聖域に生成された土の城内部――
「少し質は悪いけど、ここを拠点にする」
フブキを抱き寄せるミオが一同を概観した。
その際、フレアがプイッと顔を背けたのでミオはムッとして睨んだ。
「おい不死火。勝手な真似はすんなよ。あの村へ戻る事も許さねェからな」
「――なんでよ。ノエちゃんに会うくらいいーじゃん」
「ダメだ。オメェは自分が主戦力である事を自覚しろ。お前の情報を保護する事はもう出来ねェんだからな」
魂のカケラが残り1つとなり、自身の肉体も亡くしたみこは以前の様に魔法を扱えない。
死の魔法を連発なんて出来ないし、情報に幾つもセキュリティをかけたり出来ない。
フレアは今間違いなく世界の頂点に君臨している。
「……ミオ」
「ッ…………。…………」
ミオのらしからぬ言葉使いにフブキが不気味そうに呟いた。
みこは息を詰まらせる。
「……ごめんね。怖かった?」
「……ん、んーん」
「流石に疲れてるよね……休もっか」
「……うん」
フブキを優しく介抱して2人で別室へ移る。
その際軽くそらに目配せしてこの場を預けた。
2人が談話室から去ってそらが説明に移ろうと口を開いた時――
「ィねッ――‼︎」
「まッ――‼︎」「コラッ――!」
ルーナが突如ナイフを生み出して正気の無いおかゆへと切りかかるので、ちょことポルカが肝を冷やした。
間一髪押さえ込み無益な殺傷は免れた。
「殺す‼︎ コイちゅだけは――‼︎」
「やめろッて‼︎」「やめなさい‼︎」
強引におかゆへ詰めようとするルーナの力が以前より若干増していた。
ブンブンとナイフや腕を振り回すルーナを真っ黒に染まった瞳でおかゆが無関心に直視していた。
荒ぶり喚き散らすルーナの唾がおかゆの顔に飛散する。
「よせルーナッ‼︎」
「そうよ! 今は重要な戦力なのよ!」
「でもコイちゅがッ――‼︎ コイちゅがしゅばを――‼︎」
「相方が死んだんだ! 十分報いは受けてる!」
「んッ――んぐぐ――ッ‼︎」
ルーナの怨恨が収まらず、他の誰も抑止に手を貸さないので事態がなかなか収まらない。
憎悪に歪むオッドアイ。
ちょこの呪いもわため籠絡中により、ルーナにかけられず困り果てていた――が、
パチィン――と甲高い音が鳴り響き場が静まり返る。
ちょこが信じがたい光景に絶句した。
「お前はいつまでそうなんだッ‼︎」
思わぬ衝撃に傾いたルーナの顔。
真っ赤に染まった左頬に恐る恐る手を添えて、ルーナが畏怖する。
プルプルと淡いオッドアイがポルカの瞳に吸い寄せられる。
唇も震えていた。
「自分の欲を満たす為に周囲に迷惑かけてばっかりで‼︎」
「うッぐ……」
過去に類を見ないポルカの激昂に顔見知りですら息を止めていた。
「そんな敵討なんかで――スバルが喜ぶわけねェだろうがァッ‼︎」
「うッ……ひぐッ…………」
ルーナがウルウルと涙を溜めてしゃくりあげる。
手から溢したナイフがカンッと音を立てて消滅。
そしてルーナが脱力……するかと思われたが――
「そんなのぽりゅには好きな人がいないから分かんないんじゃん‼︎‼︎」
「――、……」
「ぽりゅだって好きな人が死ねばわかるもん‼︎‼︎」
「――んッ‼︎ んなこと分かりたくねェから言ってんだろうがァッ‼︎‼︎‼︎」
「――ポルカだけは分がってぐれるど思ってだのに゛‼︎‼︎‼︎‼︎ バカ‼︎ 大ッッ嫌い‼︎‼︎‼︎‼︎」
数滴の涙を散らしてルーナが談話室を飛び出して行った。
ちょこが呼び止めを躊躇う。
ルーナの背が扉の向こう側へと消えるとポルカを一瞥した。
「ッ……く…………‼︎」
振り上げてしまった平手を憎らしそうに握って必死に涙を堪えていた。
