叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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天地革命⑥

 

 これほど静かな戦場は無い。

 

 叛逆も終盤へと差し掛かり、フブミオとみこの衝突が今まさに始まろうとしている。

 だと言うのに、3人を囲う土壁の外側からは微かな物音も聞こえない。

 

 覚悟の決まらない精神的に未熟な2人に対し、みこはとうの昔に覚悟を決めている。

 一時揺らいだその決意も仲間の死を――大切な者の喪失を重ねる毎に確固たる物へと近付いた。

 これ以上みこが攻めあぐねていても進展は無い。

 2人への惜別の念を心の奥底に幽閉し……ただ任務を遂行する無感情な兵隊になる。

 

 思考を改めた。

 

 フブキに死の魔法が効かず、決定打に欠ける今――体力消費の激しい死の魔法を放つことは出来ない。

 2人から仕掛ける事はないだろうから、ジックリと策を練る事ができる。

 

 みこは2人の死を思い返す。

 1度目の死。それはトワの落雷によるもの。

 そして復活はかなたの医術の呪いによるもの。

 

 これらより、呪い全てを無効化する性質は無いと推察。

 ならばトワの呪い同様に電撃で沈める。

 

(最も合理的、だよにぇ?)

 

 自分の発想の可否を問うが答えてくれる子はもういない。

 感情が怨念の様に心から這い出てくる。

 精神が苦しい。

 

 頭を一振りして背にかかる長髪を揺らすとアホ毛がピョコンと振れた。

 一考する風に目を閉じて――開く。

 獲物を捕捉した瞳だ。

 覚悟も完了済み。

 もう我儘は通じない。

 

「ん」

 

 右手を突き出した。

 

 フブキがミオを背後に隠す。

 全神経を研ぎ澄ませれば、死の魔法も回避不可能ではない。

 だがベストコンディションであり続ける事は不可能。

 みこが転移などを繰り返せば瞬く間に命中する。

 だから回避は考えていない。

 フブキに死の魔法は通用しないと先ほど発覚した。

 

 バチバチッ、とみこの右掌から紫電が迸る。

 電気の勢いが死の魔法とは異なる。

 フブキとミオは瞬時に理解したが、どの道逃げられない。

 人は電気の速度には追いつけないから――

 

「にャァッ‼︎‼︎」

 

 普段以上にがなる声で吼えて、みこは手中から紫電を放った。

 室内全域に攻撃して空間が爆ぜては困るので、レーザーの様に電撃の槍を形造り一直線に2人を貫――

 

 びっ――…………。

 

「――――」

「「――――??」」

 

 フブキの心臓に直撃した紫電が霧の様に掻き消された。

 服に一点の小さな焼け跡が残っているが、フブキ本人は火傷ひとつない。

 

 これで明白となった。

 フブキにみこの呪いは通じないと。

 

 フブキ本人でさえそのカラクリも知らず、無自覚な様子。

 だが無効化する事は事実。

 

「…………」

「……みこさん。みこさんの呪いは全部――」

「黙れ」

「っ……」

「甘ェ考えは起こすな。殺す手段なんざ無限にあんだよ‼︎」

「っ――!」

 

 みこが拳を握って地を蹴った。

 やや前の減りで距離を詰めてくるが、その姿勢は素人に見える。

 きっと近接戦闘は不得意なんだ。

 

 それでもフブキの生温く淡い期待を一蹴して立ち向かう。

 邪念で2人の判断は鈍い。

 

 目前に控えるみこの拳へフブキは相殺を目的に拳を返す。

 拳と拳の衝突寸前――パッ、とみこは消えた。

 

「――⁉︎」

 

 予測出来たはずだ。

 相手がみこなのだから転移だってするし、即死魔法だって撃ってくる。

 でもやはり今の2人は判断が鈍い。

 

 光が明滅する様にみこは姿を眩まし、刹那の間にフブキの左横に移動。

 拳の勢いは衰える事なくフブキの左頬へ――‼︎

 

「ふぐっ――‼︎」

 

 微量の血と唾液を口から溢してフブキは吹き飛ぶ。

 その光景にミオは狼狽えた。

 みこの眉がピクリと動く。

 

「ォらァ‼︎」

「んっ――!」

 

 フブキを殴り飛ばした勢いのまま身体を回すとミオを踵で蹴り飛ばした。

 ハラリと舞う美しい巫女服の下に真っ白のパンツが見え――蹴りが直撃。

 地を滑走したミオの全身に土汚れが付く。

 

 だがみこの腕力は然程なく、2人の復帰は素早かった。

 患部を押さえて立ち上がるとフブキは兎に角ミオを庇う様に立つ。

 

「…………」

 

 みこは更に一考する。

 フブキとミオの瞳が幾分かマシになった。

 次のモーションには反撃が来る頃だろう。

 幾らみこでもフブキやミオの渾身の打撃を受ければ一撃ノックアウト。

 回避、転移、バリアの何れかで対応する必要がある。

 ここからは魔法発動のインターバルも計算して攻撃を仕掛けなければならない。

 下手な決定打に欠ける攻撃魔法は体力の無駄遣い。

 

 苦手だが、思考を飛ばせ――。

 

 みこの口が小さく開いた。

 口内に溜まった唾液にも気付かずに、その翡翠の瞳で2人を凝視する。

 

「……ミオ」

「うん……フブキ」

 

 声を掛けて意思疎通。

 遂に腹を決めた。

 

 そうだ……殺さなくていい。

 2人がみこを殺さない様に倒して、後は莉々華たちに任せる、それでいい。

 下手に考えず勝つことだけに集中しろ。

 

 今、そう腹を決めた。

 

 先よりも強く拳を握る。

 力が漲る。

 

 

 みこが再び身を屈めた。

 

 

 来る――

 

 

「「――⁉︎」」

 

 パッ――とみこが姿を消した。

 ノーモーションからの転移なんて推測不能!

