叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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トロイア戦争⑦

 

 太陽の沈みゆく世界で拳と刃の応酬。

 薄暗い雲の上をトロイア北門から漏れ出る明かりが照らす。

 

 軽装備のポルカは、回避に大きく意識を使いつつ、機を見て時折迎撃に出る。を基に動いていた。

 だが、ルーナが怒り心頭で分け目も振らず前へ前へと出るので、ポルカはカバーに回る羽目になる。

 お陰で顔や腹に拳を3発、右腕にナイフ一撃を喰らった。

 

 その代償も虚しく、ポルカとルーナの攻撃は一つも当たらない。

 

 

 対しておかゆところね。

 2人は相手が呪い持ちと仮定して戦っていたが、その片鱗を一切見せないので、おかころと同種か、呪いを持たない者と結論付けた。

 

 ルーナがヤケに攻撃的だが、それ故に連携が取れておらず捌き易い。

 ころねの動きを起点としておかゆがナイフで急所を狙う。

 それを繰り返していたが、ナイフの命中はポルカの腕に刺さった一度きり。余程おかゆの動きを警戒していると見える。

 

「ッッ‼︎」

 

 ルーナがまたしても拳を握ってころねに襲い掛かる。

 軽々と身を翻し、眼前に拳を通過させながらころねは距離を詰めた。

 無防備なルーナを狙うころねの拳。

 流血する右腕を振り翳してルーナを押し飛ばし、ポルカは自ら拳を受けた。

 左腕に響く衝撃に顔を顰める。

 

 だがこの展開はここまでの戦いで予測できた。

 ここぞとばかりにおかゆがナイフをルーナに向ける。

 

「ルーナ――‼︎」

 

 ころねの拳を雑に流してもう一度ルーナを突き飛ばす。

 どうせもう使えない右腕だ――。

 

 おかゆのナイフがポルカの右掌に正面から突き刺さる。

 

「ィ゛ッ……デ……‼︎」

「んっ⁉︎」

 

 激痛に絶叫することも無く、ポルカはただ冷静に――ナイフを握った。

 突き刺さったナイフを奪おうと右手を丸めたが、力が籠もらず、おかゆにナイフを引き抜かれる。

 

 プシッ、と血飛沫が舞う。

 

「なんなの……この人……」

「尋常じゃない――」

 

 ルーナを庇護する為に自ら負傷するポルカも……ポルカが自らを犠牲にする事を承知で無鉄砲に突っ込むルーナも……どちらも正気の沙汰とは思えない。

 控えめに言っても、常軌を逸している。

 

 そんな狂気的なスタイルの敵に、おかころは臆し始めた。

 先程までの同情とは打って変わって。

 

 ナイフが抜けると同時に、ポルカはルーナの首根っこを掴んで2人から距離を置いた。

 そうでもしなければ、また無策で飛び掛かっていただろう。

 

 右腕をだらしなく垂らし、血を滴らせる。

 雲地が新たな赤で染まる。

 

「ルーナ、狙われてるから気をつけてな」

「じゃあちゃんと守って!」

「おう」

 

 我儘なんて比ではない。

 親切なんて域でもない。

 

 ネジがトびまくっている。

 

 ポルカの右腕はトマトを潰した様な赤さ。

 今日初めて感じる夜風が生ぬるい。

 

「おがゆ」

「ころさん」

 

 名前を呼ぶだけで心が繋がる。親密な2人に口頭での作戦伝達など不要。

 以心伝心で何だって共有できる。そう信じている。

 

 ポルカの血で塗れたナイフを大きく一振りし、払える血を払った。

 色はあまり変わらない。

 赤い金属光沢に歪んだ自分の顔が写っていた。

 

「んなあァァァ‼︎」

 

 ルーナが真正面からころねに突っ込む。

 予見した様にポルカも並んで駆けてきた。

 

 捻りの無いパンチがころねの腹を狙って放たれる。

 回避よりも相殺に当てる方が無難と見て、ころねはルーナの拳に自身の拳を衝突させ――

 

