叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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叛逆の刻印②

 

「天命の呪い……?」

 

 莉々華が紡ぎ出したその名には当然、誰1人聞き覚えはなかった。

 これまでひた隠しにして来たミオの呪いが明かされるも、その名前からは性能が測れずぴんと来ない。

 

 莉々華は緊張で発汗と呼吸、脈が早くなる。

 手に汗を握って唾を飲んだ。

 

 皆が食べ物から手を離し莉々華の話に聞き入る。

 

「必然と偶然。即ち、運命を意のままに操る力です」

「運命を、操る?」

 

 言葉自体はすんなりと飲み込めるが、その意味を理解しきれない。

 運命を操る、という事象が如何なるものか誰にも想像がつかない。

 

「言ってしまえば、世界は彼女の思い通りになるんです」

「どういう事……?」

「世界がこうあって欲しいと彼女が強く望めば、それは現実になる。本当は死にたく無いとか、かなたさんはもう助からないとか、フブキさんとずっと一緒にいたいとか、奏の死が嘘であってほしいとか、恐らく――みこさんを殺したく無いと言う思いも、その中に含まれるのでしょう」

 

 脳がショートした。

 

「「…………」」

 

 奏が訝しげに莉々華を凝視する。

 マリンが胸ポケットに手を当てる。

 すいせいが目を細める。

 

「これが大神ミオの持つ、天命の呪いです」

「じゃぁ……なに……? この結末を……あの子が望んでるって…………そう言いたいの……?」

「半分はその通りです。が、半分は違います」

「…………」

「ミオさんが常に結末を思い描きながら戦っていたわけではありません。ミオさんの呪いに関係無く起きてしまった事象も数多くあります。ただ、彼女が目にした現実を受け止め切れなくなった時、測らずしもその力は発動して運命を捻じ曲げてしまうんです」

 

 これまでミオが意図して呪いを発揮した瞬間は無い。

 ミオが現実を拒んだ時、そしてミオが絶対的な確信を持って未来を思い描いた時、この運命の呪いは世界に干渉するのだ。

 

「しゃちょ」

「ん」

「……ミオさんは、怪力の呪い、じゃ無いの?」

 

 奏がいくつかの想いを堰き止めて、冥界での事件を思い返す。

 初めて怪力を発動した奮迅獅子との衝突の時。

 

 冥界の風景を――真っ暗な街並みを頭に浮かべた時、何故か奏は2人に受け取った小さな愛と生きる意味を思い出した。

 

「はい。怪力はフブキさんの力です」

「……それじゃ、どうしてミオさんに……」

「あの時、2人の魂は入れ替わっていました。つまりフブキさんの魂がミオさんの身体で力を発動したんです」

「でもさ、それ以降もミオちゃん使ってたよね? って言うか何なら、2人とも使ってたし」

 

 シオンが不可解な部分を掘り下げた。

 莉々華はそっと首肯する。

 

「そう。彼女は錯覚してしまったんです。怪力を放つ自分の姿を前にして――自分には怪力が備わっているのだと。それが自分の呪いなのだと」

「つまり……思い込み?」

 

 強く思うだけで、運命を捻じ曲げてしまう。

 これが人に、世界にとって如何に驚異的な存在なのか、もう分かっただろう。

 莉々華は顎を引いて「思い込み」と言う表現を肯定した。

 

「だから私やらでんは、誰にもこの事を話さなかったんです。人々がこの力を恐れてミオさんが殺される、なんて事ならまだまだ安いもの。私とらでんが何より危険視したのは、力を自覚したミオさんが世界の頂点に君臨してしまう未来です。彼女が神の座に着くほど無法な事はないでしょうから」

「ミオさんとフブキさんは悪用なんてしないと思う」

 

 天才の思想を前に奏は真っ向から否定した。

 フブキもミオも他人を傷つけたりはしないと。他人を不幸にすると分かってその権力を振り翳したりしないと。

 

「そんな理想を語れるのは奏が一度も力を手にした事がないから。すいせいさんが、トワさんが、ぼたんさんが果たして特別だと思う?」

「「――」」

「いいや違う。それこそが人間の本質。それこそが動物の中にカテゴライズされたヒトと言う生き物の本性なの」

「…………」

「悪へと通ずる道は、いつだって目の前に伸びている」

「…………」

 

