日の下へ出て僅か数十分。
3人は避けて通れぬ森へ入り、再度、常闇トワと出逢ってしまった。
「おゥおゥ、1人だけかと思ったら全員生きとるやんけ。とんだ失態だわ」
奏の視線からその他の存在を察知し位置をずらせば、殺し損ねたもう2人まで視界に入る。
あの時確実に死は見届けた。
それを覆せる者が居るとすれば、秩序破りのあの堕天使。
「うっ……」
「ぃ……」
トワの放つ殺気に当てられ、正気を保てないほど恐怖で身体が竦む。
全身の毛が逆立つ。
「『義翼の堕天使』だなァ?」
死者蘇生と言う偉業を成せるのは、この世でただ一人彼女だけ。
「死んだかと思ってたが……そうか、生きてたか」
トワが腕を、首を鳴らす。
紫のツインテールが振れた。
琥珀寄りな翠の瞳が鋭く敵を捕らえ、電撃閃光のように煌めく。
当時の記憶は曖昧だが、何となく雷に打たれた事は分かった。
そしてそれが今、間近に迫っている事も。
人間業でいなせる相手ではない。
ゴロゴロ……ゴロゴロ……と、天が唸る。
樹々で目視し辛いが、晴天だった空も淀み始めた。
ぱきっ……と後退りしたフブキが枝を踏み折った瞬間――
――来る!
「――――‼︎」
ピリリリリリリッ。
「「「――――」」」
ピリリリリリリッ。
「…………」
ピリリリリリリッ。
装飾のない携帯の着信音。
フブキとミオは携帯など所持していない。
奏かトワだが、恐らくこれは……。
「……チッ」
咄々と怒りを表し、携帯を取り出したのはトワ。
画面に映る名前を確認して通話に出る。
ピリリリ――
「あー。どした?」
敵の前でも若干に上がる声。
して尚、和らぐことの無い恐怖。
「おん……おん。えェ? 今……仕事中なんやけど?」
チラリと一瞥され、肩が跳ねる。
(逃げるなら今逃げるなら今逃げるなら今――)
フブキとミオの脳内には、同じ言葉が延々と巡る。
だが身体が動かない。
それに――奏はトワとの距離が近すぎる。
2人が離脱できても、奏は捕まる。
冷静に考えればそう行き着くが、そもそも2人は冷静では無い。
そんな思考も浮かばぬまま、ただ恐怖と葛藤し、敗北していた。
全身から伝う冷や汗が気色悪い。
「いや休み……やけど! 仕事の延長」
通話相手の声は微塵も聞こえない。
奏は大きく息を飲む。
「ェ、今?」
もう一度、3人に視線を飛ばす。
「分かった。でもその前に仕事だけ済ませてから……。は? 何で」
少し口論になっている。
「どうせすぐ終わるんだし」
問答を繰り返すも、どうやらトワは押され気味。
少々焦れているが、半分程度聞き分けている辺りを見るに、相手は上司か同僚の線が濃い。
「――あァァ、分かった分かった‼︎ すぐ向かう」
髪を乱しながら乱暴に答え、携帯を仕舞った。
「……運が良かったな。いや――コレから先も追われるとなると、運が悪いと言うべきか」
トワは草木を掻き分けて森の外へ向かった。
「ぁ……ぅ……っ、はぁ……」
九死に一生を得た3人。
フブキとミオは高鳴る鼓動を抑えようと喘ぐように呼吸し、無駄に心臓に手を当てていた。
「危うくまた命落とすとこだった……」
今度死ねば、もうかなたは助けてくれない。
あれは偶然、側にかなたがいただけの奇跡なのだから。
「流石にもう……次はないよね」
フブキは己に急接近する死を体感し、身震いした。
どこから刃物や雷が飛んできても、不思議の無い状況と化している。
今の緊急招集が1秒でも遅れていれば、誰かしら死んでいた。
フブキもミオも、生きた心地がしなかった。
「奏ちゃんは大丈夫?」
「はい、何もされなかったので……」
抑制された美しい声は、案外冷静であった。
あははと笑い飛ばすように苦笑し、奏は少しだけ髪に触れる。
「……歩けそうですか?」
リュックを背負い直して、奏は前方を確認すると同時に2人に尋ねた。
疲労はどっと押し寄せたが、今の危機感が2人を焦らせる。
故に先より、やる気と根気が増した。
「うん、ウチはいけるよ。フブキは?」
「私も問題ないよ」
2人は気張って奏の後に続いた。
その後は大きな事件も無く、ただ森を抜け、山を越えて。
半日間――約13時間に及ぶ徒歩での片道旅を終え、3人はとある大木に辿り着いた。
森が切り開かれた小区間に一つの巨大樹が聳え立つ。
奏は明らかにそこへ向かってゆくし、その大木には扉やベランダ等の人工物で装飾、改造がなされている。
ツリーハウスと言うやつか。
夜間に灯るイルミネーションも相俟って、実にオシャレだ。
「わぁ…………」
巨大樹の荘厳な佇まいに開いた口が塞がらない。
ぽかんと口を開いて巨大樹を見上げながら、切り開かれた土地を踏歩く。
徐々に首の角度が上がり、苦しくなると漸く正面を向いた。
すると目前に奏の金髪があったので、フブキは驚いて右側へ避けてしまい、蹌踉めいた。
倒れかけたフブキの肩をミオが手を添えるように支える。
「奏ちゃん、ここは……」
「フブキさんとミオさんを直す当てです」
住めば都といえど、辺境地もいい所だ。
だがやっぱり、壮大な一本樹のインパクトが強すぎて、感想一つ口から出てこない。
一体どんな風変わりな者が住んでいるのだろうか?
