叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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トロイア戦争④

 

 ミオとフブキには怪力がある。

 だからたった数回の打撃が通るだけで、敵の意識を奪うことができる。

 しかしそれは――上手く命中した場合の話……。

 

「何だ貴様ら、パワーだけか⁉︎」

 

 連携の取れた猛攻でラプラスに迫るも、見事に回避や相殺されてこれと言った大きなダメージは与えられない。

 

 太陽が赤らみ始めた日没前。

 灼熱の陽光が身を焦がす。

 

「日が落ちれば貴様らに勝ち目はないぞ」

 

 ラプラスが持つのは闇の呪い。

 光の弱い場所でその真価を発揮する。

 今は地下生活で貯蓄した闇と、木々の影の僅かな闇を糧に戦っているが、日が落ちれば自由度が増す。

 新月の夜、彼女と対等に戦える者はそういない。

 

 

 極力木陰に収まって戦うラプラス。

 フブキの強烈な打撃が木々をへし折り、ミオの渾身の追撃が大地を揺らす。

 時折りフブキやミオの拳に自身の拳をぶつけるが、威力は相殺される。

 その時は決まって木々が重なり、影が濃くなっている場所にいる。

 

「ふっ!」

「たぁっ!」

 

 フブキの打撃を回避した後、ほぼノータイムでミオの追撃が迫るが、最早見切ったムーブ。

 相殺に当てるまでもなく回避。

 

 これだけやり合ってお互い無傷である事はやはり不自然。

 ラプラスは一向に反撃してこない辺り、本当にただの時間稼ぎなのだろう。

 

「目覚めたての雛みてェな動きだ。そんなんでよく叛逆なんて決意できたな」

「うるっさい!」

「ッと」

 

 揶揄うラプラスの口を封じようと、息巻いて襲い掛かるも軽くあしらわれる。

 戦い慣れしていないフブキとミオは下手に身体を使ったため、体力の消耗が激しい。

 一度ラプラスと距離を置いて息をつくと、ラプラスもそれを笑って眺める。

 2人の耳と尻尾が怒りでぴくりと揺れた。

 

(しッかし……妙な力だ。全く同じ呪いを持つ者は同時期に存在しない筈だが、コイツらのチカラは完全に一致している)

 

 小休憩を挟む2人を嘲るように見つめながら、内心はそんな事を考えていた。

 

(人に怪力を与えるチカラか……。それとも片方が怪力の呪を持っていて、もう片方がコピーしているとか……)

 

 異例尽くしな2人の謎を解明すべく思考を凝らすが、ピンとくる発想がない。

 他にも幾つか浮かんだが、どれも可能性として有り得る、程度で気持ちが悪い。

 いや……きっと正解を引いていてもピンとは来ないだろう。

 結局はラプラス自身が、それだと面白く無い、で片付けているのだから。

 

「もう少し、楽しませてくれよ」

「「――」」

 

 フブキはミオと目線を合わせた。

 一度冷静になって感情を落ち着ける。

 闇雲に攻撃したって当たるはずも無い。

 折角2対1なのだ、この有利を有効活用して――ラプラスをぶん殴る。

 

「ミオ」

「うん」

 

 2人は距離を取った。

 ラプラスを挟んで両側から拳を放つ。

 易々と躱されて2人の拳が激突する。

 

「つまらんッて、マジで」

 

 芸のない戦い方に嘆息し首を小さく倒す。

 爪先を地面に立ててグリグリと土を削りながら次の攻撃を待った。

 

「……ミオ、耳貸して」

「ん」

 

 ラプラスは暇潰し程度に戦っており、基本手は出してこない。

 だからフブキは堂々とミオに耳打ちする。

 ミオが腰を屈めて頭に生えた耳をフブキの口元に寄せた。

 可愛い声と共に吐息がかかって擽ったい。

 

「少しはマシなやつ頼むぞ」

 

 太陽の傾きを気にしながら、ラプラスはそんな愚痴を溢した。

 一切無視し、フブキは思いついた作戦を伝達。

 ミオもうんうんと頷く。

 

 伝達を終えるとミオが姿勢を元に戻し、再びフブキから距離を取る。

 そしてしゃがみ込んで何かを拾い始めた。

 

