叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

12 / 52
義翼と隻眼③

 

 魔王城を後にしたフブキ、ミオ、奏は血相を変えておんぼろハウスに向かっていた。

 理由はラプラスの一言。

 

「どうしてかなたさんがっ、犯罪者なのかなっ」

「奏たちの視点の方が、特殊って事ですよ」

 

 息を切らして先頭を走るフブキの疑問に奏が見解を述べた。

 3人の息は荒く、フブキが握る懐中電灯の明かりも酷く荒ぶっていた。

 

 半日ほどの旅から冥界へ入り、ぼたんと戦闘、そして色々あって今へと至る過酷な1日。

 皆疲労は最高潮で、体力の限界だ。

 走り始めた途端に気分が悪くなって、現在の速度はあまりない。

 それでも緊急事態だからと体に鞭打ってあの家へ。

 

「確かにっ、神様を絶対視するのがっ、普通っ、だからっ……うち達みたいなっ、叛逆者はっ、犯罪者かもっ」

 

 昼と夜に食事をしていなくて良かったと思うほど、胃が悲鳴をあげている。

 そんな苦しみの中、更に声を発して走るのだから3人の根性は凄い。

 

「そぅっ、かっ!」

 

 2人の見解に納得したフブキが相槌を打ちながら速度を緩めた。

 両手を脇腹に当てながら歩行へと遷移する。

 

「ちょっ……たんま……」

 

 地下街なので気温は低いのだが、激しい運動により体温は急上昇。

 はぁはぁと皆肩で息をしながらだらだらと歩く。

 

「でも……っ、かなたさんだけ……って、おかしく、ない?」

「たし、かに……」

 

 会話を止める気はないようで……と言うより、喋ったりしなければ落ち着かないようだ。

 髪や尻尾、服に汗が染み込んで全身べたべたになっているが、それは余り気にならない。

 ただ、明るければ服が透けて色々見えていた。

 下着とか肌とか、刻印とか。

 

「それは……奏にも分からないです」

 

 2人が解を求めて奏を見つめるので、布石を打っておく。

 だがラプラスの言葉から、ある事が分かった。

 

「ただ、どうやらラプラスさんは、今回の襲撃に一枚噛んでるっぽいですね」

「え――⁉︎」

 

 ミオが声をあげて驚いた。

 全く気付いてなかったらしい。

 フブキは半信半疑だった、と言ったところか。

 無論、奏の見解が正しいとは限らないが、十中八九合っていると自負している。

 

「ぼたんって人があれだけ暴れ回って、住人への被害はゼロ。ラプラスさんが知らなかったら、あり得ないですよ」

「城に戻るタイミングもっ、丁度私たちと被ってたし……っ」

「確かに」

 

 詳細までは知らずとも、かなたを襲う計画に乗った事は確か。

 スバルの成果を耳にした後、城に戻ったと見て間違いないだろう。

 ならばこの後の用事はスバルとぼたんの介抱か、情報共有か、そんな所だろう。

 

「流石に……っ、もう刺客が来てたり、はっ」

「尾行されてたら有り得ますけど、そうでなければ今の場所を特定できないんじゃないですか?」

「……、……」

 

 フブキがその言葉を聞くなり挙動不審になる。

 ミオも真似て警戒する。

 2人の仕草がごっこ遊びをする子どもの様で、場に合わず苦笑してしまった。

 

「多分大丈夫ですよ」

「そう……?」

「はい。ラプラスさんの言葉から察するに、既に殺しまでのプロセスは完成してます。奏たちの存在は明らかに想定外なので、奏たちに関係なく殺しは実行されますよ」

「――大丈夫じゃない、よっ!」

 

 自分達が警戒する必要は無いと解くが、却って心配になる。

 3人の居ぬ間に襲撃が最悪のパターン。

 シオンの実力は不明で、かなたは自己回復が機能停止。

 そこへ神の遣いでも現れようものなら、きっと即死する。

 