 転移先は――‼︎

 

 がばっと勢いよく振り返るとミオの眼前に拳が迫っていた。

 だがフブキが直感的にミオを抱き寄せていた。

 みこの拳がミオの髪を掠める。

 

 フブキがミオを抱え上げ、ミオはフブキに合わせて足に力を込める。

 

「――⁉︎」

「やぁっ‼︎」

 

 フブキがミオを振り回した。

 こちらも予想外のコンビネーション。

 ミオの踵が地面と水平に一回転してみこの頬を狙う。

 

 早速バリアを強制された。

 

 バチンッ、とミオの踵がバリアに激突し軽い衝撃波が響く。

 波紋に全身が震えた。

 

「…………」

 

 みこは一度大きく距離を置き拳を握り直す。

 想像以上に2人が戦えるので、今の身体能力ではジリ貧と判断した。だから魔法で一時的に肉体を強化する。

 みこの素の身体能力は並以下だが、スバルからの強化と自身の強化を重ねれば2人のパワーにも張り合える。

 加えて2人には無い素早さや反射神経の鋭さも増した。

 

 それを肌で感じ取ったのか、2人の顔が一層引き締まった。

 フブキがミオを地に下ろすと、視界が回って一瞬蹌踉めく。

 だが直ぐ様構えフブキと背中を合わせた。

 対応が素早い。

 

「…………」

 

 みこが地を蹴った。

 物凄いスピードで2人との距離を詰め……たかと思えば、適度な距離を保って2人の周りを回る。

 パッ、と消滅――

 

「「――‼︎」」

 

 転移先は周回軌道の対面。

 そのまま回り続けて――また消えた!

 周回軌道上に転移して2人を撹乱している。

 

 攻撃の瞬間を予測させないブラフだ。

 肉弾戦が苦手とは思えない立ち回り。

 

 ごくりと息を呑んだ。

 もう目で追えない。

 全身からじわりと汗が滲む。

 

 間も無く攻撃が来る――!

 

 みこが仕掛けるよりも先に動きたい。

 フブキはとんと肩に肩をぶつけた。

 

「ん」

「うん」

 

 掛け声も無く2人は同時に――駆け出す。

 

「――⁉︎」

 

 みこの周回軌道上に突撃。

 必ずどちらかがぶつかる為、みこはブレーキをかけるか転移する必要がある。

 

 みこは転移した。

 行き先は――フブキの頭上。

 無防備なフブキを押し倒そうと画策したその時――フブキは突然右足を上げて一回転。

 回し蹴りが空を切る。

 ミオもシンクロしていた。

 

 面食らったが支障なし。

 みこはフブキに上からのしかかり、地面にうつ伏せにして制圧。

 チャランと鈴が鳴る。

 

「ぶっ――」

 

(うっそ……上……⁉︎)

 

 フブキの両手を拘束し足の届かない位置に跨った。

 みこの背後にミオが迫る。

 

 みこは空いた左手で拳を握ってフブキの後頭部に振り下ろ――

 

「んにャ……」

 

 グラッと体幹がブレた結果、ガンッと狙いを外して地面を砕いた。

 みこの全体重を抱えながら、フブキは両足をばたつかせ腰を持ち上げてみこを揺さぶる。

 背後のミオが近い。

 みこはフブキの背に足をかけて跳躍した。

 チャラランと鈴が鳴る。

 

「おげっ!」

 

 巫女服を盛大に靡かせて高く高く――天井まで舞い上がり、そして勢いよく降下。

 

「フブキ!」

 

 腹が潰されて呻くフブキをミオが抱えて距離を取る。

 みこの鉄拳は地面に陥没――せず、ホーミング弾のようにミオの背を追ってきた。

 

「――⁉︎」

 

 そう、みこお得意の浮遊だ。

 速度はそのままに、まるでスーパーヒーローの如く空中を旋回。

 またまた鈴がチャランと音を立てた。

 

 握った拳がミオの背を打ち砕く――なんて事になっては一大事。

 みこの軌道の変化を視認した途端、ミオは振り向きフブキを下ろす。

 

「「せーの‼︎」」

 

 同時にみこの拳へ打撃を放ち相殺。

 息のあったプレイで同時攻撃を成功させみこの勢いを殺した。

 

「にャッ」

「うぇ‼︎」

 

 みこは潔く意識を切り替え、フブキの腕を掴み強引に引き寄せる。

 フブキの重心が大きくズレ倒れ込むその顔面にガンッ、と膝が直撃。

 

「んがっ……‼︎」

 

 ぶしっ!と鼻血が飛散してみこの膝に血痕が残る。

 腕を解放されて後方へ下がりつつ鼻を押さえるが出血が止めどない。

 鼻への衝撃で反射的に涙も滲む。

 

「フブキ……」

「む、だひじょぶ」

 

 鼻先が熱い。

 

「……」

 

 みこが前屈みに駆け出してきた。

 フブキとミオは再度背中をくっ付けて背後を消す。

 次はどんな手を打ってくるか――。

 2人はみこの奇策に身構える。

 

 拳を握っていたみこが……右手を開いて突き出した。

 何かの魔法が飛んで来る!

