叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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天地革命⑤

 

 ビリッ――とフブキの胸にみこの魔法が命中。

 

「――ん、ぇ⁉︎」

 

 みこの顔が奇形に歪む。

 いや……大半がそんな顔をした。

 

「……っ?――! ねえミオ! ミオ‼︎」

 

 反射的に顔を伏せて瞼を閉じていたが、何の影響も無いと分かれば再びミオの身体を揺さぶる。

 やっと涙が溢れ出した。

 蛇口を極限まで捻ったように止めどなく……

 

(魔法が効かない……⁉︎ 初耳だが⁉︎)

 

 みこが顎を外したように愕然と口を開いている。

 神の一団の動きが鈍ったこの一瞬――莉々華は大きく息を吸った。

 

「わためさん‼︎」

「ん‼︎」

 

 視覚外で予備動作も見えない状態ながら無駄のない呼応。

 莉々華の一声に連動してわためは地面を隆起させる。

 土手っ腹の傷も、脇腹と胸部の傷も、今は忍耐で痛みを押し返して。

 

 わためが壁中から飛び出すと同時に、地中から2つの影が跳ね上がる。

 

「2人は時間稼ぎを‼︎」

「「了解‼︎」」

 

 再び姿を表した莉々華は滞空中に更なる号令を発す。

 「2人」の示す対象が自身であると自覚したわためとロボ子が対敵。

 ロボ子がインターン生とちょこを、わためがみことそらをほんの数秒だけ相手取る。

 

 そして地中から飛び出た莉々華ともう1人は一切合切を無視して迅速にフブミオの元へ。

 

(――ん⁉︎ 誰だアイツ……)

 

 黒の長髪女性の走る背を見つめ、みこは胡乱げに顔を顰めた。

 

(いや――誰であれアイツが所謂――保険だな⁉︎)

 

 瞬間的に脳を整理し、標的を定める。

 体力消費は激しいが、躊躇わず死の魔法を放――ちかけたが、眼前から地面に強襲され矛を収めた。

 

「チッ――‼︎」

 

 わためが上手く時間を稼ぐ。

 

 

 ロボ子も異次元の工房からガトリングガンを引き出す。

 

「温存しててよかった――!」

 

 ずがががががががががっ――と耳を劈く轟音を響かせ、ガトリングガンを乱射。

 無防備なインターン生。

 ちょこは対処法が閃かなかった。

 だからやむを得ずルーナを盾にする策を取る。

 ポルカとまつりを強引にルーナの背後に回してバリアの影に隠し、ちょこはラミィとねねを連れて物陰に身を隠す。

 

 こちらも時間稼ぎは順調。

 

 

「フブキさん!」

「いやっ! いやだミオ‼︎」

「大丈夫ですから落ち着いてください‼︎」

「いや! いやぁっ‼︎」

 

 フブキの腕や肩に手を添えて冷静になる様促すも聞く耳を持たず、やはりミオから離れない。

 落涙して酷く錯乱していた。

 莉々華は隣の黒髪女性に目配せする。

 

「お願いします、AZKiさん」

「うん」

 

 黒髪女性――AZKiは首肯し中空に漂う魂を捕まえる。

 

「秩序の禁を破れ。世の理の超越。生老病死の淘汰」

 

 奇怪な詠唱。

 

「魂魄憑依」

 

 肉体を離れた魂が再三――ミオの肉体へと帰還する。

 

「終わった」

「ミオ! ミオぉ……! ミオ――⁉︎」

 

 泣き崩れていたフブキの耳に微かな律動が響いた。

 先まで感じなかった吐息と、胸部の僅かな上下動もある。

 

 ミオが息を吹き返していた。

 

「ミオ――!」

 

 目覚めないミオの身体を揺すると莉々華がフブキの両腕を掴んだ。

 

「AZKiさんは、かなたさんの呪いの継承者です。詳細は事が片付いた後に話します。ですからフブキさん――!」

「う、っん……」

「あなたは、みこさんの相手をお願いします」

「う……ぇ」

「準備は殆ど整っています。残る手順はミオさんとフブキさんがその手でみこさんを殺す事だけ」

「――――!」

 