 3人が居れば追い返せるかと言われれば、それもほぼノーだ。

 しかし、かなたが生きている限りはゾンビ戦法で対抗できる。

 駒が多いほどこの手が打ちやすい。

 

「何にせよ、後少しで分かる事ですよ」

「うん、とにかくっ、いそごっ」

 

 残り500メートル程の道のりを3人は最後の力を振り絞って駆け抜けた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 もとより少なかった人影が完全に消えた住宅街。

 殆どの窓にカーテンがかかり、その奥の明かりは消えている。

 街灯が点在する路地を走り、3人はおんぼろハウスへ舞い戻った。

 

 肌寒い夜の空気が吹き抜け、緊張感が走る。

 

 こんこんこんこんこん。

 

 フブキは音を控えつつも執拗にノックした。

 迷惑になるので声もまだ出さない。

 

「…………」

 

 しかし、応答も無く物音もしないので瞬く間に憂慮が積もってゆく。

 

 だんだんだんだんだん!

 

「かなたさん! かなたさん! 白上です、いませんか! かなたさん!」

 

 震える手で力一杯扉を叩き、存在が秘密である事も忘れて叫んだ。

 手遅れかもと思い、強引に扉を開けようとしたが鍵がかかっていて開かない。

 

「――」

「フブキ――」

「うん」

 

 フブキとミオが目を合わせて首肯し合う。

 破ろう、と。

 

 2人の掛け合いに奏は一瞬混乱した。

 奏はまだ、2人の認識が反転している。

 ミオの容姿をフブキ、フブキの容姿をミオとして接してきた為、それが抜けていない。

 暫くは間違えそうだ。

 

「「いくよ」」

 

 2人は数歩引いて体当たりする構えを取った。

 そして突撃――

 

「ちょっと、うるさぃだぁっー‼︎」

 

 扉を押し破る直前に扉が開き、シオンが怒りに顔を歪めて出てきた。

 2人の突進が無慈悲にもシオンを襲い、3人は玄関で窮屈に倒れた。

 がたがたと少ない装飾が崩れ落ちる。

 

「な、何っ⁉︎ 襲撃⁉︎」

「何事?」

 

 リビングの方から聞き知らぬ声……?とかなたの声が。

 奏は慌てて玄関内に入り、扉を閉めた。

 電気も無く薄暗くなったので懐中電灯を点ける。

 

 同時にリビングの扉が開き、見知らぬ顔が姿を現した。

 

 奏はさっと明かりを少女に向けた。

 スポットライトを受けて眩しそうに眉を顰める。

 明かりに目が慣れると少女と奏の視線が交わる。

 

「――――」

「――――」

 

 お互いに間を作ったが奏は相手の顔に見覚えがない。

 

 少女が奏の名を尋ねようと口を開きかけた時――

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁーー‼︎ 重い!」

 

 シオンの憤慨で意識がそちらへ持って行かれた。

 ミオとフブキがシオンを押し潰している。

 

「ご、ごめんなさい」

「お゛ぇっ……」

 

 1番上のフブキが慌てて身を避ける。

 その際、意図的なのか何なのか……下敷きに軽く手をついたので、最下のシオンに強く響いた。

 続いてミオも避けるが、こちらもまた少し体重をかける。

 

「ぅぇっ……」

 

 謎の不意打ちを喰らい、更に不要な追撃まで。

 頑丈ではないシオンの堪忍袋の緒が切れた――

 

「あんったらねぇ‼︎ 戻った途端急に何⁉︎」

「あわわわわ――!」

 

 立ち上がると貧相な身体を目一杯奮って2人に詰め寄る。

 リビングの入り口前にいた少女が慌てて駆け寄ってシオンの両腕を掴んだ。

 

「ま、まあシオンちゃん、落ち着いて」

「急に突進食らって、しかも踏み潰されたんだよ⁉︎ 絶対許さん! あくあ、やっちゃって!」

「えぇ……」

 

 宥める仲間の言葉を聞き入れず、寧ろ仕返しを画策する。

 でもシオンは非力なのでそんなこと出来ない。

 よって人任せという。

 