「――」

「ぬぁあ‼︎」

 

 その間にフブキは特攻。

 真正面からラプラスにパンチを撃つが、やはり軽々と回避された。

 次の瞬間――

 

 パチンッ。

 

「イッ……」

 

 ラプラスの額に掌で包めるサイズの石が衝突した。

 反射的に傷口を押さえ込んだが激しく痛むし、真っ赤な血が右手に付着した。

 手を離すと顔を伝って血液が地面にポタポタと垂れる。

 

「ィッ……テェなァ‼︎」

 

 自ら煽って油断していた癖に、一撃喰らった途端に憤慨する。

 間近のフブキの腹を1発蹴り込んだ。

 

「ぅっ」

 

 ふっと身体が浮いて2メートルほど蹴飛ばされるが、大事には至らない。

 痛みから数秒経過し、更に反撃した事で多少の怒りが収まったラプラスは再度傷口に手を当てて顔を顰めた。

 

「チッ……調子乗りやがッて。あー……いッて……」

 

 小言を吐き捨てながらフブキに駆け寄るミオを睨む。

 今石を投げつけてきたのはミオだ。怪力に乗せた投石は闇の力でも完全には防ぎきれない威力。

 そもそも2人のパワーから、彼女達の攻撃は何度も喰らえない。

 

 流石にバカにしすぎたと反省してラプラスは前のめりに駆け出した。

 

「っ、フブキ!」

「ぅ、えっ⁉︎」

「ッラ‼︎」

 

 遂にラプラスから攻撃を仕掛け始めた。

 振り抜いた足がフブキの居た場所を蹴り上げると、寸前で回避したフブキの髪がぶわっと持ち上がる。

 考えてみれば、フブキ達の拳を腕力で相殺していたのだから、ラプラスの攻撃だって2人に並ぶ火力があるのだ。

 そんな攻撃、受けられない。

 

「ミオ!」

「うん、だいじょぶ! 行ける!」

 

 舞い上がる土埃と共に2人は散る。

 ラプラスは間近に居たフブキに狙いを定め、背を追う。

 怪力のみのフブキに対し、ラプラスは身体能力全てが上昇する為瞬く間に接近された。

 

「ふざけ倒してて悪かったなァ‼︎」

「っ‼︎」

 

 尻尾を掴まれ動きを止められる。

 無理に逃げれば尻尾が引き千切れる為、その瞬間に覚悟を決めて応戦に出ようとした。

 しかし振り向いた途端にラプラスの右足が迫って来た。

 何とか両腕をガードに回す事で致命傷は避けられたが、直撃した右腕がぴしっと音を立てた。

 

 勢いのままに後方へ押し倒されて転倒。

 背中を地面に打ちつけた。

 ラプラスが深く笑って容赦なく追撃を仕掛ける。

 そこへ再び――

 

「2度はねェ!」

「うそ⁉︎」

 

 ラプラスの後頭部を狙った投石を予見したように回避。

 小さなその身をさらに屈めて低くすると、石がラプラスの頭上を通過して木に衝突した。

 幹が割れる。

 

 回避行動に意識が逸れた一瞬を狙って、フブキはラプラスの足を払った。

 

「ッァ――」

 

 見事にひっくり返ってフブキの真横に転倒する。

 即座にその身体を押さえ込もうとしたのだが――

 

「んなっ――」

 

 転倒したラプラスがそのまま地面に溶けて消えて行った。

 その場には何一つ残らない。

 

「どこに……」

 

 咄嗟にその場から距離を置き、周囲を見回す。

 数メートル離れてミオも同様の姿勢を取っていた。

 その背後の薄暗い木陰から――ラプラスが前触れもなく出現する。

 

「ミオ後ろ‼︎」

 

 繋がっていない影を渡り移動したのか――。

 

 フブキの声は届いたが、ミオの反応と対処は間に合わない。

 影から伸びる魔の手は拳を握り、振り向いたミオの顔面にぶち込まれた。

 

「っぶ‼︎‼︎‼︎」

 