 弱者と揶揄されて奏はむっとしたが、反論の余地は無い。

 優れた身体能力も、飛び抜けた思考力も、他を圧倒する強力な呪いも、奏には何一つ備わっていないのだから。

 

 沈黙が広がる。

 この場に集う者は大半が弱者側の人間。莉々華やらでんの思想を理解し切れるかは定かではない。

 だが、一先ずの嚥下は終えたようなので莉々華は咳払いをして注目を集め直す。

 

「天命の呪い。その性能は理解できた、と見ていいですかね」

「「――――」」

 

 まばらに首が揺れる。

 衝撃が大きく反応が鈍い様子。

 莉々華は各々の目を見て全員が処理し終えるまで待った。

 

 そして……

 

「よし……では、呪い消滅の件に触れていきます」

 

 話題は次のステップへ。

 莉々華が執着していた呪いの消滅とミオの呪いの関連性。

 

「察しの言い方は気付いたでしょうが、みこさんを殺せば呪いが消える、と言うのは嘘です」

「――⁉︎」

「…………」

 

 シオンが1番驚いていた。

 莉々華の前置きがあった為に驚きを表面に出したく無かったようで、平静を装っていた。

 勿論隣のぺこらにはばれている。

 ぺこらは頬を緩めてシオンの横顔を眺めた。

 

「ミオさんにそれが事実だと思い込ませる為についた嘘です」

「アイツがみこちを殺して呪いが消えると思い込んでいれば、呪いが消滅するってのか? 呪いってそんな急にぽっと消えるもんか?」

 

 辿り着いた見解にトワが難色を示す。

 突飛にも思える策だが規模を考えると中々にバカバカしく現実的には見えない。

 いくらそんな力を持っていたとしても、呪い一つで全世界の呪いが消滅するものだろうか。

 

「そう思うのも無理はありません。呪いの始まりを知らなければ」

「「「――?」」」

 

 意味深長に言葉を加えて注目を誘う。

 期待以上に皆の視線が食いついて来た。

 

「呪いは人の進化の過程で生まれた物だと、以前はお話ししています」

「――」

「ですがすみません。それも嘘です」

「――――」

 

 頭を下げてきっぱりと言い切る。

 この期に及んで、嘘ばっかだなんて愚痴は出てこない。

 鈍く首肯して莉々華の言葉の先を待つ。

 

「世界に呪いを蔓延させたのは、他でもないミオさんです」

「――⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 影に隠れていたねねとラミィも、病んで憔悴していたマリンでさえも例に漏れず愕然と唇を震わせた。

 奏が重なる衝撃に顎を外していた。

 

「待て待て待て‼︎ それはあり得ねぇだろ⁉︎ 呪いは――呪いは! 1000年も前から存在してたんだぞ‼︎⁉︎」

 

 すいせいが掠れた喉から怒鳴り声を上げて咳き込む。

 マリンでさえ頭を抱えて懸命に理解しようと足掻いていた。

 

「ええその通りです」

「っ――――――」

 

 驚愕の波紋を打ち消す様に莉々華は冷静に告げる。

 

「人によっては学校などでこう習うはずです。呪いは1000年前に突如として生まれた、と」

「うん……私は習った」

「シオンは学校行ってないから聞くまで知らなかった」

「ぺこーらも」

 

 認知度は50%と言ったところ。

 

「ミオさんとフブキさんはそう習ったんでしょうね、きっと」

「――‼︎ じゃあまさか――⁉︎」

 

 誰1人出遅れる事なく真相に行き着いた。

 身を乗り出して莉々華を見つめる。

 

「ミオさんがその情報を真実だと信じた。いや……それが真実であってほしいと願ったから、時を超えて1000年前に呪いを発症させたのでしょう」

「そんな……バカな話があるかよ……!」

「あるんですよ。それが嘘偽りの無い現実なんです」

「っ…………」

 

「全ての呪いの始まりであり、そして終わりにする為に。この呪いと言う不穏因子の循環をその手で生み出して破壊する、天に選ばれし運命を司る女神と称して――らでんは彼女の呪いを『天命の呪い』と名付けたんです」