体が小刻みに震えて吐息までも痙攣している。
まつりがそっとポルカの背を撫でた。
ちょこもポルカの頭にポンと優しく手を乗せる。
そして耳に触れない様に繊細に撫でた。
「本当に良い子ね」
一言告げるとちょこはルーナの後を追って退室した。
「はァ〜めんどくさ。この中に居ろッて……普通に地獄なんだけど」
フレアが一悶着を見終えてぼやいた。
まつりがフレアを見上げる。
「ねえそらちゃん、この人は何なの?」
「この人は――」
とそらが話し始めると同時にわためとおかゆが動いた。
わためがおかゆを別室へ誘導して、ルーナの手が届かない場所へと隔離する。
いつ暗殺されるか分かったものじゃない。
2人の退室を見届けてそらが改まって口を開く。
「この人は『不死火』不知火フレア。『不死と火の呪』の持ち主」
「みこちとはどう言う関係?」
「特に深い関係は無いよ。昔ちょっと問題を起こしたフレアちゃんを聖域の山に拘束してたくらい」
「……深い関係でしょそれは」
そらの話す2人の関係性は警察と犯罪者くらい因縁の関係だった。
だがそれは協力する理由に繋がらない。寧ろ敵対する理由になり得る。
「あたしは『呪』が無くなってほしくないだけ。別に叛逆にも殺し合いにも興味なんてないよ」
「――? 『呪』が無くなる、ってどう言うこと?」
「え、何? 知らないの? めんどくさいなァ……そう言うのは仲間内で話つけといてよ」
フレアは髪をクシャッと乱して部屋を退室しようとする。
「どこ行くの? みこちはここに居てほしいッて――」
「寝るだけ」
パタンと土製の扉を閉じた。
「……ごめんねまつりちゃん、ポルカちゃん。後でちょこ先生とルーナちゃんも交えてお話しするから」
「……分かった。ポルカ、立てる?」
「ん……ありがと」
ポルカはまつりの手を取ってゆっくり立ち上がる。
そして2人もまた静かに退室していった……。
談話室に残ったはあととそらは難しい顔を見合わせた。
「とにかく今はみんな、そっとしておこう」
「そうだね。私でも心の傷は癒せないから……」
2人は重たいため息を吐いて談話室を後にした……。
――――――――――
莉々華達を乗せた車は聖域を抜け、AZKiの家までの道を疾走した。
そして――5時間と言う長旅の末にAZKiの家へと到着したのだった。
とある一国の街外れにあるやや豪華な屋敷。それがAZKiの家だ。
「はぁはぁ、はぁはぁっ、はぁ…………っぐ……」
「お、おい……だいじょぶかよお前……」
「大、丈夫……ちっと骨が折れただけ、だ……ぁっぐ……‼︎」
「おい……!」
5時間と言う長時間。車の運転ですら疲労の蓄積する時間を、すいせいは休憩もなしにトワを抱え自力で走り続けた。
壊れた全身に鞭打って。
数箇所の骨折程度で済むのならまだ安い話だ。
そんなすいせいの体を労ってトワが肩を貸し、下車してきたAZKiを呼び付ける。
ねねとラミィも一緒になって駆け寄ってきた。
「頼む」
「分かった」
AZKiがすいせいの胸元に手を翳して淡い光を放つ。
ぴきぴきと音を鳴らして骨が再生するが、すいせいの疲労までは拭えない。
びしょびしょに濡れた包帯の上から全身を掻き回していた。
車を降りた莉々華とぺこらはAZKiから鍵を預かって玄関を開けた。
「戻ったぺこ」
「お帰り〜。みんな居るの〜?」
ぺこらの声に室内から返答が入る。
聞き覚えのある柔らかく心を解す様な声音。
玄関へと足を運んで顔を出したのは、浮遊する金髪を背後に侍らせる女性――アキ・ローゼンタールだ。
「すまん! トイレ!」
ぺこらは詳細などの話を全て放って真っ先にトイレへ駆け込んだ。