 バチッ――

 

「――っ⁉︎」

「おらァァァい‼︎」

「んぐっ――‼︎」

 

 ころねの顔面にルーナの打撃がクリーンヒット。

 折れた前歯と共にころねの身体がトロイア北門前に転がった。

 

「ころさん‼︎」

「余所見してんじゃ――ッねェ‼︎」

「っぎ!」

 

 ポルカの回し蹴りを反射的に防いだが体勢が悪い。

 ユラリと2色の瞳が揺れながらおかゆに迫っていた。

 回避は間に合わないと判断し、ポルカの攻撃の軌道を逸らせた後、打撃を喰らう覚悟でナイフを振るった。

 

 バチッ――

 

「――っ⁉︎⁉︎」

「おらァッ‼︎」

「ゔっ‼︎‼︎」

 

 おかゆの鳩尾にルーナの打撃がクリーンヒット。

 微量の唾液を散らしてころねの間近に転がった。

 腹を抱えて蹲る。

 

「ルーナ、お前……」

「んな?」

「いや、このままヤッちまおゥ」

「ふな!」

 

(自覚してねェだと? 今のは完全に……故意だろ)

 

 ルーナの発動した不可思議な力は、ルーナ以外が認識した。

 攻撃を一方的に弾かれたおかゆところねは、それがルーナの隠された呪いの力であると早期分析したが……。

 ポルカは追求せず目の前の敵の殲滅に意識を注ぐ。

 

「おがゆ!」

「ぅぅ……」

「おがゆ、だいじょぶ⁉︎」

「ぅっ……ぇっほ、げほっ……」

 

 鼻血を拭っておかゆに駆け寄る。

 おかゆは鳩尾を両手で押さえて蹲り、激しく咳き込んだ。

 唾液が散る。

 

 おかゆが視線を上げると、ころねの前歯が一本無くなっていた。

 怒りが湧いた。

 でもまだ立ち上がれない。上手く拳を入れられたようだ。

 

 だがおかゆの復帰を待ってくれる優しい敵では無い。

 元々両者、実力自体は拮抗しているのだ。油断も手加減も出来ない。

 

「おらぁぁい‼︎」

「んっ!」

 

 ころねを襲う単調な攻撃。

 回避は余裕だがおかゆから離れられない。

 拳を合わせて相殺を――その発想の直後、先ほどの光景が脳内にフラッシュバックした。

 再思考――。

 

「おがゆっ」

 

 おかゆの身を引いて飛び退いた。

 間髪入れずに追撃が来る。

 ポルカの左脚からの踵落としがおかゆを狙っていた。

 ルーナとの距離が1歩半ほどあり、今ならば受けることが出来る。

 攻撃の間に割って入り、クロスした両腕でポルカの脚技を受け止めた。

 衝撃を両腕から全身に流すと速攻で右手を懐へ。

 ナイフを取り出して軽く一振り。

 

「んなもん今更‼︎」

 

 ザグッ――‼︎

 

「っそ⁉︎」

 

 2度もナイフに刺された右腕で、再度ナイフを受け止めた。

 右足を着地させながら左脚を振り抜く。

 

「オッらァッ‼︎」

「ふっ――」

 

 腰を撃ち抜く蹴り。

 骨が曲がるような音が内部から伝わって、全身がふっと浮いた。

 雲地を滑って転がる。

 

 苦痛に顔が歪む、が自分よりおかゆ。

 激痛が走るも腰に力を入れて顔を上げ、おかゆの身を案じた。

 

「おかゆ‼︎」

 

 気が付けばおかゆは立ち上がっていた。しかし、

 

「んなぁあ‼︎」

 

 ルーナの行動に対処できない。

 顔面を狙った打撃が炸裂――

 

 

「ふんっ‼︎」「――⁉︎」「――⁉︎」「っ――」

 

 

 バヂバヂバヂバヂ――

 

 突如介入してきた白い影。小さな星が靡く。

 ルーナの拳に拳をぶつけた――つもりだったが、拳同士は衝突していない。

 