 

「――? ん、え?」

「――? ちょっと待て」

「どうかしましたか?」

 

 莉々華の締めくくる様な一言に奏とすいせいが疑問符を浮かべた。

 一点、聞き捨てならない発言があった様な気が……。

 

「らでんちゃんが名付けた……?って、どう言う……」

「ん、ああ……そう言えば誰も知らないのか……」

「――???」

 

 莉々華は顎に手を当てて小さく口を開けた。

 大したミスでは無いし、この際なので話してしまおう。

 

「呪いと異名の命名の大半はらでんがしてるんです」

「「え゛えっ⁉︎」」

 

 女性らしからぬ濁った声を上げてしまう。

 ねねやラミィ、シオン、AZKiといった面々は最早話についていけなくなっていた。

 

「すいせいさん、トワさん。2人は自分の呪いの名称と異名はいつ知りましたか?」

「え……と…………初めて名前を挙げたのは……みこち、か?」

「トワも…………多分みこち、か?」

「奏も。『声楽調律師』と呼ばれたのはらでんが初めてじゃない?」

「うんうん」

「以前のマリンさんの『魔女』と言う異名や、かなたさんの『堕天使』と言う異名も、神の一団に呼ばれたのが最初ではないですか?」

「……ん」

 

 今では何の気なく使っている異名と呪いの名称。

 それらを考案し敷衍させたのは紛れもなく――らでんとみこである。

 

「今でこそ我々の間では、呪いの刻印が差別対象になったりしませんが、神の信仰や崇拝が根強い国では、この瞬間にも呪いを忌むべき物として供養しています。万一にもそんな人達に会話を聞かれたら? 呪いに名称を付けたり、人を異名で呼ぶ事で、呪いとその所有者が紐付けられない様にしていたんです」

 

 伝聞ではあるが今尚上昇を続けるらでんの株に、ぺこらでさえも脱帽だ。

 すいせいが柄にもなく苦い顔をした。

 

「なあ莉々華」

「はい」

「今の話もそうだし、狼の身体を乗っ取ったりしてたのもそうだがよ……やっぱみこちって……」

 

 トワが恐る恐る言葉を紡ぎ、様子を伺いながら尋ねた。

 莉々華は躊躇なく首を縦に振る。

 

「みこさんは我々と同様に世界から呪いを無くそうと戦っている――謂わば、私の協力者にあたります」

「………………」

 

 遂に誰からも反応が得られなくなった。

 

 …………………………。

 

 反応にリソースを割けないほど頭が情報で一杯だ。

 

「……正直もう……キャパオーバーなんだが」

「脳みそが足りないよ……」

「そう……ですよね」

 

 莉々華は右手で首元を摩り視線を落とす。

 一度に喋り過ぎた。

 

「ごはん……たべましょうか……」

「ん……そうぺこな」

 

 情報整理も踏まえ、一時的に会話を中断し全員食事に集中する事に。

 皆が各々好みに合わせておにぎりや惣菜を選ぶ中、やはりマリンだけは食事に手を付けない。

 マリンの立場になれば食事が喉を通らないのも頷ける。だが、マリンだって昨日大怪我を負い、火事場の馬鹿力を発揮して全身筋肉痛なのだ。

 傷が癒えたとは言え、エネルギーは確実に不足している。

 

 このままでは奏がマリンの分まで平らげてしまうと危惧したシオンが、ぺこらの隣からマリンの隣へと移る。

 ぺこらはその様子を黙視していた。

 

「何かしらは食べなよ」

「…………ん」

 

 シオンに差し出されたおにぎりを素直に受け取った。

 すんなり受け入れられシオンは肩透かしを食らった気分になる。

 昆布のおにぎりのビニールを剥がすと、一緒に海苔まで剥がれて持ち手がとても狭くなった。

 ぱらぱらと海苔の破片が床に散らばる。

 

「む…………っ……」

 

 一口齧ってくちゃくちゃと咀嚼するが、口内の水分が枯れ切っていて飲み込めない。

 ずっと咀嚼を続けた。

 