 土壇場で明かされる最後のピース。

 何故2人が殺す必要があるのかは明言せず、莉々華はただ戦えと指示をする。

 AZKiがミオの体を揺すったりして覚醒を促すと「うぅ……ん」と意識を覚醒させた。

 極めて早い死からの復帰。

 死に方によって蘇生後の覚醒速度も当然変わってくる。

 みこの即死魔法は身体への負荷なく即死させる為、蘇生した際の覚醒も極めて早いのだ。

 

「ミオ!」

「ん……ぅ? フブキ?」

「――よかった」

 

 無事に蘇生が成功しフブキは真っ先に大きな安堵の吐息を溢す。

 どっと疲れが押し寄せ全身の力が抜けた。

 

 莉々華は腰を抜かすフブキと状況整理の追いつかないミオにみこと戦う様促し続ける。

 

 

 その外で――

 

 

「邪魔だよ!」

「っ――‼︎」

 

 時間稼ぎ終了のお知らせ。

 わための腹部をそらのレーザーが貫き、一部、焼きラム肉となった。

 鼻にくる臭みのある焼肉のニオイが土埃に紛れて漂う。

 

「これならどうだ!」

「――!」

 

 わための目前でピカッと眩い発光。

 そらのレーザーではなく、みこの魔術の光。

 だがその性質はレーザーと同様で、土壁さえも恐らく突破する。

 

 わためはこれ以上は時間稼ぎ不能と見て、傷口を抱えモグラの様に地面へ潜って身を隠した。

 刹那後――みこのレーザーがわための残像を貫き、奥の壁に焼き穴を開けた。

 

「――」

 

 

 インターン&ロボ子側。

 

 ルーナのバリアにゲリラ豪雨の様に襲い掛かる銃弾。

 バリアの亀裂が広まって行き、今にも破裂しそうだった。

 ロボ子はルーナを重点的に狙ったが、ルーナを盾にしながら上手く後退され、ルーナも物陰に身を潜める。

 それでも乱射をやめず威嚇を続けていた。

 

 しかし――

 

(あっちの誘惑が破れたわね)

 

 ミオへの催眠が解けた事を感知し、ちょこが物陰から姿を現す。

 銃の焦点を合わせるまでに1秒は要した。

 それが致命的。

 

「物騒な事、しないでね〜」

「っ、え⁉︎」

 

 大胆も大胆。

 ちょこは服を脱ぎ捨てて上裸――ではなく、ブラ1枚になる。

 下はきちんと履いている。

 

 胸元や腹、腋などを見せつる。

 白粉よりもやや黄色寄りな白の美肌。

 ボンッとキュッの対比が見る物全ての視線を奪い、拐かす。

 胸元の悪魔の羽を模した小さな刻印が露わになった。

 

 これこそ世界一の美女に相応しい。

 癒月ちょこは「性・愛・美」の呪を持つ――「性愛魔族」。

 

 魔性の微笑みを浮かべてちょこがロボ子に迫る。

 がっ、しゃん……と銃器を手から滑り落としてしまう。

 

「いっ‼︎――たぁーーーーーっ‼︎‼︎」

 

 落としたミニガンに右足を押し潰され悶絶した。

 意識が痛覚で塗り替えられ、ロボ子の意識が正常に戻る。

 目頭に涙を浮かべて右足を掴み、その場を跳ね回る。

 想定外の事態だが好機。

 ちょこは拳を握ってロボ子に肉薄。

 

 ロボ子はちょこの呪を危険視し、これ以上の直視は控える。

 だが間近に迫る攻撃への対処は必至。

 

「――っくぅ〜‼︎」

 

 引き行く痛みに奇声を上げながら、異次元の工房よりグレネードを取り出した。

 

「――⁉︎」

 

 ちょこは咄嗟に身を翻しその場から即刻退散。

 両者を分断する位置でグレネードは破裂し、煙幕を撒いた。

 強制的な視覚封じによって、一時的にちょこの脅威は取り去る。

 

 もう時間稼ぎは十分だろう。

 

 

 

 莉々華に諭されても、フブキとミオの首は容易に縦に振られない。

 

「今ここでさくらみこを殺す事が出来れば、呪いは消滅します」

「でも……でも――!」

「彼女は今、ミオさんを殺したんですよ。それなのにあなた達は情けをかけるって言うんですか⁉︎」

「うっ……うぐっ…………でもぉ…………‼︎」

 