「何これっ、バリア⁉︎」

「フブキ、ちゃん――!」

 

 介入してきた白い影――それは白上フブキ。

 得意の怪力で押し切れない不可思議な半円の膜が明滅しながらルーナを覆う。

 だが、ルーナの拳も膜を破ることができない。

 

「んだッ、テメェ‼︎」

 

 ルーナへの半接触に怒ったポルカの渾身の左拳が、フブキの頰を狙う。

 その背後に浮かぶ黒い影。

 

「どあっ⁉︎」

 

 ガンッ‼︎

 

 ポルカの身体が紐状の何かに掴まれ、強引に回避させられる。

 そして交代するように割り込む、灰色の影。

 ギラリと煌めく肉食獣の瞳と、銀の光沢。

 

 拳と拳の衝突――。

 衝撃波が全身を震わす。

 

「おまるんに、触んじゃァねェよ‼︎」

「――⁉︎ 奮迅獅子⁉︎」

「ししろ‼︎」

 

 フブキに加えて飛び入り参加する、ミオとぼたん。

 ミオの怪力にメリケンサックと強化された肉体で挑むも、パワー負けしている。

 ぴしっとメリケンサックに罅が入った。

 ポルカを引いた鞭を消滅させ、左手に拳銃を生み出すと、拳が弾かれる前にミオに発砲。

 

「うぐっ、ああ‼︎」

 

 半身躱して致命傷は避けるも左肩を撃ち抜かれた。

 ミオが拳を引くとぼたんは勢い余って前のめりに。

 その隙にフブキがミオを連れて距離を置く。

 

「チッ」

 

 パパンッ――

 

 と2丁の拳銃を発砲してみたが、外れ。

 飛び出しかけたルーナの首根っこを掴んで、ぼたんはポルカの下まで跳躍する。

 ポルカの真横にルーナを投げた。

 

「お前ら、何やってんだよこんなとこで」

 

 視線を落とさず2人を叱責するとどちらも不貞腐れる。

 

「だって、しゅばが――!」

「関係ねェよ。それでお前らが無駄に死んで、何になんだバカが」

 

 チラリとポルカの右腕を一瞥。

 見るからに痛々しく、出血が多い。

 

「――ハナレへ行くぞ」

「しゅばは‼︎」

「置いてくに決まってんだろ‼︎」

 

 ルーナとポルカを鞭で括って西へと視線を向ける。

 ルーナが必死に踠くが、腕は巻き取られて足がバタつくだけ。その行為は寧ろ2人を抱えて逃げるぼたんに悪影響を及ぼす。

 同じく拘束されたポルカは顔をルーナに向けてソッと告げた。

 

「ルーナ、戦後でも遺体は回収できる。また後にしよう」

 

 ルーナの意思を極力尊重するが、それによって自分以外が死ぬ事は避けたい。

 中立の立場で折衷案とは言い難い案を提唱した。

 だがルーナは余計に暴れた。

 

「いや! しゅばも連れてくの‼︎」

「ルーナ」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやい‼︎」

「うるせェぞルーナ‼︎」

 

 叛逆者4人の姿を視界に収めながら、ぼたんが再び強く叱責した。

 両手が塞がったぼたんなら、4人で詰めれば容易く落とせる。

 すぐに逃げたいが、ルーナが暴れる内は危険だ。ぼたんだって腹を刺されて負傷しているのだから。

 すっ転んで3人纏めて死亡は、論外。

 

 しかし、幾ら恐喝してもルーナの横暴は止まない。

 

「テメェ‼︎ そんなにスバルと一緒がいいんなら、1人だけ置いてくぞ‼︎」

「――っ‼︎ おまッッ‼︎ なんて事言うんだよ獅白‼︎」

 

 ぼたんの度を超えた発言にポルカまでも怒りだした。

 

「んやァー‼︎ しゅーばー‼︎」

「もういい! ルーナは気にせず逃げてくれ‼︎」

「無茶言うなよ! これでもあたしだって怪我してんだ! こんな暴れられちゃァ、すぐに転けて終わるぞ!」

「じゃあポルカを下ろせ」

「あ⁉︎」

「いいから‼︎」

 