「やっぱり治ってないんですね」
「そりゃあね。でももう大分落ち着いてるよ」
「熱は引きましたか?」
「そっちもかなり。微熱程度まで下がった途端に屋敷飛び出して車買いに行っちゃった」
シオンは莉々華とアキロゼの会話に小首を傾げつつ靴を脱いだ。
ぺこらの脱ぎ捨てた靴を揃えて隣に自分の靴を並べた。
「うっ……ちょっと誰か、手ぇ貸して……」
ロボ子が1人で懸命にマリンを車から引っ張り出していた。
莉々華が靴を履き直して駆け付ける。
「悪ぃ、シャワー借りるぞ……」
すいせいがトワの肩を借りて屋敷に上がり込む。
靴を放り投げて風呂場へと向かって行く。
そして莉々華とロボ子がマリンを連れてリビングへ。
奏がその背をコガモの様によたよたと追い掛ける。
最後にねね、ラミィが上がるとAZKiが玄関の鍵を閉めて全員でリビングへと向かった。
リビングへ着くと莉々華はマリンをソファに寝かせて――
ばたんっ……とフローリングにうつ伏せに倒れた。
「――⁉︎ 莉々華ちゃん⁉︎」
莉々華を支え損ねたロボ子が膝をついて容体を確認する。
「……ふぅ……息はあるね」
緊張が解けて疲労が押し寄せた結果、気絶したらしい。
こうなればすいせい同様にAZKiもお手上げ。
莉々華の気絶をトリガーに一斉に皆が倒れ込んだ。
5時間の車旅があったとはいえ、常に気が抜けずマリン以外は誰1人寝ていなかった。
ぺこらがトイレから戻ると、アキロゼとこの場に居ない2人を除く全員が倒れており驚いた。
「どったの⁉︎」
「疲れてるんだよきっと、身体も心も……」
「…………」
ぺこらはこの場に並ぶ顔を目に焼き付ける。
アキロゼと苦い顔を並べた。
「……結構、いねぇよな」
「うん……」
ぺこらの知る範囲でもフブキ、ミオ、おかゆ、ころね、わためが不在。
死んだと考えるべきか。
「今日は私たちも寝よう。ぺこらちゃんだって完治はしてないんだから」
「――そうぺこな」
一行は絶望の淵でその夜を越したのだった……。
――――――――――
翌日の昼前、莉々華はふと目を覚ました。
覚醒の明確なトリガーは無く、目が覚めるとフローリングに視界の大半が覆われていた。
痛む腰と頬に配慮しながら上半身を起こし、周囲を見渡す。
殆どが乱雑に床に伏して寝ている中で、マリンはソファに寝ており、シオン、アキロゼ、ぺこら、トワ、すいせいは見当たらなかった。
少し歩いて寝室を覗くとシオン、アキロゼ、ぺこらはそこに布団を敷いて眠っていた。
「まったくぺこらさんは……」
相変わらずの優遇に莉々華は思わず苦笑した。
扉を閉めて庭の縁側に座り込み日光浴をする。
もう間も無く12時。
(…………)
一瞬空を仰いだが直ぐに膝を抱えて顔を埋めた。
右手で額を押さえて前髪を掴む。
(私は結局…………らでんの代わりにはなれなかった……)
自責の念に駆られ悶々と心に渦巻く蟠りが増幅してゆく。
心臓が苦しくなって左手を胸部に押し当てた。
(らでん…………)
瞼の向こうで朧げにらでんがはにかむ。
滲んだ絵画の様に淡く美しい。
「らでん……」
ぺた、ぺた……。
と頬を伝った雫が顎から2滴、縁側に垂れる。
ぺた、ぺたぺた、ぺたぺたぺた……。
「りりが……どうすれば……」
重圧に押し潰されて莉々華は独り涙し始める。
みるみるうちに水滴は小さな水溜りへと成長していく。
暗い、暗い世界へと引き摺り込まれて……。
――――。
「ぁあああああああ‼︎」
「――っ⁉︎ な、なに⁉︎」
闇の底に沈み行く莉々華を引き留めた1つの発狂。
屋敷全域に反響する騒音に仰天し、莉々華はびくりと肩を跳ねさせた。