「はい、お茶」

「…………ん、っく」

 

 ペットボトルのキャップを外して麦茶を渡すとごきゅっと口内を潤しながらおにぎりを喉奥へ流し込む。

 

 まるで年寄りの介護だ。

 …………いや、あながち間違いではないが。

 

 マリンと結ばれる超急展開は果てしなく低いと見て、ぺこらは2人から視線を外し莉々華の側へ寄った。

 

「ごはん幾らしたん? ぺこーら出すよ」

「気にしないで下さい。これくらいは私が持ちますよ。これでも私社長なのでお金はある方なんですよ」

「そ? なら、ごちそーさま」

「はい」

 

 そんなやり取りをして、2人は奏の暴食に目を光らせた。

 

 

「お前らありがとな。よく分かんねぇのにこっち来てくれて」

 

 元神の一団組が4人で惣菜やおにぎり、パンを口に運びながら小さな輪を作っていた。

 トワの心からの謝礼と朗らかな微笑みにねねとすいせいが頬を赤らめる。

 

「ねねはとわわ先輩の言う事なら、何でも信じてるから」

「そっか。嬉しいよ」

「「――!」」

 

 トワがいつに無く素直に感情を吐露するので、ねねとすいせいは胸を打たれていた。

 そんな微笑ましい環境の中で、ラミィだけは表情が優れない。

 

「……」

 

 ラミィがこちら側に着いた理由は、以前の日常を取り戻したかったから。

 でもそれはあくあが死んでいる以上、もう取り戻せない日常。

 この思いを吐き出したいが……トワが、すいせいが……シオンがそれを許さない。

 

「ラミィ……?」

「――ん⁉︎ どしたー⁉︎」

 

 ラミィの顔色と活気のないアホ毛を見て心情を察したねねが声を掛ける。

 勢いだけはある返事が響く。

 

「だいじょぶ?」

「だいじょぶだいじょぶ! もうめっちゃ元気だから!」

「…………」

 

 雰囲気だけは元気だからトワもすいせいも気付かない。

 でもねねには分かる。

 いつも側で見てきたから。

 

 ねねはラミィに優しく笑いかけた。

 年不相応に幼い笑顔だ。

 

「大丈夫!」

「……だからそう言ってんじゃん」

 

 満更でもなさそうにねねの気遣いを受け取る。

 ぽかぽかと心が温まって心地良い。

 

「ほいラミィ、おチソチソパンあげる」

「いらんわ」

 

 ホットドッグの様にソーセージを挟んだパンをラミィに押し付ける。

 雑に振り払って食べかけのおにぎりを完食。軽く惣菜をつついてラミィは食事を終えた。

 

 

「あずちゃん。後で武器の材料を買いに行きたいから、付き合ってもらっていい?」

「いいよ」

「それなら私も行こっか? 荷物多くなるでしょ」

「ありがとう」

 

 ロボ子、AZKi、アキロゼの大人組は早々に食事を終えてこれからの行動を打ち合わせている。

 ロボ子はこの国の住人ではない為、店などの場所も知らない。

 当然案内人が必要となる訳だが……その会話に聞き耳を立てていた莉々華が割り込んでくる。

 

「すみませんロボ子さん。ロボ子さんとAZKiさんには先に行ってもらいたい場所があるんです」

「言って欲しい場所? どこ?」

「青さんの家です。青さんをここに連れてきて欲しいんです」

「いいけど……見たい記憶でもあるの?」

「いえ、人材が欲しいので」

 

 莉々華はそれだけ告げて元の位置に戻る。

 そして全員が食事を終えたことを確認し今一度手を鳴らして注目を集める。

 

 

「皆さん。一度整理はついたでしょうか?」

 

 

 一人一人の目を見て確認する。

 時折目を逸らされたりするが、一通りの整理はついた様だ。

 

「私はこれから、ミオさんの身体からみこさんの魂を引き剥がして、今度こそミオさんに呪いを消してもらおうと考えています」

「そう言うとは思ったよ」

「「「…………」」」

 

 シオンやラミィ、マリンが俯いて現実から目を逸らす中、トワは率直な思いを莉々華にぶつける。

 

