叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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メモリア①

 

 終戦から1時間後――そらによる生存者の処置が終わり、ハナレでの緊急会議が開かれた。

 しかし、空気は険悪だ。

 

「あやめちゃんは?」

「トロイアを出た姿は確認してます。ただ、その後は伝令を受信してくれないので、恐らく地界へ降りたのかと」

 

 ルイの死に関してはこよりから伝令を受けた為、みこも知っている。

 仲間に想い人を殺されて、その組織に残るはずも無い。

 恐らく二度と戻って来ない。

 

 あやめがそれで生きていくのなら、とみこは割り切った。

 

 問題は――すいせいだ。

 ぺこらに倒される瞬間を、ギリギリカメラが捕らえており、その後はカメラも壊れて消息不明。

 トロイアの瓦礫撤去で生死が判明するが、それには数日掛かる。

 

「とわ……やめる……」

「バカ言うなよ。遣いが一気に3人消えりャァ、それこそ終わりだ」

 

 意気消沈したトワがポツリと吐くと、ぼたんが正論を返す。

 あくあが死に、すいせいも消息不明――否、90%死んでいる。

 

「後継のこと考えてみろ。『恐怖』はアタシとおまるんで、『未知』はトワ様とちょこさん。『羨望』に至っては、2席空白だ」

「にぇえさん、継承についてはどうなったんでしょうか」

「ん。スバルの呪いは話し合った結果、継承しない事を本人合意で決定した。あくあは裏切ってたから、継承したとしても叛逆者の誰かだろうにぇ」

 

 呪いは所有する者の意思によって、死亡後、任意の対象1人に継承することが可能だ。

 この性質を知る者は、極一部の者のみだが。

 

「ルイの呪いは……十中八九あやめちゃんに継承されただろにぇ」

「叡智の書は、どう見ます?」

「あいつは継承のことも知ってる。間違い無く誰かに力を譲渡したはずだ」

「早めに継承先の奴を見つけねェとだな」

 

 各呪いの継承先を推察し、一同は各々の見解を口にする。

 ぼたんの背後でポルカとルーナが身を寄せ合っていた。

 

「『羨望』の席は、誰を配置すんだ?」

「こよりはどう思う?」

「インターン生はラミィちゃん以外呪いを持ってないですし……ラミィちゃんが妥当かと」

「そうだにぇ」

 

 そう。

 インターン生はラミィを除き、全員が呪いを持たない一般人。

 神の一団の呪いの継承先候補として育成していたのだ。

 

 だからこそ、ルーナがバリアを発動した時、ポルカは心底驚いた。

 呪いなんて持たないはずのルーナが、魔術的な力を扱うものだから。

 

「ルーナ、ちょっと失礼するぞ」

「ふな……ぁっ……」

 

 ルーナの服を捲ったりして刻印の有無を確認する。

 上半身と足は隈なく調べるが、どこにも刻印は浮かんでいない。

 ルーナの全身を触診するポルカを、ぼたんが羨ましそうに見つめる。

 

 触診を終えると突然ポルカが顔を向けたので、慌てて視線を逸らす。

 

「なあ、ししろ。本当にアタシなんかが後継でいいのかよ」

「ああ、おまるんがいい。つーか、おまるん以外はゼッテェ入れねェ」

「ししろが死んだ時ならまだしも、すいちゃんが居なくなって、呪いの継承もされてねェのに……アタシなんかじゃ務まんねェよ……」

「そこんとこは心配すんなッて、アタシが全力で護ッから!」

「いや……それは寧ろダメだろ」

 

 ポルカの憂慮に満面の笑みで答えるが、ポルカは自身の心配などしていない。

 自分がその役職に就くことで迷惑を掛けると考えているのだ。これはただの杞憂では無い。

 だがぼたんは意に介さず、ポルカの入隊を強行した。

 

「よし、なら宿舎に戻ろう。アタシが稽古でもつけてやるよ」

「いいよ、そんな気分じゃねェし」

「遠慮すんな。てか断るな。上司の命令だぞ」

「はァ〜……こんな時に呑気に……」

 

 仲間が数名死んで間も無くだが、通常運転なぼたんにこよりが頭を抱えた。

 額に当てた右手の甲にメガホンの刻印がある。

 その手をズラしてベンゼン環を模したヘアピンを外し、キツく締めたネクタイも外す。前髪がチロッと垂れた。

 白衣を脱いで身軽になると、衣類をみこに手渡した。

 

「じゃあぼたん。上司であるみこからの命令。オメェ、『暫く外出禁止』な」

「ッ――んあァ⁉︎ 何でだよ!」

 

 権力を盾にするぼたんへ更なる権力で攻撃するみこ。

 ぼたんは鋭い牙を剥いて反抗した。

 

「何でも何もオメェ、義翼を襲った後連絡もよこさずに、何してたんだよ」

「そッ……それはッ……つ、捕まってたからシャーネェだろうが」

「じゃあ何でそれをスバルが知らにぇんだよ」

「だってよォ!」

「ちゅば…………」

 

