或る、フルート吹きの青春   作:ハヤブサ320

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EP.04 傘木先輩

 希美との再会を果たした翌日から隆翔は時々放課後に居残るようになった。三年生の教室があるフロアへ赴くと、一人で音出しをする希美の姿をよく見かけ、その度に彼女と会話をするようになっていた。

 

「傘木先輩、おはようございます」

「おはよう。今日は久々に晴れたね。午後の体育がバスケだったんだけど、せっかくなら校庭に出て運動したかったな」

 

 希美は外を眺めながら大きく伸びをした。制服の隙間から、引き締まった腰を覆う白いインナーシャツが見え隠れしている。希美は男子相手にも少しだけガードが緩い。それだけ隆翔に気を許しているのだと、都合よく解釈した。

 

「あ、そうそう。この前やっとサンフェスの衣装が届いたんだ! 試着してみたんだけど、見たい?」

 希美は隆翔を挑発するように瞳を細めた。色々気になる単語があったが、制服姿以外の希美をお目にかかれるなら、どうでも良かった。

「……いくら出せば良いですか?」

 隆翔は鞄から財布を出して残金を確認する。

 

「えっ、お金なんか取らないよ! やだな、もう。カツアゲしてるみたいじゃん」

 希美は隆翔の揶揄いを看破すると、先輩への礼儀がなってないと頬を膨らませて怒った。

 

「ごめんなさい。実は見たくて死にそうです」

「そんな良いものじゃないよ。ホラ」

 

 希美のスマートフォンに映し出されたのは、オレンジ色のマーチング衣装を纏ってポーズを取る希美の画像だった。首下のデコルテとウェストには布がなく肌が露出しており、スカートもかなり膝上で切れているため、非常に目のやり場に困る衣装だった。

 普段見慣れていたセーラー服とは打って変わってセクシー路線が強調され、隆翔は思わず本音を呟いた。

「凄すぎ……」

「な、何が?」

「言ってほしいんですか?」

「い、言わなくていい!」

 希美はスマートフォンを手で隠すと羞恥で赤くなった。完全に彼女の自爆だが、そんなところも可愛いと思えてしまう愛嬌が存在した。

 

「あ、因みにこの衣装には帽子もあって。ほらこれ、鳥の羽根が付いてて可愛いでしょ」

「確かに可愛いですね」

「でしょでしょ!」

 

 女子は素直に「可愛い」と褒められることが何より喜ぶと経験が語っていた。

 希美も女の子なのだ。可愛い衣装を着ればテンションが上がる。

 誰だか知らないが、この衣装をデザインした人に隆翔は心の中で感謝の土下座をした。

 

「ところで、サンフェスって何なんですか?」

「サンフェスってのはね、太陽公園で五月の終わりに開催されるマーチングのお祭りだよ。正式名称はサンライズ・フェスティバル。京都の学校とか一般の団体が一曲ずつ演奏しながら公園を一周するんだって」

 

 太陽公園は宇治市南部に位置する高台にある公園だ。宇治駅からバスで十五分ほどで到着する。隆翔も小学生の遠足などで、何度か行ったことがあった。

 

「へえ、そんな祭りがあるんですね」

「そうなの。てか、もう来週だよ。あーあ、今日も地獄の行進練習か」

 

 座奏メインの学校がマーチングを経験することは、かなりの苦行なのだろう。あまり練習を毛嫌いしない秀一でさえも、マーチングの練習に関しては苦手意識を持っていた程だ。

 

「そろそろ行かないと。またね、樟葉くん」

「はい。練習頑張ってください」

「ありがとう」

 

 別れ際にはにかむ希美の笑顔が、これまでの出来事を清算する程に優美に見えた。希美との密会はホームルームが終わって部活が始まるまでの合間、数分間でしかない。サンライズ・フェスティバルが迫る中、吹奏楽部は天候が晴れるとグラウンドでマーチングの練習をする。逆に、雨の降る日はほとんど座奏練習が占めるので、個人練習の希美を捕まえて、憧れの音の傍に佇むことが出来た。