扉との距離が近付いたので、奏はちらりと振り返り2人に確認を取る。
行くぞ、と。
朱い瞳はやはり怖さの欠片もない。
2人は並んで小さく顎を引いた。
刻々と扉が迫り、無駄な緊張が走る。
フブキの身体の星印が印象的な尻尾が小さく揺れた。
ミオの身体の垂らしていた尻尾がふらっと揺れた。
奏はスムーズな動きで門前に立ち、ノックしようと拳を上げた――
かちゃ――きぃ……。
「――君たちが……!」
独りでに扉が開いたが、奏は淑やかに一歩引いて衝突を避けた。
はらりと舞う金髪が月光と電灯の照明を乱暴に反射させる。
それは奏の髪だ。
現れた女性は奏の背後に立つ2人を目に、ほんの数瞬だけ瞳孔を広げた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
すぐ様表情筋を緩ませた。
2人はまたしても、開いた口が塞がらない。
今度は奏も呆けた面をして。
「フブキちゃんとミオちゃんでしょ? 疲れてるなら上がりなよ」
あらゆる事象を見聞するように悟った微笑みで出迎える女性。
初対面でこうも希望と不安を掻き立てる存在がいるものだろうか?
三度装飾のない言葉を前にして、この人なら或いは、と2人の心を燻らせるのだから、奏の思惑も今なら計り知れる。
「あの……どうして名前を?」
「調律師さんも人が悪いね」
「あの……ちょ、調律?」
ミオの質問に答えるようではぐらかす。
奏を一瞥し、長い黒髪を振り回すと扉を開けたまま室内へと消えて行く。
2人を置き去りにして奏も後に続いたので、数秒だけ間を置いて、フブキとミオも警戒心を高めてお邪魔した。
「ちょっと待ってて」
女性はキッチンでごそごそと30秒ほど作業すると、お盆にマグカップを4つ乗せて戻ってきた。
「はいどうぞ」
ソファや椅子に腰を掛けさせ、その前にマグカップを配置した。
名の知らない花の香りが鼻腔を擽る。
ドリンクでは無く、女性から。
「ど、どうも……」
目前に置かれたマグカップからは弱々しい湯気が漂う。
沸かしてから数分経っているが、冷め切っていない。
見事な温度調節だ。
中を覗くとホットミルクにミオの顔が浮かび上がる。
ホットミルクがホットドリンクの中で最も好きだ。
偶然とは言え、全身がほっこりする。
長時間の旅だったが、夜間はとても冷えた為グッドチョイスと言える。
「ありがとうございます〜」
奏は迷わずカップを手に取り、口元に当てると半分ほどを一気に流し込む。
口周りに薄茶色い液体が付着した。
「……」
それを見て、フブキは持ち上げたマグカップを置き直した。
隣をチラリと見ると、ミオは既に飲んでいたが……やけに芳醇な香りが漂う。
明らかにミルクの香りではない。
フブキの不審がる視線を察知して、ミオは慌ててカップから口を離す。
気分的には自分に見つめられているので、なんだかむず痒い。
「変な物は入れてないよ。気にせず飲んで」
フブキの心境を汲んだ女性にそう薦められた。
奇妙な女性だ。
奏はともかく、何故フブキとミオの好物まで知っている。
「あの……あなたは、何なんですか?」
「何っ、て……失礼だなぁ……人だよ」
「いや、そうじゃなくて」
「ん?」
分からない筈がない。
敢えて惚けて見せる意味がわからない。
「何者なんですか?」
「ただの逸れ者だよ」
「はぐれもの?」
「そう、逸れ者」
除け者にされるだけの不気味さはあるし、実際辺境の地に一人暮らしだが、それはフブキの求める解答ではない。
相手方の思考を承知の上で答えるのだから悪質だ。
「……」
暈した質問ばかりでは進展しないと踏み、フブキは意を決して直球勝負に出る。
「あの、どうして私たちの好きな物が分かるんですか?」
ミオの好きな紅茶とフブキの好きなホットミルクの提供。
恐らく奏はココアだろう。
それだけではない。
好物を見事に的中させた上に、それを本人に提供できている。
簡略化すると、女性はフブキとミオの好物に加え、2人の中身が入れ替わったことを認知している。
かなたの知り合いとは思えない。
奏が他人と連絡を取る素振りも時間もなかった。
「それは神託に依るもの」
「ぇ……御神託?」
「そう、神託だよ。神様の御告げみたいなものさ」
神は全てを見ている。
と常日頃から教え込まれた。
その神が監視して情報を与えたのか?