あからむ両目を擦ってリビングへ――
「ころねっ‼︎ ころねぇっ‼︎」
「っあ――マリンさん‼︎」
リビングから飛び出したマリンを反射的に避けると、屋敷内を騒ぎながら奔走する。
マリンの通過した後には涙と汗が撒き散らされている。
どたどたどたどたどたどたどたどたどたどた…………。
「ころね! ころね、ころね! ころねころねころねころねころねっ‼︎」
ばたんがちゃん、がしゃんどたん、ばんばん……と屋敷内を荒らしまくってただ1人の存在を求めていた。
「マリンさん! 落ち着いて‼︎」
「はぁはぁ……! 莉々華‼︎ ころねは! ころねはどこだ‼︎⁉︎」
「っ…………」
ルビーの様な瞳が血走って一層赤々としていたが、そこに宝石を思わせる輝きはない。
はらはら流れる涙だけがきらきら輝いて……。
「ころね、さんは…………」
「――いや‼︎いい‼︎ 自分で探す‼︎」
「あ、まっ――!」
言い淀んだ莉々華を突き飛ばして屋敷の未捜索エリアへと駆ける。
全身の筋肉痛なんてお構いなし。
到底寝ていられない喧騒に、屋敷内の全員が目を覚ました。
「ころね! ころね‼︎ ころねぇっ‼︎」
だんっ、だんっ、ばたんっ!と幾つもの扉を開け放っては閉め、茶髪のイヌ少女を探す。
そして遂に――再び対面してしまう。
だんっ、と開いた扉の先――
「っチ。朝からうっせぇなぁ……何の騒ぎだよ」
「ん、んぅ……」
がらがらと掠れた寝起き声を放つミイラ。
その隣で眠気眼を擦るトワ――
かちゃっ――ぱぁん…………。
「っ――⁉︎」
トワの頭から数センチ外した床へ発砲。
トワの息が詰まって一気に意識が覚醒する。
「何でお前がいる‼︎」
常闇トワ。一生の中でマリンが2番目に憎む存在。
銃声を聞きつけて全員がその一室へ集結する。
「――マリンさん‼︎ 落ち着いてください‼︎ 今その人達は仲間です‼︎」
マリンの腕と銃を掴んで強行を押さえる莉々華他数名。
「はぁ――⁉︎ 仲間⁉︎ こんな奴が仲間⁉︎」
「言いたいことは分かります、けど!今は抑えて‼︎」
「ったくよ。これだから助けるのは癪だったんだ」
「……あ? ってかてめぇ誰だよ」
「はっ! おいおいマジか。片目しかねぇと人の顔も識別出来ねぇのかよ」
「――――」
ミイラ――否、すいせいがマリンを嘲笑う。
頭の包帯を捲って解いて行き、その荒んだ美貌が露わになった時――
かちゃっ、とマリンが纏わりつく者どもを振り払って銃を構え直した。
「お前ら――私の前で寝るとか舐めてんのか」
「寝てるとこに入って来たのはてめぇだろうがメンヘラ」
一触即発の空気に場が凍りつく。
莉々華が両者間に割って入り、仲裁を試みる。
「今はこんな事してる場合じゃありません。マリンさん、銃を下ろしてください。トワさんとすいせいさんも、呪は収めて」
「それはこいつら次第だろ」
「マリンさん! これでも2人はあなたを助けてくれたんです!」
「…………はっ。こんな奴らに助けられる筋合いはねぇよ」
「おお、そりゃあ悪かったなぁ、余計な事して。じゃあお詫びに――今殺し直してやるよ‼︎」
すいせいが拳を握って勇むと、トワが手中で発電しマリンがトリガーに指をかけた。
仲間内での殺し合いが始まる、その瞬間――
「やめて、マリン」
「――⁉︎」
マリンの全身を揺さぶる天使の声が室内に広がる。
敵対する2人の存在も、周囲の仲間の存在も全てを忘却して声のした方を――天音かなたの姿を探した。
「かなた……?」
振り返っても、何処を見渡しても、かなたはいなかった。
「すみません。奏がやりました」
「…………」