 

 しかし希美には過去の出来事や、自らの話を明かせずにいた。過去に囚われたくない思いと、限りある筈の希美との時間に余計な思考を挟みたくなかった。隆翔が心根には、フルートが好きで、音楽が好きで、吹奏楽部が嫌いなポリシーがしっかりと刻まれていた。

 

 

 

 

 翌日は土曜日で、授業は午前中で終わった。ホームルーム後に気が早い生徒が楽器を吹く音が聴こえているので、今日も練習があると思った隆翔は希美が居そうなフロアを歩いていた。

 しかし、希美の姿は見当たらなかった。

 希美との交流を諦め、昇降口へ向かう途中で後ろから声を掛ける者がいた。

 

「あれ、樟葉くん?」

 

 驚いて振り返ると、隆翔の背後で特徴的なツインテールがひょこひょこと揺れている。声の主は中野蕾実。先日希美と再会した現場に現れた隆翔のクラスメイトだ。

 

「中野か、びっくりした」

「珍しいなって思って。樟葉くん、何部だったっけ?」

「帰宅部だよ。もう帰るところ」

「そっか」

 

 会話が切れたところで二人の間に気不味い雰囲気が流れる。隆翔と中野蕾実は、四月のクラス替えで同じクラスとなったばかりだ。お互いが会話を繋ぐような接点もなく、まともに話すのは今日が初めてだった。

 先に沈黙に耐えられなくなった中野が口を開いた。

 

「もしかして、のぞ先輩?」

「のぞ先輩?」

「あっごめん。傘木希美先輩ね」

 希美は後輩から、のぞ先輩と呼ばれて慕われていた。中野の言葉端から窺えるように、底抜けに明るい性格こそが彼女が慕われる理由なのだろう。

「のぞ先輩、今日は模試でお休みだよ」

「まあ、仕方ないよ。受験生だし」

 隆翔は内心肩を落とした。

「のぞ先輩、可愛いもんね。スタイルも良いし」

 サンフェスの衣装を見せられては同意せざるを得ない。

「傘木先輩って、パートリーダーなの?」

「ううん、リーダーは別の先輩。のぞ先輩は副リーダーだよ」

「意外だな。リーダーシップありそうだけど」

「去年、色々あったから」

 表沙汰にしたくない過去なのか、中野は言い淀む。

 隆翔が中学二年生で出場したコンクールでは、希美が率いた南中は銀賞だった。希美ほど向上心があってフルートに精通している奏者であれば、高校でリベンジを目指すだろう。前年に関西大会へ駒を進めていた背景を考えると、その時の悔しさは相当なことであったに違いない。北中と違って、南中から北宇治への進学は多い。実際にクラスメイトの何割かは南中出身者だ。

 何か余程の事情があるのか、隠したい事なのかは中野の表情からは判別できなかった。

 

「あの人、去年の夏に入ってきたんだ。でも凄く上手でね」

 

 その時、校内に響く部活動の喧騒が一瞬だけ止んだ。

 中野の言葉は隆翔の脳内を駆け巡った。

「それって、どういうこと?」

「何が?」

「その、去年の夏に入ってきたっていう……」

「えっとね、正確に言うと、一年生の時に辞めて、去年また部活に戻ってきたの」

 

 辞めた。退部したのか。あの先輩(ひと)が、吹奏楽部を?