ならば女性は神託者だと言うのか?
「ずずっ……おかわりください」
「遠慮無いんか。ちょいと待ちんさいね」
奔放な奏の態度に一瞬女性の態度が砕ける。
ココアのおかわりはしばらくお預け。
不貞腐れた奏は、かなた宅?同様に物色を始めた。
「まあいいじゃないか私の事なんて。瑣末な話でございますよ」
女性は2人の対面に勢いよく座した。
ミオは姿勢と身嗜みを正し、尻尾とお尻の位置を整える。フブキの尻尾の星印がちらりと視界に映り込む。
……フブキの尻尾はかわいいなぁ。
「2人は私を求めて来たんだよね?」
「え……はい、まあその……奏ちゃんに紹介されたので」
「一応、要件を聞こうか?」
テーブルに肘をついて、組んだ手の上に顎を乗せる。
あらゆる内心を見透かす碧い瞳の光沢に当てられ、フブキも姿勢を正した。
ミオの尻尾がふとももに巻き付いていて少々座り難い。
「っ――私たち、実は魂が入れ替わってしまっていて」
「うん」
「元に戻す術をご存知ないでしょうか?」
「世界は広く、知識は膨大だからね、きっと有るさ」
「――それは、ご存知無いと解釈していいんでしょうか?」
「そうだね。今は未だ知らない」
「――――」
嘲るような言い回しにフブキは僅かに眉を曲げた。
室内を彷徨く奏にも、少々怒りを覚え始めてしまう。
「君たちは、直す術を私から得たとして、その後はどうするのかな?」
「――勿論その術を実践するまでです」
「君も?」
「はい」
面接のような試す物言いにも感情が幾つか湧き上がるが、抑えた。
テーブルの下で見えないように、フブキは手をぐちゃぐちゃと組み合わせていた。無意識的に。
「成程意思は固いようだね。なら私も相応の知恵を絞るとしようか」
女性は徐に瞼を閉ざし、深呼吸する。
僅か1秒後――
「直す術は大きく分けて3つある」
「――! 有るんですか⁉︎」
「有るね。直すと表現すると語弊のある手段も含まれるけれど、まあ似たような物さ」
一々面倒臭い表現を交えるが、焦れずに耐える。
神事で養われた忍耐力が役に立って嬉しい限りだ。
「さて、では商談へ移ろうか」
「――??」
「私の持つ知識は私のものであり、君たちがそれを欲している。遠路遥々訪れてくれた所すまないが、当然私も相応の対価を要求する。分かるね?」
「……お金はありません」
「対価は金銭のみに留まらない。これでも私は知識が豊富だからね。万物の鑑定は得意なのさ」
「物々交換、って事?」
「明察だ」
女性は長髪を掻き上げて自慢気味に口角を上げた。
続けて例えば、と前置きし、フブキの身体が纏う衣服を指差した。
「私に技量があるかを度外視するならば、その服を上手く捌けば4000円の価値にはなるんじゃないかな?」
フブキの身体が身につけた服は至って普通の私服。
ミオの服だってそうだ。
他人の服の中古品を4000円で捌けるだろうか?
オークションでも難しそうだ。
大きく見積もってくれるなら願っても無い話だが、流石にこの先を上裸で進みたくはない。
「ごめんなさい、服もちょっと……」
「例だよ、例。身包み剥がせろってんじゃないさ」
女性は組んだ手を崩してゆるゆると振るう。
冗談めかして。
「何か持ってないの?」
「私たちは何も……」
フブキは視線を流して奏を見た。
合わせて女性とミオも。
その視線に鋭く反応した奏が、本棚から抜き取った本を慌てて戻す。
「何⁉︎」
「はぁ……話聞いてなかった?」
「うん、何も」
「あんたが連れてきたんじゃろうに」
他人事みたいに2人を放って奏は泥棒か、と女性は呆れた。
「声楽調律師。あんたのことも知っとーけん」
「――――」
「「――――?」」
またあの単語だ。調律師。
奏の呼称だと思われるが、今度は『声楽調律師』と呼んだ。
異名だろうか?
