スタンドをスべて持つ者は悪魔のいる高校へ 作:衝動書きする人
「今からこの廃教会の中に突入する。フリードだけじゃなくここに来た堕天使もいることは間違いないんだ。みんな、最大限に警戒を途切れさせないようにしてね」
月が真上に昇っているほどの夜更けの時間。満月の月明かりが照らしているとはいえ、廃屋と化している教会と手入れのされていない周りを照らすにはあまりにも頼りない明るさの中彼らは教会の前にいた。
「ここにアーシアが……!」
「先走らないようにね、イッセーくん」
「不安は残りますが、頼りにしてますから」
木場、小猫、一誠は辺りを警戒しながら教会に近づく。誰もいない、気配もない、未熟ながらも辺りを見渡し、自分たちを妨害する存在がいないと確信してゆっくりと教会に入ろうと歩みを進める。
「本当に来たんスね。ここで戦ったら戦争になりかねないっていうのに、バカというか単純というか、自分の心に正直すぎじゃないスか?」
誰もいない。そう思っていた中で上から幼さすら感じる少女の声が響いた。慌てて声のした方に顔を向けると、廃教会の屋根に黒い鳥の羽を広げて一誠たちを見下ろしている堕天使がいた。
「堕天使!?」
一誠の悲鳴にも似た声に、小猫と木場は武器を構えて屋根に座る堕天使、ミッテルトに強い警戒を露わにする。その様子にミッテルトはハァ、と軽くため息を吐くとまるで縁側から降りるかのように体を空へと投げ、しかし10mはあるだろう距離をゆっくりと降りていた。
一誠たちは降りてきているミッテルトだけでなく不意打ちを警戒して辺りにも気配がないかを探る。その中で降りているミッテルトのその姿は、ゴシックロリータの服が風ではためき、降りる際に浮かんだ金色の髪が月の光で煌めき、重力に逆らうようにゆっくりと降りてくるその姿は堕天使という人外であることもあって呆然とするほどに幻想的な光景を作り出していた。
「私に見つかってから警戒してるようじゃ、この先もどうなるか知れることになるッスよ」
足音すら立たないほどに柔らかく着地したミッテルトは呆れを含むようにそう言う。まるでこちらに助言をするかのような物言いに拍子抜けしたかのように目を丸くする3人だったが、それを無視しながらミッテルトは視線を教会の中へと向けた。
「アーシアは教会の奥にある十字架の下にある隠された地下室への階段から向かった場所で囚われているッス。
一瞬ミッテルトが何を言っているのか理解できなかった。先ほどのように推定ではない、完全にこちらへの助言をしていると認識するまで3人は時間がかかった。
「あぁ、でも中にはフリードが待っているし、地下には大量のはぐれエクソシストがいるからうまく立ち回らないとハチの巣になるかもだから気を付けていくッスよ」
言いたいことは言い終わった、と言わんばかりに体を扉の横へと動かす。こちらを害する意思がないどころではなく、むしろ助力するかのような行動をとるミッテルトに、特に短い期間で堕天使から数々の害意を受けてきた一誠は信じられないものを見るかのような視線を送っていた。
「お前、なんで俺たちを……」
警戒を解かずにジッと見つめている木場と小猫に対し、困惑を隠せずにいた一誠は構えを解いてそう聞いたが、その答えを聞く前に男の低い声がまた空から響き聞こえた。
「まさかと思っていたが、本当に裏切っていたとはな」
3人は目を見開いて声のした方を見ると、そこには紺色のコートを身にまとった男の堕天使、そして黒のボディコンを着た女の堕天使が侮蔑の表情を浮かべて地面に立っている堕天使を見下していた。
「親人間派閥から引き抜いてきたとは聞いていたが、まさかそんな実力で我々を裏切るとは正直思っていなかったぞ、ミッテルト」
吐き出すように、同時に嘲笑うかのように言うドーナシークに、特に言葉にしてはいないが鼻で笑っているのが見て取れる様子で口角を上げているカラワーナ。どちらも味方にするような態度ではないことに一誠たちは警戒を解かないままでも困惑をわずかに露わにする。
裏切った?ということは、本当に助言のつもりで言ったのか?疑問が頭を回るが同時にこの場をどう切り抜けるかを一誠たちが考えている中、ミッテルトは光の槍を出し、一誠たちをかばうようにゆっくりと教会から距離を空けた。
「早く行って」
「お、お前!?」
光の槍を構えて一誠たちのそう促す。悪魔になったとはいえその善性を失っていない一誠たちは敵対組織である堕天使がかばってくることに驚きを隠せずにいた。
「優先順位を間違えるな。言っている意味、分かるッスよね?」
「け、けど、お前1人で勝てるわけが……!」