「いや、そんな訳ないだろ。だってあんなに吹奏楽が好きな人がだぞ」

 俄には信じ難いことだった。全身から溢れるほどフルートにのめり込むような人なのに。

 中野の言葉に乾いた笑いが漏れた。そんな隆翔の意に反して、含みのない笑みで隆翔の言葉を繋いだ。

「本当だよ。私も先輩からの又聞きだけど、その時のぞ先輩だけじゃなくて、南中のほとんどの人が辞めたんだって」

「じゃあパートリーダーになれなかったのは……」

「そういう事だと思うよ。卒業した先輩が決めたことだし、私たちは関わらなかったけど」

 部活動というのは、退部しても復帰は認められている。しかし、一度退部をしたことで発生した痼は残り続ける。この部の三年生には目に見えない傷があって、皆触れないように慎重に活動している。中野が言い淀んだのも当然だった。

 隆翔が一年生の春に正門前で聴いた限りでは、ぬるま湯に浸り切った耳障りの悪い演奏だった。そんな環境に一年も長く、南中で辛酸を嘗めた希美が耐えられようか。

「そうだったのか」

「何かあった?」

「いや、色々あるんだなって思っただけ」

 希美の過去。北宇治の過去。

とてもじゃないが、容易く扱って良いもので無い。

思いがけず知り得てしまった過去の希美と同じ傷を背負う隆翔は、彼女と対話する決心がついた。

 

 

 

     ◇◆◇

 

 

 

「こんにちは、傘木先輩」

 週明け、隆翔は空き教室でフルートを奏でる希美の姿を見つけた。サンフェスで焼けたのか、先週よりも首元が少しだけ日焼けしていた。音階に身を任せてしなやかに奏でる姿からは、一度吹くことを諦めてしまった事実を想像することはできなかった。

 

「先輩。今、部活楽しいですか?」

 隆翔は気持ちがブレないよう、早速本題へ入った。

「部活? うん、普通に楽しいよ」

「……部活、好きですか?」

「うん。大好き、だよ?」

 

 いつもと違う隆翔に、希美は首を傾げた。

 希美の笑顔の裏にひた隠しにしたい過去があるのなら、まずは自分の事を嘘偽り無く伝える必要があった。

 

「先輩に伝えたいことがあって。今、時間宜しいですか」

「大丈夫だよ。どうしたの?」

 この事実を話して、何の意味があるのだろうか。

 軽くあしらわれて会話が終わってしまう恐怖で足が竦む。この原動力は、一体何なのだろうか。

「傘木先輩。俺、中学の頃は吹部だったんです。フルート吹いてました」

「え……」

 

 希美の反応は、隆翔の予想に反した。驚くようなこともなく、興味を示す仕草もない。ただ、語られる事実を受け止めることを選択したようだった。

「今まで隠していてすみません。俺の話、少しだけ聞いてもらってもいいですか」

 それから隆翔は、中学二年生で起きた事件から現在に至るまでを掻い摘んで希美に話した。そして、コンクールでの『韃靼人の踊り』を見ていたこと。それを知っていたから先日希美に声を掛けたと打ち明けた。隆翔のカミングアウトを希美は黙って聞いていた。そして最後に希美に語りかけた。

 

「俺は貴女の気持ちがまだ分かりません。分かるとは言いたくない。だって、先輩は絶対に今でも中学の悔しさを忘れていないから。でも知らないまま、呑気に先輩と過ごすのはもっと嫌です。無念の果てに、先輩が一度この吹部を辞めた理由を。どうしたらまた吹きたいって思えるのか、俺は知りたいです」

 

 机一つ隔てて対峙した希美は、ゆっくりと咀嚼するように首肯いた。

 二人分の沈黙が流れる。メトロノームのように秒針が時を刻む音だけが教室に響いていた。

 

「そうだったんだ。それは、音楽が嫌いになるかもね」

「いえ、音楽もフルートも嫌いにはなってないですよ」

「そうなの?」

「ええ。現に、先輩のフルートの音を憶えていたから、今こうして話すことが出来ているのですし」

 

 暗い話をそのまま終わらせるようなことはしない。今が不幸だと言うのは簡単だが、この時間が尊いと伝える事は意義がある。

 

「先輩は凄いですよ。どんな過程であれ吹奏楽を続けているんですから」

「……そんな事ないよ。私は、全然ダメダメだよ」

 ふぅ、と吐き出した息を追いかけるように、希美は自身の話を始めた。

 

「……あのときね、私たちは府大会銀賞っていう結果を受け入れられなかった」

 

