スタンドをスべて持つ者は悪魔のいる高校へ 作:衝動書きする人
水の化け物、”アクア・ネックレス”が消えてから数分が経った。誰も言葉を発することなく、”アクア・ネックレス”が消えた排水口をしばらく警戒を続けていたが、何も起きないことを確認したのか全員が一息つく。
「……部長……」
「……警戒だけはしておいて」
しかしあんなことがあったからか、警戒は続けるのか誰かは排水溝の方へ視線を向けている。
「まさか、あんなのが存在していたなんてね。お兄様に報告しなくちゃ」
頭が痛いと言わんばかりに頭に手を乗せて首を横に振るグレモリー先輩。俺も俺の体の中にあんな化け物が潜んでいたということに今更ながら怖気が走る。けど、同時に疑問にも思う。一体いつからあんな化け物が俺の体の中に入ってきたのだろうか。
「でも、よかったのですか?あれの提案を断って。秘密裏に情報を調べると思うと、私たちではできない大きなメリットだと思うんですが……」
思い当たる節もなく俺がうんうん唸って考えていると、姫島先輩が少し不安そうにグレモリー先輩に声をかける。詳しいことは全くわからない俺だけど、情報を集めると言うことに関しては、”アクア・ネックレス”が自身でそう言っていたように相当に優秀な存在なんだろう。俺を襲った夕麻ちゃんたち堕天使がどこで何をしているのかを知るにはもってこいの存在じゃなかったのだろうか。
「あいつの言うことが本当であるなら、ね」
そんな疑問に答えてくれるグレモリー先輩は、難しい顔をして姫島先輩に顔を向ける。
「誰にも知られずに調べられる。これは大きなアドバンテージになるわ。向こうが私たちが感知していないと思っているならともかく、今回は私が直接面と向かって対峙したのだから調べていると考えて動くのが当たり前と思っていた方がいいでしょう」
グレモリー先輩の言葉に、なるほどと思った。確かに知られているとわかっているなら警戒しながら行動するのは当たり前になる。俺自身それには思い当たる節はあるからその気持ちはよくわかる。
「そんな中でどこまで調べられているのかわからない、なんて相当ストレスになるわ。そうなれば計画は今まで以上に警戒をしながら行わないといけなくなるから予定よりも大きく遅れることになる。その間に私たちの準備もできるし、なんなら致命的なレベルで計画の邪魔をすることだってできるわ」
それすらも考えられないような馬鹿が相手なら話は変わってくるけれども、と堕天使をバカにするような口調で鼻で笑うグレモリー先輩。
「察知できない監視なんてあって困るものではないし、むしろ喉から手が出るほど欲しいものであることは間違いないわ」
苦々しい表情を浮かべるグレモリー先輩は、でも口の中の物を吐き出すかのように深く息を吐き出す。
「でも、渡される情報が本当である確証がないわ。渡された情報が悪意を持ってもたらされたのなら、私たちに危機が及ぶことになる。それこそ、悪魔と堕天使の戦争の引き金になることさえあり得るわ。戦争が起こればそこにあいつの責任なんてあってないようなものよ」
「情報を裏付ければいいんじゃないですか?」
「情報の裏付けをしている最中に相手に知られる可能性が高い。そうなれば、秘密裏に情報を抜き取ったというアドバンテージが無駄になるわ。それこそ、結果を考えれば私たちが自分で調べたほうが圧倒的に速いわ」
第一、とグレモリー先輩は呆れと怒りを多分に含んだため息を吐いて”アクア・ネックレス”が去った排水口を睨みつける。
「お互いに信頼もない状態で裏も取れない秘密裏の情報なんて、信じる方が危険よ。いつ裏切りに遭うのかわかった物じゃないもの」
エサをぶら下げておけば自由に動く馬鹿だと思われているようで腹が立つ。そう言ってグレモリー先輩は紅茶を再び口につける。それもそうかと姫島先輩は苦笑しながら空になったグレモリー先輩のティーカップに紅茶を淹れる。
「話がずれてしまったけど、でも、あの化け物も有益な情報も落としてくれたわね」
「有益な、情報?」
先ほどと変わってグレモリー先輩はややうれしそうな表情を浮かべて、というより少し馬鹿にしたような表情を浮かべている。俺を見ながら言った言葉だから俺を馬鹿にしたのかと一瞬思ったけど、言葉を考えれば”アクア・ネックレス”が言ったことについて思っているんだろう。
でも有益な情報とはなんなのだろうか。あのやり取りの中から”アクア・ネックレス”についてわかったのだろうか。
「あなたに神器があるってこと。なぜあなたが堕天使に狙われていたのか、予想はできても確信はできなかった。あんなのの情報に頼るのも癪だけど、でもあなたの反応を見ても間違いはない」
「……はぁ」
神器。さっき”アクア・ネックレス”も言っていたけど、神器とは何なんだろうか。
「神器っていうのは、まぁ人が使える特別な力って思ってもらったらいいわ」
グレモリー先輩から神器について説明してもらったが、正直どうも俺の中に特別な力があるようだと言うことぐらいしかわからなかった。いや、説明が頭に入ってきていないわけじゃないんだよ。けどスケールが違いすぎて実感がわかないと言うか、木場という例を見ても自分にそんな力がいまいち信じられないと言うか、でも俺にそんな力があるんだというワクワクがあるというか、そんなふわふわとした気分になってしまう。
「ねぇ、兵藤くん。もしよかったらだけど、私の眷属にならない?」
唐突に、と言うほどでもないけど、でも自分のことを考えていた俺はグレモリー先輩からの唐突な誘いに驚きを隠せずにいた。
「本当ならあなたを巻き込むような形で眷属にすることに抵抗はあるんだけど、でもこのままだと堕天使だけじゃなくて悪魔や天使陣営にも狙われることになるわ。誰も手を付けてない未覚醒の力なんて、見方を変えれば狙われる要素でしかないもの」
グレモリー先輩の言葉に、夕方夕麻ちゃんから襲われたことを思い出して改めて恐怖で背筋がゾクリと震えた。あの時は何とか命を拾うことができたけど、でもあんなラッキーが何度も起きるとは思えない。あんな経験がもう一度あるかもしれない?
