スタンドをスべて持つ者は悪魔のいる高校へ 作:衝動書きする人
俺がリアス部長の下僕になってすでに何日も経っていた。その間に悪魔についての力や俺に宿っている神器の扱い方、そして悪魔としての営業について学んできた。悪魔としての特性のせいで朝がしんどいけど、代わりに夜は体に力が漲るかのように元気だった。
悪魔としての力を使おうとして、でも俺に魔力があまりにも少なすぎるせいで悪魔としての契約のための移動を魔法陣ではなく自転車で行くことになったりして悪魔としての評価がよくわからないことになって部長を困らせてしまうこともあった。
そんなことをしている間にも部長たちは部室の中に現れた水の人型、”アクア・ネックレス”について調べていたみたいだけど、よほど手慣れているのか手がかりが何も見つからなかったと愚痴っているのは記憶に新しい。俺も何か手伝えればよかったんだけど、魔力もミソッカスな俺ではろくな手伝いもできないことはわかりきっていたから俺と契約してくれる人を探す毎日だった。
今日だって悪魔としての契約を検討している人の呼び出しがあった。今度こそ契約を勝ち取ってやるんだって、そう意気込んでいたのに、契約希望者の家にたどり着いて呼び鈴を鳴らしても誰も出ず、扉の鍵は開いていたから家の中に入ったら部屋の中に契約希望者らしき人のひどい死体があった。
「あらら~?ど~~~して悪魔くんがここにいるのかな~~~?」
初めて見た惨殺死体に胃の中にあったものを吐き出している中、明らかにこの場にそぐわない調子のいい明るい声が部屋の中に響いた。口の中が気持ち悪いのを我慢して声のしたほうを見たら、そこには何がおかしいのか口角を釣り上げてこっちを見ている真っ白な神父が銃を持ってこっちを見ていた。
「なん、だよお前は……!?」
「俺ちゃん?俺ちゃんはね~?悪魔と契約しようとしたとてもおろかで罪深い悪魔崇拝者を神の御許に送ってあげたとても信心深い神父様、フリード様だよ~~~ん!」
ゲラゲラと、心の底からおかしいとばかりに笑う神父、フリードは舌をだらりと出して品もなく俺を見た。
「んで、こいつに子どもなんているわけがねぇのにここに来ているってことは?お前は?悪魔だな?そうだよな?そうじゃなくてもこんなところに来ているから悪い子に認定しま~~~す!そして悪い子は~~~?」
グネ、グネ、と気持ち悪い動きで体を揺らし、筒のようなものを右手に持って左手には銃を持ってこっちに銃口を向けてきた。訳の分からない、理解もしたくないやつに思考が鈍っていたけど、それを向けられてようやく今の状況が最悪なんだって理解できた俺は慌ててその場から離れようとしたけど、間に合わなかった。
「死刑、DEATH!」
バシュン、と銃口からは想像していた火薬が破裂する音じゃなく、まるで大量の空気が一瞬で抜けるような音が鳴ったと思ったら光の塊が発射されて、それは俺の足を貫いた。
「いっだ、いいいいいいいいい!?」
まるで焼けるかのような痛みに撃たれた足を押さえて転げまわる。それを見て愉快気にゲラゲラと笑って来るフリードに怒りと、同時にこの痛みを出してくる武器を持っていることへの恐怖が頭の中をかき回していた。
それでも何もしないわけにはいかなかった。ここで転げ回っているだけだったらあの銃で撃ち抜かれて死んでしまう。なら、ここで立ち向かわないといけない。
怖くて足ががくがくと震えている。ずっと続いている足の痛みが、自分が今死ぬかどうかの場所に立っていることを嫌でも理解させてきて立つこともままならない。武者震いだと虚勢を張ることもできずに歯がかみ合わない。寒さとは違うかじかみで手が震えている。
どうしてこんな目に遭うんだろうかと運命にすら恨み言を吐き出したくなる中、その声は嫌にクリアに俺の耳に入ってきた。
「なにがあったのですかフリード神父!?」
月明りしかない暗い部屋の中でもわかるぐらいにきれいな金色の髪を月明りに照らしてまるで優しい風を受けたカーテンのように揺らして入ってきたその女の子は、翡翠色の大きな目を大きく見開いて俺を見ていた。
「アーシア……?」
「イッセー、さん?」
アーシア・アルジェント。この街の教会に来るためにたった1人で海外から日本にやってきた心優しい少女だ。常識が抜けているところもあるけれど、その在り方は短い時間しか会っていないのにまるで慈母のようだとすら思うほどだ。そんな女の子が、こんな悪魔よりも悪魔らしい男と一緒にいる?