 ポルカに詰められ、渋々左手の鞭を消滅させた。

 雲地に立つと真っ赤な右腕と薄白い左腕を持ち上げて暴れるルーナを抱き締めた。

 桃色の髪に腕形の血が付着する。

 

「落ち着けルーナ。今暴れても仕方が無い」

「いやいやいやいやい‼︎」

「スバルの敵を討つ為にも、今は退こう。報いを受けさせてやる為に、ポルカもルーナも、今は生きて戻らねェと」

「いやぁ……しゅば……しゅばァァ……」

「大丈夫だ。スバルは、お前の心にきッッと居る。置いてッたりできねェ」

「うッ……ぢゅばァ……」

 

 心臓の音を聴かせながら、ルーナに冷静に語りかけた。

 大粒の涙を流し、ルーナは暗くぼやける視界の中でスバルの亡骸を見つめた。

 ポルカの心音が、いつしかスバルの心音と錯覚して、身の内にスバルを感じるようになる。

 涙は止まらないが、暴挙は治った。

 ポルカは抱擁を解く。右腕にルーナの髪が張り付いてきた。

 

「ししろ」

「行くぞ」

 

 ポルカの合図で2人は西へと駆け出す。

 

「っ! 逃がさないっ‼︎」

 

 フブキところねもまた、愛する者を傷つけられた怒りで襲い掛かる。

 猛ダッシュで行手を阻もうとするが――

 

「来るんじゃねェよ!」

 

 ぼたんの左手は空。

 つまり――

 

「ぃっ⁉︎」

 

 左手に手榴弾を生成。バランスを崩しながら、八重歯で栓を抜き迫り来る叛逆者たちへ投函した。

 

 ドォォォン。

 

 威力は中程度だが、爆煙と爆風が発生し元より暗い視界が一層曇る。

 獣人得意の嗅覚も煙でやられてしまい、機能しない。

 深追いは厳禁だ。

 

 

 爆煙の外で雲地を蹴る音が遠ざかって行く。

 

 

 やがて煙も晴れ、夜が戻るとそこにはもう、4人とスバルの亡骸しかなかった。

 

 

「逃げられた」

「は、おがゆ‼︎」

 

 ころねは真っ先におかゆへ駆け寄った。

 しかし、明らかにころねの方が負傷が大きい。おかゆの腹痛は治ったが、ころねの欠けた前歯はもう再生しない。

 鼻血だってまだ垂れている。

 

「僕は平気。ころさんこそ大丈夫?」

「こぉねは顔入れ替えたアンパンマンくらい元気だでな」

「凄い元気じゃん」

 

 鼻血を垂らしながら、にけっと笑った。

 おかゆも安堵して胸を撫で下ろす。

 

「ミオ、肩は大丈夫?」

「うん……ちょっと痛いけど、まだまだ動けるよ」

「タフネスだね」

「なんでだろうね」

 

 ミオは正面の傷口を押さえてへへっと笑い、痛みを忘れる。

 ラプラスのパンチを顔面に喰らって、即復活したりと何気にタフだ。

 それが呪い故なのかは不明だが、いい事ではある。

 二人はおかゆところねに歩み寄り、戦況を尋ねる。

 

「今、トロイアはどうなってるの?」

「僕たちにもよく分からないんだよ。ただ……秩序、だっけ? その力が切れたっぽくて、今はもうトロイア内も無法地帯だと思う」

「じゃあ、トロイアでも呪いが使えるんだね?」

「うん」

 

 おかゆの答えに二人は顔を合わせて頷く。

 

「二人とも、トロイアに行く気⁉︎」

「勿論! まだ戦うよ」

「止めときって!」

「んーん。私たちまだ、全然何も出来てないから」

 

 フブキはトロイア戦争での戦績を振り返る。

 ラプラスの撃破とぼたん+2名の撃退。

 ラプラスに関しては神の一団ではない為、殆ど貢献になっていない。

 せめて、神とは言わずとも、神の遣い1人くらいは今潰しておきたい。

 

