叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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トロイア戦争②

 

 フブキとミオに続き、らでんとアキロゼまでもが階段を下っていった。

 しかしその後もおかころとスバルの戦いは続く――。

 

「っく――」

「ぉ、っらよ‼︎」

「ッヂ‼︎」

 

 片腕で2人を纏めて相手取るスバルの手腕は目を見張るものがあるが、疲労や怪我などから次第に遅れをとり始めた。

 ころねとスバルの肌や服には切り傷や擦り傷、痣が増えている。

 スバルに関しては肋の骨が折れたりと、怪我の程度が大きい。

 その癖して一向に「法」の力を使ってこない為、傍観者含め皆不可解に囚われていた。

 

 かなたに「癒せぬ羽の焼失」や「自己回復機能の停止」を与えた様に、また何かしらの突飛なルールで場を掻き乱してくるに違いない。

 

 戦いに介入したい衝動を抑えて、傍観者は時を待った。

 

「お前ら……何故呪いの力を使わない」

「そっちこそ、今の法に満足してるの?」

「いいや、不満だらけだ、この世界の情勢全てにな」

 

 一度時間と距離を置いて、スバルが語気を強めて答えた。

 真っ白な雲地の所々に鮮血が散っている。

 更に血が滴ってまた雲が汚れた。

 鼻をつく錆びた鉄のような臭いがスバルの嗅覚を鈍らせる。

 

 日が傾き始め、世界が赤焼けて行く。

 太陽光と運動による体温上昇で発汗が増し、血に紛れて塩分も身体を纏うので気持ち悪い。

 暑苦しくなって、スバルは帽子を脱ぎ捨てた。

 スバルの汗で作られた汚れが帽子の内側に散見される。

 左手に握るナイフを見つめると、ボロボロな自分の顔が映った。

 

(こいつら……さては自分の呪いを把握してないな?)

 

 スバルはそう思い至った。

 監視室で戦いを見守るこよりも、きっと同じ見解に辿り着く。

 たったこれだけでも収穫だ。あとはせめて、爪痕の一つでも残せれば上々。

 

 ナイフを握る力が強まった。

 

「ころさん」

「大丈夫。わがってる」

「――」

 

 煌めく瞳がスバルの首元に向いた事を察知した。

 先程から定期的に喉を狙った攻撃があった。スバルの力の弱点はつつがなく漏れている様で安心する。

 らでんの設計したプランは計り知れないが、きっとこよりならそれすらも凌駕する。

 何も気に病むことはない。

 スバルは十分、責務を果たした。

 そして最後にもう一つ、重大な任務を遂行する事が確定している。

 

 スバルが前のめりに駆け出した。

 ナイフを日光で輝かせ、何の捻りもない単調な攻撃に打って出る。

 

「新世界の礎になれェ――‼︎」

 

 決して動きは悪くない。

 だが――――!

 

「おらよ!」

「グッ――」

 

 人数不利と片腕の損失は、勝敗の左右に直結する要素だ。

 

 心臓を狙ったひと突きを最小限の動きで避けて、ころねが腹に1発の拳をお見舞いする。

 滲み出た汗と血が小粒になって宙を舞う。

 

 そこへナイフを持ったおかゆが迫り――

 

 ぴゅっ、と意識を奪われるほど美しい軌道で銀の光沢が走りぬけた。

 

(――――)

 

 再びナイフが視界に戻ると、その先端は赤く濡れていた。

 それに被さるように赤い液体が噴水のように視界に飛び込んで来る。

 不思議な事に身体が軽い。

 視界から2人の敵が消え、赤い液体も消えて、青く広大な空だけがスバルの瞳の奥を満たして――

 

「ッァァァッッァァァ――‼︎ ァッガッ――‼︎ ッ! ッ‼︎ ッバ‼︎」

 

 酷烈な痛みが喉を貫き、全身を蝕む。

 喉を片腕で掴んで悶絶し、必死に喘ぐが空気が流れない。

 喘いだ分だけ腹の奥と肺の中身が逆流して鮮血が吐き出る。

 徐々に生き血の海に溺れて行き、血の気が引いて行く。

 

 声が出ない。

 スバルの喉から溢れ出るのはこの空には似ても似つかない、赤黒い血液ばかり。

 

(痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ)

 

 喉から赤黒い血が、全身からベタつく汗が、とめど無く吹き出る。

 激痛に思考が焼かれて、青い空が赤く見えてきた。

 痙攣する度に顔に生温い液体が大量に付着する。

 

(喉が渇いた……)

 

 激痛が全神経を麻痺させ、次第に痛みが引いてくる。

 合わせて身体が冷えてきた。

 

(寒い…………)

 

 

 外界の情報が、もう全く入ってこない。

 空が赤い……空ッてなんだ?