「でも、私の眷属になればそれなりのバックアップを約束できるわ。私は眷属を見捨てることは決してしない。その代わり、あなたも私のために戦ってもらうけど、どう?」
ふわりと、手を自分の胸に置いて誘惑するように微笑みながらそういうグレモリー先輩。その姿を見た俺は、さっきまでの葛藤は何だったのかと我ながら思う速度で返事をする。
「よろしくお願いします!」
土下座付きで即OKを言う俺に、愉快気に笑うグレモリー先輩はそれならと悪魔の眷属になる契約を説明してくれる。ここからが俺の特別な生活の始まりなんだと、そんなワクワクの中にわずかな恐怖を感じながら俺はグレモリー先輩の話を食い入るように聞いていく。
「……やはり、一誠は悪魔になったのか」
自宅の自室、パソコンが置いてある机に項垂れるように肘を乗せて深く息を吐く。嫌な予感が当たったうえにこちらの存在を悪魔に知られてしまう不幸がたった1日で起きてしまったことに頭を抱えそうになる。
”アクア・ネックレス”を排水口の入り口付近で待機させて中の様子を聞いていた俺は、一誠が悪魔になることを望んだことを確認してため息を吐く。グレモリーが悪魔だとわかった以上予想できていたとはいえ、だからこそ全員の前で”アクア・ネックレス”を一誠から出す羽目になったのは痛い。
数が多い手札の中の1つだけとはいえ、正体を見せたのは悪手だとはわかっていた。あのまま一誠の体の中で潜んで悪魔側の情報を盗み聞いて、隙を見て一誠から逃げ出せばよかった。けど、それができない懸念点があった。
それが、人間の悪魔化。詳しくは知らなかったのだが、悪魔は人を同類にする能力があった。話を聞いていた限りでは、悪魔の駒と呼ばれるものを使って悪魔化させるらしいのだが、どちらにしろマズイことには変わりがなかった。堕天使の言っていた一誠に神器があることがわかって悪魔になる勧誘をしていた可能性が高い。エロの権化ともいえるほどの一誠ならその話を喜んで受けていただろう。俺はそこに危惧していた。
”アクア・ネックレス”が一誠の所有していたスタンドだったのならともかく、他者のスタンドが一誠の体に水単位で同化していた時に悪魔化した時の影響がどうなるかわからない。俺に影響があるだけでなく、俺にも影響がくる可能性だってある。下手に”エピタフ”で未来を見ようものならその未来が確定してしまうから”エピタフ”を使うわけにはいかなかった。
「とりあえず、悪魔と堕天使が戦争にならないように情報を集めるか」
特に人外同士の戦争なんぞ泥沼に沈み込んでいくのが目に見えている。戦争なんざ望んでねぇんだこっちは。命のやり取りはもうしたくない。せっかく一誠たちのおかげで日常に戻れたんだからゆっくりとしていたんだ。情報だけ投げて俺は隠遁してやる。
ドポン、と家の近くで水に落ちたような音が響いた。ゆっくりと窓に近づいて窓を開けると、そこから透明な水の”アクア・ネックレス”が入り込む。振り払うように”アクア・ネックレス”に触れると、パシャリと音を立てて水を空に消えたかのようにスタンド像を消す。同時に窓の近くに置いてあったトランプの束がひとりでに動き出し、手足が生えたかと思ったらぞろぞろと窓からトランプのカードが出て行った。
「……堕天使か」
堕天使と言えば、イタリアで生活していた時に出会った堕天使の少女は元気にしているのだろうか。堕天使相手に少女という言葉があっているのかはわからないが、フリフリが多くついた白黒のゴシックロリータ調の服を好んで着ていて金色の髪を2つに括った姿は少女にしか見えないのだからそう形容するしかないだろう。
最初こそ人間の子供だとなめ腐った態度で突っかかってきていたのだが、悪魔や
「……敵対は、まぁ、するのかもしれないんだろうな」
まぁ
とはいえ、本当にそうだった場合どうするべきだろうか。仲良くなった連中にはめっぽう甘くなる性格だとは自覚しているが、今回はことがことだ。かばうにしても何かしらのストーリーは欲しい。
「……なんにしろ、情報を集めなくちゃ計画も何もないか」
脳内で53もの流れ込んでくる情報を捌きつつ、机の中にしまっているイタリアで購入した石でできた悪趣味な仮面の出番が来るのかもしれないことを予想しながら、今後の予定を立てていく。