「相変わらず、すげぇ人だ」
夕刻、オレンジ色に空が染まる時間、京阪電車宇治駅に降り立った隆翔は目の前に広がる人混みにげんなりとした。まるで宇治市民が全員集結したような騒ぎとなっている。
六月五日、この日は平等院に程近い縣神社の祭事であるあがた祭りの日であった。暗夜の奇祭としてこの辺りでは有名なお祭りであり、行事は朝から夜中まで続いてる。しかし、隆翔のような学生は平日であれば学校があるので、必然的に夜の祭りを嗜むことになる。
隆翔にとっては、中学二年生のあがた祭りで梓と家族ぐるみで遊びに来て以来の参加である。そもそも隆翔は混雑が苦手だ。それもあって、誘いのなかった一昨年、昨年はわざわざ出向く気が起きなかった。しかし今年は違う。数少ない吹奏楽部の二年男子部員である秀一と瀧川ちかおから誘いがあり、隆翔は快諾した。なんでも、記念すべき三人目の同級生部員を歓迎したいようだった。
『着いたか?』
トークアプリが通知を告げる。どうやら彼らも到着したようだ。
「おーい!」
駅出口に寝癖を疑いたくなるようなパーマのかかった髪。隆翔よりも低い身長のちかおが手を振っている。祭りらしく紺色のジンベエを纏っていた。
「ちかお、ジンベエで来るなら言ってくれよ」
「なんだ、持ってんのか?」
「多分。捨てられてなければ」
ちかおと軽口を叩き合っていると、背後には更に背の低い男子が控えていた。
「こんばんは。樟葉先輩」
「あー、月永だっけ?」
「あっ」
と声を漏らしたのはちかおだった。
「……あの、出来たら僕のことは求って呼んでいただけませんか?」
月永求。コントラバス奏者であり低音パートに所属する男子部員。最近、同じ楽器で二年生の川島緑輝に弟子入りしたと聞いている。彼の発言から察するに、苗字に何かしらのコンプレックスを抱いているようで名前呼びを要求してきた。
「オッケー。呼ばない理由も無いしな。よろしく、求」
彼の要求を好意的に捉えると、堅かった表情が僅かに柔らいだ。
名前にこだわるのは基本的にデリケートな問題だ。踏み込まれたくない一線でもあるし、それを揶揄うなど言語道断である。隆翔自身、中学の事件で傷ついてから人付き合いというものの意識を根本から考え直していた。
「良かったよ。お前がそういう奴で」
「何が?」
ちかおは求と正反対なほど楽天的だ。それが彼の人徳を表すのだろうか。
「てか、彼女は良かったのかよ」
「あぁ、今年はクラの奴らと行くって……」
ちかおはあからさまに肩を落とした。実は、彼には恋人が存在する。クラリネットパートの高久ちえり。前髪で目元を隠した独特なヘアスタイルで、隆翔のクラスメイトでもある。
当初、ちかおは高久の希望で交際を隠匿していたが、お互いに隠し事が苦手なのか、周知の事実となっていたそうだ。また、ちかおも隆翔同様に秀一と黄前の関係を知っている。
「塚本先輩と黄前先輩って付き合ってるんですか?」
「半年くらい前からだってさ。これ、学校ではトップシークレットな」
「黄前先輩、同じパートなのにそんな素振りを一切見せないから知りませんでした」
「だよな。あのひた隠しっぷりはやばい」
三人でぷらぷらと屋台通りを歩く。かき氷、フランクフルト、じゃがバター。祭りらしいラインナップに腹の虫が嫌でも反応する。
「そういや、あいつは黄前と会ってから来るって」
「はぁ⁉︎ 一人だけずりいよ!」
秀一を羨んだちかおが憤慨した。求はそれを見て若干引いている。
「そう言ってやるなよ。数少ない二人きりの時間なんだからさ」
「そうですね」
それから三人で屋台料理を堪能した。とっつき難い印象があった求は、こうした集団行動では当たり前のように会話ができる。ちかおの無茶振りにも不器用ながら付き合う姿勢もあり、後輩として見守ってあげたくなる性格だった。