「おんやぁ?このクズとお知り合いなわけ?さっすが魔女様!追放される原因の悪魔に手を出すのがお早いことで!」
俺たちの様子を見て何かを察したのか、フリードは愉快だと言わんばかりにゲラゲラと笑い始める。
魔女?アーシアが?聖女なら理解できるけど、魔女?一体どうして?
「おんや?このクソビッチがどうして魔女と呼ばれているのかご存じないご様子?まぁわかるわけないんだけど!わかったらストーカーだよチミィ?」
ゲラゲラと品のない笑いを続けるフリードは愉快だと言わんばかりに言葉を続けていく。アーシアは教会の中でケガを負った悪魔を治療して、それを教会に咎められて破門された元聖女の魔女だと。まるで笑い話のように笑いながら聞いてもいないことを続けていく。それを聞いたアーシアはだんだんと表情が暗くなっていくのが、わかった。
「………黙れよ」
「それに……アァ?」
「黙れっつったんだよ、クソ野郎!」
喜々として言葉を続けようとしたフリードを遮って叫ぶ。右手には紅い籠手が出ていて手の甲に収まっている翡翠の玉が月明りを反射する。
「テメェがアーシアをバカにしてんじゃねぇよ!殺すことしかできねぇクズのお前と違って、アーシアは誰かを救える!そんなアーシアを、テメェのその汚ねぇ口で語るんじゃねぇ!」
気が付いたら手の震えは収まっていた。痛みで踏ん張りがききづらいのは相変わらずだけど、それでも生まれたての小鹿のように震えていた足はしっかりと床を踏みしめて、ガチガチとなっていた歯は怒りでギリギリと鳴っている。
「……あ~?あ、そう。くっだらね」
俺の怒りとは真逆に、フリードはさっきまでのテンションはどこに行ったのか唐突に表情が無くなったかのように静かになった。
つまらなさそうに唇を突き出し、銃口で頭を掻いて右手の筒を手遊びするかのようにクルクルと回している。さっきまでのおかしなテンションとは真逆のフリードに戸惑いを覚えながら、同時に何が起きてもいいように構えていると、フリードは肺の中の空気を全部出すかのように深い深いため息を吐いた。
「僕チン冷めちゃった。だから、死ね」
ダン、と床を強く叩いた音が聞こえた。そして目の前にフリードがいて、右手には光で出来た棒のような何か、筒から伸びているそれは光の剣としか形容できないものだった、を振りかぶっていた。
「イッセーさん!」
スロー再生されているかのように動いているフリードの後ろからアーシアの悲鳴が耳をつんざく。スロー再生みたいだとは言っても、俺はまるで泥の中を泳いでいるかのように体を動かすことができず、ゆっくりと光の刃が俺の首へと迫っていることを知覚しながらもそれを見ていることしかできなかった。
ゆっくりと、けれど着実に俺の首に迫ってくるそれを見ていることしかできない俺は、死が迫っているのに考えていることがアーシアの無事だった。
こんなところで死ねない。どうにかして避けようと歯を砕けるかと思うぐらいに喰いしばって首を動かす。けれどうまく動かすこともできず、光の刃が俺の首まで残り1cmをきったかというところまできて、バヂヂと電気が走る音と一緒に視界の端でフラッシュが瞬いた。
「ブッ!?」
突然フリードが声にならない悲鳴を上げて吹き飛んで行った。俺も避けようとしたままの勢いでその場を転げまわる勢いでこけてしまったけど、今の俺の頭の中はこけたことによる痛みよりも、今目の前にいる電気の人型に対する疑問だった。
『ったく。なんだってこんなところにお前がいるんだ』
バチバチと全身から電気を走らせているそれは、姿かたちこそ人のようにも見えるけどその頭部はあまりにも人から離れすぎていた。