 頭蓋が粉砕されたと錯覚する威力に、意識が吹き飛ぶ。

 意識と同時にミオの身体も吹き飛んだ。

 一度も地面に着地する事なく20メートル先の大木に直撃――ずるずると幹を滑り落ちて、うつ伏せに倒れた。

 

「みお……!」

 

 過敏な動きでミオの下へ向かうが、ラプラスが影を媒介として瞬間移動しフブキの前に立ち塞がる。

 

「悪いなホワイトフォックス。これでも吾輩、本気じゃないんだ」

「っく――!」

 

 正面で腕をクロスさせてラプラスの攻撃から身を守る。

 

 現在は夕刻。

 日も随分と傾いたが、未だに陽光は聖域に差し込んでいる。

 この夕陽の影響でラプラスの影移動の範囲は狭まり、基礎パワーの上昇も抑えられている。

 だが日が完全に落ちれば、リミッターが外れてフブキ達では到底敵わない存在へと変貌してしまう。

 既に手詰まり感が尋常ではないが――勝てるのは今だけ。

 

 ミオの容体は我が身以上に心配だが、何となく生きていると感じる。

 なので全ての感情をラプラス打倒への糧とした。

 

「うぉあああ‼︎」

「――」

 

 フブキの鉄拳に一回り小さい拳をぶつけて威力を殺す。

 遊び心なのかそれを無意味に繰り返した。

 

 右拳には右拳を、右脚蹴りには右脚蹴りをと同じ動作を返してタメをはり、フブキを揶揄う。

 嵐のような両者のぶつかり合いで弱い風が巻き起こる。

 

 汗を散らして熾烈な争いを繰り広げる。

 汗の中に混じってラプラスの血も舞っていた。

 

「そんなモンか! 白上フブキ‼︎」

「うぉおおおおおあああ‼︎」

 

 どれだけ拳を交わしても、到底ラプラスにダメージは入らない。

 殴っても殴っても、お互いの拳が赤く腫れるだけ。

 

「――!」

「――?」

 

 唐突に、ほんの一瞬だけフブキの双眸が揺れた。

 重ねてラプラスも怪訝そうに眉を寄せるが、フブキの連撃から目を逸らせない。

 

 仕方が無いので一度影の中へ……そう考えた時。

 

 がっ、と角が何者かに掴まれた。

 

「ァ⁉︎」

「はぁ……はぁ……ぁぁ……」

「テンメッ――離せ、この‼︎」

 

 ラプラスの頭に生える2本の巨大な角を握り、小さな身体を宙に浮かせる。

 そいつの正体は勿論ミオ。

 大量の血を口と鼻から吐き出し、呼吸を乱しながらも頑なに離そうとしない。

 ラプラスが暴れるが、体勢や角度、体格の差もあり大きなダメージにはならず。

 

(コイツ、アレを顔面に喰らって、何でこんなに復帰が早ェんだよ‼︎)

 

「ナイス、ミオ」

「――」

 

 フブキが攻撃の手を止めラプラスの間近まで接近した。

 宙ぶらりんの状態で上手く身動きも取れないが、それでも2人に噛み付く。

 

「ふざけんなよキサマら! 吾輩を誰だと思ってる!」

「「――――」」

「ちょっと手加減してやれば調子に乗りやがッて!」

「「――――」」

「オイ! キサマらの魂を戻してやった恩を、まさか忘れてねェだろうな⁉︎」

「そんな事、もう関係ないです」

 

 フブキが眼前に顔を寄せた。

 互いの息が掛かる距離。

 四肢をバタつかせて抵抗すると、フブキの頰や腹に攻撃が当たったが威力は果てしなく低い。

 

 ぎゅっっ、と拳を握った。

 フブキの腕と額に血管が浮き上がる。

 

 夕刻の生温い風が聖域に吹き込んだ。

 

「ふっ――」

「のァッ――‼︎」

 

 鷲掴みにしていた角をぐっと振り上げて、ラプラスを空高く投函した。

 ラプラスの絶叫が空へと舞い上がる。

 

 真っ赤な夕陽に照らされて、クルクルと中を舞うラプラス。

 とある一点で上昇が止まり、そこから徐々に速度を上げて落下して行く。

 空中では身動きが取れない。

 広がる緑が次第に近付き視野が狭まると、地面が接近して来た。

 だがそれ以上にラプラスが危険視するのは、落下推測地点に立つフブキ。

 

「オイ! ヤメロ‼︎」

 

 ラプラスと言えど渾身の一撃が決まれば敗北は必至。

 「冥界の王」とは思えぬ程みっともなく叫んだ。

 しかし、そんな声はもう届かない。

 

 恩がある?