「今この場で争うのはやめてください。悲しいのは、辛いのは、あなただけじゃないんです」
「…………」
「しゃっちょーやぺこらさんだって、らでんさんをこの人に殺されてるんです。シオンさんだって、2人に恨みはあるんです」
「…………」
奏が紅の瞳に熱を込めて、でもやや冷めた声で宥める。
マリンが莉々華を、ぺこらを、そしてシオンを見つめた。
「お2人も、何の為にマリンさん助けたのか考えてください」
奏の透き通る美声に負の感情が中和されてゆく。
マリンが静かに腕を下ろした。
室内の静電気も消え、すいせいの全身も解れた。
「……ありがとう奏」
「いやいや〜」
奏の顔が突然ふやけてバカっぽくなった。
一つの演技を終えた役者の様な豹変に莉々華は苦笑する。
「……では、軽く昼を食べながら、状況確認でもしましょう。各自お手洗い等を済ませてリビングに集まってください」
莉々華は手をぱちんと叩いて注目を集め、皆に指示した。
扉前にいた者から続々と退室していき、昼前の一悶着が片付いたのだった。
――――――――――
各々が朝の支度をする内に、莉々華は車を出して街へ向かい、数軒のコンビニやスーパーを回って食事を調達して来た。
それらをリビングのテーブルに並べて各自自由に手を付けてよしとする。
おにぎりや弁当、レンジを使用する惣菜などを口に運びながら、状況説明が始まる。
「まず何よりAZKiさんの事ですね」
いの一番に話すべき話題、それはAZKiの呪いについて。
一部には既知の内容である為、その者達は食事に必死になっていた。
特に奏の貪る勢いは凄まじい。
「AZKiさんはかなたさんの呪いを継承しています」
「――――」
食事に手をつけず、俯いていたマリンが僅かに顔を上げた。
ころねの死とおかゆの不在については一足先に耳にしている。
聞いた直後は激しく取り乱していた。
「かなたさんにはマリンさん救出の作戦を伝えた際、らでんが呪いの継承について話していました」
「……記憶を見た時には無かったよね」
この場で数少ない記憶映像の視聴者であるシオンは、当時のシーンを想起して尋ねた。
「はい。カットしました。AZKiさんの存在はぎりぎりまで隠しておきたかったので」
「そっか」
シオンはぺこらと身を寄せておにぎりと惣菜に手をつけ始めた。
ぺこらが満面の笑みで食を進める。
「…………」
莉々華がマリンの様子を伺うが言葉一つ発さないので次へと進めた。
「次にすいせいさんと奏の生存ですね」
「……」
マリンがすいせいを睨んだが、すいせいは無視してゆっくり食を進めていた。中々に行儀良く食べていて数人が感心していた。
目配せで莉々華が話の主導権をAZKiに渡す。
「トロイア戦争の直後に私はトロイアへ向かったの。今後の行動をサポートしてもらう為に死者全員を味方につける予定だった」
「じゃあやっぱり他の人は……」
「あくあちゃんとスバルちゃんは死亡から1時間以上が経過してて手遅れだった。そしてらでんちゃん、いろはちゃん、クロヱちゃんはそもそも死体が見つからなかった」
トロイア崩壊に巻き込まれて瓦礫に潰されたり、フレアとみこの激戦の渦中にいた為に焼失したり。
「でも奏ちゃんは偶然その身体が残ってて、且つ死後1時間以内だった。死ぬタイミングと死に方、そして死んだ場所が良かったんだと思う」
みこの魔法で死んだ為体への損傷は無し。死んだタイミングもAZKiの到着1時間前の内。
そして何より運が良かったのは死場所。北門から一直線に伸びる通路上で死亡した事により、みことフレアの争いの最中、爆風でトロイア外まで吹き飛ばされたのだ。