 フブキは大袈裟にミオを庇いみこの一挙一動に目を凝らす。

 

 ピカッ――と眩い閃光がフブキの目を突く。

 目が眩んだ。

 目が痛い。

 目が潰れた。

 視界が真っ白で何も見えない。

 白い世界がばちばちと延々に発光を繰り返す。

 

 光が遮断されフブキは危機感に苛まれた。

 ミオにもその警鐘が伝播し、2人は魔法攻撃に強く警戒する。

 

 しかし――

 

「ッら‼︎」

「っぐ‼︎」

 

 みこの踵がフブキの鳩尾を抉った。

 

「ぉわ‼︎」

 

 背後のミオ諸共蹴り飛ばしたが、ミオが上手くフブキを抱えて受け身を取っていた。

 蹴り飛ばした為に空いた距離を瞬間移動で詰め、フブキの腹を踏みつける。

 

「っ――!」

 

 振り下ろした右足をフブキが両手で押さえて軌道を逸らした。目が馴染んだようだ。

 ガンッ、と地面に亀裂が入る。

 

 地を踏み抜いた勢力を保ち2人に倒れ掛かる様に鉄拳を振るう。

 

 ミオの上に被さっていたフブキが横へ転がって回避すると、下で拳を構えていたミオがみこと拳を打ち合わせた。

 体勢の差もあり今回の力比べはみこに軍配が上がる。

 半分にまで威力低減した拳がミオの手を弾いて鳩尾を穿つ。

 

「ぅぶっ――‼︎」

 

 胃酸の混じった唾液がぴゅっと口から飛び出した。

 

 ここで魔法のインターバルが終わり再度魔法を放つチャンス。

 ミオに触れた右手がバチバチと紫電を放出。

 見慣れたくもない死の魔法発動の予備動作。

 

「たぁっ‼︎」

「ん゛ッ」

 

 みこの左頬を狙うフブキ渾身の一撃。

 僅か1秒の予備動作を切ってみこは薄汚れたフブキの拳を両手で受け、骨を粉砕する衝撃を全身を這わせて地に流す。

 肘がピシッと鳴った。

 

 呻吟していたミオが上体を持ち上げて無防備なみこの頬に同威力の渾身の一撃を放つ。

 

 ヴン、と視界を覆う半透明の膜が出現。

 何処か見覚えのある球の形をした薄い層にミオの拳が炸裂――ばちバチと耳を劈く音が轟く。

 獣人には堪える轟音だ。

 

 

 みこは衰勢したフブキの打撃を弾いて距離を置く。

 フブキとミオも合わせて後方へ引き体制と呼吸を整える。

 

 みこの周囲を覆うバリアが消滅した。

 

「フブキ、鼻血が……」

「だいじょぶ」

 

 鼻が折れたのかフブキの鼻血は未だ止まらず。

 当人は出血を無視してみことの戦いに集中している。

 ミオも執拗には口にせず2人並んでみこを見つめる。

 

(……表情が随分と逞しくなったじゃにぇェか)

 

 ハンデアリとは言え2対1で善戦するとはみことしても予想外。

 2人のコンビネーションとフブキの魔法無効化がデカい。

 みこの体力も徐々に枯渇してきた。既に半分は切っている。

 

 死の魔法×4、風×1、電撃×1、閃光×1、転移×?(計測不能)、バリア7秒、浮遊10秒、肉体強化3分。

 

 色々と使ったがやはり死の魔法を4発も撃って結果死者0人である現状が苦しい。

 雌雄を決する時も近い。

 

 

「…………」

 

 みこが額の汗を拭うとチャランと鈴が鳴る。

 流石に巫女服が鬱陶しくなってきた。

 邪魔臭い袖や裾などを豪快に破り捨てていく。

 

 華奢でありながらプニッとした腕や脚が露出する。

 チャラチャラン……と騒音がしつこい鈴も投げ捨てた。

 愛用していた猫型の可愛らしい鈴。

 

 みこは二の腕まで剥き出しになった右腕を2人へと翳す。

 閃光か、死の魔法か、電撃か、見た事もない魔法か。

 2人の思考は纏まらない。

 戦況を左右する刹那の判断に備えて目を尖らせ瞬間に没頭する。

 

 ぽたぽた、ぽたっと鼻血、汗、唾液が滴る。

 

 ピュンッ――とみこの右手から白い球が発射された。

 謎魔法!

 フブキはミオの前に立ちはだかる。

 

 ボンッ、と白球はフブキの目前で爆発。

 爆発は比較的小規模で誰が受けても負傷は免れていただろう。

 しかし、爆発した瞬間2人は灰色の煙に包まれてしまった。

 視界がグレーに染まって目が痒くなる。

 粉と火薬の臭いで鼻も痒い。

 

 魔法的な煙玉だった。

 

 フブキは咄嗟にミオを庇おうとした。

 だが今の状態では庇う意味が無い。

 同時に脳内に突如として過ぎるみこの不自然。

 その瞬間――フブキは魔法発動のインターバルを読み取る。

 インターバルの数秒間、みこは魔法が発動できないのなら、そのタイムラグの内に「距離を詰める」or「待機」のどちらかがほぼ強制される。

 

 フブキは煙幕の中でしゃがみ込んで適当なサイズの石を握り――みこの居た場所へ投函。

 怪力を込めた投石は来ると分かっていても避けられるか怪しい。

 

 それが予測できない煙幕の中から――突如として飛来。

 煙幕へと駆け出していたみこへ見事に命中――

 

 ベヂィッ――

 

「ン゛に゛ャァ゛ッッ――‼︎‼︎⁉︎」

 

 猪突猛進したみこの右眼を破裂させ石は血を浴び地面に転がる。

 一度も受けた事のない物理的な激痛に絶叫、悶絶。

 自身の行動で首を絞める羽目になるなんて。

 

 両手で患部を押さえて無意識に止血を試みるも、触れると電気が走った様に痛む。

 いつもより世界が平面に見える。

 ボタボタと出血の勢いがフブキの比にない。

 膝をついて喘いだ。

 

(いだい! 再生――ダメ‼︎ 痛い! 再――いやダメ‼︎ 痛い! 痛い! いたいたいたいたいたいたい――‼︎)

 

 傷の再生は死の魔法以上に体力が削れる。

 今更使えない。

 自分だけ痛みから逃げるのは卑怯!

 踏ん張れ! 突っ張れ!