「あんたが2人に助力する訳も大方予想はつくけんね」
「――――」
口外されたくないなら下手な真似はよせと。
奏は渋々女性の隣に腰掛けた。
「それで、あんたは何持っとん?」
「ん?」
「らでんの……んっん、私の情報には対価がいる話は知ってるでしょ」
「そうだったかもー」
女性がノリで口にしてしまった名前は、自身の名だろうか。
ならば彼女は、らでんと言うのか。
「で、今何持っとる?」
「こんなもん」
らでんの催促にもマイペースな動きで答える。
背負っていたリュックを下ろして中身をテーブルに広げた。
リコーダー、ハーモニカ、筆箱、ふやけたノート、ふやけた楽譜、タオル、ちり紙、ハンカチ、枯れた水筒、綺麗なビー玉が幾つか、小さな財布。
どれもこれも大したものではない。
「何ちゅうもんかるうて来とんの」
「かるう?」
「――でもリコーダーとハーモニカは、高く捌けそうじゃねぇ?」
らでんはにやにやと不吉な微笑を浮かべる。
口元を右手で隠すなど表現を徹底しているが、奏はやはり動じない。
「そうかな〜。でもごめんなさい。楽器だけは渡せません」
と言うより、らでんの意図を計り知れていなかった。
序でにフブキも無理解を示していた。
「はあ……つまらんなぁ。あんたはもうちょい女性としての魅力を自覚しんさいな」
「――?」
「――うん、まあ大体把握した。これが君たちの資産だね」
らでんは揶揄う事を諦め、話題を元に戻す。
漸く話が進む、と2人はもう一度姿勢を正した。
「では2人に質問だが、最も望ましい手段を選んでほしい」
「え?」
「手段は3つあると言っただろう? 情報一つに相応の価値があるのだから、3つ欲すれば必要額はその分跳ね上がる」
「……」
フブキは難しい顔をしてみたが、感情で訴えてもらでんは靡かない。
「どんな手段がお望みかな?」
「……なら最も、安全な手段を。それでいいよね、ミオ?」
「うん」
横目でミオにアイコンタクトを取ると、丁寧に頷いてくれた。
「安全、か。いいけどここで言う安全は、計算可能な危険が最も少ない事を言うよ。例えば計算外の敵が道中に現れたとしても、それは私の責任から離れる」
「それでいいです」
最も分かり易い例が、トワだ。
彼女は神出鬼没で、何時何処から現れるかが不明。
よって彼女を避けるルートが選べなかったとしても、らでんは一切の責任を追わないと言う意味だ。
「ならば値段は2500円で手を打とうか」
「2500円……」
一同は奏の散乱させた所持品を見つめる。
2500円なら活路も見出せそうだが……。
「奏ちゃん、お財布いくら入ってる?」
「えー、待ってくださいね〜」
小さな財布をひっくり返すと、からからん、と小銭が数枚落下する。
ぐわんぐわんと回転しながら照明を反射し、軈て停止した。
「324円」
とてもキリの悪い端金しかなかった。
「硬貨を値踏みする必要はないよね」
ご尤もでございます。
「因みにこのお財布は?」
「1100円」
財布ごと渡して1423円。残りは1077円。
雨に濡れてふやけたノートと楽譜はほぼゴミなので、選択肢から除外。
ビー玉も高くはなさそうだ。
残る希望は水筒と筆箱か。
「ビー玉じゃあダメ?」
絞った結果今の所持品になったのなら、どれも手放したくはない。
複数個あるビー玉を持つ理由は謎だが、まず不要だ。
「アンフェアな取引は好きじゃないんだ」
あっさり断られた。
そりゃあそうだ。
と言うか、そもそも何故奏の私物を対価に差し出す事になっているんだ?
フブキとミオが買う情報だろう?
「仕方ないですねぇ……お財布と、筆箱でどうですか?」
「中身も含める?」
「はい」
奏は結局愚痴一つ言わず、物々交換の交渉を続けた。
その結果――。
「少々見劣りする品だが……ま、丁度筆記用具の在庫が切れる所だったし、それで手を打とうか」
僅かな現金の入った財布、そして筆箱を差し出す事で、何故か交渉が成立する。
らでんはこの品を2500円の価値と見るのか。
「交渉成立だ。それでは情報を開示しようか」
「「――――」」
待ち望んだ治療法。
それが今伝授される。
「ここから西に進めば、いずれとある街に辿り着く。そこに火威青と言う『メモリア』がいる。彼女を訪ねなさい」
「めもりあ?」
「おっと、その名の由来に関しては、別途料金がかかるから、踏み込まない事を薦める」
「う……」
疑問を繰り出せば金がかかる。
なんて厄介。
フブキは憎たらしげに頰を張る。
「分かりました。じゃあそれは聞きません。けど、何でその人を訪ねれば直るのかくらい、教えて下さい」
「うーん……」
「「「――――」」」