「こんなところでモタモタしてる時間があると思ってるの!?1人じゃフリードにも勝てない弱い悪魔が、時間もないのに救いたい人を助けるためにかける時間を減らしてもいいっていうの!?」
「~~~~~~~ッ!死ぬなよ!」
ミッテルトの叱咤に一誠はそれだけ言うと全力で教会の中へと走る。木場や小猫もミッテルトに一瞥だけすると一誠の後を追って教会の中へと入っていく。その様子を見たドーナシークは愚かなものを見たと言わんばかりに深くため息を吐いた。
「心の底から呆れたぞ。お前は我らの中でも最弱。中級堕天使に片足をかけているが、所詮は下級堕天使。中級堕天使である我らに勝てるわけがないだろう」
もはや侮蔑する気持ちも沸かない。そう言わんばかりに、もはや憐みすらも露わにしてミッテルトを見下すが、ドーナシークの言うことは事実ではあった。
下級と中級。もちろん同じ級の中でも格差は存在しているが、それでも下級と中級との差は格別と言っても過言ではなかった。下級相手であれば3人いることでようやく相手になるほどだというのに、1人だけとはいえ人数はドーナシークたち中級の方が多い。その状況で勝てるはずもないと思うのは侮辱でもなんでもなく純然たる事実と言っても問題ないほどだ。
「別に、今の私は無敵なんて馬鹿なことは言わないッスよ。1人で戦ってもあんたらのどちらか1人に勝てるわけでもない、この場では最弱の堕天使なのは間違いのない事実」
それでも、それを理解できないほどミッテルトは愚かではない。この戦いで死んでもおかしくはない。それは自覚していることであるし、死への恐怖で足が震えそうになっているほどだ。
「けど、今の私は1人で戦っているわけじゃない!今の私には、私の傍にはジョディオの助けがある!今の私は一味も二味も違うってこと、その身に叩き込んでやる!」
けれど、今は恩人から力を借りている。自分ならどんな恐怖も乗り越えてくれると信じてくれて力を預けてくれたのだ。
「何を言い出すかと思えば……!」
「ゴタゴタ抜かさずに来やがれ!テメェは弱者に立ち向かうこともできない腑抜け野郎なら今すぐ帰ってミルクでも飲んで眠ってろ!」
「何をふざけたことを!よほど今死にたいと見た!ならその望み通り死ぬがいい!裏切者!」
私の挑発にドーナシークが激昂し、右手に光の槍を創り出して私に向かって突撃してきた。カラワーナは呆れたような表情と私が無様に懇願するだろうと思っているのかニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。なんて馬鹿なことを、と思うことなんてできない。この状況は私にとって最上に等しい状況だ。
バサリ、と大量の羽が抜け落ちるほどの全力で大きく翼を動かす。空に逃げるためではなく、
「なっ!?」
グニャリ、とミッテルトの体がトランポリンに落ちたかのように地面へ大きく沈む。地面が沈んだことによってドーナシークの光の槍はミッテルトを外して地面に突き刺さる。ミッテルトは能力を解除すると柔らかくなった地面は元の硬さに戻り、元の形に戻ろうと勢いよく平らになる。コンマ数秒の間に沈み込んでいた地面が元の平らな地面へと戻り、ミッテルトはその反動を利用してドーナシークに近づく。
「はぁああああ!」
弾き飛んだミッテルトの速度は音速に近い亜音速になった。風の抵抗によって速度を落とさないように最低限角度を調整する程度に留めるように翼をたたみ、滑り落ちないように
「ガァァアアア!」
そのまま手に持っていた光の槍をドーナシークに突き刺す。槍はドーナシークの心臓部へと突き刺さり、そのまま勢いが止まることなくミッテルトの体はドーナシークに凄まじい勢いのままぶつかっていく。力に大きな差があるとはいえ、ダンプカーすらも弾き飛ばす威力が込められた突撃はドーナシークの体を車ではねたように弾き飛ばす、心臓部に突き刺さった槍が致命傷となって絶命した。
「ハァ、ハァ、ハァ……。まずは、1人……!」
黒い羽だけとなったドーナシークを弾き飛ばす勢いをそのままにして地面から空へと弾かれ、勢いを殺すように翼をはためかせてようやく勢いが衰えて滞空する。無理やりに速度を落としたせいで翼に痛みが生じたが、今はそれを気にしている暇なんてなかった。
「ドーナシーク!ミッテルト、貴様ァ!」
ドーナシークが倒されたことに現実が認められなかったのか呆然としていたカラワーナだったが、すぐに現実を認めてドーナシークを倒したミッテルトに向かって飛ぶ。右手には光の槍が出現し、それはミッテルトを葬るのには過剰と言えるほどの力が込められていた。
ミッテルトはカラワーナが行動し始めたと見た時にはすでに森の中へと飛んでいた。
「逃がすか!」
