叛逆の刻印〜刻まれし天命〜   作:炎駒枸

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叛逆の刻印③

 

 時刻は17時。

 車を走らせて山間部に位置する辺境の村までやって来た莉々華とマリン。

 すっかり廃れたこの村に住んでいるのは白銀ノエルただ1人だけ。

 車をノエルの家の前に停め、莉々華はノエル宅の玄関前へ、マリンは敷地を出てかなたの墓へと向かう。

 足早に遠ざかるマリンの背を一瞥した後、インターホンを押した。

 

 ぴーんぽーん……。

 

『…………はい』

 

 インターホンのマイクを通して気怠げな声が流れてくる。

 

「どうも一条莉々華です。お話があるのですが少々お時間宜しいでしょうか?」

『……今度はどんな厄介事?』

「外では話せないので、中へ入れてもらえないでしょうか?」

『…………はぁ。ちょっと待って』

 

 ため息の後ぷつんとノイズが切れると足音が近付いてきて――玄関の戸が開く。

 長くない銀髪と豊満な胸を揺らし、ノエルが顔を出した。

 真っ赤な車を一瞥してまたため息をつく。

 

「車の音が聞こえたからまさかとは思ったけどね……」

「ええ、何度もすみません」

「それで何の用? まさか報酬を渡しにでも来てくれたん?」

「報酬?」

「……いやいい」

「――! ああすみません! 約束の報酬はもう少し待ってください‼︎」

「忘れとったやろ……まあいいけど」

 

 報酬という単語に一度首を傾げ、以前の件を思い出す。

 あたふたと慌てる莉々華に嘆息してノエルは宅内へと入って行く。

 莉々華も小さく謝罪と挨拶を込めつつ会釈して、家の中へとお邪魔した。

 

 以前訪れてからまだ2日ほどしか経過していない事が莉々華の中でも驚きだ。

 

 食卓の席を莉々華に勧め、ノエルはお茶を用意しにキッチンへ。

 透明なコップにお茶を注いで莉々華の前に配置。もう一つを自分の手に持ち、莉々華の対面に着席した。

 

 莉々華は提供されたお茶の揺れる水面を見つめる。

 

「そんで。話ってのは何?」

 

 お茶を啜りノエルが切り出した。

 莉々華はコップを握り締めて顔を覚悟で覆う。

 

「――単刀直入に言います。フレアさんを止めてください」

「…………」

 

 莉々華の瞳を見つめていたノエルの視線がテーブルへと落ちて行く。

 ことっ、と包む様に握っていたコップを置くと、重たいため息を吐いた。

 そして儚げに微笑む。

 

「……やっぱり、フレアは神様の方についたんじゃね」

「はい。次の戦いで決着をつける腹積りですが――正直、フレアさんにはお手上げです。真っ向勝負でフレアさんを足止め出来る人が居るかすら怪しい所」

「じゃろうね。フレアを怒らせて止めれる人なんておらんよ」

「ええ、ただ1人あなたを除いては」

「何ゆーちょるん? ノエちゃんの呪いは――」

「呪いの話じゃありません。何も止める手段は力技に限らない」

「…………」

 

 一度だけしらを切ろうとしたが莉々華には見え透いている。

 莉々華には嘘もブラフも通用しない。

 真摯な瞳を前にノエルの表情が陰る。

 

「……どうして彼女が好きなんですか? まだ出会って半月も経っていないはずです」

「さあね……好きなもんは好きなんよ」

 

 付き合いは短いが関係は深い。

 ノエルがまた儚く笑う。

 

「……フレアさんの説得、お願いできませんか? 呪いは消えますけど、その後の暮らしの保証程度なら私がします」

「ごめんけどそう言う問題じゃないんよ。フレアがそうしたいって言う以上、ノエちゃんはフレアの意思を尊重する」

 

 莉々華に視線と言葉を返し、頼みを断る。

 しかしノエルの瞳は揺れていた。

 

「このままだとフレアさんは人を殺すかもしれない。フレアさんが道を踏み外しそうな時、手を差し伸べて正しく導くべきなのは――あなたなんじゃないんですか?」

「…………」

 

 ノエルが難しい顔で口をもごもごさせる。

 

「お願いしますノエルさん。1人の傲慢さの為ではなく、幾つかの命の為に選択してください」

「でも……」

 