 一概にぼたんのミスとは言えないが、過去の行い等も鑑みれば仕方の無いことだ。

 ぼたんはめげずに反抗するが、スバルの名前が再び話題に上がり、ルーナが過剰に反応して泣き出してしまう。

 ポルカが頭を撫でてあやしている。

 

 ルーナの泣き声で周囲は静まり返った。

 結果ぼたんの反抗も止み、流れる様にぼたんの外出禁止が決まる。

 

「トワちゃん、大丈夫?」

「ァ……ォん……」

 

 そらの問いかけに微かな呼吸音で返答した。

 覇気も威厳も、正気すらも感じない。

 

「トワ」

「……んァ?」

「生きてりャァきっといい事がある。当然悲しいこともある。今は休め。オメェがいねェと、みこたちはやってけねェんだ」

「あ、ァ……」

 

 身体を揺さぶって言い聞かせる。

 トワの紫色のツインテールがユサユサと揺れた。

 琥珀の瞳を見つめるが、煤けた様な色をしている。

 最終的には頷くが、空返事の様に見える。

 

「暫くはインターン宿舎を拠点にするにぇ。一先ず全員宿舎前へ送るから、そらちゃん、こより、頼むにぇ」

「うん」「はい」

 

 ルーナやトワの容態も考慮し、今回の会議はここまでとした。

 幾つか話すべき事は残っているが、また別日にそらとこよりを呼んで開く事にする。

 今は一先ず、全員休むべきだ。

 体も心もボロボロに疲弊しているのだから。

 

 みこは転移の準備を始めた。

 10秒足らずで終わった。

 

「じゃあ送るよ」

 

 みこが両手をパチンと鳴らした。

 刹那後――室内にはみこだけが残っていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 天界を後にし、地中へと潜った叛逆者一行。

 土で覆われた薄暗い空間に生還した8人が集まる。

 

「シオンちゃんとミオちゃんは早めに手当した方が良さそうぺこな」

 

 全員の容態を確認してぺこらは怪我の度合いから順位づけした。

 でもきっと、ほぼ無傷でもシオンを最優先にしていた。

 土一色の部屋を出て、どこかから簡易的な医療キットを持ってくるとにこにこしてシオンの手当を始めた。

 そのキットを借りてフブキがミオの手当てをする。

 

「ここに居ない人たちは、もう……ダメ、なのかな」

「「「「…………」」」」「――――」

 

 おかゆの溢した疑問に皆口を噤んだ。

 処置の手が止まる。

 

 覚悟はしていた。だがいざ現実になると……心が保たない。

 シオンとはじめは涙を流していた。

 

「いろはさん、クロヱさん……奏ちゃんは……確認したよ」

 

 フブキが消毒液をミオの肩に吹き掛けるとミオが小さく喉を鳴らした。

 汚れをガーゼに染み込ませる様に拭く。

 

「あくたんとらでんちゃんは、ぺこーらが確認した」

 

 ぺこらはシオンの服を捲って腹に包帯を巻き始めた。

 

「……これから、どうすれば……いいのかな」

「叛逆って……意味、あるのかな……」

 

 今回の結末を受けて、迷いが生まれる者たち。

 かなたに誘われて叛逆を軽々しく決意したが、これだけ仲間が死んで尚進み続ける事に意味を見出せない。

 この世界は確かにおかしい。だから神に逆らう。

 でもその神に――傷一つ与えられず、フレアの援助があってやっと生き延びたのだ。

 再度神へ立ち向かっても、成果が上がるとは思えない。

 

 頼りだったらでんとあくあが死んだのだから尚更。

 

「おかゆちゃん、ころねちゃん」

「「うん?」」

「マリンさんと出会った場所、分かる?」

「え……」

「……うん、わがるけど」

「そこ、案内して」

 

 シオンの包帯を巻き終え背後から傷へ配慮しつつ、優しく包容すると3番目に深傷なはじめを手招きした。

 はじめが泣きながらぺこらに背を向ける。

 

「いいけど、どうして?」

「マリンさんは多分、そこに居る。マリンさんとシオンちゃんに、見てもらうものがあるぺこ」

「――見て、もらうもの?」

 

 こくりと首肯する。

 はじめの服を捲って背中の傷の手当てを始めた。

 

「いたゃい!」

「ああ、ごめん」

 

 はじめの涙が数瞬だけ痛みで途切れた。

 

「あくたんと、かなたちゃんに関する記憶ぺこ」

「――!」

 

 シオンの肩が跳ねて一瞬涙が止まった。

 記憶、と言う単語にフブキとミオは聞き覚えがあった。

 魂を戻す方法を聞いた時、記憶を入れ替える云々と言っていた。その時上がった名前は確か――

 

「『メモリア』火威青……」

「知ってるぺこか?」

「以前、らでんさんから、ちらっと……」

 

 ミオの肩に包帯を巻いて簡易的に腕を吊るし、処置は完了。

 フブキはアキロゼの手当てに移行した。

 