「っ、やれやれ、仕方が無いな」
初めて情への訴えが効果を発揮した。
僅かながらに惜しい物を提供した奏も、今回ばかりはフブキたちに味方している。
「彼女の特別な力で、君たちの記憶をひっくり返すのさ」
「「――??? あの、意味がわかりません」」
「今、フブキちゃんの身体の中にミオちゃんの魂が入っているだろう? 記憶は魂に付随するようだからね。お互いの記憶を入れ替える――要は2人の頭を入れ替えるんだ」
「――やっぱりイマイチ理解できません」
「ウチもです」
「奏もー」
特殊な力、と言う時点で話は難解だ。
記憶をどうこうと言われれば、余計に混乱する。
「例えば私と奏ちゃんがいるだろう?」
「いますねぇ」
「私の記憶――つまり意識を奏ちゃんと交換すれば、ある意味私は奏ちゃんの中にいる事となる。正確には、奏ちゃんが自分を『儒烏風亭らでん』だと認識する訳だね」
「うーん……うーん…………」
必死に頭を回して納得を試みるが、キャパシティオーバーしそうで脳が停止しかける。
だがまあ……ある程度は噛み砕けたかも。
「君たちの様な事例だからこそ通用する裏技さ」
らでんはそう締めるが、やはり2人の理解度は低い。
互いの知識の差が、咀嚼技術の差が、明白に出ていた。
2人の無知と無能を言葉巧みに利用した風だ。
「でもそれって、ある意味解決してなく無いですか〜?」
「えっ……?」
「そうなの?」
奏が率直な疑問を浮かべた。
叡智の書――らでんには劣れど、奏も頭の回転速度と知識力はある。
2人の追いつけぬ会話を追尾し、インフォームドコンセントを徹底させる。
ただ、らでんに他人を欺く意思はない。
単に説明して満足していただけである。
「だって、記憶が入れ替わるだけで魂自体は動かないんでしょ〜? 例えば奏とらでんちゃんの記憶が入れ替わっても、奏の中には奏の魂があるまんまだし」
「そうだね。内面的な解決にはならない」
「そ、そんな――!」
「だが入れ替わった記憶を消したりすれば、何の不便も無く生活できる。それこそ以前の様に」
反発するミオにらでんは正論を返す。
事実この手段で解決しても、将来にほぼ害はない。
一部の記憶を消して、記憶を入れ替えれば、魂の入れ替わりなど知覚できない。
「で、でも困ります! 私たちは元に戻したいんです!」
「最も安全な手段をと指定したのは君たちだ」
「それは……」
「私はそれにきちんと答えた。これが最も安全に直す手段だ」
「でもこれだと――私たちは」
「納得できないなら別の知識を望むかい? その場合は当然、別途料金が発生するよ」
「そんな……!」
フブキは力強くテーブルを叩いて立ち上がる。
無知だったとは言え、騙してお金を稼ぐ様なやり口は最低だ。
湧き上がる憤りに身を任せてぶん殴りたくなった。
その無意味さが刹那の間に脳に舞い降り、癇癪は更に蓄積される。
冷静なミオに手を添えられ、怒りが少しずつ霧散してゆく。
「らでんちゃん、直せる方法全部教えて」
「「――奏ちゃん……」」
「いいけど、お駄賃は150000円だよ。一切の割引は無しだ」
「奏のものなら何でもあげる。足りなければ奏がその分を稼ぐよ」
「「――⁉︎」」
突如覚悟を決めた奏の申し出に、フブキとミオは絶句する。
らでんは表情一つ変えずに奏と視線を重ねている。
奏の紅い瞳が、初めて強い感情に燃えていた。
「分かった、そうしよう」
「待って! 幾ら何でもそこまでは頼めないよ!」
「そうだよ奏ちゃん。自分たちで何とかするから!」
毛を逆立てて、2人は必死に奏の暴動を止める。
「気にしないで下さい、奏は――」
「落ち着きなよ」
「「「……」」」
「まだ奏ちゃんを貰うなんて言ってないでしょ」
「「え……」」「…………」
先走る3人に右手を突き出して、言動の一時停止を要求した。
全員を一度着席させると、冷めたコーヒーを小さく啜る。いい音を立てて。
かちゃとカップを置くと両肘を突き、手を編む様に組んで、またあのポーズを取った。
「――――」
暫しの間沈黙の中でその態勢を貫き、じっとビー玉を見つめていた。
やがて決心した様に身を乗り出すと、透明ガラスの中に赤い結晶の入ったビー玉を掴んだ。
「アンフェアな取引は好みじゃ無いけど、これで手を打つことにするよ」
ビー玉の滑らかな光沢を見せつけて宣言した。
一瞬――最大の無理解に脳が焼かれた。
所有者である奏も、驚愕しながら落胆している。
「あ、あの――私たちが言うのも変ですけど、アンフェア過ぎじゃ……」
「そうだね、価値の比率で言えば甘く見積もって1:10だ」
それでも甘く見積もり過ぎでは?