「女子との関わり合いが分からない?」
「はい。というより、距離感みたいな」
「求は龍聖出身なんだよ。男子校の」
男子校からいきなり女子率九割の吹奏楽部に入れば、そうした悩みも生まれる。隆翔は男子校の環境を知らないが、男子のみの関わり合いは気が楽だ。つまり、これは吹部男子全員に関わるようなデリケートな問題なのだ。隆翔としては、入部初日に秀一が吹部男子のトークグループに入れてくれたこともあり非常に助かった。
「樟葉は百戦錬磨だもんな。女子に関しては」
「そんな訳無いからな。信じるなよ求」
「でも傘木先輩を口説いてたっていうのは本当なんですか?」
聞き捨てならない言葉が求の口から飛び出した。これはしっかりと真相を明かさねばならない。
「口説いとらんわ。傘木先輩とは本当に何もない」
「またまた。放課後の教室で二人きりの演奏か……いでででで」
「この減らず口が!」
容赦無く茶化してきたちかおにヘッドロックを掛ける。もちろん手加減している。
「これがアドバイスになるか分からないけど、男子以上に踏み込みすぎないっていうのも大事。女子からアプローチがあること自体が稀だと思った方が良いかもな。本当に踏み込んだ話ができる人が現れたなら、それが求と気が合うってことなのかもしれない」
「そう、なんでしょうか」
どこか歯切れの悪い彼の言葉が耳に引っかかった。彼がここまで悩む関係性の行き着く先が依存なのか逃避なのか、今の隆翔には推し量ることは出来なかった。
「求なら大丈夫だとは思うけど、清潔感は大事だよ。これからの季節は特に」
「それは大丈夫です。一応、ちゃんと意識はしてます」
「そうだぞ。ちゃんとハンカチは毎日洗濯するんだぞ」
「ちかおは三日連続同じハンカチ使ってそうだよな」
「ばか言え!」
おそらく、ちかおも身だしなみには人一倍気を遣っているだろう。彼氏の器は他の女子の判断材料になり得る。それが恋人に影響してしまうのは誰も望んではいない。
「なあ、あれ秀一じゃね?」
ちかおの視線の先には、黄前に傘で殴られている秀一の姿があった。何かを言い合っていたようだが、隆翔のいる場所までその内容は聞こえてこなかった。ひとしきり叩いた黄前は、そのまま走り去っていった。
「ありゃ、修羅場だな」
「ですね。あんなに怒ってる黄前先輩、初めて見ました」
去っていった恋人を見つめる秀一。その瞳には後悔と哀愁が滲んでいた。
居た堪れない雰囲気が流れていたが、一応彼とも待ち合わせの約束をしていたので声を掛けた。
「秀一、大丈夫か?」
「おお、隆翔か……見てたよな?」
「はい。ばっちりと」
「あーあ、情けねえ……」
秀一は膝を抱えて疼くまった。状況を見守っていた二人も近寄ってきた。
「よ、秀一。何やって黄前を怒らせたんだ」
「……別に。大したことじゃねえよ」
誤魔化してはいたが、戸惑いと苛立ちが声に現れていた。
「話したくなったらでいいよ。屋台見に行こうぜ」
二人の一悶着もあったが、合流した秀一も含めた四人組はその後も祭りを堪能した。遊んで息抜きができた秀一は終始楽しんだ様子であった。しかし、優しい秀一のことだから黄前への想いが消えることはないのだろう。
「来週はいよいよオーディションか」
「そんな深刻そうに言うなって」
秀一が呟いたつもりの言葉は、ちかおには悲観的に受け取ったらしい。
「大丈夫、全員受かるって」
「隆翔もフラグみたいに言うな」
男子部員同士の交流は、祭りの落ち着きと共に終焉へと向かっていった。女子の園である吹奏楽部で、こうしたコミュニケーションがどれだけ重要かを、この短時間で実感した隆翔であった。
その翌日、ゆっくりと燃えつつあった導火線は遂に終着点へと辿り着いてしまった。
「今日、みんなに言おうと思う」