 敵が2人……敵ッてなんだ?

 スバルは…………スバルッてなんだ?

 

 

 見るに堪えない悲惨な有様を前に、おかゆはとどめをさす事を臆した。

 いや……放っておいても時期に死ぬだろうが、ここは神様の住まう空。

 どんな不可思議も起こり得る。

 それに……主人に忠実な少女を心から憐れむのであれば、手早く葬る事こそが人情。

 

 この戦いで、2人の手は汚れてしまった。

 後戻りは出来ない。

 

 

(誰で、何を、どこが、いつ、どうして、何で、なんだ……??????)

 

 スバルの思考はもうバグっていた。

 狂いに狂って独り、暗く寒い闇の底へ沈み行く。

 その闇の中でも唯一、死の淵まで存在が色褪せない者がいた。

 

(ああ…………………………………………ルーナ)

 

 じしゅっ――。

 

「――――!――!……!……。………………」

 

 おかゆの突き立てたナイフがスバルの心臓を貫いた。

 細まって虚だった瞳が一度だけ大きく開いて痛みを表現した後――輝かしいプレアデス星団が消滅した。

 

「…………」

「……おがゆ」

 

 ナイフを引き抜くと顔に血が飛び散った。

 おかゆの肌の汚れをころねが手で拭ったが、色が広がるだけだった。

 

 スバルの死がトリガーとなり、ゴゴゴゴゴッ……と重厚なトロイアの門が開き始める。

 

「みんな! 作戦通りに!」

 

 1人の死を悼み、息つく間もなくぺこらの号令が掛かる。

 傍観者だった者たちは切り替えが素早く、既に北門目掛けて駆け出していた。

 一塊にならず、適度に広がりながら懐へと手を潜らせ、各々の感覚で時間を測る。

 

 

(――――今‼︎)

 

 

 それでも、1人が投函すれば釣られて投げる者もいる。

 いや、そんな奴ばかり。

 一投を火切に次々とナイフがトロイア北門へ――。

 

 そして――――――

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 トロイアの離れに、神の一団主力メンバーの殆どが集っていた。

 10数個ものモニターを前にして椅子に腰掛けるこより。

 トロイア内部に人影はほぼ無く、例の巨大リビングにあやめとルイが居るだけ。

 

 ひとつのモニターは通信が途切れたので、その画面を消して唯一スバルの様子を観察できるモニターに意識を集中させる。

 

「……妙ですね。態々2対1で戦わせるなんて」

「うん、私も思った」

「叡智の書が何を考えてるのか……」

 

 敵の思惑を探る様にモニターに齧り付き、頭をフル回転させる。

 唸るこよりの傍に立ち、みこはスバルの戦いを黙視していた。

 反対側にはそらもおり、こよりと同様の見解で不思議そうに首を傾げている。

 

「ねェあくたん、この戦いが終わったら打ち上げに行こうよ」

 

 3人の苦悩も知らず――ではなく、意に介さず、すいせいがあくあに言い寄っていた。こんな時に。

 縮こまるあくあの前にトワが割って入る。

 

「あくたん嫌がッてんだろ、やめろ」

「――何だよ。そんな事言って、トワがあくたんとご飯行きてェだけだろ」

「違ェよ。あくたんを虐めんなッつッてんだ」

「ハッ。あくたんの前ではいい奴ぶッて、何キドッてんだよ」

「――――」

 

 照明の落とされた室内ですいせいは星の瞳を煌めかせる。

 トワの態度が気に食わないと嘲笑を飛ばしてあくあに手を伸ばすが、トワがあくあの身を引かせる。

 

「こんな奴気にしなくていいよ。戦いも近いし、ゆっくりしときな」

「う、うん。ありがとトワちゃん」

 