恐竜と鳥を混ぜ合わせて人の頭の形にしたらこんな形になるんだろうなと、そんな感想を抱かせるそれの頭は爬虫類のような目に恐竜のような頭部、そして鳥のような嘴を持っていてその口から人の言葉を発していた。
「お、お前なんなんだ!?気持ち悪い姿しやがって!」
『ドス黒い意志の持ち主にそれを言われるのは心外だな、腐れ外道』
この場にいる全員が抱いていることを代弁するように叫ぶフリードに、恐竜頭はバカにしたように鼻を鳴らして返答した。それにフリードは怒りで顔を赤くして手にした光の剣を構えるが、フリードが動く前に今度は俺の後ろから恐竜頭が発している光とは別の光が溢れてきたのを視界の端で見た。
「イッセーくん!無事かい!?」
その光から現れたのは、まずは剣を手にした木場だった。それに続くように小猫ちゃん、姫島先輩、そして部長が俺を護るように俺の前に立った。
「あなた、何者?”アクア・ネックレス”と同じ存在?」
『”アクア・ネックレス”と結びつけるか。不可能ではないとは思うが、そう簡単に結び付けられるとは思っていなかった。そちらの発想力を侮っていたと思うべきかな?』
意外そうな声を出す恐竜頭は爬虫類のような目をこちらへ向けてくる。しかも腕を組んだまま、フリードから視界を外したらマズいのではないかと戦闘は全くわからない俺ですらも思ったことを、フリードは見落とすことなく光の剣を振りかぶって恐竜頭へと飛びかかった。
「隙だらけだっぴょ~ん!」
フリードは下品な笑いを上げながら光の剣を振りかぶり、恐竜頭の首にそれを振り下ろす。危ない、と叫ぶ前に剣は恐竜頭の首を通り、バチバチと電気の走る甲高い音を響かせた。
「へ?」
そんな間抜けな声を上げたのは、剣を振り下ろしたフリードだった。けど、正直俺たちも何が起きたのかわからなかった。何せ、普通は斬られたら死ぬはずの首を斬られても何事もなかったどころか光の刃が何も斬らなかったかのように素通りしたからだ。
フリードも同じように何が起きたのかわからないと言わんばかりに目を見開いて恐竜頭の首を凝視し、それを鬱陶しがるように恐竜頭はフリードの顔面に裏拳を叩き込んだ。
「ブベッ!」
硬質な音と肉を叩いた音、血が飛び散る音が混ざった嫌な音を出してクソ神父は頭から壁へとブッ飛ばされた。かなりの威力があったのかクソ神父は部屋の壁を突き抜けて廊下の壁に叩きこまれた音がリビングの中に響いた。
『隙だらけ?お前程度構える必要がないだけだとわからなかったのか?いや、こんな状況を作り出すほどだ。それ理解するほどのおつむもないか』
視線を殴り飛ばしたフリードに向けて嘲笑う恐竜頭。フリードは顔を真っ赤に染めて鼻から血を流していたが、それを見て恐竜頭は鼻を鳴らして笑った。
「テメェエエエエエエ!この俺様をバカにしやがってぇえええええ!」
『バカにする?心外だな。お前は向かって来る1匹のアリに対して何か思うことはあるのか?ないだろう?それと同じことだとわからないのか?』
やれやれ、と言わんばかりに馬鹿にしたように鼻を鳴らし、首をすくめて左右に振る。その様子にクソ神父は怒りで顔を真っ赤に染め、今にも襲い掛かりそうな雰囲気を出すが、先ほどの攻撃が何も効かず自分が殴り飛ばされたことを思い出せたのか辛うじて踏みとどまっている。
それを見た恐竜頭は面倒くさそうに鼻を鳴らし、ゆっくりとフリードへと歩みを進める。フリードの攻撃は効かず、恐竜頭の攻撃は通る状況。しかもいつここに来たのかすらわからない状態で逃げることすら叶うかわからない今、フリードの表情は焦りを隠せずに視線をぐりぐりと動かして汗をかき始める。