 それはそれ、これはこれ。

 今は立ち塞がる敵であり――かなたを死へ追いやった存在。

 

「これは――かなたさんの分だぁぁぁぁ‼︎」

「ヤメッ――ンッぶが――‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 数分前をなぞる様に拳がラプラスの顔面に減り込んだ。

 溜めて放った渾身の一撃は、過去のフブキのどんな拳よりも重たい。

 全身に駆け巡る衝撃が骨を砕く。

 

 バキンッと破裂音がしてラプラスの左側の角が弾け飛ぶ。

 そしてラプラス本体は40メートル後方の岩に激突。

 血みどろの顔から更にプシッと血を吹き出して地に伏し――動かなくなった。

 

 

「……ミオ、大丈夫……じゃないね」

「うぅん、案外大丈夫、かも?」

 

 勝利を確信した2人は一気に脱力し身を寄せ合う。

 フブキがミオの右頬に触れると顔を顰めた。

 顔全体が腫れて真っ赤だし、その上に血が流れているので、もうそれが地肌の色の様に見える。

 そんな酷い有様だが、ミオ自身は意外にも元気だ。

 醜い顔面でにへっと笑う。

 

 その笑顔にも安心できないフブキだったが、結局何もできない。

 かなたもいなければ、救急箱も、絆創膏もない。

 顔面に唾を塗りたくるわけには行かないので、もうこのままだ。

 

「それよ、りフブキ、急いで戻ろ」

 

 ミオが切れた口内を気にしながら喋りにくそうに口にした。

 不安感が増した。

 

「……うん! そうだね」

 

 仲間の負傷や死は覚悟してきたはずだ――。

 

 フブキは身を引き締め、覚悟を決め直す。

 

 熱い夕陽に照らされて、2人は再び天界への道を駆け上って行った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 天界への階段を全速力で駆ける獅子。

 とあるラインを超えると突如視界が真っ白に染まり、刹那後には雲の上へと抜けていた。

 初見では確実に視界を閉じる場所だが、ぼたんは瞬きひとつなく突破する。

 しかし――雲の上へと飛び出た後、視界に映り込む二つの影を前に足を止めた。

 

 階段の少し高い位置から見下ろされており、腹が立つ。

 もくもくと弱い煙を立ち昇らせて、優雅にタバコを吸っているその女性――ぼたんにも見覚えがある。

 つい先日、そいつの宅を訪問したのだから当然。

 だがもう一方の髪が浮遊した女は記憶に一致する顔がない。

 

「やあ……奮迅獅子」

 

 空気の薄い雲の上で弱い風を浴びながら、タバコを咥えた女性――らでんが軽い挨拶に片手を上げた。

 グレー混じりの黒髪と立ち昇る煙がたなびく。

 

 不快に思いながらも見上げるしかできない立ち位置で、ぼたんは2人を睨み上げた。

 

「お前がここまで出しゃばッてくるタァ、どう言った了見だよ」

「色々あるのさ私にも――護りたいモノなどがね」

「――じゃあつまり、お前は『敵』ッ、て事でいいか」

 

 牙と爪と瞳を研いでらでんに向けた。

 らでんの隣ではアキロゼが悠然と2人の会話を傍観していた。

 

 らでんはタバコを口から離し、吸い殻入れへと捩じ込む。

 

「答えに困る質問だ。過去君たちに与えた情報に嘘は無い……。それを考慮すれば決して味方で無いとも言えないだろう」

「回りくどいな」

「ふっ、すまないね。そう言う質なんだ」

「いやお前なんぞに意見を求めたあたしが愚かだった」

 

 嘲る様に鼻を鳴らしてぼたんは口角を上げた。

 鋭い八重歯が煌めく。

 らでんはぼたんの錫色の瞳を見つめていたが、剥き出しの闘争心を前にした途端、視線をアキロゼに移した。

 アイコンタクトを取り、開戦直前の最終準備を指示。

 準備完了――。

 

 

「お前らは――『敵』だ」

 

 

 そして開戦――!