「『ぐらぐら』でも『びしゃびしゃ』でもいいから、ぼっこぼこにしてやって!」

「こんなとこでやったら……」

 

 周囲への被害など一切考慮せず、シオンは虎の威を借る狐状態になる。

 おどおどした少女――あくあは怯える様に周囲を見回していた。

 何やら報復の危機らしいが、標的の2人はあくあの力を知らないので、何とも反応に困る。

 

「いいからやっちゃってって!」

「うぅ……分かったよ」

 

 仲裁に入ったと思っていたあくあがまさかの加勢。

 薄暗く狭い玄関と廊下で、その力を解き放とうとする。

 

 両腕を3人に翳すとじめじめと湿気が増してきた、かと思えばかたかたかたと周辺の装飾や靴箱が小刻みに振動を始める。

 佇まいからは微塵も感じられなかった迫力が、突如解放され、フブキとミオは唇を震わせる。

 極めて理不尽な話だが、ここは早めに謝罪を――

 

「ちょちょちょぃ! 何やってんのおみゃえらぁ‼︎」

 

 無駄に険悪な空気を感じ取ったかなたが、奥から顔を出す。

 蹌踉めきながら現場に駆けつけてシオンの肩を引いた。

 

「あくたんに変な指示出さないでよ」

「だってコイツらがぁ‼︎」

「あくたんも! シオンちゃんの言う事全部に従わない!」

 

 かなたが割り込むとシオンは子どものような態度で駄々をこねた。

 介入に合わせてあくあも力を抑え、一先ず安心。

 この隙にフブキとミオが小さく頭を垂れ謝罪する。

 

「「ごめんなさい」」

 

 と。

 

「ほら謝ってるんだから、気持ち抑える」

「むーっ……」

 

 シオンは頰の中に感情を溜めるように膨れていた。

 その頬をあくあが指で押して空気を抜く。

 こうして沈静化したので、かなたは安堵の吐息を漏らして帰還した3人に視線を向けて笑いかけた。

 

「おかえり。魂は戻せた?」

「はい、この通り」

「見ても分からないけどね」

 

 腕を広げて盛大にアピールするも、視覚的変化はこれっぽっちもない。

 それでもかなたは苦笑して頷いた。

 

「それで、慌ててたみたいだけど、どうしたの?」

 

 2人の無事を確認した後は喧嘩の元を辿った。

 歓喜のあまり非行に走った、なんて事は無いだろう。

 かなたがリビングへと戻るので、全員が列となって後に続く。

 

「そう! かなたさん、狙われてるんですよ!」

「――? うん。現にこの通り、力を奪われちゃったわけだし」

「そうじゃなくって! ラプラスさんが、『天音かなたはもう直ぐ死ぬだろう』、って言ってて!」

「あー……なるほど、そういう事か」

 

 誇張を含むそこそこ上手な物真似を披露するフブキ。

 背後で奏がくすっと笑った。

 かなたは合点がいったようで、1人相槌を強く打ち、義翼を軋ませる。

 フブキとミオが焦って、当のかなたは極めて冷静。

 この温度差で2人は自分の感情が間違っているかのように錯覚した。

 

「なるほどって。かなたさん死んじゃうんですよ⁉︎」

「分かってる。けど慌てても仕方が無いよ。それに僕はね……誰よりも世界の秩序を破壊する存在なんだ。本来長生きするべきじゃないんだよ」

「秩序って……ラプラスさんも言ってましたねぇ。どういう意味なんですかぁ?」

 

 リビングで輪を作って会話を続行する。

 かなたの発言にラプラスの言葉を重ね、奏は首を傾げながら問う。

 

「生老病死。人は生まれ、年老い、病に伏し、そして死ぬ。人生に必ず組み込まれる4つの秩序だよ」

「しょうろう……?」

「生老病死。その内の3つを僕は無視することが出来る。いや――輪廻転生を信じるのなら、4つ全ての掟を破壊する超越者だ」

「超越? 何を言って……?」

「僕はある力によって不老である。僕は己が力によって病に罹らない」

 

