動している存在の話をしてくれた。いわゆる聖書の中の存在がどういう勢力争いをしているのか、ということを長々とまでは言わないがそれなりの時間を説明に費やしてくれた。
話が一区切りついたところでのどが渇いたのかグレモリー先輩は姫島先輩が淹れた紅茶を口にする。グレモリー先輩からあなたも一口どう?と自分のティーカップを掲げるように動かし、姫島先輩に視線を送ると姫島先輩も微笑みを浮かべて頷く。恐る恐ると俺の前に置かれたティーカップを口につけると、伊央の淹れた物とは別のおいしさが口の中で広がった。温かい紅茶を飲んだおかげか、さっきよりは落ち着いてきた俺は疑問に思っていたことを口にする。
「いや、まぁ、あんなことがあったので疑うことができないと言うか……。というか、グレモリー先輩たちはどうしてそれを知っているんですか?」
今まで生きてきた中で堕天使なんて言葉、ゲームやアニメの中以外で聞いたこともなかった。ましてやそれをするような人に見えない人物の口から出されたものだから余計に疑問に思えてならない。
それに対してグレモリー先輩は紅茶を飲みながら何でもないかのように返答してくれた。
「だって、私たちは悪魔ですもの」
グレモリー先輩の言葉に思考が追いついてこれず、気の抜けた声にもならない音を出してグレモリー先輩を見る。それを察してかはわからないけど、空気を扇ぐ音と共に俺以外のこの場にいた全員の背中から蝙蝠みたいな翼が生えた。
「私は慈悲深いグレモリー一族の1人、リアス・グレモリー。朱乃と裕斗、小猫は私の眷属よ」
からかうような笑みを浮かべてグレモリー先輩は羽をはためかせて発生した風でなびいた髪を整えるように後ろへと動かす。突然のことに口をパクパクと動かして姫島先輩たちに視線を動かすが、姫島先輩はあらあらとほほに手を当てて微笑みを崩さず、木場は少し困ったような笑みを浮かべ、小猫ちゃんは変わらず無表情のまま。三者三様の反応のままだったが、それが余計にこの異常さを際立たせているようで思考がまとまることなく頭の中で渦巻いていた。
悪魔って、なんですか。混乱したままそれを聞こうと口を開こうとするけど、突然俺の意志に反して俺の口が勝手に動き出した。
『そうか。やけに人から外れた美貌の持ち主だと思っていたが、まさか本当に悪魔だったとはな』
口から漏れ出たのは、俺の声だ。でもその声は聞きなれているいつもの声とは違う、例えるなら薄い何か越しに聞こえた声だった。
俺の口から聞こえた言葉に先ほどまで温和な表情を浮かべていたグレモリー先輩は、一転して俺を睨みつけるように鋭い視線を送り始めた。
「あなた、悪魔を知っていたの?」
「ち、違います!なんか勝手に口が!」
俺は本当に何も知らない。悪魔や堕天使だなんてゲームや漫画の中の登場人物にとしか思っていなかったのに、こうやって目の前にいることすら信じられないと言うのに。俺の口から出た言葉に俺自身が混乱していると、突然腹の中から水が口の中へと湧き出すかのように逆流してきた。
「おごっ!おごごっ……!」
俺の意志に反して、いや、生理的な反応として嗚咽を出しながらせりあがってくる水を吐き出す。俺の嗚咽と水が床に当たる音が部屋の中に響き、せりあがってくる水を吐き出し終えた俺は息を整えながら吐き出した水を見る。俺の口から吐き出されたとは思えないほどの量の水が床に留まっている。俺を含めた全員が俺が吐き出した水を警戒して見ているが、何も起きずに広がることなくその場にあり続けている。
「……広がらない?」
そのことに違和感を覚えると、水が振動を受けているかのように震えだし、それは水の塊となって人の形を作り出した。
『やれやれ。当たってほしくない嫌な予感というのはどうも当たりやすい傾向にあるようだな』
床に吐き出した水が残ることなく人型になった。何がどうなっているのか理解が追いつかない中、グレモリー先輩たちは慌てた様子を隠そうともせずに水の化け物に対して構えた。
「あなた、何者!?」
どこから取り出したのか木場は剣を手にしていて、小猫ちゃんは驚きの表情を浮かべたままファイティングポーズを取り、姫島先輩は全身から電気を走らせて手を化け物に向け、グレモリー先輩は何時でも動けるように構えている。