垂直落下からの勢いを殺さずに木々を避けて飛ぶミッテルトだったが、それでも下級堕天使と中級堕天使の差は大きい。徐々にその距離は縮まっていき、そして焦りからか速度と姿勢の制御が追いつかなかったからか太い木に体が当たって体勢が崩れ、そのまま墜落することはなかったが勢いを殺しきれず砂煙を上げながら地面に足と手でブレーキをかけながらミッテルトは着地した。
「バカめ!死ねぇ!」
そしてそれを見逃すカラワーナではなかった。
「バカはそっちッスよ!いくら下級とはいえ、この程度で木にぶつかると思っていたんスか!」
槍を構えたミッテルトは槍を構え、そして大きく声を出した。
「”
突如カラワーナの目の前が真っ暗になり、同時に強い衝撃が走った。まるで力自慢に力強く殴られたのかと思うほどの威力で顔を叩かれたカラワーナの意識が飛び飛びになり、さらに自身の飛ぶ勢いも合わさってそれなり以上の衝撃となったそれを受け流すこともできず飛ぶことはおろか立ち上がることもできずに地面へと叩き込まれるかのように倒れ込んだ。
「なに、が」
援軍か、とカワラーナはチカチカと視界が瞬く中後ろを振り返ると、そこにはユラユラと
顔だけでなく地面に頭を強く打ちつけられたことによって意識が混濁しているカラワーナは、肉体の強さが人間よりも強いがゆえにその程度で済んでいるがそれでも立つことで精一杯な状態で何が起こったのかを理解しようと波打つ視界を固定しようとする。
カラワーナも理解していることだが、本来中級に近い程度の下級堕天使の力は中級堕天使に槍を突き立てることも難しく、両手で力を込めてかつ全体重をかけて突き立てなければ槍を貫通させることすら難しいほどに弱い。だからこそ油断していたドーナシークと違ってカラワーナは神器を取り込んだと思わしきミッテルトを警戒していた。そうすれば自分が死ぬことはないと無意識にしていた油断もついていたのは、カラワーナ自身が気づくことはなかったのだが。
そして自分が弱いと理解していたミッテルトはそれを利用した。カラワーナが自身にしか集中できていないことを確認し、逃げている間に”スパイス・ガール”によって太い木の幹を柔らかくし、動けない状態になるように細い槍でしならせた状態で留めた。あとはタイミングを見計らって槍の消去と柔らかさをある程度解除した。
無意識にしていた強者としての驕りに付けいれられて力技しか使ってこなかったカラワーナには理解できない、弱者であると自認しているミッテルトだからこそできた芸当だ。
異常な現象が起きていることへの疑問、そして後頭部を強く叩かれたことによる意識の混濁でカラワーナの頭の中にミッテルトのことなど完全になくなっていた。そして、それを引き起こしたミッテルトの手には普段以上に強力に作り上げた光の槍が握られている。
「しまっ」
光の槍の発する光を見て己の失態に気づいたカラワーナだったが、後頭部はの強い殴打による意識の混濁が瞬時に治ることはなく、移動もままならずに立ち続けるだけでやっとだった。
「遅い!」
動くことすらもままならないカワナーレの心臓部へ全力で槍を突き立てる。同時にミッテルトの背後からピンク色の人型をしたナニカ、”スパイス・ガール”が押し込むように槍を殴った。堕天使ゆえの体の強度に槍が滑りそうになるが握る力を更に強くし、一瞬の抵抗はあったものの槍はカラワーナの心臓部を貫通した。
「がふっ……!」
血を吐き出し貫かれた胸部に手を遣るがミッテルトは槍を消すことはせず、回復されないように槍を維持し続ける。カラワーナは自分に逆らったミッテルトへの怒りとそれ以上の死への恐怖で顔を歪ませて、光となって消えた。
「……はぁ、はぁぁ……!」
へたり、と槍を消してその場にへたり込むミッテルト。痙攣しているとすら思えるほどに震えている手を見つめ、膝に力を入れようとすると笑っているかのように力が入らない。同時に、自分より上位の相手を倒したことへの達成感と一時だけとはいえ仲間を裏切ってしまった後悔、格上を相手にして感じていた死の恐怖、そして想っている相手から自分を信じて貸与された
「……やった、んだ……。私が、やったんだ……!」
声が震える。恐怖故か、喜び故か、相反するはずの感情が混ざり合った自分でも理解できない感情が体の中を駆け巡り、自分自身を抱きしめるかのように自分の両肩に手を添える。
そして、まるで戦い終えた戦士を労わるかのように”スパイス・ガール”が包み込むようにミッテルトの肩に腕を回し、その背中をそっと撫でていた。
「やったんだ、私は、格上の2人を、倒せたんだ……!」
ポロリ、とようやく命を懸けた格上との戦いが終わったことを実感したミッテルトは、安堵と感謝で胸の中を渦巻かせながら静かに涙を流した。