マネージャーである隆翔と一年生指導係の友恵は、部活中の拠点として家庭科室を使用していた。この日は夏休み中の活動内容や、オーディションの段取りの最終確認をしていた。その際、友恵がポツリと洩らした。
「俺は、いつも通りにしてますから」
「分かってる。今日まで秘密にしてくれたから、君のことは信頼してるよ」
加部友恵のトランペット奏者としての時間が終わろうとしてる。それなのに、彼女は平静であった。人望も厚い彼女だ。きっと、発表されたら部員間では嫌でも衝撃が走るだろう。
「先輩、楽器返しちゃうんですよね」
「……うん」
友恵の傍にあるトランペットの楽器ケース。マネージャー転向となれば、無論楽器は不要である。学校の備品である彼女の相棒は、今日でその役目を終えるのだ。
「最後に吹かないんですか?」
「いい。吹いたら、未練が残りそうで嫌なんだ」
友恵なりに考え抜いた結論なのだろう。眉を顰めながらも、その言葉には確固たる意志があった。
「よし、じゃあ行ってくるね」
与えられた仕事を終えた友恵は、職員室へと向かった。その足で先生へ報告し、トランペットを返却するのだろう。隆翔は友恵の意志を尊重した。たとえどんな反応があろうとも、隆翔の入部を後押しした恩があったからだ。
ミーティングと称して集められた音楽室では、優子と夏紀が夏休みの予定を説明している。府大会が終われば合宿、そして八月末には関西大会とタイトなスケジュールであった。
「色々と予定があると思うのでまだ仮の状態です。特に合宿日には他の予定を入れないよう気をつけてください。オープンキャンパスなどで休む場合は、とにかく早めにパートリーダーに連絡するように」
優子の指示に部員から揃った返事が飛んだ。
「それと、今後の部活に関わる大事な話があります。友恵」
人混みを縫うようにして友恵は部員の前に出る。大ごとになってしまったことで恐縮している様子が見て取れた。音楽室が騒ついている。誰も、これから話されることは予想していないのだろう。
友恵はふっと息を吐いて話し始めた。
「突然すみません。私、加部友恵は吹奏楽部の奏者を辞める事になりました。オーディションにも参加しません」
友恵の告白に音楽室が騒然となった。少ない人数で苦楽を共にしてきた三年生。去年のB編成で一緒に活動してきた二年生。一年生指導係として共に時間を歩んだ黄前。そして、入学から不安の日々を友恵の表裏のない性格と面倒見の良さで救われた一年生。副部長である夏紀でさえも知らなかったことが、その表情から察することができた。
すべての部員に関わってきた仲間の突然の奏者引退に、ただならぬ動揺が走っていた。
「ストップストップ! そんな大騒ぎしないで。別に退部するわけじゃないんで」
「そうなんですか?」
一年生から動揺で震えた声が上がった。
「アンタたちほっぽって行くわけないでしょ。なので、これからは樟葉君と一緒にマネージャーとしてみんなのサポートをしていきたいと思っています。困ったことがあったらどんどん言ってください。演奏のこと、練習のこと、人間関係……恋愛相談は別料金で。あと、男子マネージャーに言えないことも受け付けます」
指折り数えながら戯けた友恵の雰囲気に、部員から笑みが溢れる。しかし、内心に澱む暗澹たる感情は隠し切れていなかった。
「とにかく、これは前向きな決定なので、みんな心配しないで練習に励んでください。マネージャー加部友恵を、これからよろしくお願いします」
戸惑う部員と相対するように、すべてを伝え終えた彼女はとても清々しい表情をしていた。ミーティングが終了し、パート練習の時間になっても友恵を慕う大勢の部員から労りと悔恨の言葉が語られた。矢継ぎ早に飛ぶ質問の処理をしている最中にも、友恵が左頬を気遣うような素振りを隆翔は見過ごさなかった。