「莉々華。正直に答えてくれ。この場にいる全員がお前の指示に従うとして――それは実現しそうか?」

 

 トワの疑問は全員の疑問。

 皆の思いが一緒くたになって莉々華へ押し寄せる。

 

 莉々華は真摯な瞳で視線を返した。

 瞳の中の朱色の炎が弱まっていく。

 

「……っ……正直に言えば……私自身はもう、無理なんじゃないかと、思ってはいます」

「「…………」」

「でもここまで来た以上――生きてる限りは足掻きたい。それに、みこさんがこの状況を作り出したのならば、まだ希望はあるのかもしれない」

「「…………」」

「お願いします。皆さんの力を私に貸してください」

 

 直角に腰を折って深々と莉々華は懇願する。

 トワとすいせいが顔を見合わせて嘆息する。

 マリンがまじまじと莉々華を見つめる。

 

「はぁ……ま、ここまで来て引けはしねぇぺこな」

「……そうだよね」

「奏は行きますよ! やっと意味を見出したので!」

「トワは端から行く気だ。まつりやポルカ達だって心配だし。何よりそれをみこちが望んでんなら、やるべきだ」

「トワが行くなら行く」

「ん、ねねも」「ラミィも」

 

「AZKiは莉々華ちゃんに従うつもりだよ」

「ボクはどっちでもいいけど」

「私は当然行くよ。らでんちゃんの意思を継がないといけないし」

 

「……私も、いく」

 

「――!」

 

 皆が賛成に揺れ、遂にはマリンまで小さく宣言した。

 同調圧力に屈したのかと莉々華は思わずマリンを見つめ返す。

 が、その目を見て感嘆した。

 

「おかゆを……おかゆを救わないと…………」

 

 生きた意味がない。

 かなたに、ころねに、面目が立たない。

 死後に合わせる顔がない。

 

「ありがとう――ございます……‼︎」

 

 莉々華の目には涙が滲んだ。

 はらはらと溢しながらもう一度更に深く感謝を伝える。

 

「はっ、別にお前の為じゃねぇけどな」

「むっ、折角しゃっちょが干渉に浸ってるんだから、一々水差さないでよくないですかぁ〜⁉︎」

「や、やめてよ! 別に浸ってないから……!」

「え〜だって顔赤いじゃ〜ん」

「お前が水差しでどうすんだよ……」

 

 奏に揶揄われて感情が安定し始める。

 服の袖で涙を拭いきりりと正面を向いた。

 視界が少し晴れやかだ。

 

「それで。作戦はお前が考えてくれんのか?」

「っ。はい。使えるメンバーでどう戦うか、私が考案します。ですがやっぱりこれだけじゃ戦力が心許ないので人材を集めたいんです」

「ほう?」

「それで青さんなんだね?」

「はい」

 

 まず1人。火威青。

 持つ呪いは記憶を操る呪いで、正直戦力にはカウントできない。

 

「それともう1人当てがあるので、私はそちらに向かいます」

「だれ?」

「――ノエルさんです」

「――‼︎」

「上手く引き込んで、フレアさんを寝返らせる事が出来れば――或いは!」

 

 その交渉はやはり、知識を持ち、らでんには劣るが頭の回る莉々華がうってつけ。

 だから青をAZKiとロボ子に任せたいのだ。

 

「トワも1人、仲間にできそうな奴に心当たりがある」

「――。ではそちらはお任せします」

「ああ」

 

 首尾よく進んで3人の増兵。

 まだ心許ないが一先ずその3人の引き込みからだ。

 

「そうと決まれば動きましょう。AZKiさん。昨日使った新車を使ってください。私は自分の車で向かいます」

「じゃあ、トワの事はあたしが運ぶか」

「あ? いいよ。昨日酷使して潰れてたんだから、お前は休んどけ。テキトーにタクシー拾ってくから」

「あたしも行くっつってんの。タクシー代もったいねぇだろ」

「あのウサギがどうせ負担する」

「は? しねぇけど」

「…………」「ほら見ろ」

「いや! どうせ莉々華が負担する!」

「……まあ、してもいいですけど」

「ほらな」

 