そしてフリードの視線がアーシアに留まると、フリードの表情は一転して気色が悪い笑みを浮かべた。
「キャァ!?」
「おっとぉ!それ以上動くな!こいつがどうなってもいいってのか!」
すぐさまアーシアの方へと動き、こともあろうことかアーシアの首に光の剣を沿えて銃を俺たちの方へと向けるフリード。それを見た恐竜頭は予想外だったのかピタリと足を止め、離れたところにいる俺たちの耳にも届くほどの大きさの音で舌打ちを打った。
『……ドス黒い精神の持ち主だと言ったな。撤回しよう。貴様は便器に吐き出されたタンカス以下の存在だ』
「カカカッ!バケモノがよくもまぁそんなことを言えたもんですねぇ!」
アーシアを人質にしたことで攻撃が来ないと思ったのかフリードは不快になる笑い声を上げる。同じ教会のはずなのにアーシアを人質に取るようなクソ野郎だったことに木場も不愉快だったのかすぐにも動き出しそうに足に力を込めていたが、それをフリードは見逃すことはなかった。
「おっと!テメェらも動くんじゃねぇぞ!動いたらこいつの首がポロっととれちまうかもなぁ!」
「この、外道が……!」
普通なら敵であるはずの人が人質になったところで効果なんてないはずだったんだろう。けどアーシアの表情は今にも泣きそうな表情を浮かべてフリードを見て、俺たちを見て、をただただ繰り返していただけで助けを求めることもなかった。どこにでもいるごく普通の女の子でしかないその姿に部長たちも手が出せないようだった。
「あぁ、そうだ。ついでだしいいことを教えてやるよ」
アーシアを逃がさないように首筋に剣を構えたまま、器用に片手を自身のポケットの中に入れて何かを掴んでそれを見せつけるようにブラブラとさせている。それは昔の携帯のように細長い機械のように見え、音声を入れるためなのか複数の小さな穴とボタンがついてた。
「今ここに俺ちゃんの仲間の堕天使たちが来るように呼び出した。こいつが計画の要だからなぁ、飛びつくようにここに来ると思うぜ?」
ケラケラと愉快そうに笑っているフリード。それを聞いた俺たちは目を見開いた。堕天使たちと言った?つまり、俺を殺そうとした天野夕麻ちゃんみたいなのがたくさん来るってことか……!?
「ケッケッケッケ!さぁどうするんでござんしょう!このまま自分たちが殺されるのを理解してこいつを助けるのか!自分たちの命が惜しくてこいつを見捨てるのか!」
「テメェ!」
「イッセー!撤退するわよ!」
「でも!部長!」
フリードの言葉に頭に血が上るのを自覚しつつ、それでも許すことができずにフリードに殴りかかろうとしたけど、部長がそれを制して牙に俺を引きずらせて魔法陣に乗ろうとしていた。
このままアーシアを見捨てるわけにはいかない。でも、部長たちが俺を助けようと引きずっている。どうすればいいのかわからず頭の中でぐちゃぐちゃになりながらもアーシアに手を伸ばし続けた。
「イッセーさん……!」
か細く、それでもしっかりと俺の名前を呼んでくれたアーシアに、もう俺が何をするべきなのかがわかった。こうしてやるという誓いを心に刻み込むように声を上げる。
「待っててくれアーシア!絶対に、絶対に助けてやるから!」
それを言い終わると同時に魔法陣が起動したのか、視界が光に包まれた。このあと家の中でどうなったのか、恐竜頭がどうなったのか、あるいはどうしたのかはわからないまま終わった。
でも、この後の行動は決まった。助けるんじゃない。助けたとなるように行動する。そう誓うように、この悔しさを忘れないように口の中を噛んで血を流す。この血は誓いの血だと、二度とこんな味を味わうことをしないと。そう自分に言い聞かせるように、不快な血の味を舌に刻み込んだ。