『自己紹介はしない。しても意味はなさないだろうしな』
水の化け物はこちらをバカにしたような言動で肩をすくめる。その様子にカッとなったように小猫ちゃんが殴りかかるが、水の化け物はそれを避けようともしない。小猫ちゃんのパンチは風を切る音を出しながら水の化け物の頭に直撃し、化け物の頭は弾けるように飛散した。
『忠告が遅くなったが、私に物理的な攻撃は意味をなさない。魔法で攻撃しようにも、こんな狭い部屋では炎や氷を出すような攻撃もできないだろう?』
だが、さっきの攻撃は何でもないかのように、実際ダメージを受けている様子もなく飛散した水が化け物の頭があった場所に集まっていき、さっきと変わりない姿に戻った。
『あぁ、だが、名称がなければ混乱することがあるかもしれないな。そうだな。あえて名乗るなら、”アクア・ネックレス”。今はそう名乗っておこうか』
水の化け物、”アクア・ネックレス”と名乗ったそれは、いい名前だろう?と続けて愉快気にくぐもった笑い声を上げる。
『あぁ、それとこれは諸君らが得意としている魔法や魔術といったものではない。魔力の跡を追おうとしても意味はないぞ?』
”アクア・ネックレス”の言葉にグレモリー先輩たちは苦々しい表情を浮かべる。グレモリー先輩がチラリと姫島先輩に視線を送るけど、姫島先輩は悔しそうな表情を浮かべて首を横に振った。
俺には堕天使や悪魔やなんてよくわからないけど、でもゲームとかを考えればそれなりの強さがあるはずの悪魔が4人もいる中、”アクア・ネックレス”はただ1人だけだ。こんな状態で余裕の態度を保っていると言うことはこの4人を相手にしても問題ないと言うことなんだろう。
『さて。こうしている時間ももったいないし、不毛な時間になるだろう。故に早々に要件を言おう。私と取引をしないか?』
”アクア・ネックレス”の唐突な提案に、グレモリー先輩は怪訝な表情を隠そうともせずに”アクア・ネックレス”を睨みつける。
「取引?」
『そう。取引だ。私が報酬を渡し、諸君らは私の望みを叶える。諸君ら悪魔が日常的に行っている、ごく普通の取引さ』
日常的に行われている取引。悪魔の、という言葉がつくととんでもないことをやっているんじゃないかと警戒してしまうが、グレモリー先輩たちがそういった取引を行っているのか正直想像できない。
”アクア・ネックレス”の言葉に、グレモリー先輩は苦い顔を一瞬だけ露わにして、次には警戒しているとみてわかる表情になって続きを促した。
『私からの報酬は情報だ。私はこの街の中ならある程度の情報を探ることができる。誰にも感づかれることなく、ね』
無論、時間はかかるゆえに後払いという形になるがね。と”アクア・ネックレス”は少し諦めたような物言いをしながら肩をすくめる。誰にも気づかれずに情報を探る、と言うのは、なるほど確かにできるだろう。体内に入られていた俺も含めてここにいる誰もが俺の中から出てくるまで”アクア・ネックレス”の存在に気付くことはなかった。ならば誰にも気づかれることなく情報収集ができると言うのも嘘ではないんだろう。
「……情報を与えて私たちを動かすつもり?それのどこが取引だと言うわけ?」
『おや。情報では不満だと?君たちの動き次第では起きてしまうかもしれない堕天使との戦争を、私のせいだと擦り付けることができるチャンスだと言うのに?』
ずいぶんと自分に自信があるようだな、とクツクツと笑う”アクア・ネックレス”。その言葉にグレモリー先輩たちは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「……それで、私たちは何を叶えればいいの?」
『話が早くて助かるよ。報酬は2つもらいたい。1つは危害を加えない限り、私のことは探さないでもらいたい。この件が終わるまで、ではなくずっとだ』
危害を加えれば探してもらっても構わないがね。と、できるものならやってみろと言わんばかりに馬鹿にしたような口調で肩をすくめる。取引を持ち掛けているというのに不躾な態度にグレモリー先輩は苛立ちを隠そうともせずに睨みつけるが、”アクア・ネックレス”はそれを何でもないようにくぐもった笑いを出し続けている。
「……それで、もう1つは?」