 

 みこは右眼を小さく発火――

 

 ジューー……

 

「んに゛ッッッッッッ‼︎‼︎」

 

 顔が熱い……。

 脳がチカチカする……。

 

 煙幕は晴れていないがみこが痛みと格闘している隙に2人は煙幕から抜け出していた。

 幾度となく経験してきた「運命」と言う要素が、初めて眼前に聳え立つ様に感じた。

 

 フブキとミオが向かって来る。

 部が悪い……!

 

 みこは軽く跳躍して空中に飛び出すとそのまま浮遊で一時的に対空して逃げる。

 

「ミオ!」

「いいよ!」

 

 みこが空中に出た瞬間ミオは腰を落とした。

 両手を組んで足場を作りどっしりと構え、そこにフブキが飛び乗ると――

 

「はいっ‼︎」

 

 フブキを空中に飛ばす。

 2人の怪力あってこその連携。

 浮遊を超える上昇速度でフブキが肉薄しみこの足を捕まえた。

 

「んにゃ……!」

 

 脚を振り回すもその程度で解かれたりしない。

 もう片方で何度も足蹴にするがやがて其方も掴まれて拘束された。

 

 フブキがよじ登ろうとする。

 

「くッ……」

 

 みこは一か八か、浮遊を切って重力のままに自由落下。

 頭よりもフブキの掴まる足の方が重たい。

 

 落下に身構えるフブキから右足の自由を奪い返しフブキの白い頭の上に乗せた。

 地面が迫る――!

 

「フブキ!」

 

 ミオが床を滑ってフブキを受け止めに来た。

 

「よッ――」

「ん゛っ」

 

 転落直前でフブキの頭を土台に跳躍し見事に着地するみこ。

 フブキもミオにキャッチされて無傷。

 3人は直様態勢を整えて向き合った。

 

「「はぁ……はぁ……」」

「はッ……はッ……んくッ……」

 

 唾を、血を、飲み込んだ。

 

 拳を握った。

 

 下手な小細工は不要と知った。

 

 拳が、正面からぶつかる――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 わための作り出した土壁に小さく穴を開け、莉々華は3人の戦況をこっそり観察していた。

 叛逆者集団が一ヶ所に固まって軽傷から重傷まで様々な怪我をAZKiに治癒してもらっていた。

 わための治癒を最後に一通り片付く。

 

 トワが莉々華の傍へ寄る。

 

「あいつらは説得してきた。これで落ち着けるだろ」

「有難うございます」

 

 ちょこやルーナなどを上手く説得して一時停戦状態に持ち込めた。

 莉々華は怪我の完治したおかゆとマリンを一瞥すると一度監視穴から離れてシオンの前にしゃがみ込む。

 もう一度頬をぺちぺちと叩いて半ば強引に覚醒を促した。

 一度は引いた頬の腫れがまた生まれる。

 

「うべべべべべっ! 何⁉︎」

 

 どこか既視感のある目覚め。

 シオンは赤く晴れた頬を押さえてがばっと上体を起こした。

 すると寸前に莉々華の顔があり一瞬びくっと肩が跳ねる。

 

「…………?」

「おはようございます」

「――?」

 

 莉々華の挨拶に小首を傾げ、周囲を見渡すと真っ先にトワとミイラが視界に入りちびりそうになる。

 

「――‼︎ 何⁉︎ 何なの‼︎」

 

 肩を掴む莉々華の両手を振り解いて身を退く。

 おしりにとんと何かが接触して振り向くと薄汚い無傷のおかゆが眠っていて瞠目する。

 目を凝らしてみると奥にはマリンもいた。

 更に周囲を観察すると馴染みある顔や見知らぬ顔や神の一団と錚々たる面々。

 シオンは敵に囲まれたと錯覚した恐怖心が強かった。

 

「安心してください。手を貸してもらってます」

「…………」

「無理矢理起こしたことも謝ります。ただ一つお願いがあって……」

「お、お願い……?」

 

 シオンは不在のメンバーを心の片隅で憂慮しつつ莉々華のお願いに耳を傾けた。

 

 ――――。

 

「――と言うことなんです」

「…………分かった」

 

 シオンは莉々華の頼みを案外あっさりと受け入れて莉々華から紫水晶――アメジストとナイフを預かる。

 

 2つを手に取るとシオンは早速アメジストを地面に置いて刃の尖端を光らせた。

 

「ちょっと待ってください!」

「――なに」

 

 依頼されたと思えば止められてシオンが不機嫌に小さな眉を寄せた。

 トワが蔑む様に見下ろしていて不快だった。

 

「破壊は私の合図に合わせて3人同時に行います」

「なんで」

「みこさんを殺す為です」

「――――あっそ」

 

 シオンはアメジストを握り直しナイフを仕舞った。

 莉々華がほっと胸を撫で下ろし再度覗き穴に目を通す。

 中では今なお3人の死闘が繰り広げられているが、みこの魔力は枯れてきた様に見受けられる。

 間も無くその時は来るだろう。

 

 シオンはもう一度おかゆを一瞥して莉々華の背に尋ねた。

 

「ねぇ……ころねは?」

「……死にました」

「…………」

 

 再三おかゆに視線を戻す。

 薄汚れた柔らかい頬に手を当ててそっと撫でる。

 目を細めて何度も瞬きした……。

 

 

 

「ちょこ先生……こより、どうしよう」

「…………」

 

 インターン生一同も漸く落ち着いて話す時間が出来た。

 まつりはずっと抱えていたこよりをその場に寝かせたが、土の寝床は寝心地が悪そうだ。

 インターン生とちょこでこよりを取り囲み惨憺たる亡骸に目を伏せる。

 

 冷静になってこよりの死と直面すると、ポルカは重ねてぼたんの死も想起して罪悪感を覚え、重苦に肩が痛む。

 宿舎離脱以降、ルーナもやけに口数が少なく覇気が無い。

 ポルカは寂寥感と罪悪感、そして現実から逃避してルーナの頭に手を置き、彼女を心配した。

 

「ルーナ……大丈夫か?」

「……ん」

 

 気力の無い問いに気力の無い答え。

 ルーナがゴシゴシと左目を擦る。

 

 まさか……眠いだけ?