「マリンさんを連れて、『メモリア』のとこへ行きたいぺこ」

「うん、分かった。僕たちが案内するよ」

「シオンちゃんも、一緒に行こうぺこな」

「――、――」

 

 言葉は発さないが、シオンは首肯して涙を払った。

 

「アキロゼは、行った方がいい?」

「用があるのはシオンちゃんとマリンさん、案内役の2人だから、他は来ても来なくても、って感じぺこな」

「そっか、ならアキロゼは休ませてもらうよ。頭痛が酷いから」

 

 ぺこら以外は頭痛程度で、と内心ぼやいた。

 だがらでんの力の異常さを体感すれば、そんな事も言えなくなる。

 残念ながらそんな機会は二度と来ないが。

 

「フブキ、どうする?」

「行くよ、勿論」

 

 アキロゼの肩の銃撃痕に両側からガーゼを貼ると、フブキはいそいそとミオの隣へ。

 

「はじめちゃんには、後で報酬金を――」

「いりまちぇん」

「……大金ぺこだよ。その為に参加したんでしょ」

「んーん……いらないち、貰えないでつ」

 

 ぺこらは優しく包帯を巻く。

 所が、完全に巻き終える前に包帯が切れた。もう在庫もない。

 ガーゼ等で適度に傷を覆いつつ応急処置をする。

 

 ひっくひっくと肩を跳ねさせるので、処置がし辛い。

 

「自分だきゃ逃げて……大金つぇちめて帰るのは……はじめには……できまちぇん……」

 

 口籠もりながら落涙する。

 ぺこらは「そうぺこか」と小さく答えて、話を切った。

 

 大金欲しさに軽々しく挑んでいい戦いではなかった。

 はじめは自分のクズさに落胆した。

 いろはとクロヱが自ら囮を選んでいたのだとしても、尻尾巻いて逃げることしかできない奴が、何故2人の功績を奪えるだろうか。

 

「ごめんなちぁい……はじめ…………家に帰りまつ」

「……うん。助っ人に来てくれて、ありがとぺこな」

「…………」

 

 はじめはもっと落胆した。

 自分はクズ以下の人間だ。

 

「いつ出発する?」

「明日。今日はみんな疲れてるぺこでしょ。こんな場所だけど、しっかり休んで」

 

 別室に幾つかベッドが備え付けてあるらしいので、地べたで寝る必要はない。

 今更だが、この地下空間は一体何なのだろう?

 かなたも使っていたが……何者かの呪いの力だろうか。

 

「ぺこらちゃん、ご飯はないの?」

「えっ……えっと……」

 

 ころねがお腹を片手で押さえて態と涎を垂らした。

 ぺこらが困惑して周囲を見渡す。

 土しかない。

 土を食べてもらうか……。

 

「ちょーーーっと待ってて」

 

 ぺこらがとある壁際に駆け寄る。

 皆の視線が揺れるニンジンに向いた。

 あれは食べていいものだろうか?

 

 こんこんこん、と軽く土壁をノックした。

 

「ごはんとか、ある?」

 

 壁の奥へ耳と口を寄せて尋ねる。

 

「……うさぎ鍋にしたろか〜?」

「黙れてめぇ‼︎ ジンギスカンにすっぞ‼︎」

「あっはははは……ご飯ね〜、買って来る〜」

 

 がたがたがたがたがた……と地震が起きた。

 何者かが地中を移動したようだ。

 

「……誰?」

「大地の支配人。この物件の大家さんぺこ」

「……?」

「まあ、しばらく待ってて。いずれ戻って来るはずぺこだから」

 

 

 1時間後、土壁から放り出されたコンビニ弁当たちを一同はありがたく頂戴し、早々に眠りについた――。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 眩い朝日が正面の水平線から顔を覗かせている。

 まだ少し冷たい潮風を全身に浴びると、肌や髪がベタついて気持ちが悪い。

 

「ここが海だよ」

 

 血の気の失せた真っ青な寝顔に視線を落とし――百鬼あやめは微笑んだ。

 胸中に抱えるルイの身体は死後硬直で完全に冷え切り、固まっている。

 間も無く腐敗が始まるだろうから、火葬か埋葬かすべきである。

 

「――――」

 

 呪いの影響で家から出られないルイは、本を読んで海という存在を知った。

 大地も雲地も見飽きて、いつか海を見てみたいと思った。

 だから、共に一生涯で海を見る事が、夢になっていた。

 

 ――夢は叶わなかった。

 

 それも全て、星街すいせいのせいだ。

 

 ルイを殺したすいせいを、あやめは一生赦しはしない。

 報復だって考えた。

 だが……兎田ぺこらに破れ、トロイア崩壊に巻き込まれたらしい。

 彼女が死んだのなら……あやめは叛逆者に加担する理由などない。

 だが今更……神の一団に戻ろうとも思わない。

 

「帰ろっか」

 

 ――――。

 

「ね」

 

 潮風を背後に感じながら、ルイを連れて捨てた我が家へと帰っていった。

 

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