 莉々華の執拗な懇願と説得にノエルが揺れ始めた。

 もうひと押し、あと少しでこちら側へ振り切れる――

 

 

「ただいまー!」

 

 

 そこへ温かく張りがあり、それでもってやや高い声が――。

 玄関からだ。

 

「――⁉︎」

「フレア……」

 

 莉々華は動揺して勢いよく席を立ち、コップを倒してしまう。

 慌てふためく莉々華と席に鎮座したノエルの色と感情の異なる視線が、リビングへ入ってくるフレアへと向いた。

 

「帰っ…………」

「っ…………」

「…………おかえりフレア」

 

 気の抜けた視線が莉々華を視界に入れた途端鋭くなる。

 ノエルの遅れた返答にも言葉一つ返さず、莉々華を睨み続けた。

 だがやがて――

 

「……うん、ただいま。何話してたの?」

「ん……フレアを……説得してくれって」

 

 傲慢な夫に圧力をかけられた気の弱い妻の様に、ノエルはぽろりと口を割った。

 莉々華の焦燥感が増し悪寒が走る。

 

「ふ〜ん」

「――! 待っ――」

 

 バッ……と炎の槍を莉々華の喉元に突きつけた。

 察知したが静止が間に合わず莉々華は両手を上げて喉を鳴らす。

 熱で急速に全身が乾き、発汗が増した。

 体がべとつく。

 

「あんたとマリンだけ?」

「ぇ……? マリンも来とんの?」

「お墓の前にいた」

「…………」

 

 ノエルが中腰で墓の方角を見た。当然内装しか目に入らないが。

 

「今ここで死んだら、流石に蘇生も間に合わないんじゃない?」

「……ええ……間違いなく」

 

 そんなノエルは差し置いてフレアと莉々華が睨み合う。

 文字通りバチバチと火花が散り一触即発の剣幕な空気。

 

 莉々華はごくりと息を飲んだ。

 服がもっと体にへばりつく。

 

「フレア……」

 

 ノエルが浮かせた身体をフレアの方へ向け中腰のままそっと宥める様に声をかけた。

 フレアの視線は然として莉々華を捕え続ける。

 

「コイツさえ死ねばみこちに歯向かう手立てが完全に潰える。そうしたら、あたし達はまたここでのんびり過ごしていける」

「……」

 

 ノエルが憂色を漂わせる。

 莉々華は喉元の炎を凝視した。熱で沸騰してゆく脳みそを全力で稼働させて即席の打開策を練る。

 

「――無意味ですよ。私は既に呪いの継承先を決めています」

「……」

 

 上げた両手に力を加えて震えを抑止する。

 フレアが太陽の瞳で睨み返した。眼力で焼き尽くす勢い。

 

「私を殺しても『知識の呪い』は消えません。それどころかあなた達は敵を1人見失うことになります。態々ここに死体を作ってもマイナスに働くなんて、あまりに愚策だと思いませんか?」

「…………」

 

 フレアの顔が嫌悪感に染まった。

 眼力を強めつつも炎は収める。

 急速に室内が冷めて行く。

 

 フレアも莉々華も腕を下ろしたので、ノエルも漸く腰を下ろす。

 

「はァ…………分かったよ見逃すよ――ッ‼︎」

 

 不快感を露わにフレアは舌打ちした。

 プイッとポニーテールを振り乱して莉々華から視線を外す。

 

「ありがとうござい――」

「そのかわりもう帰って」

 

 誠意の無い礼を妨げてフレアは告げる。

 莉々華には目もくれずに。

 

「ここに来てまでアンタらを見たく無い――!」

「……」

 

 莉々華は一考した。

 これ以上フレアの神経を逆撫ですれば利害を捨てて焼かれる可能性も出てくる。

 どうやら交渉は失敗のようだ。

 

「分かりました。帰ります」

 

 莉々華は溢したお茶が滴る様を一瞥してフレアの隣を通過する。

 莉々華の移動に合わせてフレアは視線をずらし、徹底的に視界から莉々華を追いやる。

 扉を開き莉々華は動きを止めた。

 

 それを知ってか知らずかタイミングよくフレアが呟く。

 

「もうここには来ないで」

「……分かりました」

 

 背中を向け合う2人をノエルが忍びなさそうに見比べる。

 

「ただフレアさん。最後にひとつ、みこさんへの伝言をお願いします」

「いやだ。そんな義理はない」

「では一方的に伝えて帰ります。今から丁度1週間後の金曜日、17時頃に我々は聖域へ踏み込みます。それが最後の戦いです」

「――――」「…………」

「お邪魔しました」

 