「樟葉、知ってたんでしょ」
音楽室を出た隆翔に黄前が声を掛けた。それは普段通りの様子からかけ離れた、隆翔を責めるような強い口調であった。真実を話すか悩んだ。しかし、遅かれ早かれ友恵から知らされるだろうから、隆翔は包み隠さず話すことにした。
「知ってたよ」
「いつから?」
「入部する前から」
黄前はショックの表情を浮かべた。隆翔に対する恨みではなく、今年から一年生指導係として少なくない時間を共有していたにも関わらず、友恵の異変に気付くことができなかった彼女自身への失望であった。
「言って欲しかった……」
「言ってたら、どうしていた?」
「事情次第では、他の楽器に移ることを勧めたと思う」
黄前には同情する他ない。中学の頃からそうだ。彼女はちゃんと他人に優しさと情を注ぎ込める人間だ。
「この情報は友恵先輩と先生からも止められてた。マネージャーとして本格始動するのは、先輩が発表するタイミングを待ってからにしようって話し合った。隠していて、すまなかった」
「……ううん、私も責めるみたいになってごめん」
戸惑いと行き場のない怒りが黄前の感情を濁らせていた。
「樟葉くん、と黄前ちゃん」
「加部ちゃん先輩……」
「黄前ちゃん、あとで話そうか」
「……はい」
到底納得がいかないだろう。しかし、事の真相は本人の口で説明した方が良いに決まっている。虚な目をした黄前は、友恵の言うことを聞くしかなかった。
家庭科室へ降りる階段で、夏紀が友恵の前に立ち塞がった。
夏紀は故意に足音を響かせながら歩み寄ってきた。その異様な雰囲気に、隆翔と黄前は一歩分距離を取った。
「どうした?」
唇を強く噛み締める夏紀に友恵は苦笑した。夏紀は余裕のない表情を浮かべ、声を震わせた。
「今年こそ一緒にAで出ようって言ったじゃん」
「マネージャー、迷惑だった?」
その言葉にはっきりと首を横に振って、友恵を睨みつけた。
「正直、めっちゃ助かる。そう思う自分に、めっちゃ腹が立つ」
「助かるなら、良かった」
「良い訳ないでしょ、アホ!」
「いいのいいの。私がそう言ってるんだからさ」
夏紀とは対照的な明朗な表情で彼女の背中を強く叩いた。そして、確固たる意志を持った口調で夏紀に告げた。
「言っとくけど、助けようと思ってるのは優子だけじゃないからね」
友恵の言葉に目を見開いた夏紀はありがと、と呟いた。返答に満足した友恵は、穏やかな表情を浮かべた。
◇◆◇
北宇治高校吹奏楽部は基本的に日曜日が休養日だ。しかし、オーディションを翌々日に控えた今週は言われなくても休日返上で練習している。日曜日ではあるが、学校は早朝から開いているので吹奏楽部員は早々と登校していた。
欠伸を噛み殺しながら音楽室のある四階へ至る階段を上っていると、透き通るようなオーボエの音が響いていた。音の主は鎧塚みぞれ。南中出身の三年生であり、希美の友人の一人である。隆翔が入部した当日に希美が紹介してくれていた。
廊下の先で、みぞれは譜面台と向き合いながら黙々と練習している。切り揃えられた艶やかな前髪の奥には、深い青色の瞳がじっと視点を動かさずに譜面だけを見つめている。
「先輩、おはようございます」
「……おはよう」
気にしていなければ聞き落としそうな程にか細い声でみぞれは返事をした。
「暑いですね。今日も早朝から吹いてるんですか」
「……うん。私体温低いからこれくらいなら大丈夫」
「俺、暑がりなんで羨ましいです」
希美曰く、みぞれは誰よりも早く登校し朝練に励んでいる。それは南中の頃から続けている、彼女の習慣であった。いつからか、朝の校内にみぞれのオーボエが響き渡るのは当たり前の光景となっていた。
しかし会話が続かない。隆翔から歩み寄ろうと話し掛けてみたは良いものの、会話を続けさせる意志を完全に放棄されてしまっている。