 

 

「ふッ飛べ‼︎」

 

 生み出したロケットランチャーの照準を0.5秒で合わせて弾を放つ。

 爽快に風に乗り弾が2人を狙ったが、発射と同時に二手に割れて回避。

 爆風が3人を襲うも全員無傷。

 

『持久戦は不利だ。早期決着で行きますよ』

『りょーかい』

 

 らでんが脳に浮かべた言葉がアキロゼの脳内にも浮かんだ。

 そしてその逆も。

 

 これがアキロゼの呪いの力の一端だ。

 特定の2人を結びつけ、運命を共にする。

 あらゆる事象や情報を常に共有する事ができる。

 この力自体、1人で2人分の情報を処理する為使用者への負荷は大きい。

 そこへらでんの力を掛け合わせている為、2人の体力消耗は常軌を逸している。長くて10分、短ければ5分しか持たないとらでんは予測した。

 

「知識の呪いであたしの――戦の呪いに勝てると思ってんのかァ⁉︎」

「――――」

「なんか喋れよ感じ悪ィぞ‼︎」

 

 ロケランを消滅させてらでんに肉迫し、右手に拳を握る。そこへメリケンサックを生成しながら振り抜いた。

 半身だけ反らせて華麗に回避。

 

 想像以上に見事な動きにぼたんは目を剥いた。

 一手分行動が遅れたタイミングでらでんは懐からナイフを抜き取り、180度の弧を描く。

 ぼたんは身を屈めて躱すと左手に槍を生成、低い姿勢から一気にらでんの心臓に突き上げた。

 

 回避手段が一つしか無かったので、仕方なくぼたんを飛び越えて階段から落ちる。

 雲だけが一面に広がる層へ頭から落ちて行くらでんを、落下地点に先回りしたアキロゼが受け止めた。

 2人を追ってぼたんも無の層へ飛び込む。

 

 パンパンパンパンパンパン――!

 

 2丁の拳銃を構え、落下しながら2人に何発も発砲。

 全弾を予期した様に回避して見せると、さしものぼたんも驚愕を見せてくれた。

 ダンッ、とぼたんも着地する。

 

(……未来予知、だと? アイツの力か)

 

 ぼたんの解釈は微妙に的を外していたが、ほぼ同義だ。

 しかし能力の主がアキロゼだと思い込んだ事は的外れ。

 これはらでんの知識の力だ。

 

「なら――これでどうだ!」

 

 手榴弾を右手に掴み安全ピンを抜く。

 速攻で投函し、直後両手にロケットランチャーを装備。

 2人の逃げ道に更に2つの爆弾をぶっ放す。

 

 所が、手榴弾の投函より僅かに早くアキロゼが飛び出した。

 投函された手榴弾を2秒後にキャッチして速攻で返還する。

 

「イッ――⁉︎」

 

 安全レバー解放から5秒後に爆発する設計な為、丁度ぼたんの目前で破裂するだろう。

 咄嗟に拳銃を構えて手榴弾を撃ち抜くと、ロケランの弾の着弾と同時に空中で破裂した。

 

 3つの爆風が混ざり合い、熱風と爆煙が立ち込める。

 その煙幕に紛れてアキロゼとらでんの同時強襲。

 

「んッ――⁉︎」

 

 らでんのナイフがぼたんの腹を掠った。

 しかし切れたのは服だけ。

 だが回避した先にアキロゼが待ち構えており、こちらも高速の刺突を繰り出す。

 

 キィんッ――と硬い金属にナイフが接触し、耳障りな金切音が響いた。

 思わず耳を塞ぎたくなる。

 

「どらァッ‼︎」

 

 その硬い金属を構えてアキロゼにタックルをお見舞いしたが、これもまた外れた。

 

 その辺りで煙幕が霧散し、全員の姿が明るみになるので一度攻撃の手を止める。

 