 いや幾らルーナでもこんな状況でそれは無い。

 ポルカは静かに口角を上げてこよりを見つめ直した。

 

「……一体どうやってこよりを殺したんだろうな」

 

 ポルカはボソッと呟いた。

 その疑問に皆一斉に首肯し頭を悩ます。

 いや、殺すこと自体は難しいことでは無い。

 計略の呪で無い情報を得ることは出来ない為、闇夜に紛れて不意打ち、なんて策も簡単に通じる。

 気がかりな事は伝令の呪だ。

 襲撃でもされたなら、その瞬間にみこやそらへと伝令を飛ばすはず。だがみこのあの莉々華への激怒が演技には見えない。

 つまりこよりは誰にも伝令を送らなかった事になる。

 

「考えられるのは『呪が使えなかった』『即死若しくは即気絶した』」

「ああ。でもこの有り様だよ……」

 

 幾度も刺された死体。

 即死はあり得ない。一度刺されれば直後に伝令を送ったはずだ。

 そして気絶の線も薄い。

 気絶しているなら複数回刺さず一撃で仕留められる首や心臓を狙い打てば良いのだから。

 

「『呪が使えない』って…………まるで……」

「ルイ様もあやめ様も、こより様にこんな事はしないわ」

「…………じゃあ本当に、誰がどうやって」

 

 状況証拠と推理から浮かび上がる犯人像をちょこが逸早く否定した。

 若干感情的な意見だが根拠もある。

 

 例えルイが呪をあやめに継承していたとしても、あやめがこよりを殺す理由がない。

 話によればすいせいへの恨みはあるそうだが、それを理由に恩人であるみこの可愛い舎弟を殺しはしない。

 加えてこの雑なナイフの刺し傷たち。

 あやめは動く標的でも美しく捌ける剣術の持ち主だ。犯行を隠すにしても態々ナイフでヘタクソに殺す意味が無い。

 

 

 一同の顔に暗い影が差す。

 

 そこへねねがふとある案を浮かべた。

 

「ね、ねえ……あの人に頼んだら蘇生できないかな?」

 

 ねねが指差すあの人とは――AZKiだ。

 今し方ミオを蘇生し凡ゆる者達の傷を癒した世界最高峰の医術の持ち主。

 ラミィとまつりは賛同したが、その他のメンバーの表情は険しい。

 

「叛逆者よ? 受け入れてくれたとしても、その先が怖いわ……」

「同感だな。すいちゃんとトワ様が懐柔されてんのも、なんか裏がありそうで正直怖いよ」

 

 一瞬だけ差した希望の光を失い3人はまた表情を曇らせた。

 

「そう、だよね…………」

 

「ん、んな……」

 

 ルーナがまた左目を擦っている。

 ポルカが不思議そうにルーナを正視した。

 

「ルーナ? どした?」

「ん……目がかいーだけ……」

 

 目が……痒い……?

 

「「――⁉︎」」

 

 ちょことポルカが何かに思い至った。

 ポルカが目を擦るルーナの手を押さえてちょこと左目を覗き込む。

 2人が覗く若緑の鮮やかな瞳に――小さく黒い靄が掛かっていた。

 

「まさか――‼︎」

(あの野郎――‼︎ いらん遺物置いてきやがッて――‼︎‼︎)

 

 

 

 覗き穴から戦場の監視を続けていたが、やがてその時は訪れた。

 右目の潰されたみこが遂に正面衝突を決意したのだ。

 3人が真っ向から激突。

 瞬間移動を上手く駆使して戦っているが、時期にバリアを展開するはず。

 

「3人とも準備を」

「――」「――」「ん」

 

 すいせいが右手にビー玉を乗せる。

 トワが右手にダイヤモンドを乗せる。

 シオンが地面にアメジストを置いてナイフを構える。

 

 莉々華の背後で奏はフブミオと対面する瞬間を心待ちにしていた。

 わためとロボ子は静観し、AZKiはじっとそらの動向を監視している。

 

 拳の横行。

 地を割る鉄拳。

 繰り返される殴打。

 時折跳ねる血と唾液と汗。

 

 遠目に戦場を凝視して――――ヴン、とみこがバリアを張った瞬間――

 

「今です‼︎」

「「――――‼︎」」「――‼︎」

 

 すいせいがビー玉を握り潰した。

 トワがダイヤモンドに電気を走らせて破壊した。

 シオンがアメジストにナイフを突き立てた。

 

 ぱきんっ。

 

 ズレはほんの刹那。

 作戦に支障のないほぼ同時の破壊。

 

 その瞬間が叛逆の終わりだった――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 拳と脚の往来が激しかった肉弾戦。

 フブミオが次第にみこの転移に対応し始め、バリアの展開を余儀なくされる事態に陥った。

 

 ミオの渾身の一撃がみこの顔面を狙った。

 諸に入れば頭蓋が砕ける威力。

 みこはバリアを展開した――その時――

 

 ドクンッ――と命に亀裂が入った様な衝撃がみこを襲い、目眩を起こして全身が脱力。

 魔力が枯渇し、バリアが解かれ、肉体強化が解かれ……

 握り拳が眼前に――

 

「ッ――――」

 

 無防備なみこの顔面に会心の一撃が入った。

 

 バゴンッ――‼︎

 

 ダッダッダッ、ダンッ――ズザーーーー………………ガンッ。

 

「ぇ――」

 