「今吹いてたのって『リズと青い鳥』の第三楽章ですよね。既に自分のモノにしてて流石です」
「……別に」
本心を隠すような態度が見えたところで一歩引いた。隆翔とて面識の薄い人との会話は得意な方ではないのだ。
「では、またあとで」
一瞬、みぞれは隆翔に視線を向けたが、再度リードを咥えて譜面に向き合った。
オーボエはダブルリードという木片に息を通して音を出す。一番狭い部分の内径が四ミリしかないため、高度な呼吸のコントロールが必要であり世界で最も演奏が難しい木管楽器と言われている。肺を目一杯使う金管楽器と異なり、息遣いが限定的になりやすいのだ。
みぞれは上手い、それは彼女の音を初めて聴いた時点で隆翔は得心した。
難易度が高く、高価なオーボエを北中で吹いている生徒はいなかった。しかし、北宇治にはみぞれの他に一年生が担当しており、オーボエ奏者が二人もいる。
「誰がみぞれに絡んでるのかと思えば、なんだアンタか」
「うおおっ!って部長か……」
突然背後から声を掛けられて、隆翔は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。そこで仁王立ちをしているのは誰でもない、吉川優子部長であった。
「驚きすぎよ。それとも何、みぞれに良からぬことを吹き込んだ自覚があるとでも?」
およそ部長とは思えない般若もびっくりの表情をしながら隆翔を威嚇して迫ってくる。小柄な体格ではあるが彼女には凄みと勢いがあった。
「いえ、以前傘木先輩に紹介されたのでご挨拶をと……」
「こら、後輩にガン飛ばさない」
優子の背後から夏紀が現れ、トレードマークのリボンに手刀を喰らわした。
「ちょっと! 頭叩くのやめなさいよ!」
「じゃあ後輩威嚇すんのやめなよ」
「うっさいわね!」
二人がこうしていがみ合う光景は初めてではない。以前もミーティングで似たような光景を目の当たりにしていた。
「みぞれに会ってたの?」
「はい」
「へえ、みぞれが心を開いたんだ。ほぼ初対面なのに珍しいね」
夏紀は物腰が柔らかく、僅かに探るような仕草を向けた。
「心を開いたかと言えば、そうではない気もします」
実際、一度も視線を交わすことなくみぞれとの邂逅は終わってしまった。みぞれが氷解するには、かなりの労力がいるのかも知れない。
「あの子、人と話すのを少し苦手にしてるから。この前だって剣崎さんからどうしたら上手くいくのか相談されたし」
「でも、樟葉くんと話せているなら安心した。君はマネージャーだし、部員全体へ関わることもあるでしょ」
優子は叩かれたリボンを直しながら、オーボエの鳴る方向へ目を向けた。その視線はみぞれを憂うこと以外の何物でも無かった。
「みぞれはね、希美に誘われてオーボエを始めたの」
「そうなんですか?」
隆翔は驚いたが、自身も希美に誘われたようなものなので、その意図も納得できた。
「だから一年生の時に希美が辞めたことで塞ぎ込んじゃって、流石に放っておけない雰囲気出してたから。今はちょっとずつ吹っ切れているかもしれないけど、自由曲のソロのこともあるだろうし、もし二人に何かあったら言ってほしいの。アンタ希美と仲が良いらしいし」
部員の交友関係に至るまで把握し、問題の芽は起きる前に摘み取る。これが優子と夏紀の方針だ。しかも奏者ではないマネージャーであれば、異なるパート間での架け橋にもなれる。部長としての慧眼なのか、合理的な提案だった。
「わかりました。少し気に掛けてみます」
断る理由がなかった。全ては全国大会へ行くためだ。
快諾した隆翔に優子と夏紀は満足したのか、不穏な表情が和らいだ。
【つづく】
−追記−
2025.6.13 内容を大幅加筆修正しました。