グレモリー先輩は悔しそうな表情を怒りの表情から滲み出しながら、何とか落ち着こうとしているのか息を荒くして努めて冷静に言葉を出す。”アクア・ネックレス”は思い出したかのようなリアクションをオーバーにとり、それを見てグレモリー先輩たちがまた怒りで睨みつける。そして”アクア・ネックレス”はゆっくりと指を俺の方へと向けた。
『そいつを、兵藤一誠を鍛えてやってほしい』
「えっ?俺?」
予想外すぎる言葉に思わず声が出た。この場にいる全員が同じことを思ったのか、視線が”アクア・ネックレス”から俺へと向けられるのを感じた。
『堕天使が口走っていた、神器。それをそいつは持っている。そいつの意思次第ではあるが、配下にすればそれなりの戦力になる可能性はある。そうでなくてもそいつは義理堅い男だ。助けが必要な時に手助けをしてくれるかもしれんぞ?』
”アクア・ネックレス”の言葉に思い当たる節がある。夕麻ちゃんの攻撃を避けている時に苛立たしく呟いていたような気がする。グレモリー先輩たちの反応を見るに、神器が何なのかはわからないけど、少なくとも俺が夕麻ちゃんに襲われたことに納得できているみたいだ。
「私たちが兵藤くんを鍛える理由はわかった。じゃあ、どうしてそちらが兵藤くんを鍛えることを望むのかしら?」
”アクア・ネックレス”の依頼にグレモリー先輩は怒りの表情を出しながらも困惑が隠せずにいながら聞く。グレモリー先輩の疑問に俺は全くの同意見だ。この中で一番関係がない俺に対して、しかも俺にとって都合がいいと言うか願ってもないことと言うか、とにかく不利になるようなことでもないことを提案してきたのかが全く分からない。
『別段深い意味はない。神器使いが増えれば人外勢力への対抗策が増える。たとえ今悪魔になったとしても、短い期間で見れば人間だったころの価値観が変わることはほとんどない。少なくとも私が生きている間は人の味方になるだろうという目算故の提案さ』
俺と言う人間を理解しているかのような物言いをする”アクア・ネックレス”の言葉に気持ち悪さを覚えた。確かに悪魔になろうがなるまいが力を手に入れたら、少なくとも人に危害を加えようと思うことはないだろう。それはそうなんだが、一般的な人はこうするだろうと言う言い方ではなく兵藤一誠ならこうするだろうと言う物言いだったのが気になるし、誰かわからないのも相まってすごく気持ち悪い。
『それで、どうする?』
俺の抱いた感情を察していないのかそのまま”アクア・ネックレス”はグレモリー先輩に言葉と視線を投げる。
「……私たちだけでは集められない情報もあるかもしれない。そういう意味では、取引してもいいかもしれないわね」
グレモリー先輩は思考を整理するかのように目を閉じて言葉を出す。徐々に落ち着きを取り戻しつつある物言いだった。そして決心したようにゆっくりと目を開き、”アクア・ネックレス”を睨みつける。
「でも、残念ね。誰かも知らない、わからない、知らせる気もない相手にする取引はないわ」
グレモリー先輩の答えは拒否だった。同時にいつ襲われてもいいようにしたのか、グレモリー先輩たちの圧が強くなっていった。自分に向けられているわけでもないのに、口の中が渇いていくような感覚に襲われて息をのんでいると、威圧されている側のはずの”アクア・ネックレス”は何も感じていないように納得したような声を出す。
『結構。では交渉は不成立ということで、私は好き勝手動かさせてもらおう』
くるり、と”アクア・ネックレス”は攻撃されても問題ないと言わんばかりにグレモリー先輩たちに背を向けて移動する。実際、攻撃しようにも相手よりも自分たちの被害のほうが大きいことをわかっているグレモリー先輩たちはそれを悔しそうな表情で睨みつけ、”アクア・ネックレス”はシャワーの排水口の上に立つ。
『私が動いている過程で君たちに危害が加わったとしても、協力し合っているわけでもないのだから恨んでくれるなよ?慈悲深き悪魔の一族、リアス・グレモリーとその眷属の皆様方?』
それだけ言うと”アクア・ネックレス”はシャワーの排水口へ流れるようにトプンという音と共に消え去っていった。誰も言葉を発さず、消えていった排水溝を警戒するように構えていた。