 希美の気落ちした声が二人の沈黙を破った。

「私は南中の部長として、みんなを支えて、前の年に並べるような結果を出さなきゃいけなかった」

 

 ぽつり、ぽつりと、箇条書きにしたメモを読むように希美は供述した。

 

「私たちの代の南中はバランスの整った良いチームだった。だから関西を越えて、全国も夢じゃないってみんな必死に練習していた。でもね……」

 

 希美は自嘲するような苦笑を浮かべた。いつも明るく振る舞う彼女からは想像できない程に暗く、後悔に苛まれている表情だった。希美の笑顔の奥にある素顔に、隆翔が初めて触れた瞬間だった。

 

 

『嘘でしょ。まだ府大会だよ……』

 

 

 歓声の隙間から聞こえた落胆の言葉が甦る。

 あの時、希美は歓喜に染まる学校を歯を食いしばって眺めていた。悔しさから涙を流し、瞼を真っ赤に腫らしていた。

「あの時、部員のみんな訳が分からないって気持ちだった。その反動で、高校では絶対金を獲って、みんなで全国に行こうって」

 

 そこまで聞いて、中野の言葉に対するひとつの確信に辿り着いた。一昨年、希美が高校に入学した年のコンクールで、北宇治は府大会銅賞だった。そして滝が赴任した去年、北宇治は全国大会へ進出した。顧問が変わった途端に躍進を遂げることはよくある話だった。しかし、そこに希美は本当に居たのだろうか。

 

「滝先生が来る前の北宇治は全然練習量が足りなくて、楽器も触らずに練習中に喋ったりお菓子を食べてたりで。だから、入部したての私たちはこの部を変えてやろうって意気込んでたの」

「先輩らしいと思います」

「ふふふ、ありがとう」

 

 希美と隆翔は空いている席に向かい合って座った。希美との距離が自然と近くなって、ふわりと柑橘系の香りが鼻をくすぐった。でもね、と呟いて希美は再び話し始めた。

 

「結局、私じゃ何も出来なかった。当時の三年生や一部の二年生は、あの環境に不満は無くて、このままじゃダメだって息巻く私たちの言葉に耳を貸さなかった。挙げ句の果てには迷惑だって言われる有様で。そして私たちの居場所は無くなった」

 神妙な面持ちの希美は、言葉を紡いでため息を漏らし、目を伏せた。

「今思えば、本当に子供だった。なんであんな強引なやり方で変えようって思ったんだろう。先輩に逆らえば間違いなく角が立つ。実際に、私と知り合いってだけで友達が嫌な思いをした。互いになりふり構わなくなって、ボイコットだのストライキだのって暴走して。先輩も大人気ないと思ったけど、私たちにも反省すべきところはあったよ」

 

 希美の過去は、隆翔の想像を遥かに超えるほど壮絶だった。先輩に逆らって立場を失った隆翔は辞めるだけで良かったが、希美は南中軍団のトップとして後に引けない立場だったのだ。

 

「私が辞めた次の年に、滝先生が新しい顧問になった。それからの吹部は、見違えるほど上手くなった。練習への姿勢が変わって、練習量も増えた。私がしたかったことが、私の目の前でいとも簡単に達成されていった。正直ね、気が狂いそうだった。私がやってきたことって何? 退部して引き留めてくれた先輩もいた。本当にその通りだった。今更帰ってくるなんて虫が良すぎるとも思った。でも止められなかった」

 

 希美の声に熱が籠る。傷だらけの過去を蒸し返すような真似をさせて、隆翔は居た堪れなくなった。しかし隆翔には、その傷を受け止める義務が存在した。

 

「去年は府大会の後に復帰したから、コンクールメンバーにはなれなかった。私の目の前で、私が立ちたかった全国大会で演奏するメンバーが羨ましかった」

 体の前で握った拳を見ながら、感情を露わに当時の思いの丈を言葉にする。しかしすぐに前を向いて、力強く宣言した。

 