 らでんとアキロゼは想像通り、予め装備していた短刀を構えており、ぼたんは土壇場で生成した盾を構えていた。

 が、防具や盾は嫌いなので直ぐ様消滅させた。

 鎧や甲冑、盾は無駄に重くて動きが鈍る。パワーで押して、攻撃を防御に変える。

 ぼたんにとって攻撃こそ最大の防御なのだ。

 

「どうなッてんだ、お前ら。煙幕ン中であたしの位置が分かったり、動きを予測したり……テメェ、どんな呪いを持ってやがる」

「「――――」」

「ハッ、また無視かよ。腐った根性してんなァ‼︎」

 

(うるさいなあさっきから――喋る余裕なんぞあるかい!)

 

 ぼたんの意図しない挑発にひっそりと乗っているらでん。

 その内心はコネクトしたアキロゼにも響いている。

 

 莫大な情報量を常に頭に流し込むこの戦い方。情報を扱い慣れたらでんでさえ早々に頭痛を起こす。

 耐性のないアキロゼが使い続ければいずれ脳はショートを起こすだろう。

 現に、アキロゼの頭痛が文字通りらでんの身に染みている。

 

 早期決着させたいのだが――やはりぼたんの戦闘能力が高過ぎる。

 

 だと言うのに、追い討ち気味に2人にとって芳しくない変化が訪れる。

 

「――? なんだ、急に――」

『伝令します……スバルちゃんが、死にました』

 

 不意にぼたんの脳内に流れ込むアナウンス。

 その言葉の意味は一瞬で理解した。

 

(スバルちゃんが死んだか――)

 

 ぼたんの心情や思考を情報として下ろし、らでんとアキロゼもスバルの死を認知する。

 ぺこら達の同行や作戦状況の確認を行いたい所だが、アキロゼへの負荷が増すし、そもそも戦闘中なので不可能。

 邪念として一旦振り払い、ぼたんとの戦いに熱中する。

 

「バトルテンポ3倍で行くぞ」

 

 牙を剥いて再びぼたんが襲い来る、が――先よりも速度が速い。

 右の鉄拳を振り翳してらでんに回避行動を取らせる。

 狙い通りに飛び跳ねて躱してくれたので、その行動に甘えて0.3秒の対空中に銃を発砲した。

 

 その思考を読み切っていたアキロゼが身動き取れないらでんの身を引き寄せて弾を避けさせる。

 そこへ追撃を狙っていたので、らでんはなけなしのナイフをぼたんに投げつけた。

 爆増した反射神経を駆使して手にした銃でガード。拳銃にナイフが突き刺さった。

 

「ハッ、らッ、だラァッ‼︎」

 

 剣や槍、ナイフを振り回して攻撃を繰り返すが悉く回避。

 時折頬や足を掠めるが動きを封じるには至らず。

 

「どうした‼︎ さっきよりキレが悪りィぞ! テメェらァ‼︎」

 

 気分が高まり咆哮するぼたん。

 確かに2人のパフォーマンスは時間と共に低下するが、それ以上にぼたんの身体能力が向上した事が理由として大きい。

 

 戦の楽しさに乗って刻印も疼く。

 

(スバルちゃんが、死を対価にしたのか。このままじゃ勝ち目がない)

 

 らでんが大量の涎を溢しながら脳をフル稼働させる。

 全身が高熱を帯びて焼き切れそうだ。

 

(アキロゼさん。痛みを伴うけれど、付き合ってもらうよ)

(う、ん)

 

 らでん以上にアキロゼの発汗は酷い。

 どちらかの力が途切れればその時点で2人の敗北は決まる。

 身体に鞭打って2人はその苦痛を必死に隠した。

 

「もう一丁、行くぞ‼︎」

 

 再三、ぼたんが仕掛ける。

 鋭い八重歯を煌めかせ肉迫すると、2人が分かれて距離を置く。

 だがやはり、狙うはらでん。

 幾つものナイフを生成し続け、際限なく投函する。

 

 ぼたんが狙う位置を正確に割り出しながら回避を重ねるが、積もる疲労で足が縺れる。

 大量の擦り傷が生まれ、自慢のストレートな黒髪の左半分がばっさり切れる。

 