 トワに庇って貰って、あくあは安堵する。

 豊満な胸を撫で下ろしてこより達監視組に加わり、モニターを眺めた。

 その背後では今尚喧嘩が続く。

 

「お前あくたんの事好きすぎ。マジで無いんだけど。少し食事に誘った程度で嫉妬とかやめてくれる?」

「そりャァお前だろ。変態ストーカーが。あくたんと話してるだけで嫉妬して割り込んで来て、マジキモすぎだわ」

 

 などの下らない口喧嘩に耳を塞ぎたくなる。

 こよりの計画再立案の妨げになる為これ以上は見過ごせない。

 

「お前らちッと黙ってろ」

「「――――フンッ‼︎」」

 

 みこの気力無い一喝で喧嘩が止まる。

 これだけ舐められそうな雰囲気を醸し出して、よく取り纏められるものだ。

 

 みこが腕を組んで、こよりの座るデスクワーク用チェアーに凭れる。

 こよりとみこの濃度の異なるピンクの髪が絡み合って、こよりの心が刹那だけ乱れた。

 

「作戦、変わりそう?」

「どうでしょうねェ……何を考えてるかは想像できませんが、この先の展開に支障を来たす事態には陥ってないですし……」

「そうだにぇ……」

 

 こよりとらでんの力はある意味真逆の性能をしている。

 

 自力で得た情報を元に最適解を生み出すのが、こよりの計略の呪い。

 逆に遍く情報をかき集める事ができる代わりに自力で策を立案するのが、らでんの知識の呪い。

 とは言えらでんの知識でも下ろせない情報は幾つかある。

 その最たるものとして挙げられるのが、こよりの計略だ。

 如何なる者もこよりの計略を特殊な力で俯瞰・凌駕する事はできない。

 

 他にも「呪いを封じる呪いを所有するルイ」に関する情報や「魔術で自らを保護するみこ」の情報をらでんは呪いで下ろす事ができない。

 もし、こよりの計略、ルイ、みこに関する情報を得たいのであれば、それを知る何者かから聞き出す他にない。

 

「もう少し何かアクシデントが起これば再立案しようと思いますけど、どうしましょうか?」

「ん、こよりがそう思うならそれでいいと思う。みこより何倍も頭いいしにぇ」

「……えッへへ〜」

 

 こよりの気持ち悪い笑いにそらが苦笑した。

 みこがチェアーから離れて放送ボタンに指を乗せた。

 ギュッと押し込んでマイクに小さな口を寄せる。

 

「2人とも、間も無くトロイアが開くけど、問題ないにぇ?」

 

 暖炉前で読書するルイとその背後に佇むあやめ。

 リビングルームに設置したスピーカーからみこの声を飛ばした。

 トロイア内ではこよりの伝令すら届かない。

 

 ルイは相も変わらず読書に熱中して無反応だ。

 彼女の気持ちを代弁するようにあやめが両腕で丸を作ってカメラに向けた。

 みこはマイクを切った。

 

「…………」

「……みこち?」

「何でもないよ。それより……スバちゃんが、もう……」

 

 そらの問いかけを深読みしたせいで会話が若干噛み合わない。

 話題と視線をモニター内のスバルに逸らして全員の注目を集めた。

 

「あくたん。あの2人、すぐ喧嘩しちゃうから上手く纏めてやッてにぇ」

「うん、任せて!」

「お、おお……」

 

 珍しく威勢の良い声が返ってきてみこは面食らった。

 こよりが一瞬眉を顰めたが誰も見ていない。

 

 あくあがすいせいとトワに歩み寄ると、3人が視線を絡めた。

 愛憎犇く視線の交錯。

 みこも準備に取り掛かる。5秒で完了した。

 後はこよりの合図を待つだけ。

 

「いーい、転移したらまずは敵を殲滅する事。作戦変更の場合は伝令を送るから、伝令が無い場合は只管に殺し続ければいい」

「任せろよ」「ああ」「うん」

 

 こよりからの最終伝達。

 スバルの死を対価に一団全員のあらゆる力を向上させる。

 その直後、この3人に襲われればみこであってもタダでは済まない。

 

 すいせいが狂喜に眼を光らせる。

 トワはいつもと変わらない。

 そしてあくあは、僅かに上機嫌。

 