なんて感想はもう、言葉にならなかった。
ミオは星印が見えないほど尻尾を力無く垂らす。
知識不足なだけで、今日は散々振り回された。
なのにまだ懲りないのか。
らでんは気でも狂ったのか。
「文句は無いね?」
「……いいよ」
奏は残念そうに首肯した。
儚げに視線を逃しながら。
「では残る2つの手段を享受しよう」
らでんはビー玉を丁寧にポケットに仕舞うと、再度肘を着いた。
「君たちが道中通過した山の北東の麓に小さな洞窟がある。その洞窟を進めばいずれ『冥界』とも呼ばれる地下都市に辿り着く」
「めい、かい……」
信じ難い告発に息を呑む。
神の存在があれど、冥界まで実在するとは夢にも思わなかった。
ならば恐らく、天界も実在するのだろう。
らでんは冥界に関する説明を一切省いた。
「そこにラプラス・ダークネスと言う冥界の王がいる。彼女を訪ねなさい」
「――それは、どのくらい危険ですか」
「機嫌を損ねれば死ぬ。道中で不穏分子と接触すれば死ぬ。それらを巧みに躱しても下手すれば死ぬ。死亡確率は8割と言ったところかな」
「8割……」
3人で赴けば、1人が生き残るか否か。
2人を直す以前の問題だ。
ミオがぶんぶんと首を大きく振った。
「も、もう一つは⁉︎」
望み薄な案を突っぱねる様に、フブキは最後の方法を問い糺す。
身を乗り出すフブキに合わせて、ミオも首を激しく縦に振る。
「……神様直々に直してもらう。これが最後の手段だ」
「ぁ、ぇ……」
2人の顔は絶望に満ちた。
血の気が引く様に、色が薄くなってゆく。
対して奏は、妙に嬉しそう。
「死亡確率は99%だ。私が本気で策を講じれば或いは成功するが、その場合は莫大な報酬を要求する。まあ、君たちには支払えない報酬さ」
「そんな……」
「――! おっと、すまない訂正する。2%減、死亡確率は97%のようだ」
「誤差じゃん」
ソシャゲのガチャでもあるまいに。
「参考までに聞くんだけど、神様にはどうすれば会えますかね〜」
「ここからずっと東へ行くと聖域と呼ばれる森がある。その森のほぼ中央で待機すれば、神様の気紛れによって天上への道が生まれるんだ」
フブキたちの縋った藁は、脆すぎた。
魂ごと元に戻す手段は、最早二つに一つ。
「み、みお……」
「どう、しよぅ……」
覚悟を決めて冥界へ赴くか、妥協して記憶操作で事を済ませるか、それとも全て諦めていっそこのまま人生を送るのか。
時折2人の頭にかなたが浮かぶ。
よくも下手な真似をしてくれたな、と。
しかし、命あっての物種。こんな苦難も生きるからこそであり、かなたを憎むのもまた、筋違いだ。
2人が小声で検討する中、らでんは何となく神々の動向が気になった。
なので少々詮索してみると。
「――! みんな隠れな」
「「「――⁉︎」」」
「数分後に客が来る。人相の良い客じゃない! 姿見られちゃあらでんにも庇えんけん。ほら早よう!」
先程まで賢人ぶっていたらでんが突如として焦燥に見舞われた。
3人を押し入れの方へ追いやり、無理やり押し込む。
犇き合いながら隠れると、3人は呼吸音と心拍音を極力抑え込んだ。
「はっきしゅ!」
「こら」
「だって、2人の毛が〜」
2人の密着する毛並みに鼻がむず痒くなり、奏がくしゃみを噴いた。
そんな間もらでんは慌ててマグカップを流しに配置して、新たにお湯を沸かし、ソファや押し入れ、テーブル周辺にほんのり香水を撒くなど、忙しない。
近い、近い近い――。
あの似非カップルか。こんな時に。
間も無くノックが聞こえる。
それを察知したらでんは呼吸を落ち着け、冷静に扉を開いた。
「いらっしゃい。また随分と夜遅くに来るんだね、お二人さん」
「アンタに聞いてこいってうっさいのよ、うちの神はさァ〜」
「……、……」
2人の女性がらでんを押し退けるように、遠慮なく上がり込む。
「それでデートかい? また雷霆のカミナリが落ちるよ」
2人の女性は勝手にソファに座り込む。
1人は深く、1人は小さく。
深く座った一等星の様に美しい女性が、脚を組んだ後何度も鼻を鳴らす。
もう1人の少女は覇気を最大限抑えて、らでんの視線から逃げようとしていた。
「誰がいたの?」
「――、ん?」
彼女の敏感な嗅覚で、簡単な隠蔽工作も一瞬で看破された、と思っただろう。
しかし見破られる事など想定内だ。
「態々香水で誤魔化そうとする辺り、一般人じゃないでしょ、誰?」
青髪の女性が立ち上がりかけたので、らでんは冷静に言葉を探す。
香水を撒いたのだって、誤魔化す風を装って間近にいる事を悟られない為。
現に彼女は香水で匂いの濃度が曖昧になり、隠れた3人の存在には気付けていない。
物音にも敏感だが、会話中であれば流石に小さな音も聴こえまい。
「それは秘密さ。君たちがその為に報酬を支払うのなら別だけれどね」
普段のスタンスは崩さずに、知識人らしく振る舞う。慣れっこさ。
「はっ、そんな事どうでもいいし」
女性は浮かせた腰を力強く下ろして、ソファを軋ませる。
衝撃で隣の少女の身体が跳ねた。
序でに少女の胸も跳ねる。が、当の青髪の女性は胸が無いので跳ねない。