 らしい。

 病に関しては想像が容易いが、不老に関しては正直信じ難い。

 だがこの程度であれば『呪い』を持つ者には多々ある事。

 かなただけ特別視される理由は――

 

「加えて他人の死を覆し、輪廻転生するべき魂をこの世に留め、新たに誕生する『生』を消滅させる。この『他人の生と死』に干渉し、秩序を破る事が何よりも赦されない」

 

 かなたは自らをそのように評価した。

 だから「輪廻転生」に関与する「冥界の王」がかなたを目の敵にするのは自然な事である、とも言う。

 

「でもだからって、そんな…………」

「死を、受け入れるんですか?」

 

 言葉の先を濁したフブキの思いを継いで奏が率直に尋ねるが、奏自身、その解答に興味があったのだろう。

 シオンとあくあは把握済みなようで、傍観者となっている。

 フブキとミオの憂慮に揺らぐ瞳を直視し、かなたははっきりと答えた。

 

「そんなつもりはないよ。僕だって1人の人だ。可能な限りは死に抗う。寧ろその為の叛逆なんだから」

「――そ、そっか……そうですよね!」

「うちたち、もうかなたさんが死んじゃったかと思って、慌ててて……ちょっと冷静じゃなかったかも……」

 

 かなたの逞しい言葉に安堵して胸を撫で下ろすフブミオ。

 フブキの右手は胸に届いていなかった。

 その様子を横目に、奏は自身の胸を見下ろして手を当ててみた。その後ちらっとシオンの胸元を一瞥して鼻で笑う。

 奏の嘲笑を目撃したのはあくあだけだった。

 

「でもかなたん、本当に今は凄く危ない状況だよ。今直ぐに襲撃が来たっておかしくない」

「うん。2人の話からも、『雷霆』と『冥界の王』はやっぱり裏で繋がってる――いや、神様と直接繋がってるかもね」

「あくあは何か、そんな情報とか得てない?」

「んー……特には。間も無く叛逆が起きる、って予言が出たとは聞いたけど」

「そっか」

「「「――――???」」」

 

 あくあが難しい顔をして答える。

 事情を知らない3人からは疑問と疑心の瞳が向けられた。

 その視線に怯えるようにあくあがシオンの背後に回ったので、必然的に視線はシオンに集まる。

 

「あくあは今、神の一団でスパイ活動してんの」

「――⁉︎ す、スパイ⁉︎」

「そんな事出来るんですか⁉︎」

「色々と好都合な事があってね……まあ、神の遣いの1人に気に入られてるのが大きいかな」

「…………」

 

 奏の赤々と揺らぐ不可解な瞳があくあを睨みつける。実に素早い切り替え。

 先程は聴き違いかと思ったが……やはり奏の勘は正しかった。

 

(この人、昨日らでんの家に押しかけた神の遣いの1人だ)

 

 押し入れ内で声しか聞こえてなかったが、おどおどした声の主とみて間違いない。

 もう1人にも「あくあ」っぽいあだ名で呼ばれていた気もする。

 しかし……あれが演技だったのか?

 

 奏は他の者より一際疑心を強めた。

 但し、それを言葉にはしない。

 

「でも、こんな所に出入りしてるのが知れたら――」

「それは大丈夫っ! なんせ、今のあくあに降っている命はシオンたちからの情報搾取だから!」

「「ええっ⁉︎」」

 

 シオンが胸を張り、あくあを庇うようにピースサインを突き出して高らかに笑う。

 無邪気な子どもの様な姿をかなたとあくあが微笑んで眺めていた。

 

 フブキもミオも純粋過ぎて鵜呑みにしているが、奏は9割嘘と仮定している。

 推定無罪ならぬ、推定有罪。

 

 話を聞いて、この有り様を見る限り――不可能に近い。

 フブキたちとのコミュニケーションも上手く取れないこのザマが素であるとすれば、スパイ活動なんて到底出来っこないのに、遣いに好かれたから入団できた、だと?