 こよりの瞳にモニターが映る。

 一点を凝視して、合図のタイミングを探る。

 モニターの中――既にスバルは喉を掻き切られて倒れている、がまだ息がある。

 憐憫が瞳に紛れ込むがこよりは思考を鈍らせない。

 痙攣するスバルと、ナイフ片手に歩み寄る紫のネコ。

 ナイフを心臓に突き立てるとスバルの胴体が跳ねた。

 雲が真っ赤に染まる。

 

(まだ……まだ…………)

 

 もう声なんて必要ない。

 スバルの死を対価にしたルールは、事前に明言してある。

 死んだ瞬間に、こよりを含めた一団全員に何かしらの変化が起こる。

 

(来た――! でもまだ待って――)

 

 室内の全員が力の増強を実感した。

 すいせいの口角が一層上がって笑みが深まる。

 みこがフライングして転移させかけたが、こよりの号令がある迄は――

 

「にぇさん‼︎」

「よッしゃ、行ってこい‼︎」

 

 みこの魔法で3人はトロイア北門へと転移した。

 それと同時にこよりは神の一団全員へ伝令を送った。

 

「伝令します……スバルちゃんが、死にました」

 

 なるべく感情を押し殺して、淡々と伝えると伝令の力を閉ざして再びモニター越しに北門の様子を確認した。

 

「こよりちゃん!」

「――――⁉︎⁉︎⁉︎ にぇさん‼︎」

「――どした⁉︎」

 

 そらの荒げた声と共にこよりも顔を上げて、その光景を目にする。

 予想の遥か先を行く展開に脳が追いつかない。

 間近にいるみこを大至急呼び出した。

 

「――⁉︎ どうなってんだ、こりャあ‼︎」

 

 

 これよりトロイア戦争は大混乱へと陥ってゆく。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 タイミングを見計らって誰よりも早くナイフを投函したのは奏だった。

 非力ながらに全力投球するとナイフは一直線にトロイア北門へ。

 奏に合わせてはじめ、シオン、ころねもナイフを投函した。

 それらより若干秒遅延してぺこらも1本を投函。

 合計5本のナイフが鋭利な刃を剥き出しにトロイアを襲う。

 

 何の意味が有るのかも分からず、いろはとクロヱが後に続こうとしたその時――北門前に突如として人が現れた。

 

「っ――ぇ……?」

 

 1本のナイフが突如出現した1人の少女に突き刺さった。

 

「「――――⁉︎」」

 

 フィールド上の全員が意味不明に襲われて数秒硬直した。

 

「ぅ……っ……!」

「あくたん!」「あくあ!」「――⁉︎」

 

 ナイフが命中したのはあくあの腹部。

 そのナイフを投げたのはぺこら。

 

 あくあの呻き声で凍っていた空気が溶けて、皆早急に情報処理を行う。

 北門前にあくあ、地界への階段左斜め前にトワ、右斜め前にすいせいが転移していた。

 敵の最高戦力に囲まれている。

 

 あくあが腹を抱えて蹲ると、トワとシオンが叫び声を上げた。

 叛逆者一行が誰の号令も無しにあくあの下へ駆け寄るので、すいせいが無数の矢を生成してそれらを発射――

 

「待て星街! あくたんに当たる!」

「伝令が来るまでは殲滅に集中しろッ」

 

 冷酷にもすいせいは、あくあごと敵を殲滅する方向で攻撃を仕掛ける。

 叛逆者全員が門前へ到達するよりも早く、矢が押し寄せる。

 しかし――

 

「待てッて‼︎」

 

 あろう事か、トワがその矢を雷の電圧で焼失させた。

 あくあの周りに叛逆者が集う。

 トワはすいせいの隣まで駆け寄った。想像していた3倍自分の足が速い。

 

「あくたんが死んじまう‼︎」

「喰らったあくたんが悪い、諦めろ‼︎」

「おまッ――‼︎ それでも仲間か、アァ⁉︎ あくたん好きなら躊躇えよ‼︎」

「だからあくあの事が好きなのは――トワだろうがッてッ!」

 

 こんな時にまで口喧嘩が始まる。

 いや、堪えかねたトワは手も出てしまう。

 運動能力の低い為、容易くあしらわれて終いだったが、すいせいは反撃せず、叛逆者に狙いを定めた。

 