 無益な口論が勃発。

 大半の者は呆れ果てていたが、ねねとラミィだけは陽気に笑っていた。

 そして何故か奏は歓声を上げて囃し立てている。

 

「とにかく! お前はもう以前の身体じゃねぇんだから、もっと自分を労われ。作戦当日にお前が使えなきゃ困るだろ」

「……いやだ」

「――っだぁーもう! あのなぁ!……」

「一緒に行きたい……」

 

 駄々を捏ねる幼児みたく口先を尖らせる。

 最後の甘えた声にトワが怯んだ。

 

 莉々華がやれやれと肩を竦める。

 奏が口元を押さえてにやにやと笑う。

 ぺこらとマリンが嫌悪感を露わにして舌打ちする。

 

「……わかったわかった! んじゃもう何でもいいよ」

 

 先に屈したのはトワだった。

 すいせいの顔がぱぁっと明るくなる。

 

 莉々華はもう一度肩を竦め、額に手を当てる。

 

(やれやれ……誰も彼も鈍感なんだから……)

 

 口論の傍観も終え、莉々華は席を外す。

 すると皆ぞろぞろとリビングを後にし支度へと移る。

 

 簡単に身支度を進める莉々華の元へマリンがのそのそとやって来た。

 

「莉々華……」

「はい、何です?」

「ノエルのとこ……私も連れてってほしい」

「ぇ……あぁ――分かりました」

「……ありがと」

 

 マリンの意図を察して莉々華は笑顔で快諾。

 マリンもぶっきらぼうながら感謝を伝えて準備へと移った。

 

 

 

 そして数分後、莉々華とマリン、AZKiとロボ子、トワとすいせいが玄関を出る。

 

「留守は任せます。外出は極力控えてください」

「おけ」

「それとぺこらさん。今スマホあります?」

「あるよ」

「なら大丈夫です。もしかしたら連絡するかもしれないので」

「んー」

「それでは行ってきます」

「「行ってきまーす」」

「気をつけてね」

 

 挨拶を済ませてAZKiが玄関の鍵を閉める。

 そして莉々華とマリンは赤い莉々華の車に、AZKiとロボ子は傷だらけの青い新車に乗り込み、すいせいとトワは国外までは徒歩で向かっていった。

 

 

 

 6人を見送った後、リビングに戻ると奏がぽつんと呟く。

 

「何だか色々聞きそびれちゃいましたねぇ〜」

「え……逆に聞きすぎて満腹なんだけど……」

「え〜。フブキさんの呪いとか、神様たちの詳細とか、他にも色々ありますよ〜?」

「流石に一気には無理ぺこな。りりーかが戻ってまた落ち着いたら聞けばいいぺこよ」

「まあそれもそうですねぇ〜」

 

 ゆるゆると答えて奏はソファに腰を下ろす。

 そして直ぐに立ち上がり、暇つぶしアイテムを物色する。

 

「ねえ奏ちゃん」

「はい〜?」

 

 うろうろとリビングを徘徊する奏にシオンが語りかけると、手と足が止まる。

 長い金髪を振り乱して赤い瞳をシオンへ向けた。

 

「さっき言ってた『やっと意味を見出した』ってどういう事?」

「ぇ……何のことですかねぇ〜」

 

 シオンも奏同様に暇つぶしを求めていた様だ。

 興味本位で尋ねたが奏はしらを切ってまた室内物色へ。

 その後ろ姿をリビングにいる全員で見つめた。

 

 無性に視線を感じて背中が痒くなる。

 振り返ると案の定皆の視線が向いていて少し怖い。

 

「な、何ですか〜?」

「いや気になるじゃん。ね?」

「「「「うん」」」」

 

 シオンの同調を求める声に刹那の狂いも無く皆が頷く。

 素晴らしい連携力だ。そして何故ねねとラミィまで味方につけているのか。

 

「うぇ〜〜〜? 面白い事とか何も無いですよ〜」

「面白い話しろなんて言ってないじゃん」

 

 必死に食らいついてくるシオンを振り払おうと躍起になるも、どんどん逃げ場が狭くなる。

 奏は照れ臭そうに鼻を擦った。

 

「ほ、ほんとにしょ〜も無い話ですからね?」

「それでいいって」

 