 ぱたんと扉を閉めてリビングを退室、そして廊下を通って玄関へ。

 靴を履いてノエルの家を出る。

 

 莉々華はノエルの家の敷地を離れて暗がりへと向かって歩いた。

 その先の墓前に夕焼けよりも赤い髪を揺らす少女が座している。

 足音を最小限に抑えて背後に立った。

 莉々華の長い影がマリンを覆い尽くす。

 

「…………」

 

 両膝を抱えてぎらぎらと眩く夕焼けを反射する義翼を見つめるマリン。

 躊躇いがちに莉々華はその背へ声をかけた。

 

「……マリンさん、話が終わりました」

「もうか…………こう言う時に限って早いな」

「すみません。予想外にもフレアさんが帰宅されたので」

 

 目が痛いであろうに……それでもマリンは義翼から目を離さない。

 莉々華は自分の影をもっと伸ばして義翼を夕陽から隠す。

 マリンが細めていた目を大きく開けた。

 

「なぁ……」

「はい」

「莉々華はさ、どう思う……」

 

 脈絡の無い質問。

 莉々華はマリンの思考を下ろしてしばし沈黙した。

 

「…………」

「…………」

 

 2人で義翼を眺める。

 

「……法律に縛られない限り、善と悪は各個人が身勝手に決めるものです」

「じゃあ私は悪だ。私は私を許せない」

「なら、そうなんでしょう」

 

 マリンがじっと目を細めて儚げに義翼の光沢を見つめる。

 

「私があの時……ちゃんと獅子を殺していれば、ころねは死ななかった」

「ええ」

「私があの時……ちゃんと陪審員を殺していれば、かなたは羽を失う事すら無かった」

「ええ」

 

 そのifは大いにあり得る。

 でもそのifは存在しない。

 莉々華は冷徹にマリンの言葉を肯定した。

 

 丸く縮こまった背中を見下ろして莉々華は息を吸いこむ。

 

「確かに、人を殺せないのはマリンさんの弱さだと思います」

「……ですよね」

 

 マリンは己に落胆した。

 

「でも、人を殺さないのはマリンさんの強さだと思います」

「……どうかな」

 

 マリンは自嘲気味に鼻を鳴らした。

 

「……さあ、帰りましょう。時期日没です」

「……ん」

 

 莉々華は背を向け墓から遠ざかる。

 マリンも重たい腰を上げて地面に膝をついた。

 真っ直ぐ車へと向かう莉々華の背をちらと確認して、マリンは義翼に口元を寄せた。

 視界に暗幕をおろし、舌を喉奥に引っ込めて優しく唇を添える様に――つ、と接吻する。

 喉奥に引っ込めた舌が無意識に伸びて義翼をちろりと舐めた。

 生温い銀の舌触り。

 微かな接触ながら銀の味と共に懐かしい香りが口腔を流れる。

 

 ちゅぴ……と艶かしい音を立てて義翼から唇と舌を剥がした。

 唇の触れた位置がぺとりと濡れている。

 

「また来るからな」

 

 義翼を視線で撫で回して2歩だけ後退りすると、夕焼けに向かって歩いて行く。

 ノエルの家の敷地に入ると莉々華は既に乗車してエンジンを掛けていた。

 普段通りの足取りで後部座席へ向かい莉々華の真後ろに座った。

 

 がっ、とドアのロックが掛かり車が動き出す。

 滑らかに曲がって車は夕陽へと続く田舎道を進む。

 

 遠ざかって行く真っ赤な車を、墓前の義翼がぎらぎらと見送ってくれていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 とある国の住宅街。

 AZKiの運転するズタボロ新車が青の家に停車した。

 周囲を警戒しつつ車を降り、ロボ子がインターホンを鳴らす。

 

 ぴんぽーん……

 

 火威の表札を見つめて応答待機。

 ぱちっと通話の始まる雑音が鳴る。

 

『……どうかしました?』

「ちょっと話があるの、入れてもらってもいい?」

『少々お待ちを』

 

 ロボ子の顔をカメラ越しに確認した為、青は警戒心を見せなかった。

 通話を切って数秒後、鍵と玄関の扉が開く。

 

「お待たせ致しました――おや、そちらはニューフェイスですね。うん、ビューティービューティー」

 