 殴った張本人が誰よりも困惑した。

 何度も跳弾して地面を滑走し壁に激突。

 パタンとみこが倒れて頭から血が流れる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 肩で息する2人の視線の先でみこが突っ伏しており、一向に動かない。

 直に殴ったミオは直感したはずだ。

 今の一撃は確実に殴り殺したと。

 

 

 がらがらがらっ……と戦地を分断していた土壁が崩壊し、人が一斉に傾れ込む。

 

 

「やった‼︎」

 

 

 莉々華が不相応且つ不謹慎に喜んでみこの下へ駆け寄り、AZKiは誰よりも早くそらの前に立ちはだかる。

 続いてインターン生、ちょこ、わため、ロボ子も戦地へ踏み込んだ。

 

 莉々華がみこの容態を確認する。

 右目は潰れ、殴られた箇所は凹んで頭蓋が砕けている。

 額や後頭部、右眼から流血しており、まだ心臓は動いているがあと数秒の命と見られる。

 そらの治癒を恐れてAZKiを派遣したが、そらは微動だにしない。

 

「みこさん……」

「う、うちが…………そんな……」

 

 頽れてわなわなと震えるミオを、インターン生が冷たい視線で睨んでいた。

 フブキがそっとミオの背に手を乗せると、ミオは大粒の涙を溢して泣き始めた。

 

「あぁぁぁ……うあぁ……うぐっ……」

 

 

 みこが死ぬ。

 遂に呪いが消える。

 

 

「まさか本当にこうなるとは」

「「――――⁉︎⁉︎」」

 

 

 そんな元戦地へ侵入者2名。

 橙色のポニーテールを揺らし豊満な胸を抱えて唸る微褐色の女性――不知火フレア。

 金髪の短いツインテールでどこか儚げにみこの亡骸を見つめる女性――赤井はあと。

 

 そらを含む一同の視線はそちらへ釘付けになるが、意識の無い者とミオだけは変わらなかった。

 

(――あの金髪、誰⁉︎ データに無い……ってかどっから湧いた⁉︎)

 

 莉々華は2人の出現とデータに無い女性に大混乱。

 遅れて情報を下ろすと金髪女性が赤井はあとである事と、彼女が「狂気の呪」の持ち主である事が判明する。

 

「――おい莉々華‼︎」

 

 出入り口付近で気絶中の2人を見守っていたすいせいが突如莉々華に怒鳴りつける。

 間近のトワとシオンも顔が険しく、彼女達の様子を見てフブキ、ロボ子、わためも異変に気がついた。

 

「話が違うぞ‼︎ みこちが死んだってのに――呪が消えねぇじゃねぇか‼︎」

 

 莉々華は自身の腕の刻印を調べた。

 健在。

 

 次にみこの容態を調べた。

 脈なし、呼吸なし…………生無し。

 

(そんな…………失敗した…………の?)

 

 呪い消滅作戦――――失敗……。

 

(いや、まだなんとかミオさんを――)

 

「みこちは本当に凄いね――ここまで考えてたなんて」

 

((――⁉︎))

 

 そらがホープダイヤモンドを握って意味深に呟くと同時に叛逆者一同の心に重圧が掛かる。

 莉々華は今更になって「狂気の呪」の性質を下ろし――絶句した。

 

「2人堕ちたよ」

 

 弱った心に漬け込んで心を支配する呪。

 今この場で目に見えて心が弱った人間は……そう、大神ミオと白上フブキ。

 みこをその手で殺した罪悪感に苛まれる2人。

 しかし――フブキの心は支配されない。

 だがミオは――

 

「うっぐあああああああああ‼︎‼︎」

「――⁉︎ ミオ! ミオどうしたの⁉︎」

「――――――――」

 

 突然の絶叫の後、スッと静かに首を垂らした。

 まるで悪霊が憑依した様に……。

 

 全てを理解できたのははあととそらのみ。

 大方を理解したのが莉々華とフレア。

 莉々華が真っ青になった。何とか心を強く持つ。

 

「フブキ」

「ん――?」

「――ずっと側に居てね」

「――? うん」

 

 ミオがフブキを抱き寄せて囁いた。

 フブキは盲目的に答える。

 ミオが微笑んだ。

 

 もう――ダメだ。

 

 

 フブキを胸中に抱いたままミオが右手に紫電を発生させた。

 パチパチと弾ける紫電に皆瞠目する。

 まるでその力――さくらみこの呪。

 

「撤退します‼︎」

 

 莉々華の怒号が響き渡る。

 無理解に苛まれるもロボ子とわためが動き出した。

 

「わためさん! 分断を――」

 

 ぢュゥゥゥゥ――ッパ。

 

「わためさん‼︎⁉︎」

 

 わためを抱擁して熱い熱いディープキスをプレゼントするちょこ。

 わための瞳がとろんと蕩けて虚になる。

 

「いい子ね。さあ逃げ道塞いで頂戴」

「はァ〜い」

 

 わためが地面を隆起させて出入り口を塞いだ。

 グラグラと室内が震災に見舞われる。

 

「不死火、そらちゃん、ちょこ先生。暴れていいよ」

 

 フブキを抱いたミオが3人に指示を飛ばした。

 その一言でちょこ、ポルカ、トワ、すいせいも漸く状況を理解できた。

 

「おい! まさかみこち――‼︎」

「…………オメェらはそっちなんだよね?」

「――‼︎」

 

 ミオが右手をトワに翳す。

 フレアが両腕を発火させる。

 そらが全身を輝かせる。

 ちょこがわために指令を下し、わためが大地を操る。

 

「天界へ逃げます‼︎」

「ッチ‼︎」

 

 すいせいが塞がれた出口を蹴り崩し道を開く。

 天井が崩落を始めた。

 すいせいの脳裏にトロイアの崩壊が蘇る。

 

「トワ! 時間稼ぐぞ!」

「ああ‼︎」

 