 シオンに追い詰められた奏が口を割った。

 ほのぼのとした明るい顔で……

 

「実は奏、ずっと死にたかったんですよ」

「「「「「…………」」」」」

 

 奏の立ち位置を除いた室内の重力が増した。

 奏は自嘲気味に笑い続けている。

 

「何の役にも立たない呪いが出来て、ただ独り放浪詩人と偽って国を転々としてました」

 

 フブキとミオにだけ語った想いを奏は明るく語る。

 奏の醸し出す雰囲気と話の内容が乖離し過ぎて温度差で頭が痛くなる。

 シオンは息を飲んだ。

 

「そんな中フブキさんとミオさんに出会って、色々あってお供することになって……でも奏は2人の苦難を手助けしながら上手く、美しく、格好良く死にたいなぁ〜……なんて思ってたりしてて」

 

 本人は今では過去の事として割り切っているが、周囲はそうもいかない。

 軽い気持ちで振った話が想像以上に重苦しい話。

 奏の軽い口調に引き込まれる。

 

「それでまた色々あってこの話をフブキさんとミオさんにだけ打ち明けたんですよ〜。そしたら何て言ったと思いますかぁ?」

 

 奏が当時の情景を思い描いて目の下を温めた。

 

「奏が死んだら悲しいって――言ってくれたんですよぉ〜」

 

 あの時は自分も二人も欺いて、誤魔化して、はぐらかしたが、今なら面と向かって言える。

 奏はあの時二人に救われた。

 あの飾らない言葉が優しくて、温かくて、嬉しかった。

 

「でもその時はまだ、奏も自分の心の整理がつかなくて、でもぼんやりと二人の手助けができればな〜、くらいに思ってトロイアに行って、死んじゃいまして」

 

 奏の最後を見た者はいないが、その死体はフブキとミオによって観測されている。

 

 ぽわぽわと陽気に語る奏のメンタルの強さに傾聴者は感嘆した。

 きっとこれが、音乃瀬奏の何よりの長所だろう。

 

「でも殺される直前に奏、分かっちゃったんです。自分のやりたい事」

 

 死を直感して死ぬまでの時間は数秒にも満たない。

 その数瞬の内に脳裏を過ったフブキとミオの全て。

 皮肉な事に死の間際にして漸く奏は、生きる理由を見つけてしまった。

 

「そのやりたい事――見出した生きる意味と言うのが『フブキさんとミオさんが幸せに暮らすお手伝い』です」

「「「「「………………」」」」」

 

 奏がにこっと麗しくはにかんだ。

 後光が差して見える程に眩い笑顔に目が焼かれる。

 

 奏は顔をほぐして聴者の様子を初めて伺い、首を傾げた。

 感嘆していたり、感激していたり……種々様々だが大きく括って皆感動していた。

 

「どうしたんですか〜?」

「っ、どうしたって……びっくりしてんの! しょーもない話とか言うから全然身構えてなくて!」

「え〜? しょ〜もないお話ですよ〜。死ぬまで自分の生き甲斐も見つけられない、愚かな美少女の、どうしよぉ〜〜〜もないお話です」

 

 本来であればこの物語は終わっている。

 奏の新たな夢は、夢のまま終わるはずだった。

 だから奏は一生自分の人生を後悔して生きるだろう。

 こんな形で夢を叶えてしまうのは少々卑怯とも言えるから。

 

 奏以上に涙ぐむシオンを見て奏は苦笑した。

 

「はいじゃあ次はシオンさんの番で〜す」

「へ、ぇ⁉︎」

「奏のしょ〜もないお話の次は、シオンさんのしょ〜もないお話を聞かせてください」

「いや、それは……」

「その後はぺこらさんで、その後はアキロゼさん。それからお2人にも話して貰いますよ〜」

「うげっ……」

 

 うざ絡みにねねやラミィが一瞬たじろぐ。

 ぺこらはシオンの様子を気にかけていたが、奏に聞いた以上は自分もと最終的には昔話を始めたのだった。

 

 こうして一同は各々の出自や人生を語り、6人不在の暇を潰して行ったのだった……。

 

 

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