奏は完全に話しそっちのけで、次の食品に手をつけていた。
勢いが凄すぎて一度莉々華が嗜める程に。
「……で、こいつは?」
ぺこらがすいせいを親指で指した。
ぺこら自ら葬った為、その結末は熟知している。
死場所も入り組んだ地形だった上に、天井の崩落にも巻き込まれている。
「あの時既に月が上がってた。天井の崩壊で月光を浴びれたんだ」
誰よりも早くすいせいは自供した。
狩猟の呪いは月光を浴びる事で更に強化される。
瀕死の状態ながら、月光を浴びる事で爆風にもトロイアの倒壊にも耐え抜いたのだ。
「でもどの道そこから動けなくて死にそうな所に、私が足を運んだの」
「…………」
「……で、上手く言い包めてこっちに引き込んで、今に至るかな」
「――――」
すいせいがAZKiを睨んでいた。
誘い文句は暴露されたくない様で、無言の圧をかけていた。
AZKiもその意図を汲み取って少々テキトーながら、話を締める。
話の主導権は莉々華へと戻った。
シオンは話のひと段落を確認してこっそり隣のぺこらのウサギ耳に耳打ちした。
「ねぇぺこちゃん。ぺこちゃんはここで何してたの?」
「ん? 食中毒でやられてて……って、りりーかに聞いてない、ぺこか?」
「え……」
ざっ、と視線が莉々華に向いた。
「え! 言いましたよ⁉︎ ちゃんと伝えました‼︎」
「ぺこちゃん、ちなみに食中毒って……」
「サルモネラ」
「あれ本当だったの⁉︎」
「本当ですよ‼︎ 言ったじゃないですか‼︎」
シオンが驚愕していた。莉々華はもっと驚愕していた。
しかしそれも仕方の無い事。莉々華の信頼度も低かった上に、サルモネラだ。
的中率は10000分の1と言う一生に一度当たるか否かの確率。
それをこの瞬間に引くなんて誰も思わない。
「信じてなかったんですか……」
「信じるわけないじゃんあんなの!」
「…………」
シオンの無意識な刃が突き刺さり、莉々華の瞳に影が差す。
ひっそりと自嘲の笑みを浮かべた。
「あの〜、いいですかぁ〜?」
「ん、何、奏」
「そこの2人は何なんでしょうか〜」
「「んむ……!」」
暴食を注意された奏が会話に参加してきた。
徹底して影に潜んでいたねねとラミィを奏が話題に持ち出して焦点にする。
2人はトワの背後で黙々と食事を進めていたが、視線が集まると怯える様に肩を跳ねさせて喉を詰まらせた。
ねねが胸をどんどんと叩いて嚥下を促した。
「こいつらはトワ達の後輩。インターン生のねねとラミィ」
軽く紹介して2人を背後に隠す。
ねねとラミィはこそっと会釈だけして再び影に帰った、が。
「人殺しの仲間かよ」
マリンがぼそっと、わざと全員に聞こえる様に呟いた。
ねねとラミィがまたびくんと跳ね上がり、手にしたおにぎりを床に落とす。
「こいつらは孤児院出身だし、仕事も何もしたことがねぇ。人なんか殺しちゃいねぇよ」
「人殺し集団に教育受けた生徒が果たしてそんな純粋なもんですかね」
「「…………」」
ねねとラミィは呼吸音すらも潜めて先輩の背に隠れ続ける。
マリンへ反抗したい気持ちはあったが、恐怖心の方が強かった。
だから代わりにすいせいが対抗した。
「お前さ、スバル殺したの誰か知ってるか?」
「――は?」
「知らねぇだろ、教えてやるよ。スバル殺したのはあのイヌネコカップルだ。ちなみにトドメ刺したのはネコの方な」
「…………」
途端にマリンは口篭った。
初耳だった。
すいせいがほんのり口角を上げて苛立ったが、反撃できずマリンは口先を尖らせる。
「それより莉々華。みこちはどうなってんだ。何となくしか理解できてないんだが」
「っ、ええ……話します」