「そうかい? なら一体何を訊ねに遥々赴いたのかな?」
焦らず、話題の切り替えが不自然にならぬ様、細心の注意を払って転換させる。
「あァ、ある3人の情報を頼む」
「ある3人ね、成程、大方察したよ」
話す直前から推測は立てていたが、案の定だった。
刻印持ちはこの世界でもまだ数多く存在するが、そのすべての情報を神がキャッチできている訳ではない。
でなければ、あの3人だって生きてはいないし、叛逆など起きようがない。
「一応、名前を聞こうか?」
「白上フブキ、大神ミオ、音乃瀬奏」
「把握した。それではその3人の何が知りたい?」
「生き還った理由と今の居場所」
隣の少女の肩に手を回して、所有権を主張する様な態度を取る。
その少女は相変わらずらでんの視線から逃げる。
「分かった、ちょいと待ちなさいな」
らでんは快諾してしまう。
押し入れで息を潜める内の2人が思わず微かな声を漏らしてしまうが、運良くバレることは無かった。
らでんは珍しく10秒ほどの時間を使用して熟考していた。
3人の情報を得る時間に見せかけて。
その僅かな時間で、客人2人はイチャついている。
――いや、思いは一方的な様だ。
「ねェあくたん、今度一緒に食事行かない?」
小さな口元に指先を当て、スッと顎先まで落とすと撫でる様に添えた。
口説くような低めの声で、恐縮する少女の瞳を捉える。
そして愉しそうな微笑を浮かべる。
「あ、あてぃしはあんまり……」
「えェ……行こうよ、ね。また変わりに仕事受けてあげるからさ」
「ん、んーん……大丈夫、だよ」
少女を口説く女性。
少女よりやや背が高く、胸が無い変わりに全体的にスラッとした体型。髪は青く、眼の中に眩い星が煌めく。
首元にチラリと赤い輝きをぶら下げている。
彼女の名は――星街すいせい。
神の遣い、恐怖担当。
もう1人の口説かれる少女。
背は低いが豊満な胸。頰が少しぷにっとしているが、肥満体型では無い。
ちょこんとした愛らしさがある。
髪は桃色に薄い水色を混同させた色。
常に何処か視線が彷徨い、人の気配に怯えている。
なので常に訥々と喋る。
そんな少女の名は――湊あくあ。
神の遣い、羨望担当。
「いい店見つけたんだって。奢るからさ、一緒に行こうよ」
「や、あてぃし、外食はちょっと……」
「社じゃデートにならないでしょ? 周りの奴がいるし、トワが煩いし」
「こ、後輩ちゃんと、い、行けば……いいんじゃ……ないかな?」
すいせいの積極的な誘いを躱そうと必死だが、一歩も引かないので困りものだ。道中も幾度と無くプロポーズと勧誘を受けた。
「お二人さん、そろそろいいかな?」
疾うに思考を纏めていたらでんは、控えめに疑問を投げかけて介入する。
あくあはちょっぴり安堵していた。
「チッ」
舌打ちを隠す素振りもなく、すいせいは顔だけらでんに向けた。
依頼人はすいせいだと言うのに。なんて傲慢な態度。
「早く教えて。アタシたちはこの後予定入ってるから」
「は、入ってない……!」
「――だそうだが?」
「今入れたんだよ、アタシが」
「そうかい、それはすまなかった」
面倒なのですいせいに合わせる。
あくあには悪いが、多少の不都合には目を瞑っていただこう。
彼女にとっては害だとしても、世間一般的には歓迎される申し出だから。
もっと、死へ直結するような未来が予想できるのなら、仲裁したが。
「本題へ入りたい所なんだが、君たちに一つ見せたいものがあったんだ」
「ァん? んなモンいいからさっさと話せよ」
「まぁそう言わず。喉から手が飛び出しちゃうと思うから」
「ハッ、だったら早く見せろ」
「ちょいと待ちなさいな」
「またかよ」
らでんは2人の死角でポケットから先ほどのビー玉を取り出して右手に握る。
そして棚の側へ行くと、中を弄って物品を探す素振りを見せつける。
丁度棚の手前にあったUSBデバイスを使用してかちゃかちゃと鳴らし、一層リアリティを出しながら――但し今度は2人が会話する暇すら与えないよう。
「あったあった」
あたかも今し方取り出した様に装い、2人の眼前で摘んで見せた。
「これだよ。君たちなら、一目で分かるだろう?」
「――どこで手に入れた」
すいせいの身体の角度が真っ直ぐらでんに向き、組んでいた足も解いた。
「情報提供の際の対価としてもらったのさ。本人はさぞ嬉しそうだった」
いい取引だった、と当時を想起する様に小さく目を閉じた。
先刻の出来事なので、記憶には新しすぎるが。
「欲しいだろう?」
「よこせ。それはあいつンだ」
すいせいがシュッと手を伸ばすが、らでんはビー玉を渡さない。
「おっと、今言ったばかりだろう? 私が交渉により得た対価だと」
「もとはこっちのモンだってんだろ」
「だとしても、一度手放した君たちが悪い。所有権は今、私にある」
「……幾らだ」
「話が早くて助かるよ」
すいせいは一度腕を引き、吊り上げた瞳で睨みつける。
隣であくあがスマホを弄っていた。神様に連絡しているのかも。
「そうだねぇ。今の君の所持金、でどうだろう?」
「ッざけんじゃねェぞゴラァ‼︎」
バゴンッ!