 トワが手中に電気を溜め、すいせいは全身を力ませる。

 すいせいの全身が軋んだ。

 

 フレアが炎をミオが紫電を放ち、対抗してトワが雷鳴を轟かせる。

 赤、黄、紫のプラズマが衝突して激しい爆風が室内に渦巻いた。

 強風の中押し寄せる地面をすいせいが殴る蹴るなどして破壊し、わための猛攻を防ぐ。

 

 その間で莉々華、ロボ子、AZKiが出口に到達。

 

「ロボ子さん、マリンさんをお願いします」

「うん」

「シオンさんと奏はおかゆさんを…………――⁉︎」

「しゃっちょ?」

「――あ、おかゆ起きてんじゃん」

「………………」

 

 莉々華は其々に指示して行く中で新たなる悲劇を得てしまう。

 おかゆの目覚めは極めて間の悪い、不幸中の不幸。

 

 ロボ子が気絶したマリンを担いで転移魔法陣に乗り天界へワープ。

 

「おかゆ……?」

 

 おかゆが無言でノソノソとミオの方へ歩む。

 目に正気は無い。

 莉々華が見限ってシオンと奏の手を引き駆け出した。

 

「彼女も狂気に飲まれた。諦める」

 

 目覚めなければころねの死と言う現実に打ちひしがれる事もなく、狂気に染まることも無かった。

 おかゆが目覚めたことは不運、マリンが目覚めなかったことは幸運。

 

 奏は物悲しげに遠ざかるフブキとミオを、シオンもおかゆの離れてゆく背を悲愴に満ちた瞳で見つめて――莉々華と共に天界へワープ。

 

 

 

 意味不明な展開に最も混乱していたのはインターン生だった。

 

「ど、どうなって……!」

「どうすればいいのこれ⁉︎」

 

 わたわたと慌てふためくねねとラミィ。

 ちょこはわためを操ってトワやすいせいを攻撃しているが、理屈が全く理解できない。

 

 2人の定まらない心を感知したトワが大声でインターン生を呼ぶ。

 

「お前ら! こっちへ来い‼︎」

「――‼︎ 何言ってるの! みこちを裏切るつもり⁉︎」

 

 反発したのは他でも無いちょこ。

 叛逆者に限らず、あらゆる組織が分裂して行く。

 

「頼む! トワを信じろ!」

「みこちはまだ死んでないのよ! スバルがみこちに賭けた様に、ちょこも死ぬまでみこちに従う‼︎」

「世界から呪いを無くして! 戦争を無くす! 莉々華がその策を持ってる‼︎ トワを信じろ‼︎ こっちへ来い‼︎」

 

 完全に分断された神の一団の意見。

 どちらの言い分も理に適っており、合理的な判断が難しい。

 だから非合理に判断して――決断して、一層亀裂は増してゆく。

 

「――しゅば」

 

 スバルと言う名にルーナが過剰な反応を示す。

 左目の痒みを忘れて大好きな大空スバルの優しい太陽の笑顔を心に灯す。

 

 カツンッ、とルーナはちょこの方へと足を向け――

 

「ルーナ……」

 

 その背をポルカが追い掛けた。

 

「とわわ先輩……!」

「すいちゃん……あくたん……」

 

 尊敬する師を――大好きな空間の中に居た3人の加担する組織を信じて――ねねとラミィは出口へと足を向けた。

 

 夏色まつりを置き去りに、ねねとラミィ、ポルカとルーナが真逆へと遠ざかって行く。

 1人の少女が選ぶには重たすぎる選択肢だ。

 

「ねねち! ラミィ!」

「「…………」」

 

 呼び止めるも聞かず。

 

「ぽるぽる! ルーナ!」

「「…………」」

 

 誘い出すも意に介さず。

 

 ポルカとルーナはちょこの背後に佇み、ねねとラミィは天界へと転移していった。

 

 

 狭間と言う苦行に立たされたまつりは滝の様に涙を溢してトワを、ちょこを見つめ、情に訴える。

 

(どうして……どうして仲間と……友達と……戦おうとするの……)

 

 トワが叫ぶ。

 ちょこが叫ぶ。

 

(どうして……話し合いができないの……)

 

 視界が――世界が――震える。

 

(嫌だよ……ポルカも、ルーナも、ねねも、ラミィも……みんなみんな大好きなのに……‼︎)

 

「まつりぃ――」   「まつりィ――」

「――こっちだ‼︎」  「――こっちよ‼︎」

 

 悲しくて苦しくて悔しくて辛くて、涙が止まらない。

 

 

「みんなのバカぁぁぁぁぁァァァァァ‼︎‼︎」

 

 

 まつりはその場で絶叫し、ちょこにもトワにも寄り付かなかった。

 

 

 それを見届けるとトワとすいせいは勧誘を諦めて時間稼ぎを打ち切る。

 残っていたAZKiと共に転移魔法陣を使用し天界へ転移。

 

 

 こうして神の間に、新たなる神の一団が発足――

 

 「大神ミオに憑依したさくらみこ」を神とした新たな神の一団。

 意識的に従うもの、無意識的に従うもの、盲目的に従うもの。

 統一性も無いその顔ぶれ――

 

 白上フブキ、猫又おかゆ、ときのそら、不知火フレア、赤井はあと、癒月ちょこ、尾丸ポルカ、姫森ルーナ、角巻わため、夏色まつり。

 

「ミオ、みんな行っちゃったよ?」

「そうだね。でもここが危ないわけじゃ無いし、いいんじゃない?」

「……そう、なのかな」

「うん。そうだよ」

 

 ミオの豹変は察知している。

 ちょこやフレアに指示するミオが不吉な事も分かっている。

 でも……何故かこれでいい気がした。

 ミオの胸の中でフブキはそう思い続けた。

 

「ちょこ先生。まずは地上に出て聖域を作り直そう。新しい拠点として」

「分かったわ。そう言う事だから頼むわよ」

「はァ〜い」

 