「それに、今ここに居ない仲間達も心配だから」

 

 ミオがスバルを一瞥して付け加えた。

 首肯するフブキと共に頭に浮かべるのは、一致して奏である。

 

「二人はどうするの?」

 

 フブキとミオはトロイア突入を決意し、おかころの意思を問うた。

 

「こぉねたちは、この通路――帰り道を常に開けておけっ、てらでんちゃんに言われたから、ここに居る」

「うん。だから二人とも――――気を付けてね」

「「うん‼︎」」

 

 白と黒の影がトロイアへと侵入する姿を、おかゆところねは見送った。

 

 

 

 遂にトロイア内部へと突入したフブキとミオ。

 戦況は相当変化していると思われる。

 

「雷霆に当たると、正直勝ち目が無い。狙うのは神、轟天一等星、明鏡止水の誰か」

「そうだね。もし雷霆と出会したら、逃げた方がいいかも」

 

 通路を駆けながら二人は戦う相手を吟味する。

 今明言した通り、二人は確実にトワに敵わない。

 そして神の力も知らずこう口にしているが、当然神にも敵わない。

 純粋なパワー勝負が可能な、すいせいだけが二人の勝機を見出せる敵である。

 

「兎に角まずは誰かを探そう。敵でも味方でもっ」

「そうだね、急ごう!」

 

 北門から一本道を突っ切り、進んで進んで――

 

「っ――」

 

 突如フブキが足を止める。

 

「いでっ」

 

 ミオが衝突した。

 額を押さえながら横にズレる。

 

「ちょっとフブキ〜、どうし――」

 

 ――――――――――。

 

 フブキの目線を辿った先に、見覚えのある金髪が、服装が、少女が、倒れていた。

 

 耳鳴りが、心拍が、息遣いが煩い。

 急速に口内が乾いてゆく。

 

「……、……」

 

 現実から逃避したがる足取りで歩み……。

 眠るように倒れる少女の前へ屈み込む。

 

「奏ちゃ……」

 

 頸動脈に恐る恐る震えながら手を伸ばした。

 ぴと、と汗まみれの手で触れると――冷たかった。

 フブキの体温の半分程だ。

 脈も心音も聞こえるが、それは全てフブキの物。

 

「……、……、……」

 

 口をぱくぱくさせ、言葉に出来ない思いを吐露した。

 

「――――」

 

 救いを求める様に倒れた少女――音乃瀬奏の表情を見つめた。

 絶句が重なった。

 息が詰まった。

 呼吸を忘れた。

 世界が真っ白になった。

 

 

 小さく微笑んで、心地良い夢を見ている様。

 左目に一筋、液体が伝った痕跡がある。

 

 

「っ、ぎっ……ゅ……っ……ぃ」

 

 力強い歯軋りの音が聞こえる。

 怒りであり、悲しみである。

 

 また生きて出会えると信じて止まなかった。

 

「――――」

 

 二人は奏の下を離れてゆく。

 片眼に憤怒を、片眼に悲哀を宿して、先へと進む。

 

 

 ――――――。

 ――――――。

 

 

 到達した開けた空間。

 メラメラと火の手が上がっており、室内は燃え盛っていた。

 加えて、炎とは別で荒らされた形跡があり、到底外観からは想像できない無惨な状況。

 何者かが暴れ回った様だ。

 

 そんな荒廃したリビングに佇む1人の影。

 熱風で靡く薄赤い髪に、鈴などの装飾がなされた巫女服。

 どこか見覚えのある後ろ姿だ。

 

「なん、で……」

 

 新たな感情に瞳が揺れ、掠れた声が漏れた。

 その声に反応し、さくらみこが堂々と振り返る。

 

 みこの翡翠色の瞳が、二人を捕えた。

 

「みこ、さん……が、ここに」

「なぜか。それは、みこが神だから」

 