 話がうますぎる。

 もし本当に叛逆者側の味方なのだとすれば、十中八九思惑がバレている上で泳がされている。

 あくあからの情報は奏的に全く役に立たない。

 

「――――っ‼︎」

 

 奏の鋭利な視線が貫く中、突如としてあくあが肩を跳ねさせ、力強く右耳に手を当てた。

 イヤホンを押し込めるような仕草に見える。

 

「……あくあ?」

「んーん……何でもない」

「「「「……????」」」」「――――」

 

 よく分からない人だ、と雑に評価して幾つかの視線が散り散りになるとあくあは胸を撫で下ろした。

 シオンは鬼胎を抱き、奏は疑心を抱く。

 

(本当にびっくりした……)

「奏ちゃん?」

 

 視線を散らせたフブキが漸く奏の鋭い視線に気付く。

 目前で左手を上下させて一点を凝視する彼女を呼ぶと、眼つきを和らげてフブキに向いた。

 お互い、可愛らしい顔に見つめられて心地良くなる。

 

「どうしたの? 顔、怖かったよ?」

「……いえ、何でもないですよ」

 

 にっこりと微笑みかけるその姿、100点満点。

 2人の距離感に嫉妬したミオが、静かにフブキの手を握っていた。

 フブキは奏にばれないよう、ぎゅっと握り返して嫉妬心を和らげる。

 するとフブキに変わってミオが奏に言葉をかけた。

 

「大丈夫?」

「はい。すごーく大丈夫ですよ」

 

 ミオからも心配されるが本当にいつも通り(のつもり)。

 確かに顔は怖かったかも知れないが、何故心配されたのか寧ろ気になる。

 それほど、奏にとっては自然体だった。

 

「あの〜、ひとつ聞いてもいいですかぁ?」

 

 奏は無意識的に話題を逸らした。

 小さな手を挙げてシオンとあくあを交互に見て、

 

「お2人は『呪い』を持ってるんですか?」

 

 と、こう尋ねる。

 あくあは先刻力を解放しかけたので確実に持っている。

 シオンは不明。

 2人が敵か味方か、その真偽は謎だがどちらにせよその力を把握する事で不利に働く事はない。

 フブキとミオも「知りたい!」と興奮気味に同調して瞳を輝かせるが、当人たちはバツが悪そうに顔を見合わせている。

 

「奏は声を変える事がでます」

「――――」

 

 名を聞く時は自分から、と言うように一応自身の力を明かす。

 嘘偽りなくたったそれだけの能力。

 意味もなく喉に手を当てる。

 

「ぁ……あてぃしは……地震と海震……それと、水」

 

 訥々と口を開くあくあ。

 もごもごと聞き辛いが、肝心な部分は分かったので良しとする。

 数分前にシオンが口にした、「ぐらぐら」や「びしょびしょ」とも適合するので、事実と思われる。

 

 自然の一部を操る恐ろしい力に一同は身震いした。

 そして視線はシオンへずれるのだが……。

 

「……」

 

 シオンは目を逸らす。

 あくあと目を合わせて困ったように特徴的な眉を寄せ、続いてかなたとも合わせる。

 かなたは温和な顔つきで見つめ返した。ゆったりと天使の輪っかが回る。

 解答を強制はできない。

 シオンの思うようにすればいい。

 

「……シオンは、言いたくない」

 

 全てを拒絶する勢いで言い切った。

 あくあの肩に手を乗せて、ちいさく一歩下がるともう話に参加する気はないと口を閉ざしてしまう。

 目を伏せて、顔に影を落として……。

 

「どうしてですか?」

「――――」

 

 奏の問い詰めようとする姿勢にも口を噤んで頑なに答えようとしない。

 あのあくあが庇う様にシオンの前にずれた。

 その哀愁漂う姿にただならぬ理由を感じ取ったミオが奏の肩に手をぽんと置く。そして、

 

「奏ちゃん。人には言いたくない事くらいあるんだよ。ね?」

「…………」

 