と豪快にテーブルを踏み破る。
木製とは言えそこそこの硬度はあるのだがな。
押し入れの奥で3人が慄いた。
「その様子だと、かなりの大金を担いできた様だね」
「黙れ。図に乗んなよテメェ。こちとら毎度金まで払って情報買ってやってんだ」
「そう言う商売だからね。私としても君たちお得意様には感謝しているさ。今後も友好的に接していきたいと考えているよ」
「ンだそりャァよォ、煽りか? ァ?」
「まさか。君を煽るほど愚かな事はない。私だって可能な限り長生きしたいからね」
「だったら寄越せ。タダでな」
恐怖担当本領の気魄で威嚇するも、らでんは平然と言葉を返す。
らでんは知識だけでは無く、それなりの頭の回転力がある。
だから自覚している。己の有用性を。
らでんが害と判定されるまでは、奴らに殺される事などない。
利が害を下回る時、初めてらでんは奴らに敵と認知される。
それまでは、多少無謀な交渉も彼女らには可能だ。
「それは出来ないね。こっちも生きるための商売だ」
自分の恐喝がここまで効力を持たない事例は初だった。
だからすいせいも諦めることができた。
「クソがッ‼︎ 足元見やがって‼︎」
半分に砕けたテーブルを蹴り飛ばして八つ当たりした。
運良く他の家具には衝突せず、壁に小さな傷を生むだけに留まる。
「す、すいちゃん、落ち着いて」
「…………」
あくあに宥められた途端、興奮が収まる。
2人がセットで訪問した理由の半分はこれか。
「ここで知識を失うのはこっちにも大損害だから、持ち金全部叩いてでも買うべきだと思う」
「でもあくたーん、この後のデートプランが――」
「あ、あてぃしがクレジットで払う、から!」
何故かあくあが大きく譲歩する羽目になった。
神の一団の中で最も温厚な存在が彼女だろう。
何事も穏便にすませたがる。
両目をぎゅぅっと瞑って必死に感情に抗う姿がまた愛らしい。
すいせいは歓喜のあまり怒りを捨て去り、あくあを抱きしめる。
「ぅ、うぎゅ……」
力強い抱擁に潰されそう。
「決まりでいいのかな?」
「――ハッ。アタシのあくたんに感謝しな」
ポイッと小さなポーチを投げ渡す。
口を開き中身を確認した。
「中に50万入ってる。上手く使えバカ」
「うん、確かに」
目視で全額は確認できないが、嘘はつくまい。
らでんはビー玉をすいせいに手渡す。
「交渉成立だ」
「よ、よかった……」
無事商談成立し、あくあはほっと胸を撫で下ろす。
同期する様に髪が萎れる。
その頭をすいせいが撫で回した。
「3人の情報はまた日を改めて訪ねに来る。準備しとけよ」
「ああ、その時は上手く交渉させてもらうよ」
「じゃあ帰ろっか、あくたーん」
「う、うん……」
挨拶もせず身勝手に退室し――かけて停止する。
「――一つ聞かせろ」
あくあの頭に手を置き、背を向けたまま尋ねた。
「お前、何で3人を庇った」
「――何の事かな?」
「惚けんな。ビー玉使って情報提供を先送りにしただろうが」
「ふむ、君はそう思ったわけだ」
「そうか……成程。妙なニオイは3人のニオイだな?」
「……相変わらずの嗅覚だね」
「直前まで居たんだろ。ソイツらが」
「さあ、どうかな? ここは辺境地だけど、意外と客は多いんだよ?」
「何を聞かれた」
鋭いすいせいの直感と5感に、らでんも翻弄され始める。
だがスタンスは絶対崩さない。
たとえ誰に何を聞かれようとも、自分の在り方は決めてある。
「すまないがそれは別途料金が必要だ。そして君たちの現在の所持金はゼロ。言いたい事は分かるね?」
「そうか、また来る」
バタンと戸を閉めて、今度こそ帰って行った。