 ミオを呪いで殺した。

 奏も殺した。

 あくあも殺した。

 フブキさえも殺そうとした。

 

 知っている。

 だけど…………。

 

「だってみこさんは――! 孤児だった私たちを神社で引き取って、養ってくれたんだよ‼︎」

「そんな昔話今はどうでもいいんですよ! 呪いの消滅に彼女の死は不可欠だと言いましたよね⁉︎ その上で決断したはずです‼︎ 今更泣き言なんて言ってないで、1人でも多くの命を救ってください‼︎」

「そんなっ――ひどいよ‼︎」

 

 みこがどれだけ人を殺そうと、2人にとって彼女が恩人である事は永久に不変の事実。

 大恩人の命一つと、将来呪いを発症して苦しむ名も知らぬ人々の命。

 この2つを天秤にかけて……どうしてみこを殺そうと思えるのだろうか。

 

 名も知らぬ人が死んだって……悲しくもない。

 1分1秒刻む毎に、世界では人が死んで、生まれているのだから。

 

 2人の知らない所でみこが殺されるのなら受け入れた。

 でも自分達で殺める事は絶対に出来ない。

 

「あなたたちの始まりは何だったのかを思い出してください‼︎ ミオさんが焼かれた日、神への叛逆を誓ったはずです!」

「神様は嫌い‼︎ 掟も大嫌い‼︎ でもみこさんは殺せない‼︎」

「みこさんは――神様なんかじゃない‼︎ うちたちにとっては、ただの優しい巫女さんだもん‼︎」

 

 あまりに狂信的。

 みこを殺せるか否かはこの際どうでもいい。

 ミオがみこの死を望んでいないことが、莉々華にとっては絶望的な状況。

 

(莉々華。オメェ随分と半端な体制で仕掛けてきてんじゃにぇェかよ、えェ?)

 

 みこは3人の停滞を睨み付けた。

 AZKiがその視線に気が付き庇う態勢を取ると3人も遅れて気付く。

 

(どうして――! やっぱり莉々華じゃ……足りないの⁉︎)

 

 莉々華の話術では2人を誘導できない。

 莉々華には他人を操る技能が、心眼がない。

 

(らでん……莉々華は――どうすればいい――⁉︎)

 

 視界が闇に閉ざされてゆく。

 みこはギロリと4人を睨み、素早く思考した。

 

(手詰まりだにぇ。アレは間違い無く義翼と同じ呪。存在を2人に明かした所為で益々危機感が削がれた。本当にお粗末な計画だ……莉々華)

 

「……2人にとって奏はそんな程度の存在だったんですね」

「「っ――」」

 

 莉々華は2人の傷を、トラウマを抉り始めた。

 残忍な手口だと自覚している。でも今は――最低な人間になってでも、2人に覚悟を持たせなければ。

 

「奏を殺した犯人に罰も与えず、のうのうと生きる事を赦すんですね」

「っう――」

「だったらもう、一生奏に呪われて生きていけばいいですよ」

「ぅ、ぐ……」

「奏は相当あなた達に肩入れして、親身になってくれた人なのに、結局そんな扱いなんですね」

「っ――ぐ――」

「『奏ちゃんが死んだら悲しいよ』なんて嘯いて」

「「っん――――‼︎」」

「本人が居ない今なら本心言えますよ。言ったらどうですか?」

「「っ――――‼︎‼︎」」

「死ねてよかったじゃん、って」

「んーっ――‼︎」

 

 莉々華の畳み掛けにフブキの理性が飛んだ。

 湧き上がる怒りのままに莉々華を押し倒して首元を両手で掴む、がまだ怪力を使わない。

 土壇場で踏み止まる。

 

 首を握りつぶすことは容易いが、感情に任せて莉々華を殺す事こそ真に意味の無い行為。

 莉々華の冷めた瞳が無抵抗にフブキを見上げている。

 

「怒りの矛先が私ですかええそうですか……」

「うっ――ぎぃ――‼︎」

 

 歯が砕けそうだ。

 

「こんな暴言相手に手が出るのに、殺人者相手に擁護ですか」

「んぐっ――――‼︎」

「うっ……」

 

 一瞬、莉々華の首が締まった。

 

「――奏を想う気持ちが少しでもあるのなら! せめて彼女の死に報いてやってください! でないといつか――また同じ事が起こるかもしれないんですよ⁉︎」

「うっ――ぐぅ――‼︎」

 