 この中で誰よりもデリカシーが無い――よく言い換えれば合理的な奏にとってイマイチ納得できない流れだ。

 奏も隠し事はあったが、問われれば答えるし、実際にそうした。

 あくあとシオンに叛逆の意思があるのなら、答えないなんておかしい。

 極めて合理性に欠ける。

 

 けれど、ミオとフブキの視線に当てられ、奏は矛の先端をしまった。

 心なしか、サイドテールが萎れた様に見える。

 

「因みにうちは多分『怪力』。まだ分からない事ばっかりだけど、何か分かったらまた伝えるね」

 

 険悪になりゆく空気を破壊するようにミオが一石を投じる。

 右腕をぐっと曲げて力を入れるが、力瘤は無いに等しい。

 

 その流れに合わせてフブキも自虐気味に笑って――

 

「私には『呪い』が無いです」

 

 と場を凍りつかせ――――られない。

 自虐ネタは反応に困惑して寒い空気が流れるのが鉄則だが、かなた、あくあ、シオンは強く瞳孔を広げて顔を見合わせた。

 予想外の反応に却って当惑するフブキ他2名。

 

 察しのいい奏は逸早く全てを理解する。脳天のアホ毛をぴこんと跳ねさせて。

 その直後にシオンが口を開いた。

 

「あ、あの――ごめん。シオンも、何もない……」

 

 先程の一歩よりさらに小さな一歩を踏み込み前に出た。

 萎縮して髪を弄りながら、フブキだけに向かって答える。

 そこで漸く場が凍った。

 自身に向けていたフブキの嘲笑がシオンにも向けられてしまったから。

 

「ぁ……ん、んーん、私こそ、ごめん……」

 

 フブキの目が落ち込む。

 シオンもフブキもバツが悪そうに表情を曇らせて自身の腕を掴んでいた。

 

「いい事じゃないですか。少なくとも奏はこんな力要らないですよ」

「……そうだね」

 

 『呪い』が悪しき物とは言えない。

 だがこの世界で『呪い』は忌むべきものとされ、発症するだけで殺されるのだ。

 それが発症したから奏は苦しい道を歩み、死に場所を探す羽目になった。

 声を変えると言う無益な力を得たせいで。

 不幸話をすれば奏は誰にも負けないと自負している。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 奏以外の視線が床に落ちた。

 

 こんな面子で叛逆なんて、出来っこない。

 

 そして、絶望している一同の下へ、追い討ちの絶望が――。

 

 ばんっ‼︎と扉を破った様な勢いで玄関が開く。

 廊下をふたつの足音が駆け抜けて、リビングの扉も打ち破る勢いで開け放つと――!

 

「大変‼︎」

 

 おかゆところねが焦燥に息を切らし、手ぶらで帰還した。

 呼吸は激しく乱れ、髪や服も清潔感がなくなっている。

 擦り傷や泥汚れが至る所にあるのだ。

 

 そして乱れた呼吸を整える事もせずに叫ぶ。

 

 

「どうしたの――?」

「マリンさんが――! マリンさんが――‼︎」

「――――‼︎‼︎‼︎」

 

 

 





 皆様どうも、作者でございます。
 ここまで読んでくださる方々には感謝でいっぱいです。
 1話1話が長く、内容も重くなって行くので読者を選ぶ事にはなるかな、と思ってたのですが、本音を言えば想像以上に少なかったです。
 あ、打ち切りとかでは無いので安心してください。

 さて、本日後書きを記したのには別の理由がありまして――申し訳のない事に当作品に「設定ミス」がありました。
 あらすじにある通り、殆どのメンバーには元ネタがあります。とある神話が題材なのですがね。
 ええ、ええ……。
 何とですね、「ぺこら」と「こよちゃん」の元ネタが被ってました。自分自身有り得ないと思ってます。
 ただ、設定変更等が効かない領域までプロットができているので、このままで行きます。かなり大きなミスですが、どうかお許しください。

 ――まあ、普通に読んでたら気付かないレベルなんですけどね‼︎

 はい、これだけです。
 本当にすみません。
 この先頑張って面白い作品に仕上げていくので、どうか最後までお付き合いください。
 では――。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。