「だから、今年は最後のチャンスなの。絶対にコンクールメンバーになって、絶対に全国で金を獲る。その為なら何だってする」

 

 去来する想いは、すべて今の糧にする。

 彼女は強かった。隆翔と違って、一度たりともフルートを手放さなかった。

 その上で、隆翔はもう一度希美に訊きたいことがあった。

 

「先輩、いま楽しいですか?」

 希美の目がはっと見開いた。そして次の瞬間、にっと口角を上げた。

 

「めちゃくちゃ楽しいよ。フルート」

 

 痛々しい心の傷に手を差し伸べたかった。しかし、彼女にその必要はなかった。伸ばしかけた手を、隆翔は体の後ろに隠した。

 

「君はさ、また吹きたいって思わないの?」

「どうなんでしょうね。明確に何がしたいかっていうのは分からないです」

「北中で吹いてたなら、きっと上手いんだろうなって思う。高坂さんや黄前さんも一年生からコンクールメンバーだったし。きっと、君も即戦力になるよ」

「……それは、どうでしょうか」

 

 煮え切らない感情の海を這う隆翔に、希美は両手を差し伸べた。

 

「今年の北宇治も強いよ。でも、もっと良くなれる。君がその手伝いをしてくれたら、私はすごく嬉しいな」

 

 繊細な指先が、隆翔の手に触れる。細い指だったが、確かに熱くて、確かに力があった。

 隆翔にとって甘い誘いだった。希美は部長経験者であり、チームの実力向上の為に尽力するだろう。隆翔にとって希美は憧れの存在。今の隆翔のように手を差し伸べられたら、誰だって希美を慕うだろう。彼女はそんな魔性を秘めていた。

 

「ありがとうございます。少し、考えてみます」

「うん!」

 

 今日一番の笑顔を向けられ、隆翔の頬も少しだけ緩んだ。それから全体練習の時間となり、この日の密会はお開きとなった。隆翔は帰宅すると、押入れから埃で汚れたハードケースを引っ張り出した。付着した埃を指で拭うと『YAMAHA』と刻印された金色のロゴマークが現れた。三年前に仕舞ったきり触れることをしなかったフルート。まさか希美に再会し、背中を押されることになろうとは思わなかった。

 ピンを外し箱の中身を確認する。ハードケースに密閉されていたかつての相棒は、三年前から時が止まったかのように綺麗な状態であった。押入れへ仕舞う直前、これまでの感謝を込めていつも以上に入念に磨き、多少の使用感はあるものの隆翔の顔を反射させるほど輝いていた。まるで三年前のタイムカプセルを開けた気分だった。

 フルートを組み立て、管の中を軽く吹き掛けて塵を飛ばす。音を出す前のルーティーンも、一番吹きやすい姿勢も、まだ体が覚えていた。肺に空気を込め、自身の熱をフルートへ送り込んだ。久方振りに音を出した隆翔の相棒は、不協和音を叫びながら濁った音色を奏でた。

「ま、そりゃそうだよな」

 

 調整もせず、三年ぶりに吹けばこの有様であるのは当たり前だった。

 先日、希美が空に向かって奏でた『韃靼人の踊り』がフラッシュバックする。あの時に受け止めた熱量。そして先刻の希美が受けてきた過去の顛末。隆翔には想像もできない苦境を乗り越えて、彼女はあのフルートと共に音楽を奏で続けてきた。部活動に再び関わることへの抵抗感は確かに存在する。それは、かつて阻害された経験のある希美にも同じことが言えよう。

 隆翔の心にある欠乏。部活動に対する抵抗感。その全てを取り払ってしまえる栄光。今、隆翔は変革を求められている。葛藤に葛藤を重ねて、天秤にかけて、それでもなお覆してしまう程に強烈な栄光とは、一体何なのだろうか。希美が手にしたくて止まない全国大会金賞とは、どのような栄光なのだろうか。

 

 希美と共に目指すのならば、隆翔は覚悟を決められるかもしれないと、心の片隅に火が点った。

 

 

 

【つづく】

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