 シオンがあくあを抱えた。

 腹からじわじわと血液が広がって服に染み込んでいく。

 だが急所は外れて致命傷には至っていない。

 シオンがほっと安堵した所に奏が歩み寄った。

 煌々と赤い瞳を滾らせ、拾い直したナイフを片手に。

 

「何する気⁉︎」

「殺します」

「だめ! やめて!」

「敵ですよ。情けは無用です」

 

 こちらもまた冷酷な少女。

 屈んだシオンを見下ろして威圧すると、シオンが反抗した。

 ぺこら以外は奏に同意しており、一様に殺意を向けている。

 仲間に後ろ指をさされシオンは奥歯を噛み締める。

 

 敵も味方も仲間割れで状況が停滞していた。

 

「みんな、あくあちゃんは殺さずに行こう」

「――何故!」「――ぺこちゃん」

「雷霆が攻撃を躊躇ってるぺこだから、上手く盾に使えば有利を取れる」

「――なるほど」「一理ある」

 

 現場の指揮はぺこらに託されている。

 奏だけは賛同し兼ねると喚くが、他は素直に応じた。

 一同は一歩進んでトロイアの内側に侵入した、その瞬間――呪いを持つ者はその力の衰えを感じた。

 

「これが秩序の――」

 

 呪いを封じる呪い。

 鷹嶺ルイの力だ。

 

「いろはちゃん」

「ん、沙花叉。ばんちょうさんも」

「おっつ、行けまっちゅ」

 

 呪いを持たない日雇い3人組が短く名を呼び合う。

 闘志を燃やしてすいせいに視線を向けた。

 

「――?」

 

 丁度その時、トワとすいせいに伝令が届いた。

 

『あくあちゃんは見捨てていい、全員をリビングに押し込んで纏めて叩いて!』

 

「了解」

「待てッて!」

「行くぞトワ!」

「ッッ――‼︎」

 

 すいせいが駆け出すとトワが引き止める。

 すいせいはトワの背を叩いて前進を促した。

 

「おッしャァ‼︎」

 

 すいせいが嬉々として斧を掴み青い髪を振り乱す。

 背後からトワが涙目で追従する。

 

「やっべぇ‼︎ 煽るまでもねぇや‼︎」

「全員奥へ逃げろ‼︎」

 

 叛逆者一行はトロイア内部へと逃げ込む。

 シオンがあくあを抱えて走るのでぺこらも手を貸した。

 

「通路でこの人数はだめぺこ!」

「ちょっと! 前分かれ道だよ!」

「えっ⁉︎ えっと、えっと……」

 

 一行の逃げる先には十字路が。

 らでんではないので、正しい道が分からない。

 ぺこらが賢くない頭を回して考える。考えるのだが……決まらないまま十字路へ到達し――

 

「好きな方行くぺこ!」

「「「ああああ⁉︎」」」

 

 無茶苦茶な指示の結果。

 いろは、クロヱ、はじめ――直進。

 ぺこら、シオン、奏、(あくあ)――右折。

 おかゆ、ころね――左折。

 

「チッ、別れやがッた!」

 

 軽く舌打ちしながらも、すいせいは変わらず直進。

 こよりの指示通り、リビングに押し込んだ奴らをルイ、あやめと協力して屠る。

 どうせなら1人で全滅させてやりたいが、呪いなしでは流石に無理があるので諦める。

 

 兎に角敵を葬りたいと、すいせいはリビングまで全速力で駆けた。

 スバルによって身体能力が強化された筈だが、中々3人組に追いつかず正直驚いた。

 3人の身体能力の高さが窺える。

 

「ハッ、上等上等‼︎」

 

 狂気的な笑みを深めてリビングまで特攻。

 3人がリビングへ到達した数秒後に、すいせいもリビングに突入した。

 

 暖炉前に戦闘準備を整えたルイとあやめが立つ。

 叛逆者側はクロヱ、いろは、はじめの3人。

 その3人を挟むように、すいせいがひとつの入り口に立つ。

 

「人数有利ッてのは癪だけど、手加減せずに殺してやるよ」

「「「――――???」」」

「「――――」」

「ア? 何だよ」

 

 室内にいる5人から怪訝そうな視線が集まり、不機嫌になる。

 

「すいちゃん。計算できる?」

「ハァ? 舐めてんの?」

 