 ロボ子と並ぶAZKiの全体像を捉えて整った顔を何度も振る。

 AZKiはあははと拙い愛想笑いを浮かべてロボ子に視線を送る。

 ロボ子は肩を竦めて苦笑した。

 

「上がっていい?」

「ええ勿論。お手をどうぞレディ達」

 

 差し出された右手を華麗にスルーしてロボ子は家に上がり込む。

 青の背後から困惑するAZKiを手招きした。

 震える笑みを絶やさぬ事に神経を使い早速疲れる。

 ロボ子に倣い青の差し出す手を無視して玄関へ。

 

 青は爽やかなイケメンを保って扉と鍵を閉めた。

 

「さあ、ずずっと奥へどうぞ」

 

 青の指示に従い真っ直ぐ廊下を進みリビングまで。

 小綺麗な内装が広がる。

 至る所に小物が置かれており、そのセンスに若干の幼さと女子力を感じた。

 

「どうぞかけて。飲み物はシャンパンでいいかな?」

「2つお願い」

「はーいシャンパン2つ入りまぁーす‼︎」

「コール、砂糖、ミルクなしで」

「……はい」

 

 AZKiと並んでソファに腰を下ろすとロボ子は微笑んで告げた。

 青はしゅんと肩を落としキッチンで手を動かし始めた。

 まずは電気ケトルに水を汲み電源を入れる。

 次にコーヒーの粉が入った缶とコーヒーカップを3つ、更にコーヒーメーカーを用意。

 菓子やスイーツは無いので準備は以上。

 青はキッチンからソファの2人に視線を向けた。

 

「ロボ子さんが来たと言うことは、叛逆は終わった、と言う認識でいいのかな」

「概ねそんな所。でも成功じゃなくて失敗だね」

「そうだったの……まあ、何というか……災難だったね」

「テキトー言っちゃってー。ただの失敗なら全然痛手にはならなかったんだよ」

 

 青が首元を押さえて気まずそうに相槌を打ったが、ロボ子の更なる返答にきょとんとする。

 イケメンに似つかわしく無いつぶらな瞳だ。

 

「ボクの知る範囲でころねちゃん、奮迅獅子、計略家が死んだ」

「……? えっとうん……3人も死んじゃったんだね……」

「2人は神側の人だよ」

「え……ああ、どうりで仔犬ちゃん以外知らないと思った」

 

 あははと苦い笑いを溢して青はネガティブな空気を払拭させる。

 背後でケトルが蒸気を吹き始めた。少しうるさくなる。

 

「それだけじゃない。経緯は一度省くけど、フブキちゃん、ミオちゃん、おかゆちゃん、それからわためが今は神側に付いてる」

「仔猫ちゃん達が……?」

「色々あってね」

 

 青の表情が憂いに陰る。

 ロボ子もAZKiも芳しい表情はしていない。

 

「でもあと一歩の所まで神を追い込んだ。だから今度こそ本当に最後にして、神を殺す。そしてフブキちゃんもミオちゃんもおかゆちゃんも、それから序でにわためも解放する」

「そっか…………うん。応援する、けど……どうして僕の所へ? また何か見たい記憶でもあるの?」

「莉々華ちゃんに連れて来いって言われたから来た。ボクたちも理由までは聞いてないや」

「莉々華ちゃんに? うーんそっかぁ、なら行くけど戦いには参加できないよ」

「分かってる。ボクもそこは期待してないから」

「よかった」

 

 丁度お湯が沸いた。

 青は手動のコーヒーメーカーに濾紙を添えてコーヒーの粉末を入れ、ゆっくりと熱湯を注いでゆく。

 苦く芳醇な香りが室内に漂い始めた。

 

 コーヒーを作り終えるとカップに移し替えて2人に提供。

 最後に自身のカップを握って食卓の高い席前に立つ。

 

「僕はこっちでもいいかな?」

「うん。気にしないで」

 

 2人に断りを入れ、青は椅子に座して身体だけを客人に向けた。

 癖で足を組みかけて踏み止まり、誤魔化す様にそっとコーヒーを啜る。

 

「所でそちらの上品な猫さんは?」

「……ヒト、なんですけど」

「気にしないであずちゃん。変態の戯言だから」

「キミの困惑顔は至宝だね。僕の瞳の中だけに留めておくのは実に勿体無いほどだ」

 