 ゴゴゴゴゴッと大地がうねり出したのだった――。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 天界へと転移した者たちはトロイアハナレから飛び出す。

 いつの間にか日は暮れており、月明かりが出迎えた。

 

「地界へ降りましょう」

「おい待て! どうなってんのか説明しろ! これで呪いは消える算段だった筈だ!」

「話は後です! 追ってこないとも限らないし、急がないと袋の鼠ですよ!」

 

 すいせいの苦言を突っぱねて莉々華が天界ゲートへ続く階段を降り始めた。

 苦い顔をした者たちが莉々華の後に続く。

 

「おかゆは……どうしたの」

「――」

「しゃっちょ、フブキさんとミオさんは……?」

「――」

「莉々華ちゃん。地界へ降りるにしてもそこからの足と行き先が――」

「ちょっと黙ってよ‼︎‼︎」

 

 月明かりに照らされた莉々華の瞳が血走っていた。

 各々の憂慮も分かるが莉々華とてこれは想定外すぎる事態。

 混乱しないはずがない。

 

 今にも泣きそうに瞳を揺るがし、莉々華は懸命に階段を降りた。

 

 

 

 険悪な空気を帯びて階段を降り、やがて視界が真っ白に染まる。

 直後、草木の茂る森と大地が視界に現れた。

 ゲートは目前。

 

 ゴゴゴゴゴッ…………。

 

「――⁉︎ なんだ⁉︎」

 

 大地が激震。

 振動が階段へ伝わる事はないが、草木・大地が激しく唸り、生物が一斉に飛び立ち、視界に映る様々なものが震える。

 

「わためだ。何かしてる――!」

 

 グラグラと大地震を起こして大地を変形させている。

 盛り上がった山が平されて木々をへし折って大地の掃除を始めた。

 更に、遠目に隆起する神の間が見えた。

 

「拠点を再建してるんだ……!」

「ここにいると危ない!」

「おい莉々華! やっぱ引き返そう」

「だからそれじゃ追い詰められるだけですってば‼︎」

「あたしは兎も角、お前らが走って逃げ切れるかよ‼︎」

「じゃあどうしろって言うんですか‼︎ 他に策でもあるって⁉︎」

 

 すいせいと莉々華の口喧嘩と大地の騒音を聞きながらゲートを潜り地に足をつけた。

 途端に全身がぐらつき、シオンや奏、マリンを抱えたロボ子が転倒した。

 

「急いで!」

「…………」

 

 自暴自棄になりかけた莉々華の目を見て、シオンは見限った様に視線を外した。

 シオンが自力で走っても、この大災害からは逃れられない。

 だったら神の間に戻ってアイツらに喧嘩売ってきた方がまだ堅実……

 

 ぶろろろろろろ…………

 

「「――?」」

 

 自然災害の中から響く人工物の唸り声。

 ぴかぴかと眩いライトが木々の間を縫って、土埃や草木を蹴散らして迫って来る。

 

「「――――⁉︎」」

 

 ぶろろろろろ……! がんっ、きー…………。

 

 一台の薄汚れた新車が傷だらけで一同の前に飛び込んできてスリップする。

 かちゃ、ぴー……と4箇所のドアが全て開き、運転席から1人のバニーガールが降りて来た。

 

「乗れ! ぺこ!」

 

 兎田ぺこらだ。

 シオンの表情がぱっと明るくなり、莉々華が堪えていた涙を一筋だけ溢す。

 

「皆さん! 大至急‼︎」

「はい」「分かった!」「うん!」

 

 莉々華が号令をかけると一斉に車内に飛び込む。

 

「りりーか! 運転変われ!」

「はい!」

 

 涙を振り払ってぺこらと座席を交換。

 莉々華が運転席、ぺこらが助手席。

 マリンを最後部へ乗せて隣にロボ子とAZKi、真ん中の3席にねねラミィ奏。

 溢れたシオンをぺこらが手招きし、ぺこらの膝の上にシオンが座った。

 サイドミラーの見にくさや道路交通法など今更。

 法ならぺこらの無免許運転で既に破っている。

 

 想定定員8人の車に9人が乗って定員オーバー。

 トワとすいせいが車外に残っている。

 

「あたしとトワは走る。出せ!」

「おい何勝手に――」

「っよ――」

「は⁉︎ ばっ、ぉまっ――」

 

 すいせいがトワを担ぐとトワが真っ赤になって暴れる。

 ぺちんとトワのお尻を叩いて黙らせた。

 すいせいが包帯の下でにっと笑う。

 

「騒ぐと舌噛むぞ」

 

 莉々華が高速に乗る勢いでアクセルを踏み込んだ。

 ぶぉんっ、と車は勢いよく発進。その背後をすいせいが自慢の脚力で追い掛ける。

 全身を壊していながら、時速80km越えの車の後ろにべったり張り付いて走っていた。

 トワが吐き気を催して身悶えしていたが構っている余裕はない。

 聖域を出るまでの辛抱だ。

 

 

 

 然程高くない莉々華の運転テクニックで倒木や隆起物を回避して、なんとか一同は聖域を抜けることに成功した。

 聖域を抜けるとあれ程凄まじかった揺れが収まり、莉々華は一度車を止めた。

 

「…………」

 

 聖域の中央付近に建築された土の城が月明かりを浴びている。

 

「AZKiさん。家、借りていいですか」

「うん」

「では一度AZKiさんの家へ向かいます。総括はそこで行います」

 

 

 これにて叛逆は完全に終幕となる……。

 

 





 この叛逆の終焉こそが望まれた結末。
 運命にまつわる者は出揃った。
 彼女達は間も無く世界の――呪いの――刻印の真実を知る。
 その時、彼女達が選択する道は――。

 次回「叛逆の刻印」
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