 あやめに知性が低いと馬鹿にされた。

 大きく地団駄を踏んでルイに指をさす。

 

「1、2、3……」

 

 と数を数える。

 幼児みたい。

 

 ルイ、あやめ、いろは、クロヱ、はじめと来て、すいせいの背後の――

 

「6……ェ、トワ?」

 

 着いてきている、思っていたトワが見当たらない。

 次の瞬間全てを理解した。

 何故ここに、トワがいないのか。

 

「――あのバカッ!」

 

 どうやら彼女は呪いの力も使えない中、たった1人であくあの後を追ったらしい……。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 トロイアから3キロほど離れた位置にある、インターン生宿舎。

 ちょこが訪れた時、5人は何の変哲もない生活を送っていた。

 

 一つの大画面液晶テレビにゲームを接続して、大乱闘するゲームを楽しんでいる。

 何故かフィールドは終点化していない神殿のようだ。

 ワンセットが終了して、再度キャラ選択画面へ。

 

「何が強い?」

「そんなの人それぞれッしょ」

 

 カーソルをカチカチと動かしながら敵にアドバイスを求める。

 

「姫にしたら? 名前がねねとシナジーあるし」

 

 ポルカがピンクドレスのお姫様を推奨した。

 

「え〜、じゃあねねこれにしよ〜」

 

 逆張りなのか何なのか……水色ドレスの……お姫様、なのか?

 キャラ選択時にナレーションがキャラ名を読み上げた。

 

「えッ……んふッ……待って、今……?」

「やめろバカ。ガキか!」

「『――』あーんど、『――』こ!」

「はいはい言ってますね」

「チン……」

 

 小学生レベルのネタに呆れ果てる。

 全員キャラが決まったらしい。

 ルーナはピンクドレスのお姫様。

 ポルカはSFチックな狼。

 まつりは鍵を持った少年。

 ねねは星を連れた水色ドレスの女性。

 ラミィは緑のLの帽子を被ったおじさん。

 

 ポルカ、まつり、ラミィはランダムで決めたようだ。

 

 対戦が始まる。

 

「ラミィ! まずねねたちで他の3人倒そ」

「いいよ〜!」

「うッわ、チーミングだ、処せ処せ!」

 

 ゲームセンスは敵わないと判断したねねとラミィの共闘。

 2人で1人ずつ倒してゆく作戦に切り替えたのだが……。

 

「おりゃ! おチンコアタック‼︎」

「やめなさい!」

「お姫様の前でお下品なのらよ〜! オラァァッ‼︎ ぢねェェッ‼︎」

「んォォォォッ‼︎」

 

 ルーナの攻撃が炸裂しスマッシュが発生――したが、フィールドの広さもあって偶然生き延びる。

 

「――おりャあ! おちんちんアタック!」

「アァァァァッ‼︎」

 

 復帰した先に緑帽子のオジサンがいた。

 八つ当たり気味にスマッシュが決まり、見事に吹き飛んだ。

 残機が1減った。

 今更だが其々の残機は3である。

 

「はい、仲間割れ乙〜」

「ギャァァァッ‼︎」

 

 絶叫が入り乱れる大乱闘。

 早々に残機を1つ無くした2人はギリギリまで空中に佇んで他3人の潰し合いを眺める。

 

「ちょこ先生はしないの?」

「ちょこはこれでも護衛なのよ」

「護衛の人はお菓子作ったりしないと思うけど」

 

 宿舎を訪れるなりキッチンでクッキーを焼き始めたちょこにまつりは物申す。

 視線はジッとゲーム画面に向いているが。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ」

 

 鍵持ち少年がSF狼を上空に持ち上げて行き、場外へ押し出した。

 凄まじい絶叫が室内に響く。

 まつりが得意げに鼻を鳴らした。

 

「あら、じゃあまつりちゃんはクッキー食べないの?」

「食べるよ!」

「隙あり‼︎」

 

 まつりが画面から目を逸らして抗議した瞬間、水色プリンセスが鍵持ち少年に特攻。

 予期していたらしく、見事にガードして一瞬を耐え抜き反撃。

 連撃で一気に50%程のダメージを与えた。

 

 そんはガヤガヤと何気無い日常風景に、突如割り込む一つの伝令。

 

 

 その伝令はこの場の全ての者に余す事なく伝わる。

 