 体感した事のない衝撃が全身に迸り、痙攣した。

 開いた口がずっと塞がらず、口内がどんどん乾燥してゆく。

 身体が熱い。立ち眩みがする。

 バチバチと炎の弾ける室内で、二人はみこと向き合う。

 

「ぁ……」

 

 みこの足元に人が転がっていた。

 血溜まりの上、残骸の下に……生き絶えた風真いろはがいた。

 

 視線を彷徨わせもう1人の犠牲者を目の当たりにする。

 熱で目が乾く。

 

「そ、な……」

 

 全身焼け焦げた人型の者が突っ伏している。

 燃えかけの赤いリボンが見えた。沙花叉クロヱだ。

 

 まさかと思い、もう一つの死体を探したが見当たらず。

 はじめは生きているのだと信じた。

 

「これを……みこ、さんが……」

「いや、これはみこじゃにぇェ。すいちゃんだにぇ」

「――これは……?」

 

 まるで別の誰かを葬った口振りに、鋭く二人が耳を揺らした。

 無惨に人を屠るすいせい。

 それに対し、トワは呪いの力で外傷を見せず人を殺す。

 神であるみこが、まさに神業で外傷なく人を殺せたら?

 奏には一切の傷も見受けられなかった。

 

「みこは声楽調律師、そして明鏡止水を殺した」

 

 きーん、と甲高い耳鳴りが脳に響く。

 衝撃で両目から涙が垂れた。

 

「――しんじて、たのに」

「そりャァ……悪かったにぇ」

 

 フブキとミオが拳を握った。

 二人はみこの呪いを知らない。

 直撃すれば死亡、などと言う理不尽を知らない。

 

 みこは片手を突き出した。

 

(……いいのからでん。マジで死んじまうぞ)

 

 一切手加減が許されないみこは、無情にもその手から魔法を放った。

 フブキの目前に輝く魔法の球が飛んで来る。

 目で追えず、咄嗟に躱わすことも出来なかった。

 

 

 ビリッ――――

 

 

「「「――――⁉︎⁉︎⁉︎」」」

 

 

 魔法は直撃した。

 但し、フブキではない。

 

 

「やれやれ、情報も持たずに叛逆とは、無鉄砲だねぇ〜」

 

 

 心臓に死の魔法を喰らってなお両陣営の間に佇む女性。

 長めのポニーテールが熱風で激しく揺らぐ。

 

「『不死火』……いつの間に逃げ出したんだ」

「止めてよその名前〜。あたし不知火ってんだけど」

「……ああ、あの花火はそう言うことにぇ」

 

 奏が最期に残した置き土産の意味を理解した。

 突如現れた女性――不知火フレアは、一度振り返って二人を見つめる。

 

「さっき通路で死んでた子。多分あの子に呼ばれてきたけど、手遅れだったみたいだね」

「奏、ちゃん、に……?」

「だからせめて君たちは助けてあげる。でも、金輪際こんな事はしないからね」

「ぇ……」

「早く逃げな」

「ぅ、ぁ……」

「施設にいたら――巻き込むよ」

 

 低い脅迫の声に二人は本能的に逃げ出した。

 結局何も出来ず、ただ死んだ仲間たちを拝んで逃げ去る自分が憎い。

 

 二人は涙を散らしてリビングを後にした。

 

 

「叛逆ねぇ〜、何が楽しいんだか」

 

 神に必死の思いで抗う者たちを虚仮にする発言。

 フレアは自分と大切な人を、自分の身一つで守れるので、今の情勢に不満はない。

 だから命を賭して叛逆に繰り出す者たちの気持ちは分からない。

 

「流石にオメェは……無視出来なさそうだにぇ」

 

 転移で即座にフブキの後を追う事は可能だ。

 だが、フレアを野放しには出来ない。コイツは、無法人すぎる。

 

 

 にっ、とフレアが笑うとみこは全力で魔法を投下。

 フレアも両手が業火を放ち対抗。

 直後――大爆発が発生。

 

 

 これよりトロイアを大災害が襲う。

 

 

 

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