 女性の容姿には気を遣え、馬鹿者。

 

「どうしたどうしたどうした⁉︎」

 

 ナイフ投げ、抜刀、槍の刺突、銃撃、爆弾投げ、鞭打ち、鉄拳と手に余る攻撃手段で攻め立てる。

 次第に遅れを取り始め、あわや命中といった所をまたアキロゼが救う。

 しかし今回はその後もぼたんの追撃は止まず。

 狙いが2人に増えた分、一人当たりの回避のしやすさは増すが、それでも遅れを取り始めた。

 

 いつまで経っても2人の思惑通りに進まず、体力だけが削れてゆく。

 激しい頭痛に苛まれ、忍耐の限界を迎えかけた時――漸くそれは訪れた。

 

 ぼたんがアキロゼに拳を向けた時、それこそが2人の欲しかった隙。

 ぼたんの気分次第で攻撃が変わるので、来るタイミングを制御できず時間がかかった。

 

 銀に煌めくメリケンサックを纏った拳がアキロゼに迫る。

 ここぞとばかりに避け切れないフリをして、アキロゼは打撃を腹に喰らった。

 

「「っっぎ――‼︎」」

 

 ダメージはコネクトしたらでんにも転送される。

 腹が抉れる強烈な一発。

 吐き気を催すがぐっと堪え、らでんは非力ながらに拳を握る。

 

「ッ――」

 

 アキロゼが腹に減り込んだぼたんの腕を抱え込む様に掴んでいた。

 行ける――届く――!

 

「ハッ、甘めェッ!」

 

 パァン――!

 

「っぐ……」

 

 初めて銃弾が身体を貫いた。

 その位置はらでんの左肩。

 心臓を狙ったが、ぎりぎりで身を寄せてずらされたが、決定打に繋がる。

 ぼたんは飛び散る微量の血を見て狂喜的な笑みを浮かべた。

 

 ダメージが伝播してアキロゼの左肩にも全く同じサイズの穴が開き、ぼたんの腕を手放す。

 

 解放されたぼたんはトドメの一撃を――

 

「ふッぐ――」

 

 背後から、ぼたんを痛みが襲った。

 

「ァ……?」

 

 右の脇腹よりやや後ろ……1本のナイフが刺さっている。

 

「ィッ……」

 

 ジワジワと血が滲み、広がり……傷口に熱が籠る。

 アキロゼが一度仕舞ったナイフを取り出して、負傷と同時に投げたのだ。

 これこそ、本当に欲しかった隙。

 其々がダメージを受け、ぼたんの油断を誘う作戦。

 

((今だ‼︎))

 

 2人はぼたんを挟み込んで右手に拳を握った。

 動きが鈍った今なら、押し切れる。

 

「ッ――!」

 

 がんっ、とらでんとアキロゼの拳は雲地に衝突した。

 

((――⁉︎))

 

 ぼたんは迎撃に出ず、賢明に回避を選んでいた。

 負け戦が嫌いなぼたんが逃げの選択をするとは想像できなかった。

 

((いや、まだ――‼︎))

 

 激しく唸る身体を酷使して2人は切迫しようと踏み出したが、ぼたんが腰元を抱えながら手榴弾を放ってきた。

 慌てて回避し、距離を詰めようとしたが――

 

「チッ」

((っ――――))

 

 ぼたんは2人に背を向けて、雲の彼方へ走り去っていった。

 

 

「……逃げたか」

 

 らでんの一言で2人は力を抑えた。

 

「……はぁ、はぁ、はぁっ……どう、する……?」

「深追いはよそう――これ以上はらでん達も……保たんけん」

 

 何より――スバルが死んだのなら、作戦は進行してもうトロイアは開いているはず。

 そうなれば、ぼたんの存在は大した脅威にならない。

 これはあくまで、トロイア開門までのぼたんの足止めだ。

 

「頭痛は……どんなもん?」

「死に、そう――。だけど、行ける」

「ん、なら急ごう」

 

 

 らでんとアキロゼは階段へ戻り、再びトロイアへと向かった。

 

 

 

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