すいせいが話を大きく転換して、要点を取り上げる。
マリンが不満げに床を凝視していた。
「最後の最後に現れた短いツインテの金髪女性。あの人は赤井はあとと言って、狂気の呪いの持ち主です」
「それは知ってる」「狂気の呪い……?」
「狂気の呪いは燻んだ心に付け入って、その人を負の感情――つまり狂気に染め、支配する呪いです」
「じゃあ3人はそれで……?」
「ミオさんとおかゆさんはそれですが、フブキさんは自分の意思で向こうに着いてます」
「――⁉︎」
莉々華の暴露に奏が動揺した。
シオンやぺこらも狼狽しているが、莉々華は一度それを保留する。
「それは一度後回しにして、みこさんの事を先んじて話します」
奏が動揺混じりにこくりと頷いた。
「実はみこさんは、あとひとつ魂のカケラを保有しているんです」
「――⁉︎」
「ホープダイヤだな」
「はい」
神の一団はしっかり認知していた。
みこが自身で所持し、守護していた、今では最後の一つとなったカケラ。
「あのカケラはみこさん本人にのみ破壊する事ができます」
「なるほどな」「――どゆこと?」
魂のカケラの性質について、トワやすいせい、奏は理解していたがぺこらやマリン、アキロゼなどは疑問符を浮かべていた。
「基本はみこさんのみしか破壊できませんが、みこさんが死ねば誰にでも簡単に破壊できるんです。だからあのカケラはみこさんを倒した後に破壊する想定でした」
「所がこうなっちまったと」
「はい。みこさんはこうなる事を見越して、ずっとはあとさんの存在を隠蔽していたんです。そして死後、はあとさんがミオさんの心を蝕んで支配――抵抗力の弱まったミオさんの肉体に自身の魂を憑依させる」
「なるほど……?」
理解力の乏しい面々が首を傾げつつ相槌を打つ。
だがこれ以上の説明は不可能な為、莉々華も「そう言う事です」と締め括ろうとした。
「待て莉々華。説明不足だ」
「…………」
すいせいが逃げる莉々華を摘み上げた。
みこの考案した作戦は中々の良案だが、極めて不自然な点が残っている。
「そらちゃんがいんだから、みこちは自身の肉体に還っても良かったはずだ。なのに何で態々はあちゃま使ったり面倒な事してまで狼の肉体を奪った?」
「敵を減らす為じゃないんですか〜?」
「んなわけあるか。扱い難い他人の肉体に憑依してまで敵1人を減らすより、扱い易い自分の肉体に還って数殺した方がよっぽど賢い。第一この作戦だと最低1人の支配が必要不可欠だ。失敗したら死ぬってのに、随分な賭けじゃねぇか」
「…………」
莉々華が黙り込むが、奏やその他はイマイチすいせいの列挙する点を不自然に思えなかった。
だが莉々華の反応からまだ隠し事があると悟り、反論はやめる。
「みこちはどうしても狼の肉体が欲しかったんじゃねぇのか?」
「…………」
「そこにお前の考える作戦が繋がってくるんじゃねぇのか?」
「…………」
「なあおい莉々華。いい加減明かせよ。こんな大失敗した後に黙って従えは流石に誰も付いてけねぇぞ」
「…………」
口を閉ざして俯いていた莉々華がそっと顔を上げると……一同の眼差しに突き刺された。
怖くなった……。
もう、分からない。
何を話していいのか、何を話してはならないのか。
でもここで拒めば、それこそ作戦は終わり。
話すしかない……せめて、ミオのことだけでも……。
「分かりました。でもこれは、他言無用でお願いしますよ」
マリン以外が気を張り、姿勢を正して首肯する。
莉々華は大きく息を吸って身体の震えを抑えた。
朱色の双眸で一同を見渡し握り拳を作った。
「……では、お話しします。ミオさんの呪い――天命の呪いについて」