『伝令します――』

 

「ッ! びっくりした〜!」

「こよりちゃんだ!」

「この伝令、ゾクッとしていいよね〜」

 

 ポーズを取って一旦ゲームを中断させる。

 ちょこも全ての機器を一旦止めて、伝令に耳と意識を傾けた。

 

 こよりの声が直接脳に流れ込む心地よさをねねが語り出すが、誰も同意しないし聞く耳を持たない。

 いや――続く言葉でそれどころではなくなった。

 

『――スバルちゃんが、死にました』

「「…………」」

 

 

 テレビからゲームの爽快なBGMが大音量で流れ続ける。

 

 

 カチャンッ、とひとつのプロコンがマットレスの上に落下して、テーブルの下に転がっていった。

 

「――? しゅば?」

 

 ルーナがソファから立ち上がると、慌ててポルカも立ち上がる。

 衝動的な次の動きを予測し、ちょこもキッチンから駆け寄るが――

 

「しゅば――‼︎」

「――‼︎ ルーナ!」

「ちょっと! 待ちなさい‼︎」

 

 ルーナが駆け出した。

 予測された内だったのでポルカも即座に後を追う。が、彼女に止める意思はない。

 慌ててちょこが後を追おうと試みるが――

 

「ちょこ先生――!」

「ッ……」

「まつりたち、どうすればいいの?」

「あ……」

 

 まつりに呼び止められて対応に困惑する隙に、ルーナとポルカは玄関を飛び出し、トロイアへと向かっていってしまう。

 残される3人の不安げな瞳を前に、ちょこは一度冷静になる。

 

「大丈夫。ここはちょこが護るから心配しないで」

「でも、おまるんとルーナちゃんが……」

「ええ……今からこより様に電話を入れてみるから、待ってて」

 

 ルーナとポルカを追うことは諦め、方向性を変えて2人の安全を守る。

 3人から少し距離を置くと、携帯を服のポケットから抜き取り、ササッとこよりに通話を掛けた。

 3コールの後、応答が入る。

 

『ちょこさん?』

「こより様、急にごめんなさいね。今の伝令を聞いて、ポルカとルーナちゃんがそっちへ向かっちゃったのよ」

『……それッて本当に今?』

「え? ええ、もう、本当に30秒程前よ」

『分かった。連絡ありがとう』

「ちょこはこのままここに居ていいのね?」

『うん。そこに居て。2人のことは心配しなくていいよ』

「なら、申し訳ないけど頼んだわよ」

 

 通話終了の罰点ボタンを押して、電源を切る。

 携帯をポケットに戻して3人の間近まで歩み寄った。

 

「こより様が何とかしてくれる筈だから、皆はここで、戦いが終わるまで大人しくしてて」

「……ん、分かった!」

 

 まつりが元気溌剌と声を上げた。

 ねねとラミィの顔は浮かないが、まつりが太陽のようにニッコリと笑いかける事で、多少の元気を取り戻す。

 

「ね、ちょこ先生、まつりクッキー食べたい!」

「ええ……そうね、後少しで焼けるから、皆で食べましょ」

 

 空元気ではあるが、まつりの優しさに便乗してちょこも小さく微笑んで見せた。

 

「…………」

「ラミィ」

「……ん?」

「おちんちんアターック」

「なッ……何してんのよ!」

 

 まつりを見習って、ねねも空元気にふざけてみた。

 先程のゲームキャラの動きを真似て、ラミィに攻撃すると、普段よりハリのない言葉が返される。

 

「どうしたんだ〜ツッコミ女王〜。ツッコミのキレが一段と悪いぞ〜!」

「き、気持ち悪い動きするんじゃないよ」

 

 女子としては好ましくない動きでラミィに迫ると、声のハリだけは戻ってきた。

 

「そのおっぱい見たいなハリのあるツッコミじゃないと、ねねは満足しないんだよな〜」

「下しか頭に無いんかねねは!」

「ねねちは虫が好きだから、こういう時こそ無視してあげるべきかもね」

「……まつりちゃん、バグったね」

「上手く無いわ!」

 

 と、徐々に普段のノリが復活して行き、ちょこも安堵する。

 3人の様子を尻目にキッチンでクッキーを焼き、トロイアへ向かったポルカとルーナの無事を祈った。

 

 

 

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