 フブキの両腕が力む。が、莉々華の首に圧力はかからない。

 ミオが苦悶の表情でフブキの肩を掴む。

 2人の苦痛の顔が向かい合い――苦悩の末に重たく首肯した。

 

 フブキが莉々華の腹を下り、ミオと並んでみこに向かい合う。

 

 その時初めてAZKiの死闘を目の当たりにした。

 

「お、そい……よ」

 

 全身血塗れでそらとみこの行手を阻んでいた。

 真っ赤だが無傷。

 攻撃をただ一身に食らって防ぐ、強引な防衛体制。

 かなたと違って痛覚は人並みにあるので、そろそろ限界に近かった。

 

「すみませんAZKiさん」

 

 莉々華も起き上がる。

 だがAZKiを戦場から省けない。

 申し訳ないが、もう少しAZKiには苦労をかける。

 

 

 バチバチッ――ヴンッ――

 

 

 転移魔法陣の作動音が響いた。

 莉々華の顔が強張る。

 

(今⁉︎ 間が悪いよ‼︎)

 

 様子を見つつ戦場を分断する腹積りだったが、今この場でフブキとミオを彼女と対面させられない。

 予定を繰り上げて作戦を進める。

 

「わためさん! 2人だけ中へ!」

「――ぃ!」

 

 莉々華の号令に地中から籠った声が上がる。

 すると、土壁がごごごごごっ!と競り上がり、室内を分断。

 片面にフブキ、ミオ、みこだけを取り残す。

 

「――‼︎」

 

 大きな揺れに見舞われ、皆均衡を保つ事に精一杯。

 揺れが止めば分断は完了していた。

 

 

 分断完了と同時に神の間へ飛び込む幾つもの影。

 莉々華はその中の1人、背の低い金髪少女に詰め寄る。

 

「あ、り――」

「しっ!」

 

 手を振ろうと上がる腕と、愛らしく美しい声を力尽くで封じ莉々華は金髪少女を黙らせる。

 そして小声で耳打ちした。

 

「奏は喋らないで。今2人を焚き付けるのに使ったから」

「……、……」

 

 ちょこんと飛び出た小さなサイドテールを跳ねさせて、こく、こくと頷く。

 この少女こそ今し方莉々華が話題に上げていた存在。

 トロイア戦争にて死亡した――音乃瀬奏。

 

 そんな奏を挟んで佇む女性が2人。

 インターン生とちょこ、そらがその姿を前に狼狽していた。

 

「おら。手当てしてやれ」

 

 どさっ、と気絶したシオン、マリンを地に放り投げる全身包帯巻きの女性。

 数少ない露出部であるその瞳には特有の星が輝いている。

 

「…………」

 

 並び立つトワも訝しげに莉々華とAZKiを睨みながらおかゆを放った。

 おかゆがシオンの上に乗っかる。

 

「……」

 

 ロボ子はこの場へ辿り着いた生存者を目視して顔を顰めた。

 恐らく天界に生存者はいない。

 ……おかゆの絶望的な様相からも、ころねは死んだのだと容易に想像ができた。

 

 トワと睨み合う莉々華の傍を通って、AZKiが早速3人に治療を施す。

 傷は瞬く間に癒えた。

 

「と、とわわ先輩?」

「――! ねね。みんなも」

 

 顎を震わせて声を発するねねにトワは優しく振り返った。

 インターン生の側まで歩み寄ると、トワは剣幕な表情で一同を見渡す。

 

「トワ様、一体どうなってるの」

「悪いちょこ先生、色々あった」

「色々ッて……それに……あの人、まさか……」

 

 ちょこもそらも、ミイラ女性を遠目に見て識別できたらしい。

 ……当然か。長い付き合いだ。

 

「ああ、すいちゃんだ」

「「「――‼︎‼︎」」」

 

 ルーナでさえも驚愕していた。

 一同の視線がミイラ女性――星街すいせいに集中する。

 

「……」

 

 すいせいはちらっと一瞥したが何も口にせず莉々華に向き直った。

 

「宝石は3つ集めた。あたしの、トワの、あとは宿舎のだ」

「流石です。後はタイミングを見て破壊するだけですけど……その為にシオンさんを起こしましょう」

「あ? 何で名指しなんだよ」

「我々では壊せないんですよ、宿舎の宝石は」

「――?」

 