 終始青の奇言と奇行に当惑していたAZKi。

 青に話を振られて一層眉を寄せた。

 

「この人はAZKi。かなたさんの呪いの継承者。かなたさんの記憶は青くんも観てるよね?」

「ああ、あの堕天使さんね。と言う事はあの電話相手はキミなのか。彼女に見込まれるとは随分と育ちが良いらしい。その姿勢からもよく見て取れるよ」

「…………」

 

 AZKiは顔を赤くしてカップを手に取った。

 真っ黒い水面にその顔が映――らなかった。

 ずずっと音を立てて上品さを壊して見せると青に苦笑される。

 

「でもどうしてキミも同行したの? ロボ子さんだけで良かったんじゃない?」

「それは簡単な話だよ。ボクが無免許であずちゃんが免許を持っているから」

「うん、うん」

「ああ、運転手か」

 

 青の連行に交渉技術は不要な為、最も会話を上手く回せる者を選出した。それがロボ子だ。

 だがロボ子は車が運転できないので誰か運転手が欲しい。そこでAZKiが運転手として起用されたわけだ。

 

「はぁ……でも、と言う事は、僕は莉々華ちゃんに振られちゃったみたいだねー」

「そうだよ」

「ねえヒドイ! せめてそんな事ないって言って!」

「だって事実だもん」

「そ、そんな…………莉々華ちゃんが……僕を振るなんて……!」

 

 青は中々莉々華に熱心な様でロボ子のジョークにも相当震えていた。

 平静を装い――切れていないが、格好つけてコーヒーを一気に飲み干す。

 口内がビターな香りに包まれる。

 喉と腹がきゅるっと鳴った。

 

「莉々華ちゃんはノエルちゃんとの交渉に向かった。青くんなら断らないって分かり切ってるからね。彼女なりに信頼してるんだよ」

「――! ふっふっふっ……そう言う事は早く言いたまえー‼︎ あーびっくりした」

 

 青ががばっと立ち上がって決めポーズを取る。

 そして胸を撫で下ろす。

 

「ボクたちはいつでも出れるけど、青くんはすぐ出れる?」

「あ、はい、僕はいつでも」

「そ。あずちゃんは? 運転大丈夫そ?」

「うん。私は平気」

「じゃあ早いけど行こうか」

 

 ロボ子がいつの間にか飲み干したコーヒーカップを手にして立ち上がる。

 青も立ち上がりロボ子からカップを受け取った。

 その様子を前にAZKiが慌ててコーヒーを飲み干す。

 

「ありがとう」

 

 3人のカップを器用に持って簡単に手洗いし、コーヒーメーカーも洗う。

 

「コーヒー飲んだけどお手洗いは平気かな姫たち。場所は廊下を出てすぐそばの扉だよ」

「ボク借りるね」

「どうぞ」

 

 濡れた手をタオルで拭って青は2階へと身支度に向かう。

 その隙にロボ子とAZKiがお手洗いを借りる。

 

 青の支度と2人の準備が同時に整い玄関に集まると、青は先に2人を車へと向かわす。

 そして自分もトイレを済ませて家を出た。

 用心深く戸締りを確認して2人の車を探した。すぐに見つかるがその有り様に言葉を失ってしまう。

 

「お、お待たせ……あだっ……」

 

 青はAZKiに許可を取って運転席の真後ろに乗り込んだ。

 その際頭をぶつける。

 頭を摩りながらシートベルトを着用。

 

「驚いた? この車に」

「え、いやそりゃまぁ……」

「気にしなくてもあずちゃんは運転上手だよ。交通ルールもしっかり守るし」

「うん、凄くそう見える」

「シートベルトした?」

「しました」「してるよ」

「じゃあ出すよ〜」

「お願いします」

 

 ドアロック、エンジンをかけてD、ハンドブレーキ、灯火、そして5点確認。

 路上へと車が出た。

 

 青が息を呑む。

 

「だから大丈夫だって。この車のキズ作ったのはぺこらちゃんだから」

「え、そうなの……?」

「そう。それに例え事故してもあずちゃんがいるんだから、痛いだけだよ」

「笑えない……」

 

 陽の沈みかけた夕刻、AZKiの運転するズタボロ新車で3人は青の家を後にした。

 そして青の杞憂を払拭する丁寧な運転により、3人は無事故無違反でAZKiの家まで到着したのであった。

 

 

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