 みこの呪の力で生成された宝石たち。

 その硬度はどの宝石もダイヤモンドに匹敵するが、特定の人間には難なく破壊する事ができる。

 それもまた一握りの人間しか知らない情報。

 何故莉々華が知っているかはさて置き、その性質を語る。

 

「すいせいさん、トワさん、あくあさんに持たせた宝石はあなた達本人にしか壊せません」

「――へえ」

「但し、その当人が死ねばその効力は失われ誰の手でも破壊できる」

「……はっ! 誘い文句の意味が漸く分かったよ。くそったれ」

 

 生死の狭間にいるすいせいを助ける代わりに手を貸せ、との契約。

 その際のセリフの意図が今初めて理解できた。

 トワとすいせいが宝石を破壊する事を拒めば、殺す他に道が無くなるのだ。

 

「トロイアと宿舎の宝石は呪いを持たない人間にのみ破壊出来る作りになってます」

「……あいつらを使った理由もそれか」

「はい」

 

 トロイア戦争で日雇い3人組を起用した理由まで明白となった。

 そして今、シオンを起こす必要がある理由も。

 

 この場で呪いを持たない者はインターン生を除けばシオンのみ。

 必然的に宝石破壊の役が回ってくる。

 

 すいせいはAZKiの治療を施されたシオンの両頬を往復ビンタした。

 シオンの頰が蜂刺されのように真っ赤に腫れるが中々目覚めない。

 すいせいが苛々し始めた。

 

 その光景を遠目に見て怪訝そうに眉を寄せるインターンとちょこ。

 ロボ子の攻撃は止んでいる。

 

「……それでトワ様、ちょこたちはどうすればいいかしら」

「どうもしなくていい。みこちらの決着を待つんだ」

「え……放っておくの?」

「ああ」

「で、でもさトワ様……こよりも…………ししろんも……」

「分かってる。でも――大丈夫だ! トワ達を信じろ!」

 

 まつりやねねといった小心者の視線が不安に揺らぐ。

 その感情を払拭するようにトワは力強く言葉を掛けた。

 すいせいとは真反対にトワは一団内でも屈指の信頼を誇る。彼女の一声でインターン生は纏まる。

 叛逆者の猛攻も一時的にだが止んでいる。ちょこも下手に争って死傷者を増やしたくはない。

 

「……分かったわ。でも状況によっては動きを変えるわよ」

「ああ。それでいい」

 

 今はただ――3人の決着を待つ!

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 土壁で隔絶された室内にて対面するフブミオとみこ。

 壁の外側も内側も僅かな静寂が広がっている。

 

「……みこさん」

 

 トロイア以来の対面。

 まともに会話をするのは神社にいた時以来だ。

 

 巫女服がヒラヒラと揺らめく。

 

「……」

 

 フブキとミオが二人して俯く。

 神を相手に隙だらけだ。

 みこの眉毛がピクリと動いた。

 

「フブキちゃん。ミオちゃん」

「「…………」」

「もう死ぬことはにぇェと思ってんだろうけどにぇ、そんなことはにぇェんだよ」

「「…………」」

 

 2人の戦意の低さをみこも危惧している。

 過去の関係を思い出すように語り掛けた。

 

「蘇生の最低条件は3つ。抜けた魂を捕まえられる事と魂を憑依させる肉体が存在している事。そして最後に死後1時間以内である事」

 

 医術の呪いとて万能ではない。

 この世に万能な物などない。

 

「2人を殺してその肉体を消し炭にするなり何なりすれば蘇生は阻止できる。そしてみこにはその力がある」

「「……」」

「分かったろ。なら、拳を握れ」

 

 右手の中に魔力を溜めて姿勢を低くする。

 だがみこの脅しにも2人は靡かなかった。

 

 ただ哀しそうにみこを見つめている。

 

「私たち……」「うちたち……」

「……」

「「みこさんは殺せない……」」

 

 みこの冷徹な視線が2人を貫く。

 それでも2人の表情は揺らがない。

 心が騒ぐ。

 

 みこは構えを解いて背筋を伸ばした。

 

「なら2人は――潔くみこに殺される、ッてんだにぇ?」

「…………その、方が」

「いい、です」

 

 涙が溢れた。

 奏には天国で謝るから……。

 どんな理由があってもみこは恩人であり、その恩人を殺す事が――2人には出来ない。

 

「そうか」

 

 みこは一度気化させた魔法の閃光を再び発す。

 右腕を真っ直ぐに正面へ翳し、手のひらから魔法を――放つ。

 

 音速で放出された魔法の接近。2人は目を閉じ手を繋ぐ。

 

 ピュンッ――――

 

「「――――ぅ?…………え?」」

 

 一瞬の強風が顔面に吹き付け、髪をぶわっと攫った。

 以降は何も感じずそれが死なのだと思った。

 ――だが違った。

 

「はァ……」

 

 みこのため息が2人をこの世界に甦らせる。

 喉を震わせ、痙攣する瞼を持ち上げると……変わらない景色の中でみこが険しい様相で佇んでいた。

 

「……ぅみ、こ……さん?」

 

 魔法を接触間近で霧散させて風に変えた。

 意図的に攻撃を外したのだ。

 淡い期待が2人の心に灯る。

 

「オメェらに……最後の説教でもしてやろうか」

「「ぇ……」」

 

 不穏と平穏の混濁した一言に戸惑いが拡大する。

 フブキとミオは握り合った手を離してみこの言葉に熱中した。

 

 みこは魔法と殺気を納め2人との日々を想起する。

 

「みこはこれでも、オメェらに愛情を持って接してきたつもりだ」

「「っ……」」

「だからそれを感じてくれてたのは……嬉しい、けどよォ……。オメェら、一体みこを何だと思ってんだ」

「「…………」」

「神様か? 恩人か? 巫女さんか? 保護者か?」

「「それは……」」

 

 みこの翡翠の相貌が悲哀に揺れる瞬間を、初めて目の当たりにし言葉に詰まる。

 

「オメェら殺すのに、みこが無感情でいられると思ってんのか」

「「…………え……?」」

「人1人殺すのに、仲間1人が死ぬ事に、どれだけ心が抉られてるのか分かってにぇェだろ」

「「…………」」

「みこにとって人を殺す事は造作もにぇェ事だ。でも人を殺すのは――簡単じゃない」

 

 矛盾して聞こえる表現が、全く矛盾せず脳内で処理される。

 言葉の節々からみこの人生の苦しみが滲み出ていた。

 

 フブキとミオには計り知れないであろう苦痛。

 でも人殺しが嫌ならば、和解の道がある。

 無知ながら2人はみこに手を差し伸べようとした。共に生きる選択肢を提示した。

 

「なら! こんな事――!」

「そう、だよ! お互い殺したくないんなら――争わなくたって――‼︎」

「それは無理だ」

「「っ――⁉︎」」

 

 不屈の意思で2人の想いは一蹴された。

 みこの悲哀は塗り潰され、また眼力が強まっている。

 

「ど……どうして!」

「そういう『運命』だからだ」

「――⁉︎⁉︎⁉︎」

「そういう『星』の下に生まれてきたからだ」

 

 ミオの腕とフブキの尻尾を見た。

 

「みこはあの日忠告したぞ。掟に逆らうとは神に逆らう事だと。それを無視してフブキちゃんはミオちゃんを助け、ミオちゃんはフブキちゃんに助けられた。今この瞬間の、みこの気も知らずに」

 

 この道を選んだのは紛れも無くフブキとミオ。

 責任は少なからず2人にもある。

 

「なのに――神がみこだと知ったら潔く殺されますってのァオメェ……あまりにも無責任だろ」

「「…………」」

 

 2人は奥歯を噛み締めた。

 顔が酷く歪む。

 

「本気でみこに感謝してて、みこを思う気持ちがあんのなら――全力で抵抗して殺されろ。少しでもみこの痛みが和らぐ様に」

 

 唇を噛むと歯が刺さって切れた。

 血が滲む。

 

「最後の説教はお終めェだ」

 

 みこの瞳が決意に染まる。

 フブキとミオは瞳に浮かぶ涙を振り払った。

 

「さァ、拳を握れ。もう手加減はしにぇェぞ」

 

 右手の中に魔力を溜めて姿勢を低くする。

 紫電が轟く。

 

 フブキの腕に、ミオの腕に血管が浮き上がった。

 

 

「叛逆を――